24 / 24
最終話 懐くのはいいけれど
しおりを挟む
「痒いっ!!なんでこんなに痒いんだ!!」
パットン伯爵家から追い出されたエミリオは暫くは安宿で寝泊まりしていたが人伝にパットン伯爵家が廃家となった事を知り、本当に行くアテも帰る所もない事を悟った。
騎士団は退職をしているので再度の入隊を希望すれば出来なくもない。しかしその場合は王都や王城の中ではなく外郭を囲う王都の周辺地域の警護になるので、荒くれ者は本当に容赦がないし今までの何倍も辛く汚い仕事が多いのに給料も半分になる。
「それでも食わなきゃなぁ…はぁファルマ何処に行ったんだよ。ファルマがいればどんな事だって出来るってのに」
ボヤキながら重い腰を上げて再入隊をしようと騎士団の隊舎に行こうとするのだが、2,3日前から全身を痒みが襲ってそれどころではない。
強い痒み止めを処方してもらうが医療院での診察は何十万もかかってしまう。
その為に騎士ポイントがあったのだが、エミリオは医療院で診察してもらうのは止めて違法スレスレで煎じた薬を打っている店で痒み止めを買って痒みを鎮めた。
しかし、日を追うごとに痒みは全身に広がって掻きむしるので傷になった皮膚は炎症を起こして化膿し始めた。
痛みもあるが、痒みが勝って今、騎士団に行っても試験で5分と座っていられないし、剣の実技も出来そうにない。しばらく様子を見ようと残り少ない痒み止めを水に溶かして全身に塗るために井戸へ水を汲みに行った。
そこで安宿を利用している男達の会話が耳に入った。
「ハニー街。閉鎖だってよ」
「やっぱりなぁ。遅かったんじゃないか?腐敗病、かなり蔓延したって言うぜ?」
「ま、俺たちには娼婦を買う金もないけどな」
「そんな金があったらもう2、3泊出来るしな」
「でもよぅ。娼婦も憐れだよな。ありゃ客が持ち込んだんだぜ。きっと」
「客も半年くらいは症状出ないからな。おぉ怖い。怖い」
この時ばかりはエミリオも痒みを忘れた。ハニー街と言えば1年から半年ほど前までファルマに相手にされなかった日に憂さ晴らしで娼婦を買いに行った街だ。
そして腐敗病と聞いて騎士団に所属していた時に習った内容を必死で思い出そうとした。
――どんな症状だった??発熱・・・違う…下痢‥違うな。痒み?――
そして自分の腕や手を見た。掻きむしって瘡蓋だらけ。手だけじゃない。腹も背中も顔も頭も足の裏さえも痒くない場所が全くない。
――嘘だろ…俺、感染されたってこと?――
腐敗病の感染経路は1つ。体の関係を持つ事だ。発症者が出れば白い消毒粉を撒くがあれはパフォーマンス。ダニが沸いた使い道のない小麦粉を撒いて住民の不安を和らげるためだけに行う事だった。
残った金を持ち、エミリオは医療院に向かった。治療法がない事は知っているが数年耐えているうちに開発されるかも知れない。僅かな望みだった。
★~★
「腐敗病ですね。痒みが出たのは何時頃?」
「1週間くらい前・・・だったと思います」
「なら痒みはもうすぐ治まるよ。1週間から10日ほど痒いけれど2,3カ月ピッタリと痒みが止まるからね」
「でもまた痒くなるんですよね?」
「そうだね」
「薬っ!薬はないんですか?」
「残念だけどこれは快楽のツケのようなものだからね。君、貴族だったでしょ」
「え?・・・なんでわかるんです?」
「言葉使いかな。あと、平民にしては姿勢も良いしね。だけど貴族がどうして早いうちから婚約者を決めたりするか知ってる?」
エミリオは答えられなかった。父親や講師から学んで知っていた。
不特定多数と体の関係を持つ事やそういう相手と関係を持つ事で病気の感染が疑われる。血を代々繋いでいく貴族は色んな意味で血が汚れる事を嫌う。
なので、幼い頃から相手を決めて婚約者以外、夫や妻以外との体の関係は持たない事。どうしてもの場合は愛人にして数年様子を見てから関係を持つ。愛人に多額の生活費を渡すのは他の者と関係を持たせない意味もある。
「知ってるようだね。ま、この後聴取があるから。簡単だよ。初めての発症らしいから1年前位から関係を持った相手を伝えればいい。恥ずかしいと思うが他の人を巻き込まない大事な事だよ」
――馬鹿らしい。そんなの付き合ってられるか――
エミリオはこれから先絶望しかないのに他人を助けてどうするんだと協力する気は全く無かった。エミリオにある唯一の救いは愛するファルマにこんな病気を感染す可能性はないという事だった。
愛する人を守れた。それだけでエミリオは幸せな気持ちになれたし、もしかしたら痒みも乗り越えられるかも知れない。そう思った。
しかし診察室を出ようとすると3人の男性がいて、「エミリオ君だね?」強制的に連行されてしまった。
医師に言われたように最初はここ1年で関係を持った相手を聞かれたのだが、本名かどうかも判らない娼婦が相手。所謂源氏名と店の名前を伝えた。それでもう帰る事が出来ると思ったのだが…。
「これは君に請求してくれと言われているんだ」
エミリオに提示されたのは請求書の束だった。1枚当たりに100万、200万と法外な金額が書かれていた。額面の少ないものもある。1週間3500パナ。何だろうと思えば「ベッド代」だった。
「なんです?これ・・・」
「ファルマという女性を知っているか?」
「ファルマ?!えっ…ベッド代・・・ファルマは病気なんですか?」
「そうだな。で、彼女は君なら払ってくれると言ってるんだが」
「払います。えぇっと…持ち合わせが今日の診察代もあるので150万程しかないんですけど」
「一部に充当しておくよ。見合う分だけ受け取り証を渡そう」
「え?待ってください。まさかこれ全部?だったら無理です」
数十枚どころではない。100枚を軽く超えている紙の束にエミリオは無理だと叫んだ。一部であっても支払いに同意してしまうと借金と同じ。負債を受け持つことになってしまう。とても払いきれる額ではない。
「あの、ファルマは何処に?まだ入院してるんですか?」
法外な金額に無理だと思ったが、もしファルマが苦しんでいるのなら何とかしてやりたい。
「入院って言うか‥まぁ会えるぞ。会うか?そりゃそうだよな。こんな金額を負担するんなら顔くらい見とかないとな」
そう言って連れていかれた先、そこは隔離棟で外鍵のついた質素な部屋にエミリオは案内をされた。
扉が開いた瞬間、あまりの衝撃にエミリオは絶叫した。
「エミリオ…来てくれたのね。嬉しいわ」
フガフガと入れ歯が合っていないのか聞き取りにくいがもう人の形をしていない声の主は間違いなくファルマだった。ファルマが近寄ってくるたびにエミリオは後ろずさり、背中に壁が当たる。伸ばしてきたファルマの手がエミリオの体に触れた瞬間、口から泡を吹き、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
目が覚め、改めて請求書の束を突きつけられたエミリオは「無理だ」と断った。
――あんなのファルマじゃない。化け物じゃないか――
「ま、いいんだよ。彼女結構金、貯めてたみたいだしあと数か月分はあるからね」
エミリオは這う這うの体で逃げ出したが、その先で現実を見ざるを得なかった。
腐敗病に感染した体ではもうどうにもならない。雇ってくれるところはないだろうし、虎の子の金もいずれは尽きる。
絶望するエミリオはフラフラと商店街までやって来た。
そこで光を見つけた。
「そうねぇ…猫ちゃんだから羽根のついたジャラシが良いかしら」
「じゃぁ、色違いで買おうか」
「1つでいいわ。1匹だし」
そこにはザカライアとペットショップに買い物に来たクラリッサの姿があった。
★~★
「クラリッサ!!」
聞き覚えのある声にクラリッサは振り返る。ザカライアは愛するクラリッサを呼ぶ男の声に眉間に眉を寄せて振り返った。
「知ってるんだぞ。お前は不貞をしていた。隣にいる男が何よりの証拠だ!」
「はぁ…また言い掛かり?いい加減にしてくれない?」
エミリオは拳を強く握りしめてクラリッサとザカライアに近寄って行く。
ザカライアはスっと体をクラリッサの前に移動させた。
「貴様、ホントに使えない女だな。保険にもならねぇよ。でもな!!領地は返せ!あれは俺のものだ」
「馬鹿な事を。あれは慰謝料で貰ったの。今はアンドリューの名義にしてアンドリューの財産よ。あなたは自分の身勝手な行動でご両親も弟も不幸にしたの。まだ判らない?」
「判らないね。綺麗ごとを言っているがお前だってやってる事は一緒だったんだ。不貞女ッ!」
もう我慢ならないと一歩足を踏み出したザカライアの腕をクラリッサは掴んで首を横に小さく振った。
「何だ!見せつけてるつもりか!」
「別に。でも1つだけ教えてあげる」
「なんだ」
「私の事を保険だと言ったけど、保険って掛け金を払わなかったら失効するの。確かに私は貴方の保険だった期間があった。でもね、掛け金の支払いがなかったからとっくに失効してもう保険じゃなくなってたの。今頃気が付く・・・あぁ気が付いてなかったわね。そんなに傷だらけの体。今度こそ本当の保険に入って給付金でも貰えば治療できるんじゃない?」
「失効なんかしてねぇよ!領地返せ!」
飛び掛かって来たエミリオだったが、前に出たザカライアにぶつかりまるで壁に当たったかのように反動も合わさって吹き飛んだ。
汚水の排水溝の蓋を突き破り、エミリオは排水溝に半身が落ちた。
「くそっ!くそ!!なんで!」
「自分のした事よ。今ならファルマさんだったかしら?言い寄っても誰も文句も言わないわ。良かったわね。お互いフリーになった事で幸せは掴めたんだもの。保険だなんだと縛られる事もないわ。じゃ、私、そろそろ猫さんがくるから。ライ。行きましょう」
「いいのか?」
「勿論。あっと・・・臭いで思い出した!猫砂も買わなきゃ」
クラリッサは再度ペットショップに入り買い忘れた猫砂を買ったが、店から出た時エミリオの姿はもう無かった。騒ぎを起こしたと警邏中の憲兵に連行されてしまったからである。
その後のエミリオは数回問題を起こし、拘置所に入った事は記録されているが1年もすると名前も無くなった。エミリオの行方を知るものはいないが、エミリオの事を気に掛ける者もいなかった。
★~★
「ほぉら・・・こっちだよ~」
タシタシ!!猫じゃらしでミータとクラリッサは遊ぶ。
仔猫が全部貰われて行ったため、ミータだけにご飯をあげているとそれなりに懐いてはくれたのだ。
「なぁ…俺は?」
「順番。じゅーんばん!」
――そっちは懐き過ぎなのよ――
暫くは夫を放置する妻、クラリッサだった
Fin
お付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
パットン伯爵家から追い出されたエミリオは暫くは安宿で寝泊まりしていたが人伝にパットン伯爵家が廃家となった事を知り、本当に行くアテも帰る所もない事を悟った。
騎士団は退職をしているので再度の入隊を希望すれば出来なくもない。しかしその場合は王都や王城の中ではなく外郭を囲う王都の周辺地域の警護になるので、荒くれ者は本当に容赦がないし今までの何倍も辛く汚い仕事が多いのに給料も半分になる。
「それでも食わなきゃなぁ…はぁファルマ何処に行ったんだよ。ファルマがいればどんな事だって出来るってのに」
ボヤキながら重い腰を上げて再入隊をしようと騎士団の隊舎に行こうとするのだが、2,3日前から全身を痒みが襲ってそれどころではない。
強い痒み止めを処方してもらうが医療院での診察は何十万もかかってしまう。
その為に騎士ポイントがあったのだが、エミリオは医療院で診察してもらうのは止めて違法スレスレで煎じた薬を打っている店で痒み止めを買って痒みを鎮めた。
しかし、日を追うごとに痒みは全身に広がって掻きむしるので傷になった皮膚は炎症を起こして化膿し始めた。
痛みもあるが、痒みが勝って今、騎士団に行っても試験で5分と座っていられないし、剣の実技も出来そうにない。しばらく様子を見ようと残り少ない痒み止めを水に溶かして全身に塗るために井戸へ水を汲みに行った。
そこで安宿を利用している男達の会話が耳に入った。
「ハニー街。閉鎖だってよ」
「やっぱりなぁ。遅かったんじゃないか?腐敗病、かなり蔓延したって言うぜ?」
「ま、俺たちには娼婦を買う金もないけどな」
「そんな金があったらもう2、3泊出来るしな」
「でもよぅ。娼婦も憐れだよな。ありゃ客が持ち込んだんだぜ。きっと」
「客も半年くらいは症状出ないからな。おぉ怖い。怖い」
この時ばかりはエミリオも痒みを忘れた。ハニー街と言えば1年から半年ほど前までファルマに相手にされなかった日に憂さ晴らしで娼婦を買いに行った街だ。
そして腐敗病と聞いて騎士団に所属していた時に習った内容を必死で思い出そうとした。
――どんな症状だった??発熱・・・違う…下痢‥違うな。痒み?――
そして自分の腕や手を見た。掻きむしって瘡蓋だらけ。手だけじゃない。腹も背中も顔も頭も足の裏さえも痒くない場所が全くない。
――嘘だろ…俺、感染されたってこと?――
腐敗病の感染経路は1つ。体の関係を持つ事だ。発症者が出れば白い消毒粉を撒くがあれはパフォーマンス。ダニが沸いた使い道のない小麦粉を撒いて住民の不安を和らげるためだけに行う事だった。
残った金を持ち、エミリオは医療院に向かった。治療法がない事は知っているが数年耐えているうちに開発されるかも知れない。僅かな望みだった。
★~★
「腐敗病ですね。痒みが出たのは何時頃?」
「1週間くらい前・・・だったと思います」
「なら痒みはもうすぐ治まるよ。1週間から10日ほど痒いけれど2,3カ月ピッタリと痒みが止まるからね」
「でもまた痒くなるんですよね?」
「そうだね」
「薬っ!薬はないんですか?」
「残念だけどこれは快楽のツケのようなものだからね。君、貴族だったでしょ」
「え?・・・なんでわかるんです?」
「言葉使いかな。あと、平民にしては姿勢も良いしね。だけど貴族がどうして早いうちから婚約者を決めたりするか知ってる?」
エミリオは答えられなかった。父親や講師から学んで知っていた。
不特定多数と体の関係を持つ事やそういう相手と関係を持つ事で病気の感染が疑われる。血を代々繋いでいく貴族は色んな意味で血が汚れる事を嫌う。
なので、幼い頃から相手を決めて婚約者以外、夫や妻以外との体の関係は持たない事。どうしてもの場合は愛人にして数年様子を見てから関係を持つ。愛人に多額の生活費を渡すのは他の者と関係を持たせない意味もある。
「知ってるようだね。ま、この後聴取があるから。簡単だよ。初めての発症らしいから1年前位から関係を持った相手を伝えればいい。恥ずかしいと思うが他の人を巻き込まない大事な事だよ」
――馬鹿らしい。そんなの付き合ってられるか――
エミリオはこれから先絶望しかないのに他人を助けてどうするんだと協力する気は全く無かった。エミリオにある唯一の救いは愛するファルマにこんな病気を感染す可能性はないという事だった。
愛する人を守れた。それだけでエミリオは幸せな気持ちになれたし、もしかしたら痒みも乗り越えられるかも知れない。そう思った。
しかし診察室を出ようとすると3人の男性がいて、「エミリオ君だね?」強制的に連行されてしまった。
医師に言われたように最初はここ1年で関係を持った相手を聞かれたのだが、本名かどうかも判らない娼婦が相手。所謂源氏名と店の名前を伝えた。それでもう帰る事が出来ると思ったのだが…。
「これは君に請求してくれと言われているんだ」
エミリオに提示されたのは請求書の束だった。1枚当たりに100万、200万と法外な金額が書かれていた。額面の少ないものもある。1週間3500パナ。何だろうと思えば「ベッド代」だった。
「なんです?これ・・・」
「ファルマという女性を知っているか?」
「ファルマ?!えっ…ベッド代・・・ファルマは病気なんですか?」
「そうだな。で、彼女は君なら払ってくれると言ってるんだが」
「払います。えぇっと…持ち合わせが今日の診察代もあるので150万程しかないんですけど」
「一部に充当しておくよ。見合う分だけ受け取り証を渡そう」
「え?待ってください。まさかこれ全部?だったら無理です」
数十枚どころではない。100枚を軽く超えている紙の束にエミリオは無理だと叫んだ。一部であっても支払いに同意してしまうと借金と同じ。負債を受け持つことになってしまう。とても払いきれる額ではない。
「あの、ファルマは何処に?まだ入院してるんですか?」
法外な金額に無理だと思ったが、もしファルマが苦しんでいるのなら何とかしてやりたい。
「入院って言うか‥まぁ会えるぞ。会うか?そりゃそうだよな。こんな金額を負担するんなら顔くらい見とかないとな」
そう言って連れていかれた先、そこは隔離棟で外鍵のついた質素な部屋にエミリオは案内をされた。
扉が開いた瞬間、あまりの衝撃にエミリオは絶叫した。
「エミリオ…来てくれたのね。嬉しいわ」
フガフガと入れ歯が合っていないのか聞き取りにくいがもう人の形をしていない声の主は間違いなくファルマだった。ファルマが近寄ってくるたびにエミリオは後ろずさり、背中に壁が当たる。伸ばしてきたファルマの手がエミリオの体に触れた瞬間、口から泡を吹き、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
目が覚め、改めて請求書の束を突きつけられたエミリオは「無理だ」と断った。
――あんなのファルマじゃない。化け物じゃないか――
「ま、いいんだよ。彼女結構金、貯めてたみたいだしあと数か月分はあるからね」
エミリオは這う這うの体で逃げ出したが、その先で現実を見ざるを得なかった。
腐敗病に感染した体ではもうどうにもならない。雇ってくれるところはないだろうし、虎の子の金もいずれは尽きる。
絶望するエミリオはフラフラと商店街までやって来た。
そこで光を見つけた。
「そうねぇ…猫ちゃんだから羽根のついたジャラシが良いかしら」
「じゃぁ、色違いで買おうか」
「1つでいいわ。1匹だし」
そこにはザカライアとペットショップに買い物に来たクラリッサの姿があった。
★~★
「クラリッサ!!」
聞き覚えのある声にクラリッサは振り返る。ザカライアは愛するクラリッサを呼ぶ男の声に眉間に眉を寄せて振り返った。
「知ってるんだぞ。お前は不貞をしていた。隣にいる男が何よりの証拠だ!」
「はぁ…また言い掛かり?いい加減にしてくれない?」
エミリオは拳を強く握りしめてクラリッサとザカライアに近寄って行く。
ザカライアはスっと体をクラリッサの前に移動させた。
「貴様、ホントに使えない女だな。保険にもならねぇよ。でもな!!領地は返せ!あれは俺のものだ」
「馬鹿な事を。あれは慰謝料で貰ったの。今はアンドリューの名義にしてアンドリューの財産よ。あなたは自分の身勝手な行動でご両親も弟も不幸にしたの。まだ判らない?」
「判らないね。綺麗ごとを言っているがお前だってやってる事は一緒だったんだ。不貞女ッ!」
もう我慢ならないと一歩足を踏み出したザカライアの腕をクラリッサは掴んで首を横に小さく振った。
「何だ!見せつけてるつもりか!」
「別に。でも1つだけ教えてあげる」
「なんだ」
「私の事を保険だと言ったけど、保険って掛け金を払わなかったら失効するの。確かに私は貴方の保険だった期間があった。でもね、掛け金の支払いがなかったからとっくに失効してもう保険じゃなくなってたの。今頃気が付く・・・あぁ気が付いてなかったわね。そんなに傷だらけの体。今度こそ本当の保険に入って給付金でも貰えば治療できるんじゃない?」
「失効なんかしてねぇよ!領地返せ!」
飛び掛かって来たエミリオだったが、前に出たザカライアにぶつかりまるで壁に当たったかのように反動も合わさって吹き飛んだ。
汚水の排水溝の蓋を突き破り、エミリオは排水溝に半身が落ちた。
「くそっ!くそ!!なんで!」
「自分のした事よ。今ならファルマさんだったかしら?言い寄っても誰も文句も言わないわ。良かったわね。お互いフリーになった事で幸せは掴めたんだもの。保険だなんだと縛られる事もないわ。じゃ、私、そろそろ猫さんがくるから。ライ。行きましょう」
「いいのか?」
「勿論。あっと・・・臭いで思い出した!猫砂も買わなきゃ」
クラリッサは再度ペットショップに入り買い忘れた猫砂を買ったが、店から出た時エミリオの姿はもう無かった。騒ぎを起こしたと警邏中の憲兵に連行されてしまったからである。
その後のエミリオは数回問題を起こし、拘置所に入った事は記録されているが1年もすると名前も無くなった。エミリオの行方を知るものはいないが、エミリオの事を気に掛ける者もいなかった。
★~★
「ほぉら・・・こっちだよ~」
タシタシ!!猫じゃらしでミータとクラリッサは遊ぶ。
仔猫が全部貰われて行ったため、ミータだけにご飯をあげているとそれなりに懐いてはくれたのだ。
「なぁ…俺は?」
「順番。じゅーんばん!」
――そっちは懐き過ぎなのよ――
暫くは夫を放置する妻、クラリッサだった
Fin
お付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
4,106
お気に入りに追加
3,364
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(61件)
あなたにおすすめの小説
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。
貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。
私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。
はるきりょう
恋愛
オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。
好きな人が幸せであることが一番幸せだと。
「……そう。…君はこれからどうするの?」
「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」
大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
|ヽ
| 〝゙゙゙゙ッ―、❤
ミ´ω` ,, /❤
(ヽ (ヽミ
(( ミ ミ
ミ ミ
〝∪゙゙~゙^ヽ)
猫に負けまくる殿下(笑)
殿下は多分子供にも負ける(♥ŐωŐ♥)
コメントありがとうございます。<(_ _)>
(* ̄▽ ̄)フフフッ♪ そうなのです。猫様しか勝たんのです(笑)
親抱いている絵がね、最近顔を見せ始めた仔猫の見た目によく似てるんですよ。
新入りキャットなので、コメントで頂いている絵からアスキー君と名付けてしまいましたよ(*^-^*)
模様はハチワレなんでございますけど、フワっとしてる所がよく似てる♡
とってもいい子で、人懐っこいんですがかなり食べる!!体は小さいけどガツガツ!って感じでカリカリ食べてくれるのでついつい増量しちゃってるワシ(笑)
来週可哀想かな~っと思うんですけども手術の予定で御座います。
ザカライアは子供が出来たらどんどん順位が落ちていくんだろうなぁ(笑)
浮上する頃にはミータの子供が増えてたりするかも???
ですけどもクラリッサもザカライアの事はまんざらではないので、オリジナルな可愛がりをしてくれるかも???(オリジナル?!大人なやつ?!)
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。<(_ _)>
にゃんこに負ける殿下😅
我が家と同じですねー、おまけでついてきたお姫様にゃんこが一番えらいと言うか態度がデカい🐱にゃんずには勝てません!
面白く読ませていただきました,ありがとうございます😊
コメントありがとうございます。<(_ _)>
猫様に勝てるものなし!!
ミータの仔猫を飼っていたら更にザカライアに順番が回ってくるのは遅くなること間違いなし!!
成猫も可愛いんですけども、仔猫には本気でハートを撃ち抜かれますからね…永遠に順番が回ってこない可能性もあります(笑)
おぉ~お姫様ニャンちゃんが!!1番偉い。判る~解り過ぎる~まるでワシじゃーん(笑)
ツン!としてちっとも振り向いてくれなくても、尻尾で返事されても許す!!いえ、ご褒美です!
部屋の隅っこで寝てたと思ったら布団のど真ん中とか、テレビが一番見やすい位置のソファとかにいても良いのです。何と言っても猫様が1番。猫様しか勝たんのです(*^-^*)
ワシは階段の2ニャン様にもハァハァしてしまいますが…ドアップのサビ様!!
平伏してもいいですか?!超を超えて激可愛い!撫でたい・・・宜しければ肉球の間をコショコショして指がクイっと広がったらクンクンしたいです(=^・^=)
きっとクラリッサもミータの可愛さには悶えている事でしょう。
えぇ…そうなると夫なんて二の次、三の次で良いのです。待ちなさい。許されるまで待つのだザカライア!!
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>
★~★欄を拝借★~★
今回もニャンと!!61件(内、誤字報告の非承認ご希望1件)という沢山のコメントありがとうございます!!
閑話に刺さって頂いた方、ニャンに萌えて頂いた方、本編を楽しんで頂いた方。
本当にありがとうございました(*^-^*)
次回はいよいよニャンニャンプレゼンツな日。
また楽しんで頂けるような話を公開出来るよう頑張りますp(*^-^*)q
読んで頂きありがとうございました(=^・^=)
完結おめでとうございます。
クラリッサちゃん、サイコー。
女嫌いのライ様が好きになっちゃうのも分かるけど、好きになった所が「漢気」って。
禁断の夜のおやつで、クラリッサちゃんの胃袋を掴んで、これでと思いきややっぱりライ様の手綱を握っていたのは、クラリッサちゃんでしたね。
猫ちゃんの次に遊んでもらえるのを待つ姿を想像して、笑っちゃいました。
あと、結婚式の控室で、両親と祖父母に説教?する花嫁、面白すぎです。
今回は、ちゃんと感想送れました。
何と前作、読んでいる最中「こんな事書こう」とか「ここの所好き」とか思ってたのに、コメント書き忘れちゃいました。
しかも、「お返事まだかな~」って。
「あれ❓私感想送ったっけ」となり、自分のボケ具合に唖然としました😱
次作も楽しみにしております。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
おっと、そのような理由が!!どうしたのかな~っとは思っていたんですよ(*^-^*)
梅雨時期は春の新卒さんも入って来てやっとそのシフトとかにも慣れて来るんだけど、気疲れがどっと出ちゃう時期でもあるので体調でも崩されてしまった?!っと心配しておりましたよ~
お体に不調がないのなら良かったですぅ♡
禁断の夜のオヤツ。寝る前に食べると太っちゃう!夕食後に!?っと思いますけども、まぁ…確かに寝る前にスナック菓子、真夜中のラーメン、22時以降のスイーツとなると誘惑しかない!!
ザカライアはクラリッサが体形維持に食事を管理される状態になってしまったので、婚約となった日に
美味しそうにケーキを食べていたのとか、不自由しない生活を約束したのを思い出したんでしょうね(*^-^*)
でもどうしたらいいかと考えてい異母兄の国王に栄養士を紹介してもらう事に!!まさかの国王にダイエット相談!!
だけど、寝る前・・・と言いますか夕食後のヨーグルトは本当に良いそうですよ(*^-^*)おかげで太らず、変に痩せぎすにならずお肌の状態も最高のまま結婚式!
ファルマにただ貢ぐだけだったエミリオと違い、現状で何が一番いいのかを考えてくれるザカライアです(*^-^*) 夜の胃袋を掴まれてしまいました(;^_^A
クラリッサは引っ込み思案ではないので結構言いたいことは言っちゃうのです。ただ婚約とか家の取り決めになると自分じゃどうしようもないとか解っているので大人に相談とかしておりましたが「妻」となったらパワーアップ!もう相談の必要はない!!っとソファテーブルをお立ち台にしてしまいます(*^-^*)
お互いに手綱を握っているようで握られてもいる2人。国王の弟から次の国王の叔父となればザカライアも直轄領で暮らし始めるでしょうし、動物王国になっちゃうかも???
そうなると‥ザカライア順番がなかなか回って来ないぞ?!どうするザカライア!!
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>