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第23話 誓いのキスはスタンドマイク型
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迎えた結婚式の日。その日は雲一つない晴天が広がっていた。
「うっ・・・」
「どうなさいました?」
「私の可愛いクラリッサが!!嫁にっ!!嫁にっ!」
「はいはい。でもね、お父様、これがもし!!エミリオだったらとんでもない事になってたんだからね!解ってる?若い時の麻疹ってね!そんな問題じゃないんだから!」
「ごめんよぅ…もう二度と言わないよ」
「言わないんじゃないの、言えないでしょ!殿下相手にそんな事言ったら首が飛ぶからね!いい!?」
花嫁衣裳の真っ白なウェディングドレスを着て、控室でクラリッサは仁王立ちとなって父親を叱責する。クラリッサの隣で母親も「そうよ」とクラリッサを援護するが、クラリッサはビシッと父の隣を指差した。
「お母様もあちら側です。そこッ!!お爺様も御婆様もッ!お父様の隣よ!」
かの日、父親には「麻疹のようなモノ」と言われ、母親には「男には帰巣本能がある」と言われ、祖母には「浅ましい」と言われ、祖父には「手綱を緩めろ」と言われた。
言った方は忘れているかも知れないし、そんな事もあったと茶化すが真面目に相談をした方は絶望感も加味されて忘れることはない。
「いいですかっ!!同じ事をお兄様がしたら!!私は断然お嫁さん派です!絶対に許しませんからね!」
<< はぃ >>
「それからッ!!」
まだまだ続くクラリッサのお説教。2人の兄は妹が怖くて廊下に逃げた後は中の様子を薄く開けた扉から垣間見るしかない。
そこに手袋を嵌めながらザカライアがやって来た。
「義兄上達、何をされてるんです?」
「しいぃぃーっ!」
矛先がこちらに向かうと堪ったものではないと兄2人は中の様子を見てみろとザカライアに場所を渡した。
「いいですか?そもそもお爺様は考えが古過ぎるんです!お婆様も孫の私達に愚痴る癖にお爺様にはハッキリ言わないとかあり得ないから!!」
クラリッサは背中しか見えないが、あの日ザカライアが感じた「漢気」を思わせる強い物言いにクスっと笑ってしまった。
「誰ッ!?そんなところで盗み聞きしてるのは!!」
「不味い!!」
蜘蛛の子を散らすようにとはまさにそのこと。2人の兄とザカライアはサーッと物陰に身を顰めた。
ザカライアを挟む形になった2人の兄。
長兄は「見た目よりも狂暴なので注意して」と忠告。
次兄は「返品は受け付けていないので末永くよろしく」と言った。
ザカライアは「勿論です。返せと言われても返しません」と答え、また新しく出来た「義兄」と固い握手を交わした。
★~★
式が始まり、扉が開くと涙でグシュグシュになった父、モルス伯爵とクラリッサは祭壇までの道のりの途中にいるザカライアの元にゆっくりと歩いた。
ザカライアは扉が開いた時から、クラリッサを見ることが出来なかった。
あれほど調整中に割入っていたけれど、いざ本番となると緊張してしまいもしかするとチラリとクラリッサの顔をみたら落ち着くんじゃないかと思ったのだが、2人の義兄にもバトンタッチされて余計に緊張が高まっただけだった。
頭の中ではあの日、エミリオの腕を掴んだ場が何度も思い出されてグルグルと回る。
あんな出会いで良かったんだろうか。
無理矢理婚約者になり結婚となったクラリッサに幸せだと感じてもらえるんだろうか。
クラリッサにはこんな面倒な立場の自分ではなく他の男が良かったんじゃないか。
今更ながらに悩みも沸き上がってくる。
俯いていると白いドレスの裾と、男性の靴が見えた。
「殿下、むしゅめ・・・むしゅ・・・娘をっ!!(ぉ)願いしま・・・」
「義父上。確かに」
顔をあげて前を向き、言葉を返すと薄いヴェールの向こうからクラリッサが微笑んでいる気がした。
「愛するクラリッサ。手を」
「はい」
モルス伯爵はその場で声を殺し、涙をハンカチに吸わせる。ハワードがそっと近寄って椅子までモルス伯爵を先導した。
祭壇までを歩いているとクラリッサがキュっとザカライアの腕を掴む手に力を入れた。
「どうした?」
「緊張しないでください。カチカチですよ?」
「あ~・・・善処する」
神父がそんな2人を見て微笑むが、誓いの言葉もちゃんと言えたのに誓いのキスとなってザカライアは動かなくなった。
「こほん・・・え~新郎。誓いのキスを」
「・・・・・」
「新郎?」
「‥‥してる」
「新郎?」
「愛してるッ!!その瞳に他の男を映す事はもうさせないッ」
誓いのキスの音はぶちゅ!!っと聞こえたまでは良かった。
思いっきりなフレンチ・キス。角度を変えて息も全部吸い込まれ、クラリッサは目から火花が散る。あまりにも長いし苦しいし、何故か背中に回した手が片方は腰に移り、両足が床から浮いてスタンドマイクのように抱きしめられている。
背中をタップすればまた角度が変わり、失神寸前。前代未聞の誓いのキスに国王も顎が外れて口が開きっぱなしになった。
そして控室。
ヒールをポイポイと脱いだクラリッサは「座りなさい!!」家族も国王夫妻も王太子夫妻もまだ入室していない控室でザカライアをソファに座らせて、お行儀は悪いと思ったがソファーテーブルに飛び乗った。
「なんですか!あんなキス!死んでしまうかと思いました!今日は結婚式でしょう?いくら教会が葬式も請け負っているからと言って!ステンドグラスからの光が神様の手に見えましたっ!!天使が飛び立つところだったんですよ!」
「すまない・・・抑えが効かなかった」
「どんな抑えですか!もう!許しません。今日と言う今日は言わせてもらいます。式の前に隠れてコソコソ・コソコソ覗いていたのは殿下でしょう!ちょーっと私の姿が見えないと探し回って!後追いの激しい子供だってそこまでしませんよ?いいですか?この結婚はですね!」
すくっと立ち上がったザカライア。テーブルの上に飛び乗ったクラリッサと目線の高さが同じになった。
「愛してるよ。あの日、クラリッサと出会えてよかった。今なら解る。どんな言葉を浴びせられてもクラリッサの声は俺にとって癒しにしかならない。神の前では死が別つ時までと神父は言ったが、死んでも別れない。来世でも、そのまた来世でもクラリッサだけを愛すると誓う」
「重い!重いです!そもそもですね、うっかり発言のトバッ・・・(うにゅ?)」
クラリッサはまた長い長いキスに突入した事を悟った。
扉が開き、長兄の顔が視界の端に映る。「いやぁ…凄かっ―――」
バタン・・・遅れて控室に戻って来た長兄は助けてはくれなかった。
「うっ・・・」
「どうなさいました?」
「私の可愛いクラリッサが!!嫁にっ!!嫁にっ!」
「はいはい。でもね、お父様、これがもし!!エミリオだったらとんでもない事になってたんだからね!解ってる?若い時の麻疹ってね!そんな問題じゃないんだから!」
「ごめんよぅ…もう二度と言わないよ」
「言わないんじゃないの、言えないでしょ!殿下相手にそんな事言ったら首が飛ぶからね!いい!?」
花嫁衣裳の真っ白なウェディングドレスを着て、控室でクラリッサは仁王立ちとなって父親を叱責する。クラリッサの隣で母親も「そうよ」とクラリッサを援護するが、クラリッサはビシッと父の隣を指差した。
「お母様もあちら側です。そこッ!!お爺様も御婆様もッ!お父様の隣よ!」
かの日、父親には「麻疹のようなモノ」と言われ、母親には「男には帰巣本能がある」と言われ、祖母には「浅ましい」と言われ、祖父には「手綱を緩めろ」と言われた。
言った方は忘れているかも知れないし、そんな事もあったと茶化すが真面目に相談をした方は絶望感も加味されて忘れることはない。
「いいですかっ!!同じ事をお兄様がしたら!!私は断然お嫁さん派です!絶対に許しませんからね!」
<< はぃ >>
「それからッ!!」
まだまだ続くクラリッサのお説教。2人の兄は妹が怖くて廊下に逃げた後は中の様子を薄く開けた扉から垣間見るしかない。
そこに手袋を嵌めながらザカライアがやって来た。
「義兄上達、何をされてるんです?」
「しいぃぃーっ!」
矛先がこちらに向かうと堪ったものではないと兄2人は中の様子を見てみろとザカライアに場所を渡した。
「いいですか?そもそもお爺様は考えが古過ぎるんです!お婆様も孫の私達に愚痴る癖にお爺様にはハッキリ言わないとかあり得ないから!!」
クラリッサは背中しか見えないが、あの日ザカライアが感じた「漢気」を思わせる強い物言いにクスっと笑ってしまった。
「誰ッ!?そんなところで盗み聞きしてるのは!!」
「不味い!!」
蜘蛛の子を散らすようにとはまさにそのこと。2人の兄とザカライアはサーッと物陰に身を顰めた。
ザカライアを挟む形になった2人の兄。
長兄は「見た目よりも狂暴なので注意して」と忠告。
次兄は「返品は受け付けていないので末永くよろしく」と言った。
ザカライアは「勿論です。返せと言われても返しません」と答え、また新しく出来た「義兄」と固い握手を交わした。
★~★
式が始まり、扉が開くと涙でグシュグシュになった父、モルス伯爵とクラリッサは祭壇までの道のりの途中にいるザカライアの元にゆっくりと歩いた。
ザカライアは扉が開いた時から、クラリッサを見ることが出来なかった。
あれほど調整中に割入っていたけれど、いざ本番となると緊張してしまいもしかするとチラリとクラリッサの顔をみたら落ち着くんじゃないかと思ったのだが、2人の義兄にもバトンタッチされて余計に緊張が高まっただけだった。
頭の中ではあの日、エミリオの腕を掴んだ場が何度も思い出されてグルグルと回る。
あんな出会いで良かったんだろうか。
無理矢理婚約者になり結婚となったクラリッサに幸せだと感じてもらえるんだろうか。
クラリッサにはこんな面倒な立場の自分ではなく他の男が良かったんじゃないか。
今更ながらに悩みも沸き上がってくる。
俯いていると白いドレスの裾と、男性の靴が見えた。
「殿下、むしゅめ・・・むしゅ・・・娘をっ!!(ぉ)願いしま・・・」
「義父上。確かに」
顔をあげて前を向き、言葉を返すと薄いヴェールの向こうからクラリッサが微笑んでいる気がした。
「愛するクラリッサ。手を」
「はい」
モルス伯爵はその場で声を殺し、涙をハンカチに吸わせる。ハワードがそっと近寄って椅子までモルス伯爵を先導した。
祭壇までを歩いているとクラリッサがキュっとザカライアの腕を掴む手に力を入れた。
「どうした?」
「緊張しないでください。カチカチですよ?」
「あ~・・・善処する」
神父がそんな2人を見て微笑むが、誓いの言葉もちゃんと言えたのに誓いのキスとなってザカライアは動かなくなった。
「こほん・・・え~新郎。誓いのキスを」
「・・・・・」
「新郎?」
「‥‥してる」
「新郎?」
「愛してるッ!!その瞳に他の男を映す事はもうさせないッ」
誓いのキスの音はぶちゅ!!っと聞こえたまでは良かった。
思いっきりなフレンチ・キス。角度を変えて息も全部吸い込まれ、クラリッサは目から火花が散る。あまりにも長いし苦しいし、何故か背中に回した手が片方は腰に移り、両足が床から浮いてスタンドマイクのように抱きしめられている。
背中をタップすればまた角度が変わり、失神寸前。前代未聞の誓いのキスに国王も顎が外れて口が開きっぱなしになった。
そして控室。
ヒールをポイポイと脱いだクラリッサは「座りなさい!!」家族も国王夫妻も王太子夫妻もまだ入室していない控室でザカライアをソファに座らせて、お行儀は悪いと思ったがソファーテーブルに飛び乗った。
「なんですか!あんなキス!死んでしまうかと思いました!今日は結婚式でしょう?いくら教会が葬式も請け負っているからと言って!ステンドグラスからの光が神様の手に見えましたっ!!天使が飛び立つところだったんですよ!」
「すまない・・・抑えが効かなかった」
「どんな抑えですか!もう!許しません。今日と言う今日は言わせてもらいます。式の前に隠れてコソコソ・コソコソ覗いていたのは殿下でしょう!ちょーっと私の姿が見えないと探し回って!後追いの激しい子供だってそこまでしませんよ?いいですか?この結婚はですね!」
すくっと立ち上がったザカライア。テーブルの上に飛び乗ったクラリッサと目線の高さが同じになった。
「愛してるよ。あの日、クラリッサと出会えてよかった。今なら解る。どんな言葉を浴びせられてもクラリッサの声は俺にとって癒しにしかならない。神の前では死が別つ時までと神父は言ったが、死んでも別れない。来世でも、そのまた来世でもクラリッサだけを愛すると誓う」
「重い!重いです!そもそもですね、うっかり発言のトバッ・・・(うにゅ?)」
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