アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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性格の歪んだ王子様

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幸か不幸か。現在第1王子レオンの妃となるポストは空席となっている。
現在25歳の第1王子レオン。公式記録に婚約者がいたという記録はない。


何故か?!文官が書き直しているからである。

つい先日、と言っても半年前までだったが「婚約者」と名がつくそのポストには侯爵家の令嬢の名があった。しかし令嬢曰く「無理です!」とその座を辞したのである。

レオンは完璧であろうとするその姿勢は良いのだが、それを周囲にもごり押しする。1つの決断の間違いが国政をも揺るがしてしまうため、万全を期そうとする行動に生粋のお嬢様育ちなご令嬢はついて行けないのだ。

「また間違っている。君は何のためにこの世に生を受けた?」
「申し訳ございません。直ぐに訂正を」
「いや、間違いをそのまま出来たと持って来る君にはもう頼めない」
「そんなっ。ですがこれだけの量をたった3日で――」
「私は倍以上の量を2日で行なっている。1日も長く時間を取りながらこんな初歩的なミス。これが国を左右する書類だったらどう責任を取るつもりだ。私の隣に立ちたいのなら花だ、菓子だとくだらない事よりも書類と向き合って欲しいものだ」
「そんな酷い…(うるっ)」
「泣いて済むとでも?私の婚約者という仕事は随分と簡単に考えられているのだな」

確かにレオンは相当な量の執務を行っている。
他の王子の5倍。その為レオンに配属となる文官や事務次官の数も多いが、心労と極度の疲労、そして強迫性障害と診断をされて職を辞する者も多く、入れ替わりも激しい。


数百ページに渡る国の収支決算書を「わたくしにお任せあれ」と安請け合いしてしまった侯爵令嬢だが、実はレオンの婚約者はこの侯爵令嬢で18人目。

従兄のアルフォンソには少し及ばないが、国王でもある父親に似て美丈夫なレオンには令嬢達がこぞって隣の座を競い合う。誰しも「知らない事が幸せ」な時代があるのだ。

夢の婚約者の座を射止めても、長い者で半年、短いものは2カ月で音を上げる。侯爵令嬢はその中でも58日という婚約期間。過去最短記録を叩き出した。

モラハラいや、とても厳しいレオンだが「ついて行けませんでした」と非を認めれば「おバカ令嬢」の烙印を押されるとあってどの家も「婚約は白紙に」となっている。

年に一度発行される「われらの王室」という公的な機関紙に現在に至るまで婚約者として記載された令嬢はいない。発行の締め日になる前に婚約が白紙になるからである。


そんなレオンだったが、今日は非常に機嫌がよい。
貴族の婚約披露パーティに呼ばれて機嫌が良かった事は側付の従者が思うに一度もなかった。

『くだらん。何故こんなものに出ねばならないのだ』
『そうはいっても殿下のお言葉を頂ければ当主もそれだけで鼻が高いのです』
『鼻の穴を木の枝で広げてやれば高くなるんじゃないか?』
『そう言う意味では…』
『判っている。ただ王族の言葉があったから何だというんだ。実にくだらん』


パルカス侯爵家のパーティも到着するまでは非常に機嫌が悪かったのだが、この婚約が両家揃っての「契約」で有期限である事を知り、性格が少し歪んでいるレオンは面白くなったのだ。

侯爵家のブラウリオも代を数代遡れば王子が臣籍降下をしていて親族にもなる。24歳のレオンには年齢もさほど変わらないブラウリオに先を越されるのはどうにも我慢が出来なかったが、結婚をしても離縁ありきと聞いて「まだあの阿婆擦れと付き合っているのか」と可笑しくなってしまった。


何時の日だったが、ブラウリオにソフィーリアを紹介された事があるが、知性、教養、マナー、所作、全てにおいて及第点に遥か及ばないソフィーリアに嫌悪さえ覚えた。


『わぁ♡本物の王子様ですかぁ。すごぉい!アタシの事はソフィーって呼んでください』

馴れ馴れしくボディタッチをしそうになるソフィーリアから身をかわすレオンは闘牛士にも見えたものだ。

『親しみと図々しさを履き違えた見た目だけの令嬢だな。お前にぴったりだ』
『そんな言い方をしなくても。これがソフィーの良さなんだよ』
『だから褒めているだろう?お前にぴったりだと』
『やだ。アタシの事で喧嘩をしないで。仲良くしてくださぁい』


婚約のパーティと言っても言ってみれば貴族の家と家が姻戚関係となる可能性があるという繋がりを他家にも知らしめるもので、必ずしも当人が挨拶をせねばならない必要はない。

貴族の婚約や結婚とはそういうものである。

それでもこの婚約の意味を知ったレオンは例え家長のめいだとしても3年間を棒に振るブラウリオの相手の顔でも拝めれば笑ってやるのにとアドリアナの姿を探した。


そんな時、護衛に連れて来た従兄のアルフォンソが慌てた様子でやって来た。

「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「殿下、直ぐに戻りますので持ち場を一旦離れます。お帰りの時間は予定通りですが宜しいでしょうか」
「構わないが火急の要件か?」
「暴行されたとみられる令嬢を保護したのです」
「暴行?!まさかこの会場で?」
「会場内ではないと思います。怪しいと思われる箇所には既に部下を配置しましたので」
「判った。後で報告せよ」
「畏まりました」

アルフォンソがレオンの護衛を離れるのは危険と言えば危険だが、アルフォンソ並みの腕を持った部下は既に配置が完了しているし、何より暴行を受けた令嬢を可能な限り人目に晒さぬように保護をするのは騎士でなくとも当たり前。

女性は何かあった時に致命傷となる噂の核になる事もある。

――へぇ。こんな場で暴行案件ね――

やはり性格の歪んでいるレオンは細い目になり挨拶に回るパルカス侯爵夫妻を見てほくそ笑んだ。
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