お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru

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第21話  禁断の夜のおやつ

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否が応でもザカライアとクラリッサの結婚式の日は近づいてくる。

あの夜会から半年後には結婚式を挙げる。そう決まってしまったのは立太子をして王太子が誕生すると譲位について国は色々と動き出す。

現在王太子は24歳。側近の総入れ替えはあったけれど第2王子の力添えもあり立太子をしたのである。

その為、国王達王族が動ける日は数年先まで予定がびっしりと決められている。
予定の調整を行う予備の日は数日あるのだが、未来は何が起こるか判らない。

出来るだけ早くにとの事で日取りも決まってしまったのである。


「肩まわりはどうでしょう」
「大丈夫です。きつくもなく緩くもありません」
「デコルテはもう少し広く取りましょうか?」


お針子たちと最終調整をしているとやはりやって来るのはザカライア。

「ダメだ!首はハイネック!肌を露出し過ぎだ!」
「あのですね。殿下!ここには立入禁止と伝えたはずです。いいですか?花嫁のドレスは!当日まで秘匿されるものですよ?何のために私達針子がこうやってここに!!来ていると思っているんです!」
「だ、だが…心配なんだ」
「なぁにが心配なんですかッ!」
「着ている時に直したら針が刺さるかもしれないだろう?」
「そんな事ありません!さぁ出て行って!誰か!殿下を抓み出して頂戴ッ!」

使用人達はもうザカライアの事を「ママ期の赤子」と呼んでいる。
クラリッサの姿が30分でも見えないと探し回るのである。

「愛されるのもここまで来ると大変ですね…」
「違うんじゃないかなぁっと…きっと心配がこうじてるんですよ」

お針子たちは「そうでしょうか」と言うけれど、使用人達はこの暑苦しいまでのザカライアの行動が全くクラリッサには響いていない事に涙ぐむ。

お針子たちが引けていくと、お茶の時間になるがこの頃は体形が変わってしまうと折角の調整も無駄になるので食事制限がクラリッサには課せられている。

「食べたいけど…我慢ね」

出されるのは白湯ばかり。茶器の白がより白く見える白湯だ。

「またかぁ…」

出されるものに文句を言ってはいけない。しかし、この頃は朝食も昼食も夕食も制限を受けているので「しっかり噛めば満腹感もある」とパンも固め。

肉もシェフが筋を切ってくれてはいるけれど、ちょっぴりの筋肉すじにくに野菜ばかり。野菜も嫌いではないがここまで体形維持に特化した食事が続くと食事は楽しむ時間から義務の時間に思えてくる。

そしてやはりザカライアがやって来る。

――また、来た!――

しかし今回のザカライアは違った。ガサガサと背に隠した紙袋から取り出したのは‥‥。

「これはなに??」
「聞いたんだ…その・・・食事を制限していると聞いて太りにくい食べ物を聞いて来た」

パンの生地にはナッツを細かく砕いて練り込んで焼いたもの。焼き上がったパンに切れ目を入れてレタスを挟んでいるがその中央で堂々と幅を利かせているのは!!

「お、お肉っ!お肉だぁ!!」
「そう思うだろう?違うんだ」
「お肉ではないのですか?」
「これは大豆をトーフっていう奴にしたもので作ったパティだ。隣にあるのはチーズだがな」

隣国ではチーズバーガーと呼ばれて発売以来不動の人気を誇った食べ物。但し肉ではなくトーフだが。

「聞いたんだよ。ナッツは・・・その・・・女性にはお通じが良くなるし腹もちもいいし、チーズは適量なら太るどころか健康的に痩せるそうだし、大豆もこの量なら体が温まって汗をよくかけるそうだ」

「そうなんですか?(うるっ)食べて良いんですかぁ」

「あぁいいよ。何の不自由もさせないと約束をしたのに食事制限なんて・・・結婚式の為に無理をさせてしまってごめんな」

「それは良いんですぅ…ドレスは可愛いしあんなに上質な生地なんて生涯に何度も触れる事も出来ませんから儲けものです。でもぉ~!!これを見たらもう我慢できません!食べる!!食べますぅ!」

「いいよ。でも・・・皆には内緒な?」

「当たり前ですぅ!!(がぶっ)‥‥おいひぃぃ!!(もぐもぐ)」

かぶりつくクラリッサを頬杖をついたザカライアはニコニコと眺める。スッと指を出してきたと思ったら。この頃では美丈夫も「またか」と思う出没をされると少々の事では輝きを感じない。

「ついてる」
「んぁ??(もぐもぐ)」

切れ込みを入れているのでパンの横からチーズソースがはみ出てクラリッサのパンを持つ手に零れていた。指でサッと拭うと‥‥

「ぱくっ」
「え…指・・・食べた・・・」
「美味いな。チーズがこんなに美味いなんて知らなかったよ」

――私も食べこぼしを食べる人を知らなかったです――


ザカライアの「皆に内緒おやつ」は翌日も続く。しかもなんと「寝る前」だった。

腹八分目が良いと言われているが出される料理の量は腹4分目ほど。
毎朝一番鶏の鳴き声どころか、自分の腹の虫の絶叫で目覚めるクラリッサは禁断の夜のおやつに飛びついた。

「ヨーグルトだ。甘みは大豆を炒って挽いたキナコと言うのを少しいれてある」
「いいんですか?食べちゃっても…」
「ヨーグルトは朝よりも夕食時や寝る少し前が良いんだそうだ。兄上の食事を管理する栄養士が言ってた」
「えぇっと兄上というのは・・・」
「職業が国王のほうだ」
「ひえぇぇーっ!もしかして国王陛下に相談したんじゃないですよね??」
「兄上には相談してない。理由を告げて栄養士を紹介してくれと頼んだだけだ」

――いや、それ、国王陛下に言うかぁぁぁ!陛下も聞かないでよ!――

国王陛下にダイエットを知られる。もうかくような恥はこの世に存在しない。

クラリッサはそれはもう丁寧に食べ終わった後も「これにヨーグルトが入ってた?」と思われるくらい綺麗に平らげたのだった。

それは結婚式の前夜まで続く禁断のオヤツ攻撃の始まりに過ぎなかった。

しかし不思議な事に食事制限で荒れ気味だった肌はカサカサも無くなり、お通じも不浄に籠って唸らなくてもスルリと出るようになった。

胃袋を掴まれると‥‥と世間では言うがクラリッサは禁断の夜のオヤツで餌付けされたに同義。

昼間はまたか!と思うのに夜、ザカライアがやって来るのを楽しみにするクラリッサが出来上がってしまった。
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