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激しい失笑と吹き抜ける風
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この回はスゥパァアイドルのソフィーリアの親衛隊の端くれブラウリオの視点です
★~★
買い物から戻ったソフィーはかなり機嫌が良かった。
途中店を飛び出して向かいの貸店舗に走ったが、ソフィーが「店にいない?」と外を見た時に僕は不動産仲介商会の男と話をしていたので、何の疑いも持たれずに済んだ。
あれがアドリアナだったら今頃修羅場だったかも知れない。
ソファに腰かけて買い漁った帽子を次々に箱から取り出してソファーテーブルに並べてご満悦のソフィー。僕が部屋に入って来るなり声を掛けて来た。
「あれ?リオ。お腹はもう大丈夫なの?」
「腹?何ともないが」
「そう。馬車を降りて走って行ったからお腹が痛かったのかなって思って。何もなかったなら良かったわ」
そこまで悪いものを食べている訳ではないから腹を下す事は滅多にないが、これから先は違う。早速に明日の朝からは食中毒には注意をしなければならない。
しかしその前にする事がある。
父上は領地を従兄妹に譲渡をするのを半年は待つと言った。生活をしていくためには何が何でも領地は僕が貰わねばならない。ならする事は1つだ。
「ソフィー。そろそろ執務を覚えようか」
「え?執務?してるけど?」
「してる?」
思いだせる限りでソフィーが執務をしている姿を見たことはない。
そもそもで3行以上の文字が並ぶと「読めない」と言い出すのにいつ執務をしたんだ?
その3行ですら「日付」「住まいの場所」「名前」が3段になっているものだというのに。
軽い眩暈すら覚えてしまうが、それもソフィーの数少ない良さだと思い込む。それに執務をしたというのだからソフィーとしても更にステップアップするつもりもあるだろうと考えたのだ。
僕だって執務を覚えたての頃は失敗もしたが、段々と難しいものを「頼んだぞ」と渡された時は嬉しかったものだ。
「じゃぁ、早速なんだがこの書類を手伝ってくれないか。書類と言っても書かれてある品物が実際に買ったものかを確認してもらって、その後で数と価格を確認。終わったら合計の金額になるかどうか。あっと、社交で使えるようなものがあれば減価償却するからチェックを入れておいてくれると助かる」
「‥‥リオ。いったい何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」
――僕の方が返された言葉の意味が解らないんだが――
なんせソフィーにしてもらおうと思ったのはソフィーが買い物をした納品書と請求書の突き合わせのようなものだ。買った本人なんだから一番よく分かっていると思ったのだが何が判らないというんだ。
「だから、ソフィーが買った品。それとこの納品書、請求書に書いてある品と数、金額、その合計を確認して欲しいと言ってるんだ。その上で…あぁそうか減価償却の意味か。うん。それはいい。取り敢えず合計までを確認してくれ」
「確認すればいいの?」
「そうだよ」
執務机の上に置いた書類を持ち上げて「これだ」と示すと手にしていた帽子を一旦置き、怪訝そうな顔をしながら近づいて来たソフィーが書類を手に取り、サッと目を通す。
「うん。いいわ。はい」
「はいって…計算したのか?」
「しないけど?」
「してくれよ。それにこの項目。24行あるという事は24種類の品もちゃんとあるかを確認してくれよ」
「そんなのしなくていいじゃない」
「しなきゃダメなんだよ」
「あのね、リオ。ここは侯爵家でしょう?侯爵家に相応しいものと言って買った品なんだから数を誤魔化してたりしたら大問題よ?そんな事より!!」
タタタっと小走りになってソファーテーブルに置いた帽子を1つ手に取ると頭に被り、体を左右に捩じるように数回回すと「うふっ」っと顔をくしゃりとさせてまた次の帽子を被る。
「見て見て。このつばが可愛くない?お店で見て可愛い~って思って。こっちはね、前と後ろでつばの幅が違うの。もぉ超可愛いっ!ここ一番のお気に入りなの」
――正直、どうでもいい――
そんな事よりもして欲しいことがあるのにソフィーのファッションショーは終わりがない。
そして最後の帽子を被りポーズを決めたソフィーに僕はもう一度声を掛けた。
「ソフィー。判ったからさっき言った事をしてくれないか」
「さっき?なにか言った?あぁ、お腹は痛くなかったってことね」
「フゴッ」と壁に添って立ち、空気と化していた父上の残した執事が激しい失笑を漏らした。
そう、僕は失念していた。
ソフィーは自身の名前はなんとかスペルも間違わずに書けるけれど、読み書きは壊滅的だし数を数えるのも最大値が10。つまり両手の数以上の数は判らないという事を。
窓は締め切っているのに絶望という風が部屋を吹き抜けていった。
★~★
買い物から戻ったソフィーはかなり機嫌が良かった。
途中店を飛び出して向かいの貸店舗に走ったが、ソフィーが「店にいない?」と外を見た時に僕は不動産仲介商会の男と話をしていたので、何の疑いも持たれずに済んだ。
あれがアドリアナだったら今頃修羅場だったかも知れない。
ソファに腰かけて買い漁った帽子を次々に箱から取り出してソファーテーブルに並べてご満悦のソフィー。僕が部屋に入って来るなり声を掛けて来た。
「あれ?リオ。お腹はもう大丈夫なの?」
「腹?何ともないが」
「そう。馬車を降りて走って行ったからお腹が痛かったのかなって思って。何もなかったなら良かったわ」
そこまで悪いものを食べている訳ではないから腹を下す事は滅多にないが、これから先は違う。早速に明日の朝からは食中毒には注意をしなければならない。
しかしその前にする事がある。
父上は領地を従兄妹に譲渡をするのを半年は待つと言った。生活をしていくためには何が何でも領地は僕が貰わねばならない。ならする事は1つだ。
「ソフィー。そろそろ執務を覚えようか」
「え?執務?してるけど?」
「してる?」
思いだせる限りでソフィーが執務をしている姿を見たことはない。
そもそもで3行以上の文字が並ぶと「読めない」と言い出すのにいつ執務をしたんだ?
その3行ですら「日付」「住まいの場所」「名前」が3段になっているものだというのに。
軽い眩暈すら覚えてしまうが、それもソフィーの数少ない良さだと思い込む。それに執務をしたというのだからソフィーとしても更にステップアップするつもりもあるだろうと考えたのだ。
僕だって執務を覚えたての頃は失敗もしたが、段々と難しいものを「頼んだぞ」と渡された時は嬉しかったものだ。
「じゃぁ、早速なんだがこの書類を手伝ってくれないか。書類と言っても書かれてある品物が実際に買ったものかを確認してもらって、その後で数と価格を確認。終わったら合計の金額になるかどうか。あっと、社交で使えるようなものがあれば減価償却するからチェックを入れておいてくれると助かる」
「‥‥リオ。いったい何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」
――僕の方が返された言葉の意味が解らないんだが――
なんせソフィーにしてもらおうと思ったのはソフィーが買い物をした納品書と請求書の突き合わせのようなものだ。買った本人なんだから一番よく分かっていると思ったのだが何が判らないというんだ。
「だから、ソフィーが買った品。それとこの納品書、請求書に書いてある品と数、金額、その合計を確認して欲しいと言ってるんだ。その上で…あぁそうか減価償却の意味か。うん。それはいい。取り敢えず合計までを確認してくれ」
「確認すればいいの?」
「そうだよ」
執務机の上に置いた書類を持ち上げて「これだ」と示すと手にしていた帽子を一旦置き、怪訝そうな顔をしながら近づいて来たソフィーが書類を手に取り、サッと目を通す。
「うん。いいわ。はい」
「はいって…計算したのか?」
「しないけど?」
「してくれよ。それにこの項目。24行あるという事は24種類の品もちゃんとあるかを確認してくれよ」
「そんなのしなくていいじゃない」
「しなきゃダメなんだよ」
「あのね、リオ。ここは侯爵家でしょう?侯爵家に相応しいものと言って買った品なんだから数を誤魔化してたりしたら大問題よ?そんな事より!!」
タタタっと小走りになってソファーテーブルに置いた帽子を1つ手に取ると頭に被り、体を左右に捩じるように数回回すと「うふっ」っと顔をくしゃりとさせてまた次の帽子を被る。
「見て見て。このつばが可愛くない?お店で見て可愛い~って思って。こっちはね、前と後ろでつばの幅が違うの。もぉ超可愛いっ!ここ一番のお気に入りなの」
――正直、どうでもいい――
そんな事よりもして欲しいことがあるのにソフィーのファッションショーは終わりがない。
そして最後の帽子を被りポーズを決めたソフィーに僕はもう一度声を掛けた。
「ソフィー。判ったからさっき言った事をしてくれないか」
「さっき?なにか言った?あぁ、お腹は痛くなかったってことね」
「フゴッ」と壁に添って立ち、空気と化していた父上の残した執事が激しい失笑を漏らした。
そう、僕は失念していた。
ソフィーは自身の名前はなんとかスペルも間違わずに書けるけれど、読み書きは壊滅的だし数を数えるのも最大値が10。つまり両手の数以上の数は判らないという事を。
窓は締め切っているのに絶望という風が部屋を吹き抜けていった。
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