王子殿下にはわからない

cyaru

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第24話  届いた手紙

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ルシファーが離れの中に入るとマジョリカは「ルート様!」駆け寄ってきて体調を気遣ってくれる。

嬉しいのだが優しい言葉を掛けられてしまうと嘘を吐いて「ルシファー」であることを偽っている事が居た堪れなくなってくる。

「さぁ、お座りになって。もしかすると消化不良を起こしたのかも?と思ってアロエ茶を作りましたのよ。ペリーさんが調理長さんから麦を頂いてくださったので炒りまして、麦茶とブレンドしてみたので飲みやすいと思います。実は…国にいた時に一番ブレンドしたお茶なので腕には自信がありますよ」

ウェストレスト王国にはキダチアロエが多く自生しているとモンテストから聞いて、作り甲斐があると笑顔を向けるマジョリカにルシファーは心が抉られ叫び声をあげているが口から音として発する事は出来なかった。

「その…宮に住めば他の薬も茶も作れるんじゃないかと思うんだが」

「嫌ですよ。宮には近づくなと国を出る時に言われています。第3王子ルシファー殿下にもこうやってわざわざ!!ほら!見てください。箇条書きにして念押しされているので3年後には離縁できるんです。何が嬉しくて同居しなきゃいけないのか判らないですよ」

「そんなのビリビリに破いて竈で燃やしてしまえばいい」

「ダメです。そんな事をして不敬だ!とか言われたらどうします?私、やっと自由を手に入れたんです。まだ死にたくないですもの」


マジョリカはルートに成りすましているルシファーに「ごめんなさい」と頭を下げる。
何事かと思えば…。

「自分が大丈夫だからルート様も大丈夫だと思ったんです」

「どういう…意味だ?」

「私、国にいた時は何と言いますか…解りやすく言うと ”要らない子” だったんです」

「まさか?!」

「そのまさかです。父親がエフクール侯爵であるのは本当なんですが母は使用人でした。好き合っていた訳ではなく母には結婚を約束した人がいたようですけど私を身籠ってしまって。先代侯爵様の意向で侯爵家に留め置かれて私を出産。今思えば…病で床に伏してからもずっと ”お前なんか流れれば良かった” と何度も言われました。病で気が弱っていたのもありますが、本心だったと思います」

「そうだったのか」

「先代侯爵が無くなってからは使用人の使用人のような生活で。腐ったもの、傷んだもの、食べ物とは呼べないものを食べるのも普通で、それもない時は草を食べてました」

「じゃぁ屋根に登ったのも?」

「はい。煙突掃除とか井戸の掃除は私がやってました。でもね?酷いんです。引き上げるのが面倒だからってロープも省略ですよ?そのおかげでちょっとした凸凹を利用して崖を上るみたいに這い上がる術を習得しました!!」

嬉しそうにグッとサムズアップをするマジョリカ。
悲惨な境遇も明るく話をするが、当時はどれだけ辛かった事か。

ルシファーはマジョリカに心を奪われたからではなく、実際に屋根にも上り、木登りすらしたあの時のマジョリカを見ているので、偶々運よく怪我もしなかっただけではなく過去の経験から裏付けられた行動なのだと納得できた。

「なのでルート様も使用人ですし、そこそこの味なら大丈夫かなと。飲んで頂く前に私も飲んだのですけど、なんともなかったので大丈夫かなと思ってしまいました。本当にごめんなさい」

「いや、いいんだ。マジョリカの茶はどれも美味しいし腹を下してしまったのは…食べ合わせが原因だろう。体が熱くなったのは茶が原因ではない事は私自身がよく判っている」

「そうなんですか?でも…私が無茶に付き合わせてしまいましたし」

「無茶じゃない。本当に嫌なら引き受けたりしない」

マジョリカはルシファーの言葉にホッとした表情を見せた。


――マジョリカは何一つ、嘘は言ってないんだ――

なのに自分は…。

俯き、ぐっと目を閉じて、顔をあげたルシファーは本当のことをマジョリカに言おう。
床に両膝を付き、ルートと偽っていた事を謝罪をしよう。

そう思い、マジョリカの名を呼ぼうとしたその時だった。


「ルシ…ルート!至急、宮に戻ってください」

モンテストが開け放たれた玄関から入ってきてルシファーを呼んだ。

「ルート様、宮でお仕事ですよ。今日はお手伝いして頂くことはないので行ってください」

「すまない…。また来る」

「はい。お待ちしておりますわ。体調を万全にしてきてくださいね」

「勿論だ」


ルシファーが宮に戻っていくとマジョリカは小さな籠を抱えて庭の草を採取に向かった。


一方ルシファーは戻る途中でモンテストから概要を掻い摘んで報告を受けながら足を進めた。

「ノースレスト王国のエフクール侯爵家からの手紙?」

「はい。宛名はマジョリカ様とも取れますが殿下とも取れましたので開封し先に確認を済ませました」

「なんとあったのだ?」

「それがですね大きくは2つ。1つは国への損害金の支払いをマジョリカ様から殿下に頼み込んでほしいと言うもの、もう1点は金の問題が解決したのちエミリア様とマジョリカ様の立場を入れ替えよというものです」

「どういう事だ?」

エフクール侯爵家から早馬で届いた手紙を執務室で目を通したが、言葉を失うとはまさにこの事。

なんとも自分勝手な内容で激昂したルシファーが怒りに任せて破り捨てようとするのをモンテストと従者2人が何とか食い止めた。

「殿下っ!これは重要な証拠になるのです。裂いてはなりませんッ!」

「腹立たしい!なんだこれは!」

「金の問題と入れ替えは別物と考えているようですね。厚かましいと申しましょうか、いやはやなんとも…。マジョリカ様が粗食、いえ自然食を好むのも当然でしょう。草木を見分けるのも生きるための術、痩せて細い体なのに絶妙なバランス感覚もこれで理由が判ろうと言うものです」

手紙の内容はエフクール侯爵家が更に負担をせねばならなくなった分をルシファーに何としても飲ませ、ノースレスト王国の利益にせよとあって最早頼みではなく命令の文面。

その事が片付けば元々ルシファーと結婚をするのはエミリアだったのだから速やかに交代をする事とあった。しかも書面上の夫婦なのでエミリアをマジョリカとし、マジョリカ本人はノースレスト王国でもウェストレスト王国でもない別の国に行き息を潜めて暮らすようにとも書いてある。


「私が留守の時にマジョリカに客があっても通さず追い返せ。私は父上の元に行く」

「畏まりました」

ルシファーは怒り心頭で馬車に乗り込んで王城に向かう途中、籠を手に目の高さにある木の幹に巻き付いたツタから何かを採取しているマジョリカの姿が目に入った。

馬車の窓から流れていく姿が見えたのは2、3秒だったが、そんな短い時間でもルシファーの心が落ち着いていく。

ルシファーは胸に手を置き、マジョリカにとって何が最善なのか。手を尽くそうと誓ったのだった。
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