お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru

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第18話  チョロい男だわ

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謹慎をさせて1カ月半は反抗的な態度を取り続けたエミリオだったが、静かになった。やっと反省する気になったかと部屋から出した。

反省していなければ逃げ出すだろう。逃げるのならもう伯爵家から籍を抜いて放逐しようと決めていたパットン伯爵夫妻だが、エミリオは大人しかった。

2カ月目で「これ以上休むのも悪いから」と騎士団を退団し、騎士章発行で使った残りの貯まっていたポイントを退職金代わりに受け取り両親に払わせた代金に充ててくれと言った。

「やっとわかってくれたか」

使った金には遠く及ばない50万程の現金だったがパットン伯爵夫妻は泣いて喜んだ。翌日から「仕事を探すから」と市井に出る事を許可してくれと頼むエミリオにパットン伯爵夫妻は許可を出した。

トーナメントで8位になれば1ポイント。1万パナにしかならないのでパットン伯爵夫妻は50万もある事がエミリオが真面目にやって来た結果だからと思ったのだが、事実を知らないのは罪だ。

エミリオは2つの騎士章を返還する事で残っていた220ポイントほどの他に100ポイントを加算されて300万を受け取っていた。両親には10万、いや5万でいいかと思ったが誤魔化すために50万を渡しただけ。

仕事を探すと出掛けた先で、先ず向かったのはファルマのところ。
家まで行く途中で他の男とオープンテラスで茶を楽しんでいるファルマを見つけてエミリオは駆け寄った。

「えっと…誰だっけ?ごめんなさい。多分初めてよね?」
「初めてって‥何を言ってるんだ。宝飾品だって買ってあげたじゃないか!」
「ごめんなさい。何言ってるか判らないわ。私、誰かに買ってくれなんて言った事は1度もないの」

そう、ファルマは「これ、可愛い」「いいなぁ」「素敵よね」と品物を次々に選ぶのだが「買って欲しい」と言った事は1度もないのだ。
支払の段階になれば「不浄に行く」と言っていなくなる。その間に男達は支払いをするのだがファルマは支払いをしてくれとも頼んでいないので男が勝手にした事。

高価なプレゼントを貰うので、けんもほろろに物だけ貰って追い返すのも悪いから少しお喋りをするだけ。将来を見据えた時に箸にも棒にも掛からぬ男達にはそんな感覚しか持たない。

「そんな・・・宝飾品だって受け取りに行ってるじゃないか。3カ月前に!!」
「うーん…そう言えば・・・かなり前に可愛い宝石で癒されようかなってお店に言ったら ”仕上がっております” って言われて受け取った物があったわ。でもそれが貴方の買ったものかなんて・・・私は店員が言う通りに受け取っただけなの」
「そんな・・・じゃぁ返してくれ。それは俺のものだ」
「返せって言われてもぉ…言ったでしょう?どうして貴方の物だって言えるの?


困った素振りのファルマに同席していた男が「君、失敬だろう。突然やって来て」声を荒げる。

エミリオがふとテーブルを見れば両親が支払ってはくれたが、あの高額な宝飾品の店のロゴが入った箱が見えた。

この男も自分と同じように贈り物でファルマの気を引こうとしているのだと思うと対抗心が芽生えた。

――ファルマの隣にいて良いのは俺だけだ!――

エミリオは札束が見えるようにわきに抱えていたバッグをテーブルに置いた。
ファルマがそれを見て瞳孔が開いた事までは見えなかった。

「ごめんなさい。エミリオよね。暫く顔を見せてくれなかったし‥痩せた?直ぐには解らなかったわ」
「ファルマっ♡思い出してくれたんだね」
「えぇ。でもごめんなさい。その宝飾品なんだけど…奪われちゃったの。貴方の婚約者だっていう女性が大勢友達を連れて来て・・・部屋の中が大変なことになっちゃって」
「なんだって!!」

ファルマはエミリオが婚約者がいるのに言い寄ってくる男だと認識はしていたが、その婚約が無くなった事は知らなかった。婚約破棄なら広報にも掲載されるし、貴族院前にある掲示板に張り出されるが婚約解消は掲示されないからである。

面倒な事になれば「貴方の婚約者が」と言えば鼻の下を伸ばした男達は勝手に動き出す。ファルマにまで被害が及ぶようなら平民である事を盾にして逃げればいいだけだ。

ファルマにとって「ショボい男」から贈られた品はもれなく換金されていく。
1点物の高額商品を買わせるときは、もう関係を終わらせるとき。20万程にしかならない買い取り価格の品を買わせるときはまだ使い道がある時。

なんなら何人もの男に同じ品を買わせて「貴方から貰ったやつ。つけてみたの。似合う?」と言えば騙されてくれるのだから、1つあれば使い回しがきくので同じ品は幾つも要らない。
なんにでも姿を変えられる現金にした方がファルマには都合が良いのだ。


だけど、こうやってまだ使い道のある男と遊んでいる時に割りこまれるのは困る。

――お金はそこそこ持ってるっぽいからキープしなきゃ――

バッグの中の現金を見たファルマは、この場から一旦引き上げてもらおうとエミリオに「婚約者が酷い事をしたの」と告げた。ファルマの目論見通りエミリオは勝手に憤慨して去って行く。

――ホント、チョロい男だわ――

ファルマの嘘だとは知らずエミリオはクラリッサの屋敷に向かったが門番は中には入れてくれなかった。ゴネて騒ぎになればまた両親に謹慎部屋へ閉じ込められる。

エミリオは伯爵位以上の家族が全員強制参加の国王生誕祭を待つことにし、そして事を起こしてしまった。


★~★

アンドリューが部屋の中に引き籠って出て来なくなったため到着が遅れたパットン伯爵夫妻は馬車を降りるなり従者に出迎えを受け、訳が分からないまま煌びやかな会場とは全く雰囲気の違う廊下を先導されて歩いていくと1つの部屋に案内をされた。

時間軸とすればこの時刻、クラリッサがザカライアに菓子を食べても良いかと問うている時間。従者達には国王が第1王子の立太子発表の後にザカライアとクラリッサの婚約を発表すると連絡が行き渡っていた頃になる。


パットン伯爵夫妻を連れてきた従者が扉を開けるとそこには椅子にこそ座っていたが、先に屋敷を出たエミリオが手枷に足枷、そして口枷までした状態で待っていた。

「ど、どういうことだ?!」
「エミリオ!貴方・・・何かしたの?」

驚く両親に従者はエミリオがしでかした事を包み隠さずに伝えた。
従者の言葉が終わるとパットン伯爵夫人は眩暈を覚え、その場で崩れ落ちた。

辛うじて立っているパットン伯爵の目からは生気が失われていく。
エミリオだって驚いた。

――クラリッサ・・・不貞してたのか。しかも相手が殿下って上玉捕まえやがって!上手く行かなかったら俺と結婚・・・くそっ!俺のことを保険にしてたのか!――

人は自分の経験で物事を考える。ファルマの事は本気で愛しているエミリオだがその行為が不貞行為と見做される事は理解出来ていた。だからクラリッサも同じように不貞をしていると考えてしまったのだ。
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