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第04話  少ない資金で満足の買い物

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エミリオがファルマに髪飾りを買ってやった10日後。

クラリッサは伯爵令嬢ミレリーを筆頭に数人の友人と待ち合わせをしていた。
ミレリーの家であるロンダリン伯爵家は隣国の商売を真似て「質屋」という事業を始めたのだ。

3カ月後に開かれる王家主催の夜会。
年に2回あるのだが建国記念祭と、国王生誕祭には伯爵家以上の爵位があるものは全員が出席を義務付けられていた。

貴族だからと全員が全員、湯水のように金が使える訳ではない。
しかし、同じ物を使い回すにも限界がある。

特にクラリッサやミレリーの世代になると自由になる金は余りないため、今回はミレリーの父親、ロンダリン伯爵の好意で友人達に安く質草となった宝飾品やドレスを売ってくれるというので友人達と待ち合わせをしてやってきた。

1週間以内なら質草となった品を受け取った金と同額で引き取らせてもらえるシステムとしたのだ。
利息の付かない期間が1週間あると言うのは意外に需要があった。

家宝などを100万で買い取って貰えば、買い直すのに120万必要だった。家宝には代々伝わって来た骨董品が多いが中には王家からの下賜品もある。

金を工面するために売ってしまった事が発覚すれば爵位を失う危機に直面するとあって、急場を凌ぐために金を借りた貴族達は流通する前に買い直していた。

それが1週間以内なら100万なら100万持って行けば品物が戻ってくる。さらに猶予がもう1週間あり、1割の利息を入れればもう1週間流通させるのを待ってくれる。
その時も既に利息で1割は払っているので100万で済む。以前よりは猶予が出来たと好評だった。

「でもね~。当主クラスになると買い戻しに来るけどそうじゃ無かったら買取よ」

店の奥の部屋には背の高い棚がずらりと並び、取り敢えずは1週間保管をする品が飾られていた。


クラリッサ同様に自由になる金が少ない令嬢達は「販売可能」と書かれた棚にわっと群がって品定めをする。そのままでは誰かの持ち物だったので「質流れ品」だと思われてしまうが、宝飾品は細工師の元に持って行けば台座を変えてもらえたり、ドレスも手を入れる事で違うデザインになる。

店で買えば10万でも七草なので引き取った価格である「定価の2割」で売って貰える。買った後に手を入れる代金を入れたとしても半額以下で買えるのは有難かった。

「わぁ、この髪飾り!欲しかったのよ!」
「わたくしも!でもお店では32万だったのよね…とても手が出せる金額じゃなかったわ」
「それ・・・緑の札がついてるでしょ?ケースがないから1割よ」
「うっそ!本当に?じゃぁ…3万2千パナってこと?」
「そうなるわね。保管ケースは別で用意してもらわなきゃいけないし」
「でもさぁ…32万で買って3万2千パナで売った人・・・これ新作なのにこんなに早く売るのね」

クラリッサの友人が手に取ったのはエミリオがファルマに売った髪飾りだったが、元の持ち主が誰だったかなどこの場にいる令嬢が知る由もない。

「その系統なら・・・結構あるの。パパに聞いてみるわ」

ミレリーはここ数か月。同じ令嬢がケース無しで宝飾品を大量に持ち込んでいる事を知っていた。

今回はミレリーの友達ばかりで予算は多い令嬢で15万パナ。少ない令嬢で5万パナなので、頭の上からつま先まで持参した金額で買い取れる品を集めてくれていたが、持ち込まれた品には店では150万、200万と値がついていてもケース無しの宝飾品剥き出しなので1割で買い取った品が沢山あるのだ。

「25万かぁ…安いのは解るけど手が出ないわぁ。でも目の保養になるわね」
「ね?試着だけ・・・ダメ?こんな高級品、生きてるうちに絶対に身につけられないわ」
「いいわよ。買うもの買ったら後でね」

友人だがミレリーも商売人の娘。万が一買わない品が紛れ込むとお互い後味の悪い事になるのできっちりと線引きをして、皆で質屋の買い物を済ませた後、即興のファッションショーが行われたのだった。
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