交際7年の恋人に別れを告げられた当日、拗らせた年下の美丈夫と0日婚となりました

cyaru

文字の大きさ
上 下
26 / 30

第25話   妻の不名誉を払拭するのも夫の務め

しおりを挟む
「私が騙されていると?その根拠は?」

場を楽しんでいるとしか思えない。フライアがヴォーダンのお尻をキュっと抓るとアメリアに向けている顔は険しいのに、サっと向きを変えてフライアを見る顔は脂下がっている。

そして耳元で囁く。

「悪い噂、吹き飛ばしたらご褒美くれる?」
「ご褒美っ?!」
「うん。その胸元にあるハンカチが食べたいんだ」
「食べっ?!え?ハンカチを?!」
「戦線に送ってくれたハンカチ…もう食べちゃったんだ」

待て。落ち着いて考えよう。フライアの脳内が大混戦を起こしている。
そもそもでハンカチは食べる物なのか?
戦線に送ったハンカチ?送った覚えもないのに?

「考えておいて。でもね?ナディ。妻の不名誉を払拭するのも夫の務めなんだよ」
「え?知ってたの?」
「この世に僕が知らない事があるとすればナディの心のだけってことさ」

ツン!と指先で胸を突かれると「そうなのかな?」と思ってしまうが違う!違う!よく判らない自信満々なところはヴォーダンの専売特許だった!と思い返した時にはもうアメリアへの尋問が始まっていた。

「貴様、その男とはどこの誰だ」
「ファ…ファネン子爵家のエトガーです!その女は自身が閣下を騙し不貞行為をしているくせに、わたくしとエトガーが恋仲だと嫌がらせを続けたのです」
「1万歩譲ったとしてその話を誰から聞いた」
「誰って…皆言ってます!」
「皆が言うから正しいと?なんと愚かな。ではこの場にいる者に問う。先程この女が言った言葉。存じている者はおられるか!」

ザワっとどよめいたが、数人の夫人や当主が恐る恐る手を挙げた。

「噂がある事は知っている。では誰から聞いたのか。辿って行けば根源も明らかになろう。言えないのであればその程度の事。この場で私が愚弄されたという事実だけが残る。緑色のドレスのご夫人、誰から聞いたのか教えてはくれないか」

「わ、わたくしは…その…」

チラリと手を挙げなかった夫人を横目で見る。おそらくは正直に手を挙げたものの誰から聞いたかとなれば爵位が上の夫人。その夫人は手を挙げていないので名を出す事が出来ないのだ。

「誰から聞いたかも言えない話を広めるのも余興としては楽しいかも知れないが、私に関係する事を1つ正そう。嫌がらせを続ける傍らで我を騙していたと?」

「そうです!間違いありません!」

「だ、そうだ。王太子殿下。その点は証明して頂けるか?」

「え?王太子殿下?…何故王太子殿下が?」

やれやれと、王太子は取り囲む貴族を掻き分けて前に出てきた。その隣では王太子妃がアメリアを温度のない目で睨みつける。

「国と王太子の名に於いて証明をする。エスティバス少将がこの国に足を踏み入れたのはごく最近だ。正確にはリヒテン子爵令嬢と結婚をした暁の月、11日だ。それよりも前は入国の記録はない。私の発言に真偽を問いたいのであればブルグ王国陸軍本部に問い合わせることになる。が、それよりも…オレイト伯爵令嬢。君の発言が事実なのであれば国家も知らない事実を隠蔽した事になる。他国の軍関係者が秘密裏に入国をしていた事を何故報告しなかった」

「殿下、それもだが…そうだとすればわがブルグ王国陸軍の動きはオレイト伯爵家には完全掌握されていた事にもなる。大失態だ。それも知らずにメゼラ王国に利用された事にもなる。直ぐにでも帰国し軍法会議を開く。その際の証人として娘だけが知っていたとは思えない。当主であるオレイト伯爵並びにオレイト伯爵令嬢の召喚を求める。よろしいか」

アメリアは顔色が真っ青から真っ白になった。
嘘である事はアメリア自身が一番わかっているが、ここまで話が大事おおごとになるとは思わなかった。

軍法会議などそのワードだけで恐怖でしかない。
王太子の部下に襟元を掴まれて引き連れられてきた父親のオレイト伯爵が隣に転がり、小さく悲鳴を上げたアメリアは声を絞り出した。

「申し訳ございません!!全て!全て!わたくしも聞いた事なのです!信じ込まされていただけなのです!ファネン子爵家のエトガーから事あるごとに相談をされ、そう思い込んでしまいました!わたくしが実際に確認をした訳では御座いません!全て受け売りなのですっ!」

アメリアの返しに王太子は激怒した。

「今更それを知らぬ、聞いた事だと逃げられると思っているのか!お前は誰に物を言っている!これは我が国、メゼラ王国にとってどれだけの損害になるか!考える頭もないのか!」

フッと小さく笑ったヴォーダンは「なら証言の裏は取るべきだ」と言い、フライアに回してない方の腕を振り上げた。

「うわぁぁ!」
「きゃぁ!人が浮いたわ!」
「何が起きたの」

少し離れたところで悲鳴があがり上を見て見れば会場に集まる者達の遥か頭の上。高い天井に近い位置に1人の従者が浮いていた。

手足をバタ付かせているが、アメリアの隣にいるオレイト伯爵の上に落ちてきたのはエトガーだった。

「悪いね。僕の嗅覚は性能が良くてね。王宮に入って来る前からプンプンと残飯が腐った香りがしていたよ」

アメリアはこの場を乗り切るにはこれしかない!エトガーの髪を掴んだ。

「この男です!この男が私に吹聴していたんです!」

エトガーはアメリアの手を振り払い、這うようにしてフライアのドレスの裾を掴もうとしたが、ダンっ!大きく不気味な音がしてエトガーが手を踏まれ、大きな悲鳴を上げた。

「うがぁぁ!」
「ゴミが女神に触れようとするな…天誅が下るぞ。落とすのは僕だけどね?」

――もう下ってるんじゃ?――
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...