2 / 30
第01話 舞い上がるのも止む無し
しおりを挟む
リヒテン子爵家のフライアはここ数日とても浮かれていた。
付き合って7年になる恋人のエトガーはファネン子爵家の次男。
そのエトガーから言われたのだ。
「絶対に来てくれよ?遅れるなよ?」
仕事中、外回りのついでに立ち寄ったエトガーから言葉と同時に手渡された紙。
「仕事に戻るから」とエトガーが去った後、ついに求婚か?!と思い待ち合わせ場所や日時が書かれた紙に何度も目を走らせた。
「絶対に遅れるなよ?」念押しをされ手渡された紙に書かれていたのは、給料日でも店の前で雰囲気を味わうのが関の山の超高級で有名、王家御用達の料理店。
10年前に成婚をした王太子殿下が婚約者だった隣国の王女に「妃ではなく私の唯一の妻になってくれ」とお忍びで求婚をした事から、一世一代の求婚を我も、我もとお二人様専用ブースは予約も2,3年待ち。
――きっと指輪を贈ってくれた時に予約してくれてたんだわ――
いつもより入念に湯殿で体を洗い、髪の毛も自分で整えずに髪結師の店まで行きセットアップ。
薬草についての事業で王太子妃とも親しくなった関係で今日の日の事を告げれば、「型は古いけど未婚時代に袖を通す事もなかったから」と早めの結婚祝いと上質なワンピースをストックから見繕ってもらった。
お互いに長兄が家督を継ぐ事になっていて12歳になる頃には「成人をしたらもう面倒は見られないよ」と言われ、成人する20歳を目途に働き始めた。
フライアは実家通いではあるが育てたり摘んだりした薬草を卸問屋に卸す小さな商会で勤める。リヒテン子爵家も薬草を煎じ薬にする事を生業としていて、生まれた時から薬草には慣れ親しんだため天職のようなものだった。
王太子妃先導で民間療法でしかなかった薬草を使った予防薬や治療薬の開発事業が立ち上がった時、野山で野草を摘むだけでなく、時に王宮の専用庭園で薬草を様々な環境下で人工的に育てる、そんな研究にも助っ人として駆り出されていた。
エトガーは王都で5本の指に入ると言われる仕立て屋で住み込みの営業職をしていた。営業職と言っても貴族の家に呼ばれればお勧め商品を持ち込んだりするので新規の顧客を開拓するような仕事ではない。
新規の顧客と言えば馴染みの貴族から紹介をしてもらい雑多な品の御用聞きから信頼を重ねていく。通常は既存の客のもとに呼ばれ持ち込んだ布で何着を仕立ててもらえるかが腕の見せ所。
共に25歳となった今もそれぞれの家が幼少期から付き合いがあったため気心も知れた幼馴染。特に反対する理由もなく、両家の親も認めた間柄だった。
20歳をとっくに超えたのにまだ一人暮らしをしないのも理由があった。
20歳になる直前、結婚の話は持ち上がったがエトガーは役職もなく給料も歩合制で不安定だった。
何より結婚すればフライアは家を出なければならないし、エトガーも店の関係者でないフライアを妻だと言っても単身者用の寮母もいる社宅住みなので住まわせる事が出来ない。
2人の貯金を合わせても家を借りる初期費用がようやく出せるかどうか。若いので直ぐに妊娠でもすればたちまち生活が立ち行かなくなるともう少し金を貯めてからにしようと結婚は先送りになった。
3年前の誕生日直前、エトガーに「主任に昇格したから奮発してやる」と言われて連れて行かれた先は宝飾品店。指輪を買ってもらった。
エトガーは街でも3本の指に入る美丈夫で「顔で仕事を取ってくる」と揶揄われるのが悔しく「腕一本で取っていると認めさせてやる」と息巻いていたので1つ目の昇格を親よりも先にフライアに伝えてくれた。
一線は超えなくてもキス程度なら何度も経験をした。
付き合って7年だが18歳になるまで互いを結婚相手と意識をしなかったのが不思議なくらい。結婚は確実、誰もがそう思っていた。
ここまで状況が揃っていて、家同士の約束が無いから婚約はしていない、仲の良い異性の幼馴染。そう言われて「はい、そうでしたね」と誰が思うだろう。
フライアが浮かれていたのも、先々月エトガーは課長補佐に昇進した。その事実があったから「いよいよだ!」と思った。
それまで最年少の課長補佐が35歳だったのだから25歳と言う若さでは異例の大出世。聞けば裕福な伯爵家と継続する大きな取引を取り付けてきたのだとか。
――今更ながらのプロポーズでも緊張しちゃうわ――
万全の態勢で待ち合わせの料理店に出向いた。
付き合って7年になる恋人のエトガーはファネン子爵家の次男。
そのエトガーから言われたのだ。
「絶対に来てくれよ?遅れるなよ?」
仕事中、外回りのついでに立ち寄ったエトガーから言葉と同時に手渡された紙。
「仕事に戻るから」とエトガーが去った後、ついに求婚か?!と思い待ち合わせ場所や日時が書かれた紙に何度も目を走らせた。
「絶対に遅れるなよ?」念押しをされ手渡された紙に書かれていたのは、給料日でも店の前で雰囲気を味わうのが関の山の超高級で有名、王家御用達の料理店。
10年前に成婚をした王太子殿下が婚約者だった隣国の王女に「妃ではなく私の唯一の妻になってくれ」とお忍びで求婚をした事から、一世一代の求婚を我も、我もとお二人様専用ブースは予約も2,3年待ち。
――きっと指輪を贈ってくれた時に予約してくれてたんだわ――
いつもより入念に湯殿で体を洗い、髪の毛も自分で整えずに髪結師の店まで行きセットアップ。
薬草についての事業で王太子妃とも親しくなった関係で今日の日の事を告げれば、「型は古いけど未婚時代に袖を通す事もなかったから」と早めの結婚祝いと上質なワンピースをストックから見繕ってもらった。
お互いに長兄が家督を継ぐ事になっていて12歳になる頃には「成人をしたらもう面倒は見られないよ」と言われ、成人する20歳を目途に働き始めた。
フライアは実家通いではあるが育てたり摘んだりした薬草を卸問屋に卸す小さな商会で勤める。リヒテン子爵家も薬草を煎じ薬にする事を生業としていて、生まれた時から薬草には慣れ親しんだため天職のようなものだった。
王太子妃先導で民間療法でしかなかった薬草を使った予防薬や治療薬の開発事業が立ち上がった時、野山で野草を摘むだけでなく、時に王宮の専用庭園で薬草を様々な環境下で人工的に育てる、そんな研究にも助っ人として駆り出されていた。
エトガーは王都で5本の指に入ると言われる仕立て屋で住み込みの営業職をしていた。営業職と言っても貴族の家に呼ばれればお勧め商品を持ち込んだりするので新規の顧客を開拓するような仕事ではない。
新規の顧客と言えば馴染みの貴族から紹介をしてもらい雑多な品の御用聞きから信頼を重ねていく。通常は既存の客のもとに呼ばれ持ち込んだ布で何着を仕立ててもらえるかが腕の見せ所。
共に25歳となった今もそれぞれの家が幼少期から付き合いがあったため気心も知れた幼馴染。特に反対する理由もなく、両家の親も認めた間柄だった。
20歳をとっくに超えたのにまだ一人暮らしをしないのも理由があった。
20歳になる直前、結婚の話は持ち上がったがエトガーは役職もなく給料も歩合制で不安定だった。
何より結婚すればフライアは家を出なければならないし、エトガーも店の関係者でないフライアを妻だと言っても単身者用の寮母もいる社宅住みなので住まわせる事が出来ない。
2人の貯金を合わせても家を借りる初期費用がようやく出せるかどうか。若いので直ぐに妊娠でもすればたちまち生活が立ち行かなくなるともう少し金を貯めてからにしようと結婚は先送りになった。
3年前の誕生日直前、エトガーに「主任に昇格したから奮発してやる」と言われて連れて行かれた先は宝飾品店。指輪を買ってもらった。
エトガーは街でも3本の指に入る美丈夫で「顔で仕事を取ってくる」と揶揄われるのが悔しく「腕一本で取っていると認めさせてやる」と息巻いていたので1つ目の昇格を親よりも先にフライアに伝えてくれた。
一線は超えなくてもキス程度なら何度も経験をした。
付き合って7年だが18歳になるまで互いを結婚相手と意識をしなかったのが不思議なくらい。結婚は確実、誰もがそう思っていた。
ここまで状況が揃っていて、家同士の約束が無いから婚約はしていない、仲の良い異性の幼馴染。そう言われて「はい、そうでしたね」と誰が思うだろう。
フライアが浮かれていたのも、先々月エトガーは課長補佐に昇進した。その事実があったから「いよいよだ!」と思った。
それまで最年少の課長補佐が35歳だったのだから25歳と言う若さでは異例の大出世。聞けば裕福な伯爵家と継続する大きな取引を取り付けてきたのだとか。
――今更ながらのプロポーズでも緊張しちゃうわ――
万全の態勢で待ち合わせの料理店に出向いた。
1,840
お気に入りに追加
3,515
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる