交際7年の恋人に別れを告げられた当日、拗らせた年下の美丈夫と0日婚となりました

cyaru

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第27話   目覚めの1発目がキツイ

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フライアには慈悲の心が芽生えた訳でもなく、持ち合わせていた訳でもない。

ただ、こんな場で醜態を晒し、全てを失ってしまったアメリアとエトガーは見ているだけで憐れだった。

ちょっとした嘘を吐いて自分たちを正当化しようとして盛大に失敗してしまった。それだけなのだ。どんな理由で結婚が無くなったのかは判らないが、ならあの幸せの絶頂期に戻してあげればいいのではないか。

そしてその中の1つだけでも事実にすればいいんじゃないか。と。

そう考えたのだ。
誰だって「あの時は良かった」「あの時に帰りたい」と思う事がある。
きっと今ならこの2人が戻ったところで誰も困らない。

「ねぇディーン。この2人、結婚するといいと思うの」
「え?」とヴォーダン
「はぁっ?!」っとエトガー。
アメリアはまだ気を飛ばしている。

「さっきから聞いてて思ったの。エトガー。貴方…彼女とちゃんと話をした方が良いわ。お互いが騙されていたと思っているなんて不幸よ。その原因がお互いに同じところにあるみたいだし、解りあえると思うのよ」

「無理だ!俺にはフライアしかいないんだよ!あんな嘘つきな女なんか!」

「貴方だって嘘つきじゃない。だから私についた嘘の1つでも本当にすれば?一番簡単なのは元の話通り婿入りする事じゃない?そうすればそのうち子供もできるでしょうから私の出産祝いも無駄にならないでしょう?」

「そんな…嫌だよ」

「私だって嫌だったわよ。伯爵家に婿入りするんだから言動を改めろとか!貸した金を祝い金でチャラにしろとか!求婚だと思ってお洒落して行ってみれば結婚報告?こうなってみたら縋りつくとか。貴方って本当に最低」

苦笑いの王太子は肘で王太子妃に小突かれて前に出た。

「取り敢えずはこの2人と…オレイト伯爵は別の部屋で事情を聴く事にするよ。悪いようにはしない。出立までには処分を連絡するから」

折角の場なのに水を差された事に少しがっかりしたが、仕切り直し…で会場の中央に行こうとすると動かない男がいた。


「ディーン?どうしたの?」
「さっき、アイツがナディの名前を呼んだ」
「仕方ないでしょう?」
「良くない。ナディの名を呼んでいいのは僕だけと決まってるんだ」
「もう!いじけないの!名前なんかお父様だってお兄様だって呼んでるじゃない」
「でもアイツは許せない。僕に断りもなくっ!」

ズモモモ…ヴォーダンの足元から黒いオーラが漂っているようにも見える。
冷気も含んでいるようで、ぶるっとフライアが身震いをすると嗅覚だけでなく視覚も冴えているようだ。

「さ、寒かった?!ごめん。直ぐに温めてあげるからさ」
「大丈夫よ。ディーンとダンスでも踊れば温かくなるわ」
「いや、もう踊らなくていい。誰にもナディを見せてやらない」
「ほらぁ。またそうやって拗ねる」

その後は大変だった。完全に周囲を敵モードで見始めたヴォーダンはフライアに話しかけて良いのは女性に限定し、威嚇しまくったのだ。

しかし、禍を転じて福と為すなのか。

「わぁ!凄い!これが結界?!」
「そうらしいですわ。触れると危険なので気を付けてくださいませ」

夫人や令嬢は目には見えないけれど、生けられている花をポンと投げれば跳ね返ってくる結界に大喜び。魔法がもうすっかり過去のものになってしまい本で読むだけ、生きているうちにお目にかかる事はないと思ったものがそこにある。

「ね?ディーン。結界に当たったら凍らせることって出来るの?」
「出来るけど…」
「じゃ、ご褒美に刺繍入りのハンカチあげる。やってみて」
「刺繍入り?!ホントに?」

夫人たちに頼まれても「無理です」と断るのにフライアがご褒美をチラつかせて頼めばやってくれる。

結界に触れることで凍り付いた花を「私も!私も!」と皆が欲しがりフライアがニコニコする事でヴォーダンはやっと帰りの馬車に乗る直前で敵モードを解除した。


★~★

翌日は予定通りに友人達が茶会にやって来る。
ヴォーダンは男性がいないかだけを確かめて大人しくしてくれたので無事に別れの挨拶を終えた。

翌々日も王太子妃への挨拶もしなくて良くなったため、祖父母の墓参もゆっくり終えて帰りに2人で散策をした事で更にヴォーダンはご機嫌モードになる。

最終日もビアンカは産気づく事もなく、家族団らんで1日を過ごした。


実家の寝台で眠るのも最後の1夜となった時。

「本当に良かったのかな…寂しい?」
「寂しくないと言えば噓になるけど、どっちかと言えば楽しいかな」
「楽しい?」

寝台のへりに腰掛けるヴォーダンは勿論全裸。
もう部屋にあるのは寝台だけ。明日、フライアが出立をすればこの寝台は納屋に運び込まれて部屋は生まれてくる子供のために改装が始まる。

見渡してみると何も無くなっているので部屋がとても広く感じた。

寒かった訳ではないが、もう慣れてしまうとそこが定位置になってしまう。
すたたと歩いて寝台のへりに腰掛けるヴォーダンの足の間に腰を下ろす。

「ナディ。大好きだ」
「はいはい。私もディーン好きですよ?」

肩に顎を乗せて来て耳元で好きと囁いてくれる全裸の変態などヴォーダンくらいだ。

「でね?お願いがあるの」
「どんなお願い?」
「朝、起きた時に全力でやってるストレッチは…やめてほしいんだけど」


ヴォーダンは毎朝ストレッチをする。それは良いのだが全裸で全力のストレッチ。
目覚めて一番先に視界に入るのは、股覗きをするヴォーダンの瞳。

瞳だけなら良いのだが、目が合うと言う事は最も危険な部分も全開なので朝から心が全壊しそうだったのだ。
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