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第36話 貰ったのは褒章??
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「エフクール侯爵。お前はウェストレスト王国の第3王子に手紙を出したか?」
「え?あ。はい。出しましたが」
「ほぅ。何故エフクール侯爵家が支払うべき損害金を国を超えて全く関係のないルシファー殿下が支払わねばならないのか教えてくれ」
「そ、それは…誤解があるようですが、結果的にルシファー殿下が支払う事になったのかと思います。殿下に嫁いだマジョリカが肩代わりをですね。えぇ…っと家が困っているのを見兼ねてですね」
「支払う事にはなっていない。何故そのような言い回しをするのだ?」
「え?まだ払われていないのですか?お、おかしいですね」
「払う、払ってないではなく。意味が通じてないのか?どうしてノースレスト王国の問題を国を超えてまるで関係のないルシファー殿下が払わねばならないのかと聞いているんだ」
「娘のマジョリカが申し出まして。家を思う気持ちと育ててもらった恩を感じているのだと思います。遠く離れた自分に何か出来る事はないかと考えた結果だと思いますが…」
「では聞く。そのマジョリカから払いたいと先に申し出があったのか?」
「そ、それは…はい。御座いました」
「おかしいな。そんな手紙は記録にないのだが」
「し、私信だからではないでしょうか」
「お前は馬鹿か?王子妃だぞ?貴族なら従者にも頼めないモノを自身で内密に配送する事はあるだろうか、王子妃となればそれは叶わない。嫁いだばかりだ。そんなものがあるとすれば検閲されておるわ。それに…隊長殿から見せてもらったが決定事項をお前が押し付けているとしか思えない文面だったぞ」
「何かの間違いです。そんな押し付けるだなんて!」
「いずれにしてもだ。お前がとんでもない事をしてくれたのは紛れもない事実だ。我が国はこれで港湾の使用を禁じられた。新造した船も間もなく進水式を迎えるが何処に停泊させればよいのだ?」
まさか港湾の使用を禁じられるとは思ってもいなかった。
何よりマジョリカに出した手紙の内容を国王が知っているとは思わず、エフクール侯爵はまだ国王が発していないその先の言葉に喉がギュッと締め付けられた気がして声が出なくなった。
「それと…エミリアだったか。何故今更ウェストレスト王国に行かねばならないんだ?しかもマジョリカに替わってどうせ外に出ない妃だから入れ替われとあるが?お前は国同士で折り合いをつけた話を反故にする気か!」
「お兄様、違うの。マジョリカが自分では役不足で居た堪れないからどうしてもと!!」
「そ、そうなんです。マジョリカでは明らかに役不足でございまして。書面上の夫婦ですしエミリアでも差しさわりはないと…」
「役不足か。夫婦そろってそこは解っているようだな」
国王の言葉に少しだけホッとしたエフクール侯爵夫妻は安堵の笑みを浮かべた。
しかしその顔は直ぐに歪むことになった。
「詳細は後日届くがウェストレスト王国に嫁いだマジョリカ。聞けばたった2か月少しの道中で会話に問題ない程度までウェストレスト王国の公用語を習得したそうだ。エフクール侯爵家で人としての扱いを受けていなかった事を鑑みれば惜しい人材を手放したとしか言いようがない。時と場所を考えればまさにお飾りの王子妃では役不足と言えよう」
「え?」「は?」
国王は心底残念そうな顔でエフクール侯爵夫妻を見る。
より残念なのは王女でもあったエフクール侯爵夫人だ。王族でありながら何を学んだのか。さっき褒めたばかりなのに役不足の意味を違えて解釈をしているとしかその顔からは見えなかった。
「お前の思う役不足は力不足の事だったのか?」
「そ、そうでした。言い間違えてしまいま――」
「もういい。どっちにしてもお前達が国家間の取り決めを勝手に反故にしようと企んだことは明白だ。恥ずかしげもなくルシファー殿下に損害金を出させようとしたり…ノースレストにどれほどの恥をかかせるつもりだったんだ!阿婆擦れ娘など今更引っ張り出して何を引っ掻き回すつもりだったんだ!あわや戦だったんだぞ?それを恩情で止めたのがマジョリカだ!」
褒章どころかエフクール侯爵夫妻が国王から貰ったのは隣国を使っての国家転覆罪。
エフクール侯爵家の取り潰しと、1週間尋問を受け、次の1週間は市中で晒し者となった上で貴族として毒杯を賜る訳ではなく断頭台に上がる夫妻の極刑も同時に決定された。
兄妹の情に縋ろうとするエフクール侯爵夫人の絶叫に国王が応える事はなかった。
★~★
騎兵隊の隊列が城下を進んできた時、国王はまだ理由が判らなかった。
「これは宣戦布告と解釈して宜しいか」
手紙を手渡されて国王は息を飲んだ。全く与り知らぬこと、寝耳に水。
「ルシファー殿下より、妃殿下が戦となれば心を痛める故、責任を取るのは最小限にとの恩情も賜っている」
「で、では開戦を望んでいるのではないと…」
「当然だ。ウェストレスト王国も血を流す事を望んではいない。他国の王子を駒として扱った貴国の誠意を見せて頂ければそれでいいと」
国王も知らなかったとは言えなかった。監督不行き届きここに極まれり。
ノースレスト王国としては船の進水式もまた他の国に発注しており、もう幾ばくに発注した半数が進水式も控えていて、引くに引けない。
結果としてルシファーの瑕疵でもぎ取った格安での港湾利用は断念せざるを得ず、ウェストレスト王国の取水も取り決めから更に1割増しで手を打つしかなくなった。
国王から満点回答を引き出した長い隊列はエフクール侯爵夫妻が断頭台に上がるのを見届けて帰国の途に就いた。
「え?あ。はい。出しましたが」
「ほぅ。何故エフクール侯爵家が支払うべき損害金を国を超えて全く関係のないルシファー殿下が支払わねばならないのか教えてくれ」
「そ、それは…誤解があるようですが、結果的にルシファー殿下が支払う事になったのかと思います。殿下に嫁いだマジョリカが肩代わりをですね。えぇ…っと家が困っているのを見兼ねてですね」
「支払う事にはなっていない。何故そのような言い回しをするのだ?」
「え?まだ払われていないのですか?お、おかしいですね」
「払う、払ってないではなく。意味が通じてないのか?どうしてノースレスト王国の問題を国を超えてまるで関係のないルシファー殿下が払わねばならないのかと聞いているんだ」
「娘のマジョリカが申し出まして。家を思う気持ちと育ててもらった恩を感じているのだと思います。遠く離れた自分に何か出来る事はないかと考えた結果だと思いますが…」
「では聞く。そのマジョリカから払いたいと先に申し出があったのか?」
「そ、それは…はい。御座いました」
「おかしいな。そんな手紙は記録にないのだが」
「し、私信だからではないでしょうか」
「お前は馬鹿か?王子妃だぞ?貴族なら従者にも頼めないモノを自身で内密に配送する事はあるだろうか、王子妃となればそれは叶わない。嫁いだばかりだ。そんなものがあるとすれば検閲されておるわ。それに…隊長殿から見せてもらったが決定事項をお前が押し付けているとしか思えない文面だったぞ」
「何かの間違いです。そんな押し付けるだなんて!」
「いずれにしてもだ。お前がとんでもない事をしてくれたのは紛れもない事実だ。我が国はこれで港湾の使用を禁じられた。新造した船も間もなく進水式を迎えるが何処に停泊させればよいのだ?」
まさか港湾の使用を禁じられるとは思ってもいなかった。
何よりマジョリカに出した手紙の内容を国王が知っているとは思わず、エフクール侯爵はまだ国王が発していないその先の言葉に喉がギュッと締め付けられた気がして声が出なくなった。
「それと…エミリアだったか。何故今更ウェストレスト王国に行かねばならないんだ?しかもマジョリカに替わってどうせ外に出ない妃だから入れ替われとあるが?お前は国同士で折り合いをつけた話を反故にする気か!」
「お兄様、違うの。マジョリカが自分では役不足で居た堪れないからどうしてもと!!」
「そ、そうなんです。マジョリカでは明らかに役不足でございまして。書面上の夫婦ですしエミリアでも差しさわりはないと…」
「役不足か。夫婦そろってそこは解っているようだな」
国王の言葉に少しだけホッとしたエフクール侯爵夫妻は安堵の笑みを浮かべた。
しかしその顔は直ぐに歪むことになった。
「詳細は後日届くがウェストレスト王国に嫁いだマジョリカ。聞けばたった2か月少しの道中で会話に問題ない程度までウェストレスト王国の公用語を習得したそうだ。エフクール侯爵家で人としての扱いを受けていなかった事を鑑みれば惜しい人材を手放したとしか言いようがない。時と場所を考えればまさにお飾りの王子妃では役不足と言えよう」
「え?」「は?」
国王は心底残念そうな顔でエフクール侯爵夫妻を見る。
より残念なのは王女でもあったエフクール侯爵夫人だ。王族でありながら何を学んだのか。さっき褒めたばかりなのに役不足の意味を違えて解釈をしているとしかその顔からは見えなかった。
「お前の思う役不足は力不足の事だったのか?」
「そ、そうでした。言い間違えてしまいま――」
「もういい。どっちにしてもお前達が国家間の取り決めを勝手に反故にしようと企んだことは明白だ。恥ずかしげもなくルシファー殿下に損害金を出させようとしたり…ノースレストにどれほどの恥をかかせるつもりだったんだ!阿婆擦れ娘など今更引っ張り出して何を引っ掻き回すつもりだったんだ!あわや戦だったんだぞ?それを恩情で止めたのがマジョリカだ!」
褒章どころかエフクール侯爵夫妻が国王から貰ったのは隣国を使っての国家転覆罪。
エフクール侯爵家の取り潰しと、1週間尋問を受け、次の1週間は市中で晒し者となった上で貴族として毒杯を賜る訳ではなく断頭台に上がる夫妻の極刑も同時に決定された。
兄妹の情に縋ろうとするエフクール侯爵夫人の絶叫に国王が応える事はなかった。
★~★
騎兵隊の隊列が城下を進んできた時、国王はまだ理由が判らなかった。
「これは宣戦布告と解釈して宜しいか」
手紙を手渡されて国王は息を飲んだ。全く与り知らぬこと、寝耳に水。
「ルシファー殿下より、妃殿下が戦となれば心を痛める故、責任を取るのは最小限にとの恩情も賜っている」
「で、では開戦を望んでいるのではないと…」
「当然だ。ウェストレスト王国も血を流す事を望んではいない。他国の王子を駒として扱った貴国の誠意を見せて頂ければそれでいいと」
国王も知らなかったとは言えなかった。監督不行き届きここに極まれり。
ノースレスト王国としては船の進水式もまた他の国に発注しており、もう幾ばくに発注した半数が進水式も控えていて、引くに引けない。
結果としてルシファーの瑕疵でもぎ取った格安での港湾利用は断念せざるを得ず、ウェストレスト王国の取水も取り決めから更に1割増しで手を打つしかなくなった。
国王から満点回答を引き出した長い隊列はエフクール侯爵夫妻が断頭台に上がるのを見届けて帰国の途に就いた。
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