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第26話 エトガーの世迷言
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「さて、伯爵家の入れ替わりもある。同じ事を何度か聞けば人間の脳は学習するんだ。1つの真実しか知らないのに、その1つにつき誰かが言った言葉を加えて2つ目の真実を作り上げる。5つ目、6つ目まで行けばもう何が真実なのかも判らない。判っている事は噂を流布する己の真実であり、世の事実ではないという事だ」
場違いにもこの時、フライアは「もしかするとヴォーダンって意外に出来る子?」と考えていた。屋敷の中の裸族である時とあまりにもギャップがあり、考えることが両極に振れてしまった可能性はある。
「さて、もう一度問う。私とリヒテン子爵令嬢が随分と昔から不貞を疑われる間柄だったとこのファネン子爵家のエトガーが言い、貴様はそれを信じ周囲に伝聞をした。間違いがあれば教えてくれ。くれぐれも王太子だからと殿下の言葉に証言を二転三転させぬようにな?」
「あ、あの…えぇーっと…そう!そうなんです。エトガーから聞いたんです。でも噂を広めたのはわたくしではなく…わたくしは数人にしか話していません!」
「単に信じてしまった話を裏取りもせずに他者に伝聞した。それが他家にどのような影響を与えるかも判らず。そして軽々しく他国の人間である私も引き合いに出した。そう言う事か?だが変だな。不貞行為をしていたと糾弾をしていた割にはここに入場した時、我が妻よりも自分が相応しい、そう言っていた気もするが?この国は善悪の判断もせずに妻帯者にもそうやって声を掛けるのか?知らないのであれば許される。ならば国のあり方を根本から問いたいものだ」
アメリアは発した言葉の全てに墓穴を掘ってしまった事を悟った。
元々流した噂が嘘でしかない。真実でもなく事実でもない嘘しかないのだから嘘を正当化するために新しく嘘を加える。
これが貴族の子息相手であればまだ通用したかも知れないが、相手が悪すぎた。
知らずに口走ったのなら国王が謝罪をする前代未聞の大事件になってしまうし、知っていたのなら他国の機密に振れてしまったと認めることになる。
これもまた人伝にしか聞いた事はなかったが、ブルグ王国の軍機密を漏らしたものはもれなく銃殺。その亡骸は朽ちるまで捨て置かれると聞いた。
出来ることは狂ったように泣き叫んで謝罪の言葉を繰り返すだけだった。
「しかし、なんだ。殿下。この場は私達を祝ってくれる場だろう?恩赦と言う事でこの2人には特別の計らいをしてやってはくれないだろうか」
「しかしだな…恩赦と言っても…」
「かつて貴国では迷言を残した御仁がいる。婚約や結婚で格上となった時、格下の親も言動を改めるのだそうだ。それに習い、この2人には言動以外にその辺はしっかりと考えてから発言なり行動をして頂く必要があると考える」
ヴォーダンの言葉にアメリアとエトガーは、あの日アメリアがフライアに言った言葉を思い出した。フライアもハッとしてヴォーダンを見た。
「バラバラにしていては管理も難しい。北の国境線では昼夜問わず監視する人間が必要でな。募集をかけているんだがいつ、どこから銃弾、そして先ごろ開発された手榴弾が飛んでくるか判らず万年人不足。我が国も他国の為に命は差し出せないと兵士が言うんだ」
最近まで赴いていた国境線。長さは200kmにもなるためヴォーダンが敵を捕縛したのはそのごく一部の地域。ブルグ王国に関係する地域なので行く事が出来たが距離にして15kmほど。
残りはメゼラ王国が監視をせねばならない地である。
「そこでどうだろう。この2人を常駐の管理人として置いておけばメゼラ王国にとってもいち早く危険を察知できると思うのだが?」
少し安堵の表情を浮かべたアメリアだったが、続く王太子の言葉に気を保つのが精一杯になった。
「では早速常駐する小屋を直さねば屋根も壁もない。敵の的になるだけじゃないか」
バタっとその場に突っ伏すように倒れたアメリアだったが、エトガーは違った。
話の間も踏みつけられていた手からヴォーダンの足を払うと体を更にフライアに這って寄せた。
「フライア…俺は騙されてたんだ。聞いただろう?全部アメリアに騙されて…助けてくれよ」
手を差し出すが今度は「キン!!」金属音とも違う音がしてエトガーの手は跳ねつけられた。
目の前にいるフライアとの間に目に見えない結界が張られていた。
「子供が出来たと言われて!!責任取らなきゃいけないって思ったんだ」
「え?子供出来てなかったの?」
「そうなんだよ!だからやり直そう?あんなことになったら突然結婚なんて決めただけだろう?俺への当てつけだったんだろう?判ってる。俺も悪かったんだ。だから許すよ。お詫びと言っては何だが…俺も連れて行ってくれないか?」
――ちょっと何言ってるか判らないわね――
「頼むよ!仕事もないし、アメリアだって俺を利用してただけだ。俺を助けてくれよ」
結界に触れる度に手は弾かれ、体ごと突っ込もうとしても体も弾かれてしまう。
それでもエトガーはフライアにまで捨てられてしまえば行く当てもない。
ファネン子爵家だってアメリアの発言でどうなるか判らない。
周囲で貴族や王太子夫妻がエトガーを冷めた目で見ている事も関係が無かった。
もうこの世界の何処にもエトガーに楽に生活をさせてくれるであろう人間はフライアしか思いつかなかった。
「結界にイカヅチを流していいかな。焦げ臭いけど一瞬で終わるよ」
「え?本気で言ってる?」
「勿論」
にっこりと微笑んでヴォーダンがフライアに許可を求めてきた。
場違いにもこの時、フライアは「もしかするとヴォーダンって意外に出来る子?」と考えていた。屋敷の中の裸族である時とあまりにもギャップがあり、考えることが両極に振れてしまった可能性はある。
「さて、もう一度問う。私とリヒテン子爵令嬢が随分と昔から不貞を疑われる間柄だったとこのファネン子爵家のエトガーが言い、貴様はそれを信じ周囲に伝聞をした。間違いがあれば教えてくれ。くれぐれも王太子だからと殿下の言葉に証言を二転三転させぬようにな?」
「あ、あの…えぇーっと…そう!そうなんです。エトガーから聞いたんです。でも噂を広めたのはわたくしではなく…わたくしは数人にしか話していません!」
「単に信じてしまった話を裏取りもせずに他者に伝聞した。それが他家にどのような影響を与えるかも判らず。そして軽々しく他国の人間である私も引き合いに出した。そう言う事か?だが変だな。不貞行為をしていたと糾弾をしていた割にはここに入場した時、我が妻よりも自分が相応しい、そう言っていた気もするが?この国は善悪の判断もせずに妻帯者にもそうやって声を掛けるのか?知らないのであれば許される。ならば国のあり方を根本から問いたいものだ」
アメリアは発した言葉の全てに墓穴を掘ってしまった事を悟った。
元々流した噂が嘘でしかない。真実でもなく事実でもない嘘しかないのだから嘘を正当化するために新しく嘘を加える。
これが貴族の子息相手であればまだ通用したかも知れないが、相手が悪すぎた。
知らずに口走ったのなら国王が謝罪をする前代未聞の大事件になってしまうし、知っていたのなら他国の機密に振れてしまったと認めることになる。
これもまた人伝にしか聞いた事はなかったが、ブルグ王国の軍機密を漏らしたものはもれなく銃殺。その亡骸は朽ちるまで捨て置かれると聞いた。
出来ることは狂ったように泣き叫んで謝罪の言葉を繰り返すだけだった。
「しかし、なんだ。殿下。この場は私達を祝ってくれる場だろう?恩赦と言う事でこの2人には特別の計らいをしてやってはくれないだろうか」
「しかしだな…恩赦と言っても…」
「かつて貴国では迷言を残した御仁がいる。婚約や結婚で格上となった時、格下の親も言動を改めるのだそうだ。それに習い、この2人には言動以外にその辺はしっかりと考えてから発言なり行動をして頂く必要があると考える」
ヴォーダンの言葉にアメリアとエトガーは、あの日アメリアがフライアに言った言葉を思い出した。フライアもハッとしてヴォーダンを見た。
「バラバラにしていては管理も難しい。北の国境線では昼夜問わず監視する人間が必要でな。募集をかけているんだがいつ、どこから銃弾、そして先ごろ開発された手榴弾が飛んでくるか判らず万年人不足。我が国も他国の為に命は差し出せないと兵士が言うんだ」
最近まで赴いていた国境線。長さは200kmにもなるためヴォーダンが敵を捕縛したのはそのごく一部の地域。ブルグ王国に関係する地域なので行く事が出来たが距離にして15kmほど。
残りはメゼラ王国が監視をせねばならない地である。
「そこでどうだろう。この2人を常駐の管理人として置いておけばメゼラ王国にとってもいち早く危険を察知できると思うのだが?」
少し安堵の表情を浮かべたアメリアだったが、続く王太子の言葉に気を保つのが精一杯になった。
「では早速常駐する小屋を直さねば屋根も壁もない。敵の的になるだけじゃないか」
バタっとその場に突っ伏すように倒れたアメリアだったが、エトガーは違った。
話の間も踏みつけられていた手からヴォーダンの足を払うと体を更にフライアに這って寄せた。
「フライア…俺は騙されてたんだ。聞いただろう?全部アメリアに騙されて…助けてくれよ」
手を差し出すが今度は「キン!!」金属音とも違う音がしてエトガーの手は跳ねつけられた。
目の前にいるフライアとの間に目に見えない結界が張られていた。
「子供が出来たと言われて!!責任取らなきゃいけないって思ったんだ」
「え?子供出来てなかったの?」
「そうなんだよ!だからやり直そう?あんなことになったら突然結婚なんて決めただけだろう?俺への当てつけだったんだろう?判ってる。俺も悪かったんだ。だから許すよ。お詫びと言っては何だが…俺も連れて行ってくれないか?」
――ちょっと何言ってるか判らないわね――
「頼むよ!仕事もないし、アメリアだって俺を利用してただけだ。俺を助けてくれよ」
結界に触れる度に手は弾かれ、体ごと突っ込もうとしても体も弾かれてしまう。
それでもエトガーはフライアにまで捨てられてしまえば行く当てもない。
ファネン子爵家だってアメリアの発言でどうなるか判らない。
周囲で貴族や王太子夫妻がエトガーを冷めた目で見ている事も関係が無かった。
もうこの世界の何処にもエトガーに楽に生活をさせてくれるであろう人間はフライアしか思いつかなかった。
「結界にイカヅチを流していいかな。焦げ臭いけど一瞬で終わるよ」
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「勿論」
にっこりと微笑んでヴォーダンがフライアに許可を求めてきた。
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