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ソフィーリアは忙しい
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この回はブラウリオの視点です。
※~※ で囲まれた部分は第三者的視点です。
★~★
レオンの乱入で場の空気が一変した後、また一変。
僕は逃げるようにその場を抜け出し、馬車に駆け込んで出来るだけ早く!と御者を急かして屋敷までの道のりを駆け抜けた。
――どうしてレオンがアドリアナを側妃になんて考えるんだ?――
2人の仲が良さそうかと言えばそうではなかった。初見ではない風だったけれどあくまでも王子と貴族令嬢でそこには無機質な意図しか感じられなかった。
だったらどうして側妃なんて話が出たのかと考え、真っ先に思いついたのは「利用」だった。
「レオンは…僕を利用した。そうに違いない。伯爵家から嫁ぐとなれば反対する声も多いし議会の承認も票が割れてしまうだろう。だが、侯爵家となれば議会で話し合いをする事もない。僕はアドリアナに侯爵という爵位を付けるためだけに利用されたんだ」
※~※
ブラウリオは焦って考えてしまい肝心な事を忘れている。
アドリアナとブラウリオの婚約が調ったのは両家の利害が一致したからに過ぎない。アドリアナを婚約者にと選んだのはブラウリオの両親であり、レオンがアドリアナを知ったのはごく最近。それ以前にもカレドス家に令嬢がいる事は知ってはいたがその他大勢の中の1人だった。
時系列で考えてもブラウリオの考えは成り立たない上に、そもそもでブラウリオがアドリアナの頬を張らなければロカ子爵家に厄介になる事もレオンが口出す事もなかった。
全てはブラウリオが巻いた種が芽を出し、花を咲かせブラウリオに毒を吐いているだけである。
世間ではこれを自業自得と言う。
※~※
苛立つ僕を更に苛立たせるものがある。ソフィーだ。
「あぁっ!帰ってる!もぉどこに行ってたの?アタシも行きたかったぁ!行きたかったぁ!1人だけズルいぃぃ。もう一度行こうよぅ。連れて行ってよぅ。最近1人で出掛けてばかり!ズルいっ!」
「ソフィー。僕は仕事の話をする為に出掛けてたんだ。それはそうと頼んでいた書類は終わったのかい?」
「は?しないし。あのねリオ。アタシって結構忙しいのよ。あんなに書類を持って来てもどうにもならないわ。リオだって自分の仕事じゃないのに ”さも” って感じで置いて行かれても困るでしょう?」
「待ってくれ。ソフィーは何に忙しいんだ?」
「決まってるじゃない。侯爵家に相応しい女性になるための装備をするのに忙しいの。そうそう!2か月後にオープンするお店があるの。今、整理券を受付中なんだけど1人1枚なのよ。整理券を持ってる人が当日入店できるかどうかの抽選権が貰えるの。リオも並んできてよ。あとね、画廊がイチオシの画家がいるの。パトロン探してるんだって。結構いい絵を描くのよ。どうかな?」
今日、出掛けにソフィーに頼んだ仕事は僕が精査して執事にもチェックを受けた書類に家印を押すだけの簡単な仕事だ。
しなかった理由は単に面倒臭いというのもあるが、文字ばかりでよく判らないのでただ家印を押すだけだとしても間違って色々と言われるのが嫌なのだ。
数日前に同じ仕事を与えた時に、むやみやたらに押しまくり全て書き直しとなった。
――判を押す事もまともに出来ないのか?――
確かに家印なので任されても困る思いはあるだろうが、ソフィーの困るのはそんな重要役割を自分が果たす事に困るのではなく、ドレスや宝飾品、最近では新進気鋭の将来有望な画家が描いた抽象画も評論家気取りで目利きの真似事まで始めている。
美術品の類こそ価値のあるなしを決めるのはただ古ければいいわけではなく、素人には何を訴えているのかも理解出来ない者ばかりなので手は出さないでほしいのだ。
芸術を論評する資格もない素人が口にするのは批評ではなく批判ばかりになる。
下手をすると侯爵家の名を出してしまう可能性もあり、面白がった者達が更にソフィーを囃し立てて焚きつけ訴訟問題に発展する事だ。
過去にもそれで公爵家の子息や令嬢が放逐された事もある。
勿論「示談」で破格の慰謝料を内々に受け取ってもらい告訴状を取り下げてくれたから家名に傷がつかなかっただけだ。
過去にそんな事例があるのにどうして足を突っ込むのか理解に苦しむ。
比べてはいけないと判っているんだ。
判っているがどうしても比べてしまう。
アドリアナを見かけたあの店は工事中となり、大工などが出入りをするようになった。
用もないのに近くまで行って眺めていると通りかかる人々が足を止めて開店を心待ちにしている事も知った。
僕には何の相談も無かったがアドリアナとカレドス伯爵家は自然由来の医療品を製造し始めて徐々に顧客は多くなりつつある。業績も右肩上がりで後ろ盾にロカ公爵家、そう身を寄せているロカ子爵家ではなく公爵家がついているので共同事業はどうだと声を掛けてくる者、研究費用の出資を申し出る者が後を絶たないという。
商会や貴族だけではなく、陶器を焼いたり着色したりする工房もここ最近は窯の火が落ちたことはないくらい連日連夜、家族で足りず人も雇って忙しいと聞くし、遠く領地が海に面している貴族は中身のないハマグリなどの貝殻を出荷し始めて領民は子供に至るまで朝から晩まで潮の満ち引きでも海の中にある砂地でハマグリを探しているという。
改装中の店舗もこれまでにない形の商売らしいという話も聞く。
何から何までがアメイジング。
それに引き換えソフィーと言えば今日もドレスだ宝石だと商人を呼んで本当に良いかどうかは商人任せ。
「侯爵家に下手なものを売るはずがない」と頭から信じ切っていて、疑う事をしない。侯爵家だからこそ騙してやろうとかかってくるヤカラがいる事にも気づきもしないのだ。
ただ、自由になる金はもう底を突いている。
屋敷にいる使用人は父上が賃金を払ってくれているが、それもソフィーの出来次第であと4、5カ月の運命。
アドリアナのようにとは言わないがせめて執務の半分でも手伝ってくれればと思うが、「まだ侯爵夫人じゃない」と言ってやろうとはしない。そのくせ「侯爵家に相応しいように」と買い物だけは十人前にする。
父上が「金の卵を捨てて腐った卵に餌をやる」と言ったが、本当にその通りに思えて仕方がない。
しかし、僕だって最初は苦手だったけれど何度も何度も繰り返し試みてなんとか出来るようにもなった。ソフィーがしっかりしてくれないと財政を立て直すための領地も従兄妹の物になってしまう。
僕なりに立てた計画もレオンの発言で多少の見直しが必要になった。
僕はソフィーはそのまま離縁が成立をすれば妻とする。そうしなければこの結婚の意味を周囲が理解している以上ソフィーを手放すほうがリスクが大きくなる。
アドリアナとは離縁はするが、僕の快適な未来の為には離縁までに侯爵家を建て直して貰わねばならない。あの手の人間は一旦着手すれば最後まで面倒をみるものだ。
その為の復縁なのに‥‥とんだところで藪をつついて蛇を出してしまった。
レオンが側妃に考えているのならアドリアナを離縁後に側に置く事は出来ない。
でも側妃に出来れば…の話だ。
レオンは放っておいても国王になる。だからこそ側妃なんて言葉が冗談ではなく聞こえるだけだ。
だが、国王のお手付きとなる女性には決まりがある。純潔でなければならないという事だ。
離縁ありきの白い結婚だからこそそんな事を言い出したに決まっている。
侯爵家というブランドを何だと思っているんだ。
ならこちらの計画を変更する代わりにレオンの計画も頓挫してもらう事にする。
離縁ありきであっても、白い結婚にしなければいい。そんなのはほんの数分で済む話だ。
僕は2年半という期間がとても長く思えた。うるう年も入っているので900日以上チャンスはある。1/900なら間違いなく成功するだろう。
3日に1度しか会って貰えなくても300回の面会のうち1度はチャンスがあるはずだ。
そんな事を考えていると久しぶり昂ってしまい、夜は散々ソフィーを啼かせてしまったのだった。
※~※ で囲まれた部分は第三者的視点です。
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レオンの乱入で場の空気が一変した後、また一変。
僕は逃げるようにその場を抜け出し、馬車に駆け込んで出来るだけ早く!と御者を急かして屋敷までの道のりを駆け抜けた。
――どうしてレオンがアドリアナを側妃になんて考えるんだ?――
2人の仲が良さそうかと言えばそうではなかった。初見ではない風だったけれどあくまでも王子と貴族令嬢でそこには無機質な意図しか感じられなかった。
だったらどうして側妃なんて話が出たのかと考え、真っ先に思いついたのは「利用」だった。
「レオンは…僕を利用した。そうに違いない。伯爵家から嫁ぐとなれば反対する声も多いし議会の承認も票が割れてしまうだろう。だが、侯爵家となれば議会で話し合いをする事もない。僕はアドリアナに侯爵という爵位を付けるためだけに利用されたんだ」
※~※
ブラウリオは焦って考えてしまい肝心な事を忘れている。
アドリアナとブラウリオの婚約が調ったのは両家の利害が一致したからに過ぎない。アドリアナを婚約者にと選んだのはブラウリオの両親であり、レオンがアドリアナを知ったのはごく最近。それ以前にもカレドス家に令嬢がいる事は知ってはいたがその他大勢の中の1人だった。
時系列で考えてもブラウリオの考えは成り立たない上に、そもそもでブラウリオがアドリアナの頬を張らなければロカ子爵家に厄介になる事もレオンが口出す事もなかった。
全てはブラウリオが巻いた種が芽を出し、花を咲かせブラウリオに毒を吐いているだけである。
世間ではこれを自業自得と言う。
※~※
苛立つ僕を更に苛立たせるものがある。ソフィーだ。
「あぁっ!帰ってる!もぉどこに行ってたの?アタシも行きたかったぁ!行きたかったぁ!1人だけズルいぃぃ。もう一度行こうよぅ。連れて行ってよぅ。最近1人で出掛けてばかり!ズルいっ!」
「ソフィー。僕は仕事の話をする為に出掛けてたんだ。それはそうと頼んでいた書類は終わったのかい?」
「は?しないし。あのねリオ。アタシって結構忙しいのよ。あんなに書類を持って来てもどうにもならないわ。リオだって自分の仕事じゃないのに ”さも” って感じで置いて行かれても困るでしょう?」
「待ってくれ。ソフィーは何に忙しいんだ?」
「決まってるじゃない。侯爵家に相応しい女性になるための装備をするのに忙しいの。そうそう!2か月後にオープンするお店があるの。今、整理券を受付中なんだけど1人1枚なのよ。整理券を持ってる人が当日入店できるかどうかの抽選権が貰えるの。リオも並んできてよ。あとね、画廊がイチオシの画家がいるの。パトロン探してるんだって。結構いい絵を描くのよ。どうかな?」
今日、出掛けにソフィーに頼んだ仕事は僕が精査して執事にもチェックを受けた書類に家印を押すだけの簡単な仕事だ。
しなかった理由は単に面倒臭いというのもあるが、文字ばかりでよく判らないのでただ家印を押すだけだとしても間違って色々と言われるのが嫌なのだ。
数日前に同じ仕事を与えた時に、むやみやたらに押しまくり全て書き直しとなった。
――判を押す事もまともに出来ないのか?――
確かに家印なので任されても困る思いはあるだろうが、ソフィーの困るのはそんな重要役割を自分が果たす事に困るのではなく、ドレスや宝飾品、最近では新進気鋭の将来有望な画家が描いた抽象画も評論家気取りで目利きの真似事まで始めている。
美術品の類こそ価値のあるなしを決めるのはただ古ければいいわけではなく、素人には何を訴えているのかも理解出来ない者ばかりなので手は出さないでほしいのだ。
芸術を論評する資格もない素人が口にするのは批評ではなく批判ばかりになる。
下手をすると侯爵家の名を出してしまう可能性もあり、面白がった者達が更にソフィーを囃し立てて焚きつけ訴訟問題に発展する事だ。
過去にもそれで公爵家の子息や令嬢が放逐された事もある。
勿論「示談」で破格の慰謝料を内々に受け取ってもらい告訴状を取り下げてくれたから家名に傷がつかなかっただけだ。
過去にそんな事例があるのにどうして足を突っ込むのか理解に苦しむ。
比べてはいけないと判っているんだ。
判っているがどうしても比べてしまう。
アドリアナを見かけたあの店は工事中となり、大工などが出入りをするようになった。
用もないのに近くまで行って眺めていると通りかかる人々が足を止めて開店を心待ちにしている事も知った。
僕には何の相談も無かったがアドリアナとカレドス伯爵家は自然由来の医療品を製造し始めて徐々に顧客は多くなりつつある。業績も右肩上がりで後ろ盾にロカ公爵家、そう身を寄せているロカ子爵家ではなく公爵家がついているので共同事業はどうだと声を掛けてくる者、研究費用の出資を申し出る者が後を絶たないという。
商会や貴族だけではなく、陶器を焼いたり着色したりする工房もここ最近は窯の火が落ちたことはないくらい連日連夜、家族で足りず人も雇って忙しいと聞くし、遠く領地が海に面している貴族は中身のないハマグリなどの貝殻を出荷し始めて領民は子供に至るまで朝から晩まで潮の満ち引きでも海の中にある砂地でハマグリを探しているという。
改装中の店舗もこれまでにない形の商売らしいという話も聞く。
何から何までがアメイジング。
それに引き換えソフィーと言えば今日もドレスだ宝石だと商人を呼んで本当に良いかどうかは商人任せ。
「侯爵家に下手なものを売るはずがない」と頭から信じ切っていて、疑う事をしない。侯爵家だからこそ騙してやろうとかかってくるヤカラがいる事にも気づきもしないのだ。
ただ、自由になる金はもう底を突いている。
屋敷にいる使用人は父上が賃金を払ってくれているが、それもソフィーの出来次第であと4、5カ月の運命。
アドリアナのようにとは言わないがせめて執務の半分でも手伝ってくれればと思うが、「まだ侯爵夫人じゃない」と言ってやろうとはしない。そのくせ「侯爵家に相応しいように」と買い物だけは十人前にする。
父上が「金の卵を捨てて腐った卵に餌をやる」と言ったが、本当にその通りに思えて仕方がない。
しかし、僕だって最初は苦手だったけれど何度も何度も繰り返し試みてなんとか出来るようにもなった。ソフィーがしっかりしてくれないと財政を立て直すための領地も従兄妹の物になってしまう。
僕なりに立てた計画もレオンの発言で多少の見直しが必要になった。
僕はソフィーはそのまま離縁が成立をすれば妻とする。そうしなければこの結婚の意味を周囲が理解している以上ソフィーを手放すほうがリスクが大きくなる。
アドリアナとは離縁はするが、僕の快適な未来の為には離縁までに侯爵家を建て直して貰わねばならない。あの手の人間は一旦着手すれば最後まで面倒をみるものだ。
その為の復縁なのに‥‥とんだところで藪をつついて蛇を出してしまった。
レオンが側妃に考えているのならアドリアナを離縁後に側に置く事は出来ない。
でも側妃に出来れば…の話だ。
レオンは放っておいても国王になる。だからこそ側妃なんて言葉が冗談ではなく聞こえるだけだ。
だが、国王のお手付きとなる女性には決まりがある。純潔でなければならないという事だ。
離縁ありきの白い結婚だからこそそんな事を言い出したに決まっている。
侯爵家というブランドを何だと思っているんだ。
ならこちらの計画を変更する代わりにレオンの計画も頓挫してもらう事にする。
離縁ありきであっても、白い結婚にしなければいい。そんなのはほんの数分で済む話だ。
僕は2年半という期間がとても長く思えた。うるう年も入っているので900日以上チャンスはある。1/900なら間違いなく成功するだろう。
3日に1度しか会って貰えなくても300回の面会のうち1度はチャンスがあるはずだ。
そんな事を考えていると久しぶり昂ってしまい、夜は散々ソフィーを啼かせてしまったのだった。
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