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第21話 指先に全宇宙を見た
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予定よりも3日早く到着をしたヴォーダン。
帰途はアルドフも一緒で遅れて到着する部下も4日体を休めて一緒に出立をする計画だ。
ヴォーダンが到着をしてから出立は4日後だったのだが、1週間後になった。
そうしないと予定よりも早く宿場町に到着をすると、軍馬の替えは必要が無いがフライアの乗る馬車を引く馬の交換が出来なくなる。
3日多く滞在となる事をしった王太子夫妻から夜会への招待状もヴォーダンがメゼラ王国に向かったとの知らせと共に届いていた。王太子も「爆速でやって来る」と見越して1日はお誘いしてもいいかな?と思ったのだろう。
王太子妃には挨拶に行く予定だったので夜会の時に挨拶が出来れば墓参に行く時間もゆっくりと取ることができる。
「面倒だけど仕方ないか…無理も言ったしなぁ。借りを作ったままってのも嫌だしな」
フライアとだけ過ごすために急いで帰ってきたヴォーダンは渋々夜会への参加を受けた。
借りとは結婚許可証の発行は専用の書式があるのに直筆で全て書かせた事と、申請から許可まで通常は3、4週間かかる所をショートカットして2時間程で正式発行とさせた事である。
「いろいろと…ディーンって他国の人なのに凄いのね」
「そうだなぁ。ま、今後もよろしくって意味合いもあるんじゃないかな。魔法って何かと便利らしいし」
ヴォーダンにとって魔法は他者で言う字が読み書きできる、食べ物の好き嫌いがあるという認識と同じ。人によって得手不得手もあるそんな分類らしい。
「またそんな!魔法が使えるって凄い事なのよ?」
「凄くないよ。僕にとってはナディの夫になれる事が凄い事なんだよ」
「それ…地を這うような欲望の達成感よ」
「謙遜するナディも可愛いな。でもナディの夫になれるのは世にいる男の中でたった1人なんだよ?はい。あーんして」
口を開けるとテーブルに置かれた果物籠の中からブドウを1つ。
ヴォーダンは丁寧に皮を剥いてトゥルンとフライアに食べさせる。
「自分で食べられるわ」
「夫だけが出来る特権なんだ。それに直接ブドウを抓むと指先が紫色になっちゃうよ」
「そんなの洗えばいいじゃない」
「洗う?!ナディの指は洗うものじゃない!吸うものだ!」
――私の指はいつから吸うものになったの――
ただ、問題はやはり格好である。
全裸のヴォーダン。その膝の上に座らされて逃げられない‥いや落ちないように囲うようにした両腕。指先は懸命にブドウの皮を剥いて、その度に「あーん」と号令がかかる。
「ねぇ。これ、ブドウじゃなく林檎だとどうなるの?」
「潰すよ。嚙まなくて済むように目の前で100%果汁のジュースにする」
――それ、なんとなく嫌なんだけど――
潔癖症ではないが、素手で握り潰された果汁100%ジュースには抵抗を感じてしまう。鮮度が抜群で混ぜ物がないのは確実なのだが、ちょっと嫌だ。
「僕が咀嚼していいなら口移――」
「いらぬッ!!」
そこまでするほど貧弱な顎ではない。確かにワインのコルクを歯で抜くのは厳しいけれど、リンゴや金柑、野菜ならイチゴやトマトはそのままかぶりと食べてモシュモシュと咀嚼する事で美味しさも倍増。
その楽しみを奪われるのは我慢できない。
5つ目のブドウを口に放り込まれた時、少しだけヴォーダンの指も吸ってしまった。
「ふぉッ!さっき指先に全宇宙を見た気がするッ!」
――どこに目が点いてるのよ――
いや、ヴォーダンなら何処に目がついていても不思議じゃない。なんなら視野は630度くらい。ぐるっと回ってあと90度で2周分見られるんじゃないかって感じる事がある。2周もする必要があるかは別問題。
「ドレスは用意出来ないけどあるかな?」
「お義姉様のドレスを借りるわ。宝飾品も借りるから絶対に買わないで」
もう荷造りは終わっているし、ここでドレスを買っても持っていくことは出来ず、以後着る人がいないままでクローゼットに吊るされるだけになる。まさに無駄な買い物だ。
「判ったよ。ブルグ王国に到着したらナディ用に屋敷も買わないといけないな」
「別居?」
「・・・・・」
おや?ヴォーダンが黙ってしまった。
「え?だってもう1つ屋敷を私用にと言うなら別居でしょう?」
「違うよ。ナディのクローゼットに買うんだよ」
「何処の世界にクローゼット用の家を買う人がいるの!!」
「ここ…」
「黙れっ!そんなものは要りません!だいたいね!服も碌に着ない人に服用の家?!どの口がそんな事を言ってるの!」
――世の令嬢の思考が「菓子・服飾・縦ロール」で出来てる思うなよ!?――
フライアはベタベタしてくるヴォーダンの不思議な部分に気が付いた。
ボディタッチやキスは兎に角多いのだけれど、一線を越えようとはしない。
お昼寝もだが、到着した翌朝、またがっちりホールドな全裸のヴォーダンに抱きしめられて目が覚めたが一緒に寝ていても絶対に一線は超えて来ないのだ。
――そこまでの魅力はないって事かしら?――
――国に帰るまでは我慢って事なのかな?――
そう思ったが違った。
「だって、僕の子ってだけで過度な期待を皆が勝手にしちゃうだろ?それに、その子はナディの子でもあるのにさ」
簡単に、そして笑顔で答えるヴォーダンだったが、その言葉はフライアの心に今までになくズーンと響いた。
魔法は便利なのだ。その力をより高めて保持しようとして大陸のどの国も魔法使いを絶滅に追いやった。フライアを本当に大事にしているからこそ簡単に子供を作ろう、子供が出来る行為をしようとはヴォーダンは思ってなかったのだった。
帰途はアルドフも一緒で遅れて到着する部下も4日体を休めて一緒に出立をする計画だ。
ヴォーダンが到着をしてから出立は4日後だったのだが、1週間後になった。
そうしないと予定よりも早く宿場町に到着をすると、軍馬の替えは必要が無いがフライアの乗る馬車を引く馬の交換が出来なくなる。
3日多く滞在となる事をしった王太子夫妻から夜会への招待状もヴォーダンがメゼラ王国に向かったとの知らせと共に届いていた。王太子も「爆速でやって来る」と見越して1日はお誘いしてもいいかな?と思ったのだろう。
王太子妃には挨拶に行く予定だったので夜会の時に挨拶が出来れば墓参に行く時間もゆっくりと取ることができる。
「面倒だけど仕方ないか…無理も言ったしなぁ。借りを作ったままってのも嫌だしな」
フライアとだけ過ごすために急いで帰ってきたヴォーダンは渋々夜会への参加を受けた。
借りとは結婚許可証の発行は専用の書式があるのに直筆で全て書かせた事と、申請から許可まで通常は3、4週間かかる所をショートカットして2時間程で正式発行とさせた事である。
「いろいろと…ディーンって他国の人なのに凄いのね」
「そうだなぁ。ま、今後もよろしくって意味合いもあるんじゃないかな。魔法って何かと便利らしいし」
ヴォーダンにとって魔法は他者で言う字が読み書きできる、食べ物の好き嫌いがあるという認識と同じ。人によって得手不得手もあるそんな分類らしい。
「またそんな!魔法が使えるって凄い事なのよ?」
「凄くないよ。僕にとってはナディの夫になれる事が凄い事なんだよ」
「それ…地を這うような欲望の達成感よ」
「謙遜するナディも可愛いな。でもナディの夫になれるのは世にいる男の中でたった1人なんだよ?はい。あーんして」
口を開けるとテーブルに置かれた果物籠の中からブドウを1つ。
ヴォーダンは丁寧に皮を剥いてトゥルンとフライアに食べさせる。
「自分で食べられるわ」
「夫だけが出来る特権なんだ。それに直接ブドウを抓むと指先が紫色になっちゃうよ」
「そんなの洗えばいいじゃない」
「洗う?!ナディの指は洗うものじゃない!吸うものだ!」
――私の指はいつから吸うものになったの――
ただ、問題はやはり格好である。
全裸のヴォーダン。その膝の上に座らされて逃げられない‥いや落ちないように囲うようにした両腕。指先は懸命にブドウの皮を剥いて、その度に「あーん」と号令がかかる。
「ねぇ。これ、ブドウじゃなく林檎だとどうなるの?」
「潰すよ。嚙まなくて済むように目の前で100%果汁のジュースにする」
――それ、なんとなく嫌なんだけど――
潔癖症ではないが、素手で握り潰された果汁100%ジュースには抵抗を感じてしまう。鮮度が抜群で混ぜ物がないのは確実なのだが、ちょっと嫌だ。
「僕が咀嚼していいなら口移――」
「いらぬッ!!」
そこまでするほど貧弱な顎ではない。確かにワインのコルクを歯で抜くのは厳しいけれど、リンゴや金柑、野菜ならイチゴやトマトはそのままかぶりと食べてモシュモシュと咀嚼する事で美味しさも倍増。
その楽しみを奪われるのは我慢できない。
5つ目のブドウを口に放り込まれた時、少しだけヴォーダンの指も吸ってしまった。
「ふぉッ!さっき指先に全宇宙を見た気がするッ!」
――どこに目が点いてるのよ――
いや、ヴォーダンなら何処に目がついていても不思議じゃない。なんなら視野は630度くらい。ぐるっと回ってあと90度で2周分見られるんじゃないかって感じる事がある。2周もする必要があるかは別問題。
「ドレスは用意出来ないけどあるかな?」
「お義姉様のドレスを借りるわ。宝飾品も借りるから絶対に買わないで」
もう荷造りは終わっているし、ここでドレスを買っても持っていくことは出来ず、以後着る人がいないままでクローゼットに吊るされるだけになる。まさに無駄な買い物だ。
「判ったよ。ブルグ王国に到着したらナディ用に屋敷も買わないといけないな」
「別居?」
「・・・・・」
おや?ヴォーダンが黙ってしまった。
「え?だってもう1つ屋敷を私用にと言うなら別居でしょう?」
「違うよ。ナディのクローゼットに買うんだよ」
「何処の世界にクローゼット用の家を買う人がいるの!!」
「ここ…」
「黙れっ!そんなものは要りません!だいたいね!服も碌に着ない人に服用の家?!どの口がそんな事を言ってるの!」
――世の令嬢の思考が「菓子・服飾・縦ロール」で出来てる思うなよ!?――
フライアはベタベタしてくるヴォーダンの不思議な部分に気が付いた。
ボディタッチやキスは兎に角多いのだけれど、一線を越えようとはしない。
お昼寝もだが、到着した翌朝、またがっちりホールドな全裸のヴォーダンに抱きしめられて目が覚めたが一緒に寝ていても絶対に一線は超えて来ないのだ。
――そこまでの魅力はないって事かしら?――
――国に帰るまでは我慢って事なのかな?――
そう思ったが違った。
「だって、僕の子ってだけで過度な期待を皆が勝手にしちゃうだろ?それに、その子はナディの子でもあるのにさ」
簡単に、そして笑顔で答えるヴォーダンだったが、その言葉はフライアの心に今までになくズーンと響いた。
魔法は便利なのだ。その力をより高めて保持しようとして大陸のどの国も魔法使いを絶滅に追いやった。フライアを本当に大事にしているからこそ簡単に子供を作ろう、子供が出来る行為をしようとはヴォーダンは思ってなかったのだった。
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