21 / 24
第21話 禁断の夜のおやつ
しおりを挟む
否が応でもザカライアとクラリッサの結婚式の日は近づいてくる。
あの夜会から半年後には結婚式を挙げる。そう決まってしまったのは立太子をして王太子が誕生すると譲位について国は色々と動き出す。
現在王太子は24歳。側近の総入れ替えはあったけれど第2王子の力添えもあり立太子をしたのである。
その為、国王達王族が動ける日は数年先まで予定がびっしりと決められている。
予定の調整を行う予備の日は数日あるのだが、未来は何が起こるか判らない。
出来るだけ早くにとの事で日取りも決まってしまったのである。
「肩まわりはどうでしょう」
「大丈夫です。きつくもなく緩くもありません」
「デコルテはもう少し広く取りましょうか?」
お針子たちと最終調整をしているとやはりやって来るのはザカライア。
「ダメだ!首はハイネック!肌を露出し過ぎだ!」
「あのですね。殿下!ここには立入禁止と伝えたはずです。いいですか?花嫁のドレスは!当日まで秘匿されるものですよ?何のために私達針子がこうやってここに!!来ていると思っているんです!」
「だ、だが…心配なんだ」
「なぁにが心配なんですかッ!」
「着ている時に直したら針が刺さるかもしれないだろう?」
「そんな事ありません!さぁ出て行って!誰か!殿下を抓み出して頂戴ッ!」
使用人達はもうザカライアの事を「ママ期の赤子」と呼んでいる。
クラリッサの姿が30分でも見えないと探し回るのである。
「愛されるのもここまで来ると大変ですね…」
「違うんじゃないかなぁっと…きっと心配がこうじてるんですよ」
お針子たちは「そうでしょうか」と言うけれど、使用人達はこの暑苦しいまでのザカライアの行動が全くクラリッサには響いていない事に涙ぐむ。
お針子たちが引けていくと、お茶の時間になるがこの頃は体形が変わってしまうと折角の調整も無駄になるので食事制限がクラリッサには課せられている。
「食べたいけど…我慢ね」
出されるのは白湯ばかり。茶器の白がより白く見える白湯だ。
「またかぁ…」
出されるものに文句を言ってはいけない。しかし、この頃は朝食も昼食も夕食も制限を受けているので「しっかり噛めば満腹感もある」とパンも固め。
肉もシェフが筋を切ってくれてはいるけれど、ちょっぴりの筋肉に野菜ばかり。野菜も嫌いではないがここまで体形維持に特化した食事が続くと食事は楽しむ時間から義務の時間に思えてくる。
そしてやはりザカライアがやって来る。
――また、来た!――
しかし今回のザカライアは違った。ガサガサと背に隠した紙袋から取り出したのは‥‥。
「これはなに??」
「聞いたんだ…その・・・食事を制限していると聞いて太りにくい食べ物を聞いて来た」
パンの生地にはナッツを細かく砕いて練り込んで焼いたもの。焼き上がったパンに切れ目を入れてレタスを挟んでいるがその中央で堂々と幅を利かせているのは!!
「お、お肉っ!お肉だぁ!!」
「そう思うだろう?違うんだ」
「お肉ではないのですか?」
「これは大豆をトーフっていう奴にしたもので作ったパティだ。隣にあるのはチーズだがな」
隣国ではチーズバーガーと呼ばれて発売以来不動の人気を誇った食べ物。但し肉ではなくトーフだが。
「聞いたんだよ。ナッツは・・・その・・・女性にはお通じが良くなるし腹もちもいいし、チーズは適量なら太るどころか健康的に痩せるそうだし、大豆もこの量なら体が温まって汗をよくかけるそうだ」
「そうなんですか?(うるっ)食べて良いんですかぁ」
「あぁいいよ。何の不自由もさせないと約束をしたのに食事制限なんて・・・結婚式の為に無理をさせてしまってごめんな」
「それは良いんですぅ…ドレスは可愛いしあんなに上質な生地なんて生涯に何度も触れる事も出来ませんから儲けものです。でもぉ~!!これを見たらもう我慢できません!食べる!!食べますぅ!」
「いいよ。でも・・・皆には内緒な?」
「当たり前ですぅ!!(がぶっ)‥‥おいひぃぃ!!(もぐもぐ)」
かぶりつくクラリッサを頬杖をついたザカライアはニコニコと眺める。スッと指を出してきたと思ったら。この頃では美丈夫も「またか」と思う出没をされると少々の事では輝きを感じない。
「ついてる」
「んぁ??(もぐもぐ)」
切れ込みを入れているのでパンの横からチーズソースがはみ出てクラリッサのパンを持つ手に零れていた。指でサッと拭うと‥‥
「ぱくっ」
「え…指・・・食べた・・・」
「美味いな。チーズがこんなに美味いなんて知らなかったよ」
――私も食べこぼしを食べる人を知らなかったです――
ザカライアの「皆に内緒おやつ」は翌日も続く。しかもなんと「寝る前」だった。
腹八分目が良いと言われているが出される料理の量は腹4分目ほど。
毎朝一番鶏の鳴き声どころか、自分の腹の虫の絶叫で目覚めるクラリッサは禁断の夜のおやつに飛びついた。
「ヨーグルトだ。甘みは大豆を炒って挽いたキナコと言うのを少しいれてある」
「いいんですか?食べちゃっても…」
「ヨーグルトは朝よりも夕食時や寝る少し前が良いんだそうだ。兄上の食事を管理する栄養士が言ってた」
「えぇっと兄上というのは・・・」
「職業が国王のほうだ」
「ひえぇぇーっ!もしかして国王陛下に相談したんじゃないですよね??」
「兄上には相談してない。理由を告げて栄養士を紹介してくれと頼んだだけだ」
――いや、それ、国王陛下に言うかぁぁぁ!陛下も聞かないでよ!――
国王陛下にダイエットを知られる。もうかくような恥はこの世に存在しない。
クラリッサはそれはもう丁寧に食べ終わった後も「これにヨーグルトが入ってた?」と思われるくらい綺麗に平らげたのだった。
それは結婚式の前夜まで続く禁断のオヤツ攻撃の始まりに過ぎなかった。
しかし不思議な事に食事制限で荒れ気味だった肌はカサカサも無くなり、お通じも不浄に籠って唸らなくてもスルリと出るようになった。
胃袋を掴まれると‥‥と世間では言うがクラリッサは禁断の夜のオヤツで餌付けされたに同義。
昼間はまたか!と思うのに夜、ザカライアがやって来るのを楽しみにするクラリッサが出来上がってしまった。
あの夜会から半年後には結婚式を挙げる。そう決まってしまったのは立太子をして王太子が誕生すると譲位について国は色々と動き出す。
現在王太子は24歳。側近の総入れ替えはあったけれど第2王子の力添えもあり立太子をしたのである。
その為、国王達王族が動ける日は数年先まで予定がびっしりと決められている。
予定の調整を行う予備の日は数日あるのだが、未来は何が起こるか判らない。
出来るだけ早くにとの事で日取りも決まってしまったのである。
「肩まわりはどうでしょう」
「大丈夫です。きつくもなく緩くもありません」
「デコルテはもう少し広く取りましょうか?」
お針子たちと最終調整をしているとやはりやって来るのはザカライア。
「ダメだ!首はハイネック!肌を露出し過ぎだ!」
「あのですね。殿下!ここには立入禁止と伝えたはずです。いいですか?花嫁のドレスは!当日まで秘匿されるものですよ?何のために私達針子がこうやってここに!!来ていると思っているんです!」
「だ、だが…心配なんだ」
「なぁにが心配なんですかッ!」
「着ている時に直したら針が刺さるかもしれないだろう?」
「そんな事ありません!さぁ出て行って!誰か!殿下を抓み出して頂戴ッ!」
使用人達はもうザカライアの事を「ママ期の赤子」と呼んでいる。
クラリッサの姿が30分でも見えないと探し回るのである。
「愛されるのもここまで来ると大変ですね…」
「違うんじゃないかなぁっと…きっと心配がこうじてるんですよ」
お針子たちは「そうでしょうか」と言うけれど、使用人達はこの暑苦しいまでのザカライアの行動が全くクラリッサには響いていない事に涙ぐむ。
お針子たちが引けていくと、お茶の時間になるがこの頃は体形が変わってしまうと折角の調整も無駄になるので食事制限がクラリッサには課せられている。
「食べたいけど…我慢ね」
出されるのは白湯ばかり。茶器の白がより白く見える白湯だ。
「またかぁ…」
出されるものに文句を言ってはいけない。しかし、この頃は朝食も昼食も夕食も制限を受けているので「しっかり噛めば満腹感もある」とパンも固め。
肉もシェフが筋を切ってくれてはいるけれど、ちょっぴりの筋肉に野菜ばかり。野菜も嫌いではないがここまで体形維持に特化した食事が続くと食事は楽しむ時間から義務の時間に思えてくる。
そしてやはりザカライアがやって来る。
――また、来た!――
しかし今回のザカライアは違った。ガサガサと背に隠した紙袋から取り出したのは‥‥。
「これはなに??」
「聞いたんだ…その・・・食事を制限していると聞いて太りにくい食べ物を聞いて来た」
パンの生地にはナッツを細かく砕いて練り込んで焼いたもの。焼き上がったパンに切れ目を入れてレタスを挟んでいるがその中央で堂々と幅を利かせているのは!!
「お、お肉っ!お肉だぁ!!」
「そう思うだろう?違うんだ」
「お肉ではないのですか?」
「これは大豆をトーフっていう奴にしたもので作ったパティだ。隣にあるのはチーズだがな」
隣国ではチーズバーガーと呼ばれて発売以来不動の人気を誇った食べ物。但し肉ではなくトーフだが。
「聞いたんだよ。ナッツは・・・その・・・女性にはお通じが良くなるし腹もちもいいし、チーズは適量なら太るどころか健康的に痩せるそうだし、大豆もこの量なら体が温まって汗をよくかけるそうだ」
「そうなんですか?(うるっ)食べて良いんですかぁ」
「あぁいいよ。何の不自由もさせないと約束をしたのに食事制限なんて・・・結婚式の為に無理をさせてしまってごめんな」
「それは良いんですぅ…ドレスは可愛いしあんなに上質な生地なんて生涯に何度も触れる事も出来ませんから儲けものです。でもぉ~!!これを見たらもう我慢できません!食べる!!食べますぅ!」
「いいよ。でも・・・皆には内緒な?」
「当たり前ですぅ!!(がぶっ)‥‥おいひぃぃ!!(もぐもぐ)」
かぶりつくクラリッサを頬杖をついたザカライアはニコニコと眺める。スッと指を出してきたと思ったら。この頃では美丈夫も「またか」と思う出没をされると少々の事では輝きを感じない。
「ついてる」
「んぁ??(もぐもぐ)」
切れ込みを入れているのでパンの横からチーズソースがはみ出てクラリッサのパンを持つ手に零れていた。指でサッと拭うと‥‥
「ぱくっ」
「え…指・・・食べた・・・」
「美味いな。チーズがこんなに美味いなんて知らなかったよ」
――私も食べこぼしを食べる人を知らなかったです――
ザカライアの「皆に内緒おやつ」は翌日も続く。しかもなんと「寝る前」だった。
腹八分目が良いと言われているが出される料理の量は腹4分目ほど。
毎朝一番鶏の鳴き声どころか、自分の腹の虫の絶叫で目覚めるクラリッサは禁断の夜のおやつに飛びついた。
「ヨーグルトだ。甘みは大豆を炒って挽いたキナコと言うのを少しいれてある」
「いいんですか?食べちゃっても…」
「ヨーグルトは朝よりも夕食時や寝る少し前が良いんだそうだ。兄上の食事を管理する栄養士が言ってた」
「えぇっと兄上というのは・・・」
「職業が国王のほうだ」
「ひえぇぇーっ!もしかして国王陛下に相談したんじゃないですよね??」
「兄上には相談してない。理由を告げて栄養士を紹介してくれと頼んだだけだ」
――いや、それ、国王陛下に言うかぁぁぁ!陛下も聞かないでよ!――
国王陛下にダイエットを知られる。もうかくような恥はこの世に存在しない。
クラリッサはそれはもう丁寧に食べ終わった後も「これにヨーグルトが入ってた?」と思われるくらい綺麗に平らげたのだった。
それは結婚式の前夜まで続く禁断のオヤツ攻撃の始まりに過ぎなかった。
しかし不思議な事に食事制限で荒れ気味だった肌はカサカサも無くなり、お通じも不浄に籠って唸らなくてもスルリと出るようになった。
胃袋を掴まれると‥‥と世間では言うがクラリッサは禁断の夜のオヤツで餌付けされたに同義。
昼間はまたか!と思うのに夜、ザカライアがやって来るのを楽しみにするクラリッサが出来上がってしまった。
2,976
お気に入りに追加
3,361
あなたにおすすめの小説



婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる