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第28話 ちゃんと嫉妬している
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「結局顔を見ることは出来なかったわね」
出立の日、義姉のビアンカの腹を撫でてフライアは「残念だなぁ」と呟いた。
「なぁに言ってるの。この子はこの子で考えてるのよ。きっと」
「考えてる?」
「そ、フゥちゃんがいなくなると爺ちゃん、婆ちゃんが寂しがるでしょう?だから寂しがる暇もないように何となくだけど…入れ替わるようにやって来るかな?って思ったのよ」
「ビアンカ義姉さんがそう言うならそうかも。そうよね。部屋だって被ってたら大変だったし」
フライアが出立をすれば間違いなく両親は寂しがるだろう。
20歳で家を出る事もなく、結局それから5年も一緒に住んでビアンカも含めて楽しくやって来た。
エトガーと結婚をしたとしても同じ王都内に住む事は変わらないし、仕事だって薬草商会だったのだから実家の工房と行き来はかなりの頻度。寂しがることはなかっただろう。
しかしブルグ王国となればもう生きているうちには会えないかも知れない。
食卓だってポッカリ席が空いてしまうのだ。
しかし入れ替わるように新しい命が誕生すれば寂しいなんて言っている暇もないくらい全員が忙しくなる。
「じぃばぁ孝行な子なのね。ブルグ王国にも遊びに来てね」
ビアンカの腹を撫でると、ボコッ!!大きく返事をするように動いてくれた。
「元気でね。手紙を書くわ」
「うん。お母様も元気で。お父様も狩りはほどほどにね。お兄様もよ!」
家族とハグをして馬車に乗り込んだフライアはブルグ王国に出立していった。
★~★
フライアがビアンカと話をしていた頃、王太子は約束通りオレイト伯爵家とファネン子爵家の処分を決定し従者に書簡を持たせて走らせていた。
その従者からの書簡を受け取り、先に目を通したリヒテン子爵は黙ってヴォーダンに書簡を手渡した。
「オイレト伯爵家は準男爵家ですか。まぁ妥当でしょうね。取り潰しや処刑となるとこちらの軍部にも報告をせねばなりませんし」
取り調べには素直に応じたアメリアだが自供の中で「美丈夫を夫にしたかった」そして「フライアが嫌いだった」と言った。
「シャーデンフロイデなんだろうな。憐れな事だ」
他人の不幸で自分の幸せを感じるのがシャーデンフロイデ。
誰しも持っている感情。だからこそ「出来た!」と達成感を得た時に周囲はどうなんだろう?と自分がいち早く達成できたことにより強い喜びを感じたりもする。
悪い事ではなく、人間の感情を表現する上で大事な感情なのだが行き過ぎると「悪」でしかなくなる。
どんどんエスカレートして「自分が嫌いだ」と思うだけで周囲に捏造した悪評を広めたりもする。アメリアは家に資産もあったが、友人は低位貴族ばかり。優越感を感じる事が出来る仲間を集め、自分でより強い幸せを感じるためにエスカレートしていった。
自分の気持ちが最優先なので周囲がどう思うかなどは関係が無い。
準男爵家に格下げをされた事はアメリアには耐えがたい苦痛にもなるだろう。今まで蔑んできた者と爵位が同じ。その上私財も没収。そして…。
「ファネン子爵家は厳重注意ですか」
「金を借りていた所には返済をし、領地も陛下に返納したそうです。領地のない子爵ですから厳しい生活になるでしょうけどもね」
「助けてあげればどうです?親友だったのでしょう?」
「そうですね…そんな機会があれば」
幼い頃からの大親友だったリヒテン子爵とファネン子爵。リヒテン子爵は「機会があれば」と言うにとどめた。
そこにはリヒテン子爵は娘のフライアが幸せになるけれど、ファネン子爵はエトガーの籍を抜き、エトガーは戦線の配給班に送られた。最前線の兵士に食料や医療品を届ける兵士で届ける荷物を背負うため武器は何一つ持っていない。武器が持てるならその分のパンを背負うからである。
敵兵はその配給を運ぶ兵士を狙って撃ってくる。物資が供給されなければ最前線の兵士も飢えと渇きには勝てないからである。生きるためには丸腰で荷を背負い走るしかない。死刑囚でも「やりたくない」と泣いて懇願する仕事である。
そしてエトガーとアメリアは書面上の結婚をした。
年に一度、会いたければアメリアが戦線に出向けば会わせてもらえる。行くかどうかはアメリア次第だし、その時にエトガーが生きて陣地に戻って来るかは神のみぞ知る。
★~★
フライアを乗せた馬車を結界で包み、その周囲を騎乗して護衛するヴォーダン。
「過保護すぎませんか?」とアルドフ
「そうかなぁ…あ、そろそろ昼寝から起きる。涼しい風を送らないとな!」とヴォーダン。
ちなみに馬車は全く揺れない。何故かと言えば車輪が僅かに大地から浮いているので馬も馬車を引いているとも思っていないかも知れない。だからこそフライアは馬車の中で本を読んだり、約束した刺繍入りのハンカチを製作する事も出来るし、かなり狭いだけで快適に過ごせるのだ。
「少将、魔法の使い方が違うんじゃないですか?」
「馬鹿者。魔法ってのはな、妻の為に使う!そういうものだ」
「そうなのかなぁ」
そんなヴォーダンは少しだけエトガーに感謝をしていた。
本来ならエトガーもアメリアも嘘だとは言えヴォーダンの名を出しているのでブルグ王国に連れて行き銃殺が妥当だったのである。
しかしエトガーが不貞をしてくれなければフライアを妻にする事は出来なかった。
その点だけヴォーダンはエトガーを評価し、感謝をしていたのである。
ただ、配給班がいいのでは?と進言したのはフライアの名前を呼んだから。
ちゃんと嫉妬もして、私情を交えた判断をしているのだった。
出立の日、義姉のビアンカの腹を撫でてフライアは「残念だなぁ」と呟いた。
「なぁに言ってるの。この子はこの子で考えてるのよ。きっと」
「考えてる?」
「そ、フゥちゃんがいなくなると爺ちゃん、婆ちゃんが寂しがるでしょう?だから寂しがる暇もないように何となくだけど…入れ替わるようにやって来るかな?って思ったのよ」
「ビアンカ義姉さんがそう言うならそうかも。そうよね。部屋だって被ってたら大変だったし」
フライアが出立をすれば間違いなく両親は寂しがるだろう。
20歳で家を出る事もなく、結局それから5年も一緒に住んでビアンカも含めて楽しくやって来た。
エトガーと結婚をしたとしても同じ王都内に住む事は変わらないし、仕事だって薬草商会だったのだから実家の工房と行き来はかなりの頻度。寂しがることはなかっただろう。
しかしブルグ王国となればもう生きているうちには会えないかも知れない。
食卓だってポッカリ席が空いてしまうのだ。
しかし入れ替わるように新しい命が誕生すれば寂しいなんて言っている暇もないくらい全員が忙しくなる。
「じぃばぁ孝行な子なのね。ブルグ王国にも遊びに来てね」
ビアンカの腹を撫でると、ボコッ!!大きく返事をするように動いてくれた。
「元気でね。手紙を書くわ」
「うん。お母様も元気で。お父様も狩りはほどほどにね。お兄様もよ!」
家族とハグをして馬車に乗り込んだフライアはブルグ王国に出立していった。
★~★
フライアがビアンカと話をしていた頃、王太子は約束通りオレイト伯爵家とファネン子爵家の処分を決定し従者に書簡を持たせて走らせていた。
その従者からの書簡を受け取り、先に目を通したリヒテン子爵は黙ってヴォーダンに書簡を手渡した。
「オイレト伯爵家は準男爵家ですか。まぁ妥当でしょうね。取り潰しや処刑となるとこちらの軍部にも報告をせねばなりませんし」
取り調べには素直に応じたアメリアだが自供の中で「美丈夫を夫にしたかった」そして「フライアが嫌いだった」と言った。
「シャーデンフロイデなんだろうな。憐れな事だ」
他人の不幸で自分の幸せを感じるのがシャーデンフロイデ。
誰しも持っている感情。だからこそ「出来た!」と達成感を得た時に周囲はどうなんだろう?と自分がいち早く達成できたことにより強い喜びを感じたりもする。
悪い事ではなく、人間の感情を表現する上で大事な感情なのだが行き過ぎると「悪」でしかなくなる。
どんどんエスカレートして「自分が嫌いだ」と思うだけで周囲に捏造した悪評を広めたりもする。アメリアは家に資産もあったが、友人は低位貴族ばかり。優越感を感じる事が出来る仲間を集め、自分でより強い幸せを感じるためにエスカレートしていった。
自分の気持ちが最優先なので周囲がどう思うかなどは関係が無い。
準男爵家に格下げをされた事はアメリアには耐えがたい苦痛にもなるだろう。今まで蔑んできた者と爵位が同じ。その上私財も没収。そして…。
「ファネン子爵家は厳重注意ですか」
「金を借りていた所には返済をし、領地も陛下に返納したそうです。領地のない子爵ですから厳しい生活になるでしょうけどもね」
「助けてあげればどうです?親友だったのでしょう?」
「そうですね…そんな機会があれば」
幼い頃からの大親友だったリヒテン子爵とファネン子爵。リヒテン子爵は「機会があれば」と言うにとどめた。
そこにはリヒテン子爵は娘のフライアが幸せになるけれど、ファネン子爵はエトガーの籍を抜き、エトガーは戦線の配給班に送られた。最前線の兵士に食料や医療品を届ける兵士で届ける荷物を背負うため武器は何一つ持っていない。武器が持てるならその分のパンを背負うからである。
敵兵はその配給を運ぶ兵士を狙って撃ってくる。物資が供給されなければ最前線の兵士も飢えと渇きには勝てないからである。生きるためには丸腰で荷を背負い走るしかない。死刑囚でも「やりたくない」と泣いて懇願する仕事である。
そしてエトガーとアメリアは書面上の結婚をした。
年に一度、会いたければアメリアが戦線に出向けば会わせてもらえる。行くかどうかはアメリア次第だし、その時にエトガーが生きて陣地に戻って来るかは神のみぞ知る。
★~★
フライアを乗せた馬車を結界で包み、その周囲を騎乗して護衛するヴォーダン。
「過保護すぎませんか?」とアルドフ
「そうかなぁ…あ、そろそろ昼寝から起きる。涼しい風を送らないとな!」とヴォーダン。
ちなみに馬車は全く揺れない。何故かと言えば車輪が僅かに大地から浮いているので馬も馬車を引いているとも思っていないかも知れない。だからこそフライアは馬車の中で本を読んだり、約束した刺繍入りのハンカチを製作する事も出来るし、かなり狭いだけで快適に過ごせるのだ。
「少将、魔法の使い方が違うんじゃないですか?」
「馬鹿者。魔法ってのはな、妻の為に使う!そういうものだ」
「そうなのかなぁ」
そんなヴォーダンは少しだけエトガーに感謝をしていた。
本来ならエトガーもアメリアも嘘だとは言えヴォーダンの名を出しているのでブルグ王国に連れて行き銃殺が妥当だったのである。
しかしエトガーが不貞をしてくれなければフライアを妻にする事は出来なかった。
その点だけヴォーダンはエトガーを評価し、感謝をしていたのである。
ただ、配給班がいいのでは?と進言したのはフライアの名前を呼んだから。
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