交際7年の恋人に別れを告げられた当日、拗らせた年下の美丈夫と0日婚となりました

cyaru

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第24話   アメリア来襲

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今日の夜会にアメリアの婚約者としてどうだろうと話を持ち込んだ伯爵家は当主も子息も参加をしていない。何度か誘ったのだが断られたのだ。

その伯爵家との話はなかなか纏まらない。当初はかなりの額の融資をちらつかせたので相手方も乗り気だったが翌月、その翌月とほぼ垂直に落ちていく売り上げと噂の原因がアメリアだという事に相手が態度を変えた事もある。

どうせ融資の金が減額になったからだろう。
そう考えたオレイト伯爵はどうせならアメリアが文句を言ったところで事業の話を纏めるついでにアメリアの嫁ぎ先も見繕いたい所。

綺麗に着飾ったアメリアならまぁ誰かが見初めるかと「大人しくしてほしい」と思いながら相反する事も考えた。


が、到着をしてその考えは吹き飛んだ。
ドレスコードも緩い夜会は低位貴族のよく参加する夜会とさほど変わらない。

今日の場は緩いドレスコードだが、敢えてその旨を記載したという事は「華美な装いは禁止」という逆の通達の意味もある。

だからこそオレイト伯爵は妻と娘から距離を置いた。
会場に到着した時に、周囲をみて「場違いだ!」と悟ったからである。


アメリアと距離を置いていたのが良くなかったかも知れない。
入場し、10分も経たないうちにオレイト伯爵はこの場から逃げ出したい心境になっていた。


伯爵家は時間ごとに交代となるが、前半の参加が許可された者が全員会場入りをした。
音楽が奏でられ始めて、先ずは国王夫妻、そして王太子夫妻、続いて未婚の王子や王女とその婚約者が壇上に登場した。

挨拶を終え、今日の本当の主役である2人が入場する。
但し王族ではないし、ヴォーダンはあくまでも私的な立場で入国をしているので貴族達と同じ場への入場となった。当然呼び出しの声もない。

しかし、扉が開いた時に何人かの令嬢や夫人がバタバタと倒れた。

男でも見惚れてしまうほどの美丈夫が登場したのだから、注目を浴びるのも仕方がない。

「チッ!どいつもこいつも…ナディを見るんじゃねぇッ!」

――間違いなく私は添え物。皆が見てるのはディーンよ――

フライアの心の声は間違っていない。
正装ではないし、正装の衣類は持って来ていないので「まぁまぁ畏まった場」に着ていく無難な軍服。飾緒や襟元、肩口の階級章は無くてもヴォーダンはいるだけで目立ってしまう。

――隣、歩くのなんかヤダな――

そう思ってしまうのは許して欲しいところ。

会場に入ると騎士団に所属をしている当主たちがヴォーダンとフライアを取り囲み名前を憶えてもらおうと自己紹介を始めた時だった。

「ギヤァァーッ!」

けたたましい叫び声と共に、腕があらぬ方向をむいたアメリアが床で転げまわり出したのだ。

あっという間に人が引いてアメリアの周囲にはスペースが出来た。

「あ、あの人…」フライアはアメリアをみて呟いた。
「知り合い?」ヴォーダンが耳元で囁く。

ゾワワ…不意のイケボイスはやめれ。
クワっとヴォーダンを見ると瞳の色が違う。会場内のランプによるものかと思ったがそうではなかった。

「何したの?」
「ん?ナディを扇で叩こうとしたから、そんな手は要らないと思って捩じ切ろうと思った」

ヴォーダンの言葉にアメリアを見て見ると確かに腕が先ずは肩だろうか。2回ほど捩じれた後に肘も手首も捩じれている。あらぬ方向を向いていると思ったのは交互に時計回りと反時計回りになっているからだった。

「痛いみたい。やめてあげて」
「ナディ。優しいのは僕だけにして」
「そう言う事じゃなくて!」
「じゃぁ、今夜は湯船で僕を弄んでくれる?」
「は?どっどうして?」
「だってナディに身も心も翻弄されたいんだ。ダメ?」

なんでこんな条件を飲まねばならないのか判らないが、例え破落戸でも目の前で痛みに悶絶する人を見るのは忍びない。「判ったわ」と返事をするとアメリアの動きが止まった。

さっきまでの痛がりようは何だったのか。むくりと体を起こすと何故かアメリアはフライアを睨みつけて手にしていた扇を放り投げてきた。

が、その扇は手から離されたすぐそばで宙に浮いたまま停止した。

「おぉぉ!」

取り囲んだ貴族達から感嘆の声がハモって漏れる。
アメリアは宙に浮いた扇を掴もうとしたが、今度は「バチッ!」と音と同時に触れた部分に青い光が飛び散った。

「触れることは出来ないよ。君が僕の愛しいナディに仇なそうとした確たる証拠だ」

「これが魔法!素晴らしい!」

周囲の声にアメリアは狼狽え始めた。
キョロキョロと周囲を見渡すが、助けてくれる者は誰もいない。

覚悟を決めたのか。アメリアはヴォーダンに蕩けた目を向け、なんなら涙さえも浮かべて言った。

「その女は閣下には相応しく御座いません!結婚の約束をした男性がいるのです!なのに閣下を翻弄し!わたくしは許せなかったのです!よく見てください!行動だけでなくその見た目!麗しい閣下に相応しいと誰が思うでしょう」

「まるで自分ならとでも言いだけだな。不快だ」

「閣下は騙されているのです!わたくしはその女に騙された男性も知っているのです」

――何を言ってるの?――

アメリアにとっては後がないのかも知れないがここで巻き込むのは止めて欲しいし、ヴォーダンは無関係。その上どうしてこんな無礼を働いているのに衛兵が来ないのだろう。

そう思ってフライアが周囲を見渡して理由が判った。
衛兵はいるのだ。しかし、何故か足止めをされている。前に行こうにも体が動かないようなのだ。

――何やってんの!――

キっとヴォーダンを睨むとまた微笑まれてしまった。
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