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第02話 求婚じゃなかった
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店に到着をしても出迎えなど誰もいない。
こんな高級店は遠目で見たことはあっても店の広い敷地の中に入るのだって初めて。
刻々と待ち合わせ時間は近づいてくるのにエトガーの姿はない。
仕方なく給仕を捕まえて問うと、エトガーの名では予約をされていないようで少し待たされたが、個室に案内をされた。
「遅いじゃないか。場所も時間も伝えてあったのに」
そう言われてもこんな高級な店に小娘1人で堂々と入店できるはずもない。
が、個室にいたのはエトガーだけではなかった。
さぁさぁと誘われてエトガーとその連れの向かいに腰を下ろすと早速エトガーが頬を染めながら告げたのだ。
「結婚するんだ。結婚式は2年後になるんだけどさ。参列してくれよ」
――参列?どういう意味?――
エトガーの言葉の意味が解らない。
告げられた事実にフライアの頭の中は真っ白になった。
「結婚・・・?」
「あぁ、何時までも独り身でいるのもどうかと思ったが…運命の出会いっていうのかな。それに子供も出来たんだ。俺も父親になるんだと思うと、なんて言うか‥責任感?感じるよ。デキ婚じゃないぞ?授かり婚だ」
そう言ってエトガーは隣に腰を下ろすオイレト伯爵家のアメリアを抱き寄せて見つめ合う。
――大口の取引先ってだけじゃなかったの?――
子爵家の次男であるエトガーは婿入りとなるが、聞けば取引先としてオイレト伯爵家が商会と取引をしたのは2、3か月前だが、3年前から御用聞きとして足繁くエトガーは通っていて愛を育んだのだとか。
愛を育んだ結果はアメリアの腹の中に小さな芽を出した。
愕然とするフライアにアメリアが話しかけた。
「幼馴染の貴女の事はエトゥからよく聞いておりましたの。だから両親の次に知って頂くのは貴女がいいとわたくしがエトゥに頼んだのです」
含みのある言葉に、言葉を言い終えた後に少し上がった口角。
微笑んでいるのに笑っていない目。
明らかにフライアに対して「私のモノに手を出すな」という牽制、そしてトドメをさすためにこの場に呼んだのだ。
「で、では・・・おじさまもおばさまも結婚のことは御存じなの?」
声が震える。
心の何処かで間違いであってほしい。
嘘であってほしい。
「びっくりした?驚かせようと思って」と実はアメリアに見届け人になって貰って求婚してくれるのでは?そんな事を思ったが瞬時に否定をされた。
「父上も母上もとても喜んでくれたんだ。な?」
「えぇ。婿入りとなる事ももろ手を挙げて。お義兄様ご夫妻もとても喜んでくれましたの」
ファネン子爵家にも挨拶が終わり、もう両家が認めているのならフライアは何も言う事はない。いや、何も言えない。
――上手く笑えているかしら――
心は慟哭にも似た悲鳴を上げていてもここで泣きたくない。
「おめでとう。幼馴染としても嬉しいわ。おじ様達の次に教えてくれたなんて光栄よ。幸せになってね」
精一杯の言葉だったが、少し意地の悪い笑みを浮かべたアメリアは更にフライアにくぎを刺した。
「解っていると思うけれど、無礼講はここまでよ。彼はわたくしと婚約を結んだ事でもう伯爵家の人間も同然なの。彼の両親ですら言葉を改めるんだから、貴女も言動以外に・・・その辺はしっかりと考えてからにして頂戴」
「アメリア。仕方ないんだよ。幼い時から働いて学もないんだ。大目に見てくれないか?上に立つ者の施しの心で接してやって欲しいんだ」
確かに学はないかも知れない。だとしてもここまで言われる義理も道理もない。
エトガーはアメリアの棘のある言葉の意味が解っているのかいないのか。
解った上でなら、ずっとフライアを蔑んで見ていたのだろうし、解らないのならエトガーの頭ではアメリアの家に婿養子としてやっていけるはずもない。
――でもどっちにしてももう関係ないわ――
フライアは心を奮い立たせ、笑顔を張り付けた。
「折角の席に及び頂いたのですが、子爵家の娘風情には過ぎた場です。これ以上のお目汚しが無いようここで暇をさせて頂きます。しかしながら陛下の治世を支える柱が1本増える喜ばしい慶事。当主である父に代わりリヒテン子爵家からも祝辞のみとなりますがお祝いをさせて頂きます。この度はおめでとうございました」
「では」と笑顔で踵を返したが、もう振り向くことは出来なかった。
こんな高級店は遠目で見たことはあっても店の広い敷地の中に入るのだって初めて。
刻々と待ち合わせ時間は近づいてくるのにエトガーの姿はない。
仕方なく給仕を捕まえて問うと、エトガーの名では予約をされていないようで少し待たされたが、個室に案内をされた。
「遅いじゃないか。場所も時間も伝えてあったのに」
そう言われてもこんな高級な店に小娘1人で堂々と入店できるはずもない。
が、個室にいたのはエトガーだけではなかった。
さぁさぁと誘われてエトガーとその連れの向かいに腰を下ろすと早速エトガーが頬を染めながら告げたのだ。
「結婚するんだ。結婚式は2年後になるんだけどさ。参列してくれよ」
――参列?どういう意味?――
エトガーの言葉の意味が解らない。
告げられた事実にフライアの頭の中は真っ白になった。
「結婚・・・?」
「あぁ、何時までも独り身でいるのもどうかと思ったが…運命の出会いっていうのかな。それに子供も出来たんだ。俺も父親になるんだと思うと、なんて言うか‥責任感?感じるよ。デキ婚じゃないぞ?授かり婚だ」
そう言ってエトガーは隣に腰を下ろすオイレト伯爵家のアメリアを抱き寄せて見つめ合う。
――大口の取引先ってだけじゃなかったの?――
子爵家の次男であるエトガーは婿入りとなるが、聞けば取引先としてオイレト伯爵家が商会と取引をしたのは2、3か月前だが、3年前から御用聞きとして足繁くエトガーは通っていて愛を育んだのだとか。
愛を育んだ結果はアメリアの腹の中に小さな芽を出した。
愕然とするフライアにアメリアが話しかけた。
「幼馴染の貴女の事はエトゥからよく聞いておりましたの。だから両親の次に知って頂くのは貴女がいいとわたくしがエトゥに頼んだのです」
含みのある言葉に、言葉を言い終えた後に少し上がった口角。
微笑んでいるのに笑っていない目。
明らかにフライアに対して「私のモノに手を出すな」という牽制、そしてトドメをさすためにこの場に呼んだのだ。
「で、では・・・おじさまもおばさまも結婚のことは御存じなの?」
声が震える。
心の何処かで間違いであってほしい。
嘘であってほしい。
「びっくりした?驚かせようと思って」と実はアメリアに見届け人になって貰って求婚してくれるのでは?そんな事を思ったが瞬時に否定をされた。
「父上も母上もとても喜んでくれたんだ。な?」
「えぇ。婿入りとなる事ももろ手を挙げて。お義兄様ご夫妻もとても喜んでくれましたの」
ファネン子爵家にも挨拶が終わり、もう両家が認めているのならフライアは何も言う事はない。いや、何も言えない。
――上手く笑えているかしら――
心は慟哭にも似た悲鳴を上げていてもここで泣きたくない。
「おめでとう。幼馴染としても嬉しいわ。おじ様達の次に教えてくれたなんて光栄よ。幸せになってね」
精一杯の言葉だったが、少し意地の悪い笑みを浮かべたアメリアは更にフライアにくぎを刺した。
「解っていると思うけれど、無礼講はここまでよ。彼はわたくしと婚約を結んだ事でもう伯爵家の人間も同然なの。彼の両親ですら言葉を改めるんだから、貴女も言動以外に・・・その辺はしっかりと考えてからにして頂戴」
「アメリア。仕方ないんだよ。幼い時から働いて学もないんだ。大目に見てくれないか?上に立つ者の施しの心で接してやって欲しいんだ」
確かに学はないかも知れない。だとしてもここまで言われる義理も道理もない。
エトガーはアメリアの棘のある言葉の意味が解っているのかいないのか。
解った上でなら、ずっとフライアを蔑んで見ていたのだろうし、解らないのならエトガーの頭ではアメリアの家に婿養子としてやっていけるはずもない。
――でもどっちにしてももう関係ないわ――
フライアは心を奮い立たせ、笑顔を張り付けた。
「折角の席に及び頂いたのですが、子爵家の娘風情には過ぎた場です。これ以上のお目汚しが無いようここで暇をさせて頂きます。しかしながら陛下の治世を支える柱が1本増える喜ばしい慶事。当主である父に代わりリヒテン子爵家からも祝辞のみとなりますがお祝いをさせて頂きます。この度はおめでとうございました」
「では」と笑顔で踵を返したが、もう振り向くことは出来なかった。
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