アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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ブラウリオの金策

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この回は第三者的視点です

★~★

「ねぇ、リオ。全然わかんないってば!」
「五月蠅いっ!もう一度よく見ろ!1行に15文字しかないのにどうして1行目に間違いが7カ所もあるんだ!」
「そこは褒める所でしょう?15個のうちえぇっと…8個もあってるのよ」
「単語が間違っているんだから文章そのものが成り立たないだろう。いい加減に覚えてくれよ。こんなの4、5歳児のする事なんだぞ」
「酷い!アタシは一生懸命やってるわよ。何もしなくていいって言った癖になんでやらせるのよ。アタシはこのほかにも仕事が――」
「あんなの仕事じゃない!何処の世界に借金してまで買い物三昧の当主夫人がいるんだよ!」
「違うもん!アタシはまだ当主夫人じゃないもんっ!」
「ごちゃごちゃ小さい事を言うな!都合よく侯爵夫人だと触れ回っている癖に」
「そんなの外だけでしょ!家の中では大人しくしてるわ」
「逆だ!外で大人しくしろ!家の中はまだ使用人を黙らせればいいだけなんだ。なんで判らない。馬鹿なのか」


ブラウリオは毎日と言ったが、3日置きにロカ子爵家に出向いてるがアドリアナには会えていない。3回目の顔合わせはまだ実現していないのだ。

店に行けばいるのは解っているが、客ではないので店には入れてくれないし受付番に「営業妨害ですよ」と言われて引き下がった。

と、いうのも店がOPENの前日にブラウリオは執事から報告を受けただけだったがソフィーリアが騒動を起こしていた。アドリアナともう1人の店員の腕などを引っ掻いたそうで治療費を受け取って欲しいとロカ子爵家に出向いたが留守。

正式に書簡にして届ければ「慰謝料などの請求はしません」とだけ返事が返って来た。

アドリアナの店は連日整理券を配っていて開店から閉店まで大盛況。初日で300万以上の売り上げがあったというが、日を追うごとに店員も客の捌き方に慣れてきたのと、客側も新規購入なのか詰め替えなのか、それともカウンセリングなのかで人数も増えて対応してもらえるようになったので1カ月もすれば初日の102人から今では300人を超える客を相手にしている。

1日の売り上げも軽くみて3倍。いやそれ以上となっている。

それでも整理券が必要なのだから開店のご祝儀相場が落ち着くころにはまた面会が出来ないまま半年、1年と経ってしまうだろう。

「やり方が上手いんだよな。高額商品だけを買ってくれる客じゃなく容器は手持ちでもOKで最初からリピーター狙いだもんな」


カウンセリングを受けても最初から容器に満タンのクリームを売ってくれるわけではない。

【お肌に合うか、まずは確かめてください】と初回は数日分。

医療品にも使う素材を使っているのだから肌に馴染んだり、トラブルが圧倒的に少ないのも当たり前。2回目、3回目は量を増やして売ってくれるが、内容に対しての価格が安価と感じるので7日分を3日でたっぷり使って客は週に1,2回通ってくる。ハードなリピーターは週4回。

庶民にはお高いと感じてもそこそこの富裕層は「良い物には金を惜しみなく使う」のでそれがまた噂が噂を呼んで遠い地からも購入者がやって来る。

「そんな売り方をされたら他は太刀打ちできないよ。はぁ~。アドリアナは僕の妻なのに…誰もパルカス侯爵家と名乗っても相手にはしてくれないしな」


金を生む書類は執務机の上には1枚もない。あるのはソフィーリアが以前ほどではないが買い物をした請求書ばかり。しかしその請求書に書かれた数字を満たす金はパルカス侯爵家の何処にもなかった。

そしてブラウリオが焦っているのは杜撰な書類で事業に滞りも出て父親が残してくれた「片手間でも出来る」事業から外されたり、打ち切られていよいよ財政がひっ迫していた。

そんな中でソフィーリアに執務も教えねばならず、ブラウリオは寝るのも怖いが起きるのも怖くなっていた。精神的にかなり追い詰められた状態で、ソフィーリアにもきつい口調で当たってしまっていた。


爵位を売る事も考えたが、伯爵家までなら爵位を買ってくれる者はいるが、公爵家、侯爵家となれば金では買えない。それも父親がブラウリオに言った通りだった。

追い打ちをかけるように国からは「爵位税の支払い」が送れているので遅延金もプラスされた督促状が届いていた。

「もう金なんか何処を探したってないよ!どうやって払えというんだ!」

髪をワシャワシャと掻き毟り、ブラウリオは執務机の天板に何度も額をぶつけて音をさせた。

「あ、そういえば‥‥金。あった。あったわ」


ゴンゴンと額を打ち付けてブラウリオは母親の言葉を思い出した。

【カレドス家には初回、17億を支援しているの】

17億、いや利息もあるから18億ほどは戻ってくるはず。それだけあればソフィーリアに講師を雇って3か月で徹底的に教え込んでもらう。この際体罰も辞さない覚悟で講師を探せば父親が従兄妹に領地を譲渡する前になんとかなる。

爵位税も12億だが支払ってもまだ余る。

「なんだ、イケるじゃないか。そう言えば父上が何か言ってたな…なんだったっけ」

ブラウリオは父の言葉を思い出した。

【カレドス家には既に1回目の支援金を払っている。その金を戻して貰え】

「なんだ、母上と同じじゃないか!」

ポンと手を打って、椅子に深く背を預けるとついでに足のかかとを引っかけ、手で執務机を掴んで反動をつけるとクルクルと椅子を回した。

「やった!!何にも悩む事ない。結婚は継続して支援金は先に返して貰おう。カレドス家もアドリアナも儲けているんだから僕だって5億残った元手で上手く行く。妻なんだからアドリアナにも手伝わせればいいんだ。次の支援金もあっちは儲けてるんだから払う必要もない。うっわぁ…悩んだのがバカみたいだ。アーッハッハッハ」

椅子をグルグル回し、高笑いをするブラウリオだが、父親の肝心な言葉を忘れていた。

【但しお前は暴力行為もあり不貞行為もある。やり方を1つ間違えると詰むから慎重にな】

そして、支援金を支払う事で3年間の婚姻それは切っても切れないセットになっている。だからこそアドリアナは3年は耐えると離縁を切り出さないのであるが、3か月後に迫る2度目の支援金を一方的に出さず、1度目の支援金の返金を要求する。

それは契約の内容と大きく異なる。

支援金の返金を求めた時点で婚姻はパルカス侯爵家の有責で離縁となってしまう。
そもそもで支援金は3年の期日を満了した時、カレドス家には支払いが無くなる。
相場より安い慰謝料は支払わねばならないが先代パルカス侯爵夫妻は「金」で全て解決しようとしたのだ。

同じく返金を求めずとも2回目の支援金を出さなければ契約違反でこれまたパルカス侯爵家の有責で離縁。

父親の先代侯爵は暴力行為という咄嗟に抑制の利かない行動、不貞行為という節操のなさに注意しろ。そしてパルカス侯爵家が優位に立っての離縁とするなら3年目のギリギリでカレドス家の瑕疵を炙り出してそれを契約不履行の理由にしろというもの。

その時から言えば2年半の猶予があるのだから何らかの手立てが見つかるだろうと考えたものだった。手だてが見つからなくてもそれだけの期間があればブラウリオも「何とかしなきゃ」と思うであろうという期待値。

甘やかされて育ったブラウリオには広い視野で物事を見る習慣は育っていなかったのだった。
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