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捨てるの勿体ない
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何もする事が無いというのは地獄で御座います。
「暇~。ねぇポリー。何かする事ないかしら」
「刺繍でもされてみてはどうです?」
「刺繍?!私の腕前を知っててそんな事を言うの?!」
私の刺繍の腕は壊滅的とも言われております。
刺繍を教えてくださったメリヤス男爵夫人に言わせると「立体的で独創性に溢れているわ」でしたけれども、決して立体的にしようと思ったわけでなく、皆さんと同じように平面的に鳥や花などを刺繍しただけなのにコンモリと盛り上がってしまうだけなのです。
他の方よりも大量に刺繍糸を使って無駄にしてしまうので刺繍は出来ません。
それはきっと世間で言う恥の上塗り。これ以上恥を晒す事は出来ないのです。
先日頂いた参加証をクルクルと角に指をあてて息を吹きかけて回すのですが暇である事は変わりなく。
「外でお食事なんて変わっていましたが、楽しかったですね。お嬢様」
「そうねぇ…私も何か誰かを楽しませる事でもしようかしら」
「十分に楽しいですよ。お嬢様といると暇をしませんので」
「え?ポリーはどんな暇つぶしをしてるの?!」
「ですから!お嬢様のお世話をしていたらあっという間に夜です。これでお嬢様にお子様でも出来れば私も少しは暇になるんですけどね」
――逆じゃないの?余計に忙しくなると思うんだけど――
ロカ子爵家の使用人さんはとても親切なのですけども、親切過ぎて何もする事が無いので私の世話で忙しいというポリーと共に庭を散策する事に致しました。
「あら…こんな所に菜園?」
「部屋から見える場所はお花ばかりですのにね。こちら側は菜園だったんですねぇ」
実は菜園を見るのも初めてで御座います。
貧乏では御座いましたので、魚が切り身で泳いでいるとか、肉はスライスされて育つとかそんな事は思っておりませんけれども、野菜が畑で育っている場を見たことはないのです。
カレドス伯爵領でも収穫はあるのですが、食べ物ではなく綿花なのです。
「わぁ…これは何かしら。土から白い棒が顔を出しているわ」
勝手に掘り返す事は出来ませんので、葉を避けていると笑い声がいたします。
「ハッハッハ。それは大根だよ。旦那様は野菜全般が苦手でねぇ。ちょっとでも採れたてを食べてもらおうと色々飢えているんだ。どれ、奥様も収穫してみますかい?」
「お、奥様?!いえ、私は御厚意で居候をさせておりますの」
「居候?はて?ロカルドさんはそうは言ってなかった気もするが、まぁいいだろう。抜いてみるかい?」
「良いんですか?!」
「勿論。奥様が収穫したとなれば旦那様も食べてくれるだろうし。手が汚れるが構わんかね?」
「手が?あぁそんな事。気にしないでくださいませ」
「じゃぁ、野菜はね、恥ずかしいなんて言ってちゃダメなんだ。まずこの大根の畝をどっこいしょと跨ぐ!足をしっかり広げるんだ。腰を使って抜くからな」
庭師さんの言う通りに畝を跨ぎ、大股スクワットのように腰を落とします。
次に茎の根元をしっかりと両手で掴み、真上に引き上げる!と仰いますので言われた通りにすると。
ズボッ!!「抜けたっ!抜けました!」
初めて大根を引き抜いた感触は、「意外とすぽっとぬけた」で御座いましたが、抜いた大根を手に持ち散策を続けると今度は野菜の畑とは違う少し変わった区画が目に入りました。
「こんにちは。これは何を育てているんです?」
「ありゃ!奥様。こんなところに~汚れちまうよ?」
「汚れ?あぁ、気にしませんわ。さっきも大根を抜かせて頂いたんです。ほら!私が抜いたんですよ」
「え?大根…って事はガムス爺が?!」
「ガムス様と仰るのね。大根を抜く事に必死でお名前を伺っておりません。うっかりしておりましたわ」
「アタシはキャロンっていうんだけど、ここは薬草を育ててるんですよ」
「薬草?!腹痛とか頭痛の時に飲む?」
「それもあるけど、主に打撲とか裂傷なんかに効く薬草が多いね」
――なるほど。そう言えば騎士様ですものね――
自給自足。なんて効率的なんでしょうと思いましたらそうではないと言うのです。
「葉っぱを1枚、2枚なら良いんだけど根っこや茎を使うとなると引き抜かなきゃいけないでしょう?でも1本で4、5人分の薬になるんだけどそんなに使わないから殆ど無駄になっちまうんだよ」
――ふむ。そうよね。腹痛のお薬も朝昼晩と分けて飲むけど、3回分を1度に飲まないし――
聞けばふんだんに傷口に塗りこんでも余ってしまうのが薬草の薬。
粉上にしてしまっても、日持ちはしないので「捨て」になる分が多くてどうにかならないかと考えては見るもののケガ人を増やすわけにもいかず結局使わない分は捨てているのだとか。
「それは勿体ないわね」
「そうなんです。効果あるんですけどね。日持ちというか…朝千切って薬にして夕方までには使い切らないと翌日は何の効能もないからねぇ」
キャロン様のお悩みもですけども、ガムス様も収穫というのは時期が偏りますので、時期を長く出来れば、薬も捨てる分を活用できれば…。
折角汗水流して育てるのですから、捨てる部分があるのはどうにかした方が良いかも?
そう考えた私は、早速大根を片手に屋敷に戻り、自由に見ていいと言われた書庫に向かったのです。
「暇~。ねぇポリー。何かする事ないかしら」
「刺繍でもされてみてはどうです?」
「刺繍?!私の腕前を知っててそんな事を言うの?!」
私の刺繍の腕は壊滅的とも言われております。
刺繍を教えてくださったメリヤス男爵夫人に言わせると「立体的で独創性に溢れているわ」でしたけれども、決して立体的にしようと思ったわけでなく、皆さんと同じように平面的に鳥や花などを刺繍しただけなのにコンモリと盛り上がってしまうだけなのです。
他の方よりも大量に刺繍糸を使って無駄にしてしまうので刺繍は出来ません。
それはきっと世間で言う恥の上塗り。これ以上恥を晒す事は出来ないのです。
先日頂いた参加証をクルクルと角に指をあてて息を吹きかけて回すのですが暇である事は変わりなく。
「外でお食事なんて変わっていましたが、楽しかったですね。お嬢様」
「そうねぇ…私も何か誰かを楽しませる事でもしようかしら」
「十分に楽しいですよ。お嬢様といると暇をしませんので」
「え?ポリーはどんな暇つぶしをしてるの?!」
「ですから!お嬢様のお世話をしていたらあっという間に夜です。これでお嬢様にお子様でも出来れば私も少しは暇になるんですけどね」
――逆じゃないの?余計に忙しくなると思うんだけど――
ロカ子爵家の使用人さんはとても親切なのですけども、親切過ぎて何もする事が無いので私の世話で忙しいというポリーと共に庭を散策する事に致しました。
「あら…こんな所に菜園?」
「部屋から見える場所はお花ばかりですのにね。こちら側は菜園だったんですねぇ」
実は菜園を見るのも初めてで御座います。
貧乏では御座いましたので、魚が切り身で泳いでいるとか、肉はスライスされて育つとかそんな事は思っておりませんけれども、野菜が畑で育っている場を見たことはないのです。
カレドス伯爵領でも収穫はあるのですが、食べ物ではなく綿花なのです。
「わぁ…これは何かしら。土から白い棒が顔を出しているわ」
勝手に掘り返す事は出来ませんので、葉を避けていると笑い声がいたします。
「ハッハッハ。それは大根だよ。旦那様は野菜全般が苦手でねぇ。ちょっとでも採れたてを食べてもらおうと色々飢えているんだ。どれ、奥様も収穫してみますかい?」
「お、奥様?!いえ、私は御厚意で居候をさせておりますの」
「居候?はて?ロカルドさんはそうは言ってなかった気もするが、まぁいいだろう。抜いてみるかい?」
「良いんですか?!」
「勿論。奥様が収穫したとなれば旦那様も食べてくれるだろうし。手が汚れるが構わんかね?」
「手が?あぁそんな事。気にしないでくださいませ」
「じゃぁ、野菜はね、恥ずかしいなんて言ってちゃダメなんだ。まずこの大根の畝をどっこいしょと跨ぐ!足をしっかり広げるんだ。腰を使って抜くからな」
庭師さんの言う通りに畝を跨ぎ、大股スクワットのように腰を落とします。
次に茎の根元をしっかりと両手で掴み、真上に引き上げる!と仰いますので言われた通りにすると。
ズボッ!!「抜けたっ!抜けました!」
初めて大根を引き抜いた感触は、「意外とすぽっとぬけた」で御座いましたが、抜いた大根を手に持ち散策を続けると今度は野菜の畑とは違う少し変わった区画が目に入りました。
「こんにちは。これは何を育てているんです?」
「ありゃ!奥様。こんなところに~汚れちまうよ?」
「汚れ?あぁ、気にしませんわ。さっきも大根を抜かせて頂いたんです。ほら!私が抜いたんですよ」
「え?大根…って事はガムス爺が?!」
「ガムス様と仰るのね。大根を抜く事に必死でお名前を伺っておりません。うっかりしておりましたわ」
「アタシはキャロンっていうんだけど、ここは薬草を育ててるんですよ」
「薬草?!腹痛とか頭痛の時に飲む?」
「それもあるけど、主に打撲とか裂傷なんかに効く薬草が多いね」
――なるほど。そう言えば騎士様ですものね――
自給自足。なんて効率的なんでしょうと思いましたらそうではないと言うのです。
「葉っぱを1枚、2枚なら良いんだけど根っこや茎を使うとなると引き抜かなきゃいけないでしょう?でも1本で4、5人分の薬になるんだけどそんなに使わないから殆ど無駄になっちまうんだよ」
――ふむ。そうよね。腹痛のお薬も朝昼晩と分けて飲むけど、3回分を1度に飲まないし――
聞けばふんだんに傷口に塗りこんでも余ってしまうのが薬草の薬。
粉上にしてしまっても、日持ちはしないので「捨て」になる分が多くてどうにかならないかと考えては見るもののケガ人を増やすわけにもいかず結局使わない分は捨てているのだとか。
「それは勿体ないわね」
「そうなんです。効果あるんですけどね。日持ちというか…朝千切って薬にして夕方までには使い切らないと翌日は何の効能もないからねぇ」
キャロン様のお悩みもですけども、ガムス様も収穫というのは時期が偏りますので、時期を長く出来れば、薬も捨てる分を活用できれば…。
折角汗水流して育てるのですから、捨てる部分があるのはどうにかした方が良いかも?
そう考えた私は、早速大根を片手に屋敷に戻り、自由に見ていいと言われた書庫に向かったのです。
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