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第12話 運命の夜会~初見ですよね?~
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国王の生誕祭が開かれる日。その日は朝からどの家も大忙しだった。
堅苦しい国王や重鎮の有難い話を聞くのは午前中に登城する当主たち。
3時間に及ぶスペクタクルな演説を直立不動の姿勢で聞き、ガチガチになった体に鞭打って一旦屋敷に戻ればそこは戦場。妻や娘、時に子息が「髪を結って!」「飾りがズレてる!」と大騒ぎ。
当主一家を馬車に乗せ、送り出したあと使用人達は真っ白な灰になって燃え尽きる。
モルス伯爵家は次期当主の長兄は帰国しておらず、次兄は警備に当たっているためクラリッサのエスコートは母の従弟で小父のハワード。男爵家なので参加資格はなかったが今回はクラリッサのエスコート役に抜擢された。
ハワードはサヴェッジ侯爵家からの依頼で、木をおがくず状態にしてそこにしいたけの菌糸を混ぜて培養する役割を担ってくれている。
「ハワード小父さま。奥様の具合はどう?」
「凄いぞ。胸から放射状にビビビ―って!!神秘だよなぁ」
「それ、デリカシーマイナスに振り切ってるわ」
「やっぱり?ベスにもそう言われるんだけどな」
ハワードの妻であるベスは2カ月前に第4子を出産したばかり。なんと18年ぶりの出産だった。上の子供も手が離れたし♡と仲良くしてみればデキてしまったのだ。
産後1週間程は母乳が出ないと悩んでいたが今では製造するピッチが速いのか乳の出が悪い同じ月齢の子供3人に分け与えてもまだ余る。
「もうさぁ、めっちゃ可愛いんだよ。年取って出来た子は可愛いって本当だな。この子の為ならなんでも出来るって思えるよ」
ハワードは生まれた子供が可愛いくて堪らず、昼は仕事をして夜は率先して育児をする。夜中の授乳は妻のベスが行うがオムツを交換したり、愚図ればあやしたりと楽しんでいるようだ。
入場の順番まであと少しだが、夜会の時間は限られている。入場前の時間もただ待っているだけではもったいないとクラリッサは友人の令嬢達と打ち合わせをした通り、ハワードを「囲い布」を製造している商会を経営している友人の夫に引き合わせた。
その時、友人の首元には豪華なネックレスが光っていた。
「わぁ、凄い」クラリッサは感嘆の声を出した。
「えへっ。メアリーの店に掘り出し物があるって聞いて。28万だったんだけど結婚1周年だからって♡夫が買ってくれたの」
質流れ品を妻に買い与えるなんてと批難する者もいるだろうが、定価なら間違いなく手も足も出ない品。友人だから商売抜きで買い取り価格で売ってくれるだけで、メアリーの家が出している店で一般用に陳列されれば200万は下らない。
下手をすればメアリーを利用してせどりをすればひと財産築ける。それをしないのも友人だから。
石を嵌めこんだ台座は入れ替えているがそれは見事な宝石が胸元で輝いていた。
シイタケ栽培をするのに培養させた菌糸を原木に埋め込み、原木の中で成長させるには棒積みという工程が必要。木を積み上げて培養するのだが、布などで覆っておく必要があるのだ。
消耗品でもある布であっても、かなり大きな広さ、そして耐久性も求められる。改良もしてもらえると尚有難い。
友人の夫とハワードは初見だがお互いの事業内容は知っている。好感触だった。
「初めまして。お会いしたいと思っていたんです。今日はお会いできて光栄です」
「こちらこそご用命頂けるとの事、小さな商会ですが精一杯――」
友人の夫にハワードを紹介し、ハワードと友人の夫が握手を交わそうとした時、後方でちょっとした騒ぎが起こった。
「何かしら」
騒ぎの方を見てみるが入場の扉からは離れているものの既に人だかりが出来ていて背伸びをしても見えるのは誰かの後頭部ばかり。その時クラリッサのよく知る声が耳に飛び込んできた。
「ですから!貴方の勘違いだと言っているのです!」
友人も同じ事を思ったようでクラリッサと顔を見合わせた。声を荒げている女性は共通の友人レーナ。水の濾過設備を事業所などに工事する事業をしていて、このあと間に1人挟んでハワードを顔合わせする予定だった。
近寄って行くとレーナの夫の声も聞こえる。
「失敬だろう!難癖をつけるのもほどほどにしたまえッ!」
「なんだと!!」
――え?この声って――
人の輪を掻き分けて中心部に進むと、そこにいたのは胸ぐらを掴まれたのかボタンが取れて胸元がはだけたシャツを着たレーナの夫。足元にはリボンタイが落ちていた。そして美しく結い上げられていたであろう髪が敗走する兵士のようにザンバラになった無残な姿のレーナ。
その向かいには・・・。
――エミリオ!!どうしてこんな事を!!――
ハッとするがエミリオは駆け付けてきたクラリッサと友人を視界に入れると「お前もかぁ!!」
鬼の形相で友人に掴みかかろうとするエミリオの前にクラリッサは体を割り込ませた。
「何をしてるの!こんな祝いの場で!」
「誰かと思ったら首謀者のクラリッサじゃないか」
「首謀者?なんのこと?」
サッパリ意味が解らない。何の事だと思っているとエミリオは周囲を取り囲む貴族達に向かって大声を上げた。
「みなさーん!この女は俺の相続するはずだった領地を盗み取るだけじゃなく、嫉妬に駆られてこうやって友人を使って平民の女性から宝飾品を取り上げ、戦利品の如く!!仲間内で分け合ってこの場に身につけてくる不届き者ですよー!!手癖が恐ろしく悪いので盗まれないように気を付けてくださーい!!」
「何を言ってるの!失礼なことを言わないで!」
「失礼だって?失礼なのはソッチだろう。金がないのは解るが、だからと言って平民の持ち物を・・・俺のファルマの持ち物を根こそぎブン取るのは良い事なのか?失礼以前に犯罪じゃないのか?」
「何を言ってるか全く解らないわ。言い掛かりも大概にした方が良いわ」
「言い掛かりだと?言っておくがその女の髪飾り!それは俺がファルマに贈った物だ!そしてその女がしているネックレス!それも俺がファルマに買ってやったものだ!台座を変えて誤魔化しているが間違いないッ!」
「間違ってるのはアナタの頭の中の認識よ!首謀者だのなんだの。挙句にまるで盗人のような物言い。失礼にも程があるわ」
「言うじゃねぇか。昔っから気に食わなかったんだよ。保険の役目も出来ない役立たずが。お前のせいで!!俺は相続するはずだった宝の山、領地を失ったんだ。それに飽き足らず…ホント、ガメつい女は言う事が違うぜ。ま、ここへもお一人様とは憐れだな。尤もお前みたいな女、連れて歩くのも恥だがな!」
「ガメっ…!!大きなお世話!そっちこそ破落戸かと思ったわ。ここは貴族が来る場所よ。出直して来たらどうなの」
売り言葉に買い言葉。レーナ夫婦からエミリオの気が逸れたのは僥倖。矛先は完全にクラリッサに向いた。声を荒げてしまったが、破落戸と言われたエミリオは更に激昂し拳を振り上げて殴りかかって来た。
――不味いっ!殴られるっ――
クラリッサはギュッと目を閉じたが体は動かせない。動いてしまえばエミリオの振り被った手は友人に当たってしまう。そう思うと動けなかった。
が…痛みは何時まで経ってもやってこないばかりでなく「遅くなってすまない」と優しい声がしたと思ったら「痛い!」悲鳴を上げたのはエミリオだった。
「私の連れに何をしようと?」
――連れ??え?ハワード小父様何時の間にそんなイケメンに?――
エミリオの腕を掴み、サッと後ろ手に捕縛するように抑え込んだのは目も覚めるような美丈夫。「連れ」と言われて周囲を見渡す。
「私?」と自分を指差すとエミリオを抑えつけたまま美丈夫はクラリッサに微笑んだ。
――貴方、誰?初見ですよね?――
微笑まれる理由も、その美丈夫が誰なのかもクラリッサには判らなかった。
堅苦しい国王や重鎮の有難い話を聞くのは午前中に登城する当主たち。
3時間に及ぶスペクタクルな演説を直立不動の姿勢で聞き、ガチガチになった体に鞭打って一旦屋敷に戻ればそこは戦場。妻や娘、時に子息が「髪を結って!」「飾りがズレてる!」と大騒ぎ。
当主一家を馬車に乗せ、送り出したあと使用人達は真っ白な灰になって燃え尽きる。
モルス伯爵家は次期当主の長兄は帰国しておらず、次兄は警備に当たっているためクラリッサのエスコートは母の従弟で小父のハワード。男爵家なので参加資格はなかったが今回はクラリッサのエスコート役に抜擢された。
ハワードはサヴェッジ侯爵家からの依頼で、木をおがくず状態にしてそこにしいたけの菌糸を混ぜて培養する役割を担ってくれている。
「ハワード小父さま。奥様の具合はどう?」
「凄いぞ。胸から放射状にビビビ―って!!神秘だよなぁ」
「それ、デリカシーマイナスに振り切ってるわ」
「やっぱり?ベスにもそう言われるんだけどな」
ハワードの妻であるベスは2カ月前に第4子を出産したばかり。なんと18年ぶりの出産だった。上の子供も手が離れたし♡と仲良くしてみればデキてしまったのだ。
産後1週間程は母乳が出ないと悩んでいたが今では製造するピッチが速いのか乳の出が悪い同じ月齢の子供3人に分け与えてもまだ余る。
「もうさぁ、めっちゃ可愛いんだよ。年取って出来た子は可愛いって本当だな。この子の為ならなんでも出来るって思えるよ」
ハワードは生まれた子供が可愛いくて堪らず、昼は仕事をして夜は率先して育児をする。夜中の授乳は妻のベスが行うがオムツを交換したり、愚図ればあやしたりと楽しんでいるようだ。
入場の順番まであと少しだが、夜会の時間は限られている。入場前の時間もただ待っているだけではもったいないとクラリッサは友人の令嬢達と打ち合わせをした通り、ハワードを「囲い布」を製造している商会を経営している友人の夫に引き合わせた。
その時、友人の首元には豪華なネックレスが光っていた。
「わぁ、凄い」クラリッサは感嘆の声を出した。
「えへっ。メアリーの店に掘り出し物があるって聞いて。28万だったんだけど結婚1周年だからって♡夫が買ってくれたの」
質流れ品を妻に買い与えるなんてと批難する者もいるだろうが、定価なら間違いなく手も足も出ない品。友人だから商売抜きで買い取り価格で売ってくれるだけで、メアリーの家が出している店で一般用に陳列されれば200万は下らない。
下手をすればメアリーを利用してせどりをすればひと財産築ける。それをしないのも友人だから。
石を嵌めこんだ台座は入れ替えているがそれは見事な宝石が胸元で輝いていた。
シイタケ栽培をするのに培養させた菌糸を原木に埋め込み、原木の中で成長させるには棒積みという工程が必要。木を積み上げて培養するのだが、布などで覆っておく必要があるのだ。
消耗品でもある布であっても、かなり大きな広さ、そして耐久性も求められる。改良もしてもらえると尚有難い。
友人の夫とハワードは初見だがお互いの事業内容は知っている。好感触だった。
「初めまして。お会いしたいと思っていたんです。今日はお会いできて光栄です」
「こちらこそご用命頂けるとの事、小さな商会ですが精一杯――」
友人の夫にハワードを紹介し、ハワードと友人の夫が握手を交わそうとした時、後方でちょっとした騒ぎが起こった。
「何かしら」
騒ぎの方を見てみるが入場の扉からは離れているものの既に人だかりが出来ていて背伸びをしても見えるのは誰かの後頭部ばかり。その時クラリッサのよく知る声が耳に飛び込んできた。
「ですから!貴方の勘違いだと言っているのです!」
友人も同じ事を思ったようでクラリッサと顔を見合わせた。声を荒げている女性は共通の友人レーナ。水の濾過設備を事業所などに工事する事業をしていて、このあと間に1人挟んでハワードを顔合わせする予定だった。
近寄って行くとレーナの夫の声も聞こえる。
「失敬だろう!難癖をつけるのもほどほどにしたまえッ!」
「なんだと!!」
――え?この声って――
人の輪を掻き分けて中心部に進むと、そこにいたのは胸ぐらを掴まれたのかボタンが取れて胸元がはだけたシャツを着たレーナの夫。足元にはリボンタイが落ちていた。そして美しく結い上げられていたであろう髪が敗走する兵士のようにザンバラになった無残な姿のレーナ。
その向かいには・・・。
――エミリオ!!どうしてこんな事を!!――
ハッとするがエミリオは駆け付けてきたクラリッサと友人を視界に入れると「お前もかぁ!!」
鬼の形相で友人に掴みかかろうとするエミリオの前にクラリッサは体を割り込ませた。
「何をしてるの!こんな祝いの場で!」
「誰かと思ったら首謀者のクラリッサじゃないか」
「首謀者?なんのこと?」
サッパリ意味が解らない。何の事だと思っているとエミリオは周囲を取り囲む貴族達に向かって大声を上げた。
「みなさーん!この女は俺の相続するはずだった領地を盗み取るだけじゃなく、嫉妬に駆られてこうやって友人を使って平民の女性から宝飾品を取り上げ、戦利品の如く!!仲間内で分け合ってこの場に身につけてくる不届き者ですよー!!手癖が恐ろしく悪いので盗まれないように気を付けてくださーい!!」
「何を言ってるの!失礼なことを言わないで!」
「失礼だって?失礼なのはソッチだろう。金がないのは解るが、だからと言って平民の持ち物を・・・俺のファルマの持ち物を根こそぎブン取るのは良い事なのか?失礼以前に犯罪じゃないのか?」
「何を言ってるか全く解らないわ。言い掛かりも大概にした方が良いわ」
「言い掛かりだと?言っておくがその女の髪飾り!それは俺がファルマに贈った物だ!そしてその女がしているネックレス!それも俺がファルマに買ってやったものだ!台座を変えて誤魔化しているが間違いないッ!」
「間違ってるのはアナタの頭の中の認識よ!首謀者だのなんだの。挙句にまるで盗人のような物言い。失礼にも程があるわ」
「言うじゃねぇか。昔っから気に食わなかったんだよ。保険の役目も出来ない役立たずが。お前のせいで!!俺は相続するはずだった宝の山、領地を失ったんだ。それに飽き足らず…ホント、ガメつい女は言う事が違うぜ。ま、ここへもお一人様とは憐れだな。尤もお前みたいな女、連れて歩くのも恥だがな!」
「ガメっ…!!大きなお世話!そっちこそ破落戸かと思ったわ。ここは貴族が来る場所よ。出直して来たらどうなの」
売り言葉に買い言葉。レーナ夫婦からエミリオの気が逸れたのは僥倖。矛先は完全にクラリッサに向いた。声を荒げてしまったが、破落戸と言われたエミリオは更に激昂し拳を振り上げて殴りかかって来た。
――不味いっ!殴られるっ――
クラリッサはギュッと目を閉じたが体は動かせない。動いてしまえばエミリオの振り被った手は友人に当たってしまう。そう思うと動けなかった。
が…痛みは何時まで経ってもやってこないばかりでなく「遅くなってすまない」と優しい声がしたと思ったら「痛い!」悲鳴を上げたのはエミリオだった。
「私の連れに何をしようと?」
――連れ??え?ハワード小父様何時の間にそんなイケメンに?――
エミリオの腕を掴み、サッと後ろ手に捕縛するように抑え込んだのは目も覚めるような美丈夫。「連れ」と言われて周囲を見渡す。
「私?」と自分を指差すとエミリオを抑えつけたまま美丈夫はクラリッサに微笑んだ。
――貴方、誰?初見ですよね?――
微笑まれる理由も、その美丈夫が誰なのかもクラリッサには判らなかった。
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