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第11話 令嬢が集まれば姦しい
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パットン家の噂は聞きたくなくても聞こえてくる。
クラリッサが心配をしていたのはエミリオではなくエミリオの弟、アンドリューの事だった。
裕福な家の子息たちとは違って講師を呼べる金もなかった事からアンドリューは無料で子供たちに読み書きを教えている教会に行き、子供たちの先生代わりになる事で神父を介し礼拝に来る講師に口利きをしてもらって学んだり、図書館に通い詰めて独学で不明点を解決していた。
努力の人なのだ。
しかし、限界もある。学園には授業料が免除になる特待生制度もあったのだがアンドリューは成績順で11番目。次点となり上位10人のうち誰かが退学なりをしないと特待生にはなれなかった。
上位の10人は公爵家や侯爵家の子女が名前を連ねる。高位貴族なだから辞退するかと思えば大違い。
授業料が免除になるだけでなく専門分野に進む学者志望の場合は研究費として授業料と同額が給付される。家の金に頼らずに好きな研究に没頭出来るとあって辞退する者など1人もいない。
「努力する人ほど見出されるべきなのに」
そうは思っても一介の伯爵令嬢がどうにでも出来るものでもない。
パットン家から支払われた慰謝料はそのまま王宮の資産管理課で管理をしてもらいクラリッサは今まで通りの生活を続けた。いや、エミリオと言う婚約者がいないだけで他は何も変わらない生活を続けた。
そして国王生誕祭の日もあと1週間に迫ってくる。
クラリッサ達は友人で集まり、令嬢らしい打ち合わせをする。
クラリッサ以外は全員婚約者なり夫がいる。それぞれの立ち位置を利用して連携出来る所はやって行こう。そんな根回し会でもある。
クラリッサは隣国から長兄が戻ってくるまでの間、サヴェッジ侯爵家と共に「シイタケ栽培」の手伝いをする事にしていた。何かをしていれば嫌な事を思い出して凹んでいる時間も無くなる。
何よりただの丸太だと思っていた木にキノコであるシイタケがニョキニョキと生えてくるのは楽しかった。ただ、木を放っておけばよいのではなく当然虫も寄って来るので家によっては虫害対策の薬などを主力としている場合もある。
単に事業をする上での取引相手ではなく、時に共同経営、お互いの主力品の品質向上のための共同研究などをする為に友人を介し、口利き、顔合わせなどをしてもらうための集まりがこの日だった。
事業の話がメイン・・・の筈だったが女3人寄れば姦しとも言うように3人以上が集まった事で何故か話題はゴシップに傾倒していく。
「今年は第1王子殿下の立太子も発表されるんですって」
「マーシャはどうなるのかしら」
「そりゃ第2王子妃でしょ?あまり会えなくなったのも王子妃教育があったかららしいわ」
「マーシャが大公夫人ってことよね。玉の輿も大変だわ。私には無理!」
マーシャとはクラリッサや質屋が実家のメアリーなど、あの日「安く揃えられる!」と集まるはずだった令嬢の1人。暫くは傍から見ても可哀想なくらいに自由に出来る時間もなかった。
家は同じく伯爵位を授かっている家だが、第2王子が息抜きで趣味としている「時計造り」をきっかけに時計の部品を製造しているマーシャの家を訪れるようになり、思いを通わせた2人は婚約をしたのだ。
第2王子の方が王位に相応しいのでは?と言われてはいたが、第1王子が半年ほど前に側近をごっそり入れ替えたのが良かったのか今回の立太子に繋がったようだ。
「前の側近って宰相のご子息と騎士団長のご子息じゃなかったの?」
「2人揃ってご病気らしいわ。聞くところによると不治の病だそうよ」
「2人揃って?!感染症かしら」
「医療院からは危険な感染症の報告はないのにね」
「第1王子殿下にしてみれば・・・入れ替えた事でツキが回ってきたってことよね」
「しぃっ!!そんな事、大きな声で言っちゃダメよ」
「それなんだけど!凄い事聞いちゃったの」
「なに?なに?」
「騎士団長のご子息・・・腐敗病らしいわ」
<< 腐敗病っ!? >>
腐敗病は性病で今は治す事が出来ない不治の病だ。
特効薬や治療薬はないので痒み止めや痛み止めで症状の緩和を図るしかない。
発症すると2,3カ月おきに全身に強烈な痒みを伴う症状が1週間程出る。皮膚の内側が腐ったように黒く変色するが、痒みが治まると肌の色も元に戻って行く。しかしその症状を4,5年繰り返す事で肌の色は戻らなくなる。そうなると今度は骨が腐って行くのだ。10年もすれば歩くどころか寝返りで骨が砕ける。折れるのではなく砕けるのだ。
命が蝕まれて行く絶望の中で最期の日を待つしかない病気だった。
厄介なのは男性には感染から半年ほどで初期症状が出るのに女性には出ないこと。
女性に症状が出るのは5年ほど経ってからで主に顔面。頬や鼻が溶けたように崩壊する。
男性患者を隔離しても女性患者は症状が出るまで誰が保菌者か判らないので被害が広がりやすい。医療院から腐敗病の患者が出たと発表されると市井の色街は閑古鳥が鳴き始める。
「市井遊びが原因らしいわ」
「だから婚約も無くなったのね。婚約者だったタニア公爵令嬢が先々月いきなり隣国に留学されたでしょう?留学から戻るまで待たせるのは悪いからって婚約が白紙とか!!おかしいと思ったのよ」
「だけど怖いわ。市井って‥彼大丈夫かしら」
「見つけ次第隔離してるらしいけど…怖いわね…ってこんな時間!大変、もう帰らなきゃ」
令嬢達は忙しい。話題にものぼった国王生誕祭まであと少し。
その日に備えての準備もお喋り並みに忙しいのだ。
「次は夜会の会場ね。えぇっと…どの順番で回る?」
やっと口利き、顔合わせの話になりお互いがどう立ち回るかを急いで取り決める。
そしてクラリッサの未来が大きく変わる夜会の日を迎えたのだった。
クラリッサが心配をしていたのはエミリオではなくエミリオの弟、アンドリューの事だった。
裕福な家の子息たちとは違って講師を呼べる金もなかった事からアンドリューは無料で子供たちに読み書きを教えている教会に行き、子供たちの先生代わりになる事で神父を介し礼拝に来る講師に口利きをしてもらって学んだり、図書館に通い詰めて独学で不明点を解決していた。
努力の人なのだ。
しかし、限界もある。学園には授業料が免除になる特待生制度もあったのだがアンドリューは成績順で11番目。次点となり上位10人のうち誰かが退学なりをしないと特待生にはなれなかった。
上位の10人は公爵家や侯爵家の子女が名前を連ねる。高位貴族なだから辞退するかと思えば大違い。
授業料が免除になるだけでなく専門分野に進む学者志望の場合は研究費として授業料と同額が給付される。家の金に頼らずに好きな研究に没頭出来るとあって辞退する者など1人もいない。
「努力する人ほど見出されるべきなのに」
そうは思っても一介の伯爵令嬢がどうにでも出来るものでもない。
パットン家から支払われた慰謝料はそのまま王宮の資産管理課で管理をしてもらいクラリッサは今まで通りの生活を続けた。いや、エミリオと言う婚約者がいないだけで他は何も変わらない生活を続けた。
そして国王生誕祭の日もあと1週間に迫ってくる。
クラリッサ達は友人で集まり、令嬢らしい打ち合わせをする。
クラリッサ以外は全員婚約者なり夫がいる。それぞれの立ち位置を利用して連携出来る所はやって行こう。そんな根回し会でもある。
クラリッサは隣国から長兄が戻ってくるまでの間、サヴェッジ侯爵家と共に「シイタケ栽培」の手伝いをする事にしていた。何かをしていれば嫌な事を思い出して凹んでいる時間も無くなる。
何よりただの丸太だと思っていた木にキノコであるシイタケがニョキニョキと生えてくるのは楽しかった。ただ、木を放っておけばよいのではなく当然虫も寄って来るので家によっては虫害対策の薬などを主力としている場合もある。
単に事業をする上での取引相手ではなく、時に共同経営、お互いの主力品の品質向上のための共同研究などをする為に友人を介し、口利き、顔合わせなどをしてもらうための集まりがこの日だった。
事業の話がメイン・・・の筈だったが女3人寄れば姦しとも言うように3人以上が集まった事で何故か話題はゴシップに傾倒していく。
「今年は第1王子殿下の立太子も発表されるんですって」
「マーシャはどうなるのかしら」
「そりゃ第2王子妃でしょ?あまり会えなくなったのも王子妃教育があったかららしいわ」
「マーシャが大公夫人ってことよね。玉の輿も大変だわ。私には無理!」
マーシャとはクラリッサや質屋が実家のメアリーなど、あの日「安く揃えられる!」と集まるはずだった令嬢の1人。暫くは傍から見ても可哀想なくらいに自由に出来る時間もなかった。
家は同じく伯爵位を授かっている家だが、第2王子が息抜きで趣味としている「時計造り」をきっかけに時計の部品を製造しているマーシャの家を訪れるようになり、思いを通わせた2人は婚約をしたのだ。
第2王子の方が王位に相応しいのでは?と言われてはいたが、第1王子が半年ほど前に側近をごっそり入れ替えたのが良かったのか今回の立太子に繋がったようだ。
「前の側近って宰相のご子息と騎士団長のご子息じゃなかったの?」
「2人揃ってご病気らしいわ。聞くところによると不治の病だそうよ」
「2人揃って?!感染症かしら」
「医療院からは危険な感染症の報告はないのにね」
「第1王子殿下にしてみれば・・・入れ替えた事でツキが回ってきたってことよね」
「しぃっ!!そんな事、大きな声で言っちゃダメよ」
「それなんだけど!凄い事聞いちゃったの」
「なに?なに?」
「騎士団長のご子息・・・腐敗病らしいわ」
<< 腐敗病っ!? >>
腐敗病は性病で今は治す事が出来ない不治の病だ。
特効薬や治療薬はないので痒み止めや痛み止めで症状の緩和を図るしかない。
発症すると2,3カ月おきに全身に強烈な痒みを伴う症状が1週間程出る。皮膚の内側が腐ったように黒く変色するが、痒みが治まると肌の色も元に戻って行く。しかしその症状を4,5年繰り返す事で肌の色は戻らなくなる。そうなると今度は骨が腐って行くのだ。10年もすれば歩くどころか寝返りで骨が砕ける。折れるのではなく砕けるのだ。
命が蝕まれて行く絶望の中で最期の日を待つしかない病気だった。
厄介なのは男性には感染から半年ほどで初期症状が出るのに女性には出ないこと。
女性に症状が出るのは5年ほど経ってからで主に顔面。頬や鼻が溶けたように崩壊する。
男性患者を隔離しても女性患者は症状が出るまで誰が保菌者か判らないので被害が広がりやすい。医療院から腐敗病の患者が出たと発表されると市井の色街は閑古鳥が鳴き始める。
「市井遊びが原因らしいわ」
「だから婚約も無くなったのね。婚約者だったタニア公爵令嬢が先々月いきなり隣国に留学されたでしょう?留学から戻るまで待たせるのは悪いからって婚約が白紙とか!!おかしいと思ったのよ」
「だけど怖いわ。市井って‥彼大丈夫かしら」
「見つけ次第隔離してるらしいけど…怖いわね…ってこんな時間!大変、もう帰らなきゃ」
令嬢達は忙しい。話題にものぼった国王生誕祭まであと少し。
その日に備えての準備もお喋り並みに忙しいのだ。
「次は夜会の会場ね。えぇっと…どの順番で回る?」
やっと口利き、顔合わせの話になりお互いがどう立ち回るかを急いで取り決める。
そしてクラリッサの未来が大きく変わる夜会の日を迎えたのだった。
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