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第23話 恋は苦すぎて
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マジョリカは俄然やる気になり、庭にあるあらゆる草を採取してきてはせっせと洗い、葉っぱ、茎、根など部位に分けてそれぞれを乾燥させる、乾燥と炒り、炒りのみなどで大量の茶の元となる物体を作っていく。
そしてあんなに面倒な男だなと思っていたのに、こうなってみるとルートが来るのを待ちわびてしまっていた。
「ルート様!!お待ちしておりましたわ。さぁお座りくださいませ」
「あ、あの…ちょっと一昨日の茶でまだ下げてるんだ」
「大丈夫ですよ。中一日置いたじゃないですか。今日は14種類飲んで頂きますよ」
マジョリカに容赦という言葉はない。
無意識でも楽しみにしていた茶の時間が苦痛でしかない。
離れにやって来ると最低でも3リットルほど色んな味の「茶もどき」を試飲せねばならないのだ。
――意味はかなり違うが我儘令嬢であるのは間違いないな――
そう思いつつ、今日の1杯目を飲む。
「ん?これはなかなか旨い。香りも爽やかだな。私は好みだ」
「まぁ!そうですの?カメリア シネンシスを見つけたので作ってみたんです」
「カメリ…あぁ母上が植えてたな」
「ルート様のお母様が?庭師をされていたのですか?」
するどい私的にルシファーは現王妃が植えたとは言えず、ここではない場所で自分の家だと誤魔化した。
――ここが私の家でもあるんだがな。最近嘘ばかり吐いてるな――
「そうなのですね。この葉は千切ってきて蒸したんです。そのまま冷まして頑張って揉みました!それで少しだけミントを混ぜてみたんです」
マジョリカは手振りで千切った、蒸した、揉んだと嬉しそうに語る。
そんなマジョリカを見てルシファーはもう一口茶を口に含み飲み込む。スッキリとした味でどことなく冷感もあるのに胸の奥がジワリと温かくなった。
「もう!そんなに私を見てもダメですよ?2杯目はもう決まってるのでおかわりはダメですからね」
「え?‥‥そんなに見ていたのか?」
「はい。なんだか…いつものルート様と違ってなんていうか…嬉しそうな顔でしたよ?」
「そ、そうなのか…ちょっと待ってくれ」
ルシファーは自分がそんな顔をしていたとは思いもしなかった。
もう一度マジョリカと目が合うと顔に熱を持ってくるのが自分でもわかる。
――なんだ。この感情――
心臓が耳の隣にあるのではないか。それくらいドクンドクンと耳の近くで音がする。
「大丈夫ですか?体温を上げる効果はそこまでないと思ったんですけど」
不意にルシファーの頬をマジョリカの手のひらが包んだ。
カッとルシファーの全身が更に熱くなった。
「ごめんなさい。でも顔が真っ赤。熱があるんじゃないかしら」
「大丈夫だ…君の手はひんやりして気持ちがいい」
「やっぱり。一昨日の松の樹皮は良くなかったのかも」
「そうでもない。ちゃんと飲めた」
ルシファーの頭の中は大混乱していた。
マジョリカの触れた手が気持ちいいと感じる自分がいることも信じられなかったし、もっと触れていたいと思う自分も信じられないが離したくない自分もいる。
女性に対しての嫌悪はマジョリカに対しては一切感じない。
――女性として意識をしていないからか?――
そう思って不謹慎だと思いつつもマジョリカの胸元を見て更に全身が熱くなる。
マジョリカの女性である部分を見ても嫌悪は感じず、むしろ抱きしめたいとすら感じる自分がそこにいた。
「ルート様、今日は止めましょう。本当にお顔が真っ赤だもの」
大丈夫だと言ったが、マジョリカはもう茶を出してはくれず宮にある部屋に戻って今日は休んでくれと言う。
「ここに居たいんだ」
「ダメです。あの日は毒味役って言ったけど本気じゃないです。体調が悪い時はしっかり休んでください」
人を呼ばれて離れを出なければならなくなったが、宮に帰り先ほどの症状が治まるかと思えばそうではない。マジョリカに会いたくて堪らないのだ。
かなり早く宮に戻ってきたルシファーを見てモンテストは何故かうんうんと頷いている。
「気付いていたのか?」
「どうでしょう。ですが今までの女性への対応とは違っているのは解りました」
「そうか」
「殿下も人の子。恋をするのですよ」
「私をなんだと思っていたんだ!しかし…これが恋なのか…甘くも無ければ苦しいだけだ」
「それは最初に突き放し、あんな手紙を送り、ご自身を騙ったからでは?」
ルシファーはモンテストを睨んだ。かの日も睨んだが今日は意味合いが違う。
モンテストの言葉に間違いはない。
全てが自分の行ったこと。苦しいのは当たり前だ。
こうなるとマジョリカに本当のことを打ち明けた時の反応が怖い。
こんなに自分が臆病者だと思ったことは無かった。
直ぐにまた離れに出向くとマジョリカに心配をさせてしまうため、行きたい、行きたいと思う気持ちを押さえ込んで5日の日を置いて離れに出向いたルシファーは離れの玄関を入る前に頭の中が真っ白になった。
今までまだ読めなかった1行目から順に…。
「1つ。3年経てば離縁するッ!クゥッ!!良い事言うわねぇ流石は王子様だわ」
「1つ。お互いの生活には干渉しないッ!されてるけどね!もうしないでよ!」
「1つ。王子妃としての仕事をする必要はないッ!ありがとう!おかげで好きな事させてもらってますぅ」
家の中からマジョリカがあの額に飾った手紙を読みあげる声と本音の言葉が聞こえてきたのだ。
まだお茶は飲んでないのに口の中も胸の奥も苦い味が広がっていった。
そしてあんなに面倒な男だなと思っていたのに、こうなってみるとルートが来るのを待ちわびてしまっていた。
「ルート様!!お待ちしておりましたわ。さぁお座りくださいませ」
「あ、あの…ちょっと一昨日の茶でまだ下げてるんだ」
「大丈夫ですよ。中一日置いたじゃないですか。今日は14種類飲んで頂きますよ」
マジョリカに容赦という言葉はない。
無意識でも楽しみにしていた茶の時間が苦痛でしかない。
離れにやって来ると最低でも3リットルほど色んな味の「茶もどき」を試飲せねばならないのだ。
――意味はかなり違うが我儘令嬢であるのは間違いないな――
そう思いつつ、今日の1杯目を飲む。
「ん?これはなかなか旨い。香りも爽やかだな。私は好みだ」
「まぁ!そうですの?カメリア シネンシスを見つけたので作ってみたんです」
「カメリ…あぁ母上が植えてたな」
「ルート様のお母様が?庭師をされていたのですか?」
するどい私的にルシファーは現王妃が植えたとは言えず、ここではない場所で自分の家だと誤魔化した。
――ここが私の家でもあるんだがな。最近嘘ばかり吐いてるな――
「そうなのですね。この葉は千切ってきて蒸したんです。そのまま冷まして頑張って揉みました!それで少しだけミントを混ぜてみたんです」
マジョリカは手振りで千切った、蒸した、揉んだと嬉しそうに語る。
そんなマジョリカを見てルシファーはもう一口茶を口に含み飲み込む。スッキリとした味でどことなく冷感もあるのに胸の奥がジワリと温かくなった。
「もう!そんなに私を見てもダメですよ?2杯目はもう決まってるのでおかわりはダメですからね」
「え?‥‥そんなに見ていたのか?」
「はい。なんだか…いつものルート様と違ってなんていうか…嬉しそうな顔でしたよ?」
「そ、そうなのか…ちょっと待ってくれ」
ルシファーは自分がそんな顔をしていたとは思いもしなかった。
もう一度マジョリカと目が合うと顔に熱を持ってくるのが自分でもわかる。
――なんだ。この感情――
心臓が耳の隣にあるのではないか。それくらいドクンドクンと耳の近くで音がする。
「大丈夫ですか?体温を上げる効果はそこまでないと思ったんですけど」
不意にルシファーの頬をマジョリカの手のひらが包んだ。
カッとルシファーの全身が更に熱くなった。
「ごめんなさい。でも顔が真っ赤。熱があるんじゃないかしら」
「大丈夫だ…君の手はひんやりして気持ちがいい」
「やっぱり。一昨日の松の樹皮は良くなかったのかも」
「そうでもない。ちゃんと飲めた」
ルシファーの頭の中は大混乱していた。
マジョリカの触れた手が気持ちいいと感じる自分がいることも信じられなかったし、もっと触れていたいと思う自分も信じられないが離したくない自分もいる。
女性に対しての嫌悪はマジョリカに対しては一切感じない。
――女性として意識をしていないからか?――
そう思って不謹慎だと思いつつもマジョリカの胸元を見て更に全身が熱くなる。
マジョリカの女性である部分を見ても嫌悪は感じず、むしろ抱きしめたいとすら感じる自分がそこにいた。
「ルート様、今日は止めましょう。本当にお顔が真っ赤だもの」
大丈夫だと言ったが、マジョリカはもう茶を出してはくれず宮にある部屋に戻って今日は休んでくれと言う。
「ここに居たいんだ」
「ダメです。あの日は毒味役って言ったけど本気じゃないです。体調が悪い時はしっかり休んでください」
人を呼ばれて離れを出なければならなくなったが、宮に帰り先ほどの症状が治まるかと思えばそうではない。マジョリカに会いたくて堪らないのだ。
かなり早く宮に戻ってきたルシファーを見てモンテストは何故かうんうんと頷いている。
「気付いていたのか?」
「どうでしょう。ですが今までの女性への対応とは違っているのは解りました」
「そうか」
「殿下も人の子。恋をするのですよ」
「私をなんだと思っていたんだ!しかし…これが恋なのか…甘くも無ければ苦しいだけだ」
「それは最初に突き放し、あんな手紙を送り、ご自身を騙ったからでは?」
ルシファーはモンテストを睨んだ。かの日も睨んだが今日は意味合いが違う。
モンテストの言葉に間違いはない。
全てが自分の行ったこと。苦しいのは当たり前だ。
こうなるとマジョリカに本当のことを打ち明けた時の反応が怖い。
こんなに自分が臆病者だと思ったことは無かった。
直ぐにまた離れに出向くとマジョリカに心配をさせてしまうため、行きたい、行きたいと思う気持ちを押さえ込んで5日の日を置いて離れに出向いたルシファーは離れの玄関を入る前に頭の中が真っ白になった。
今までまだ読めなかった1行目から順に…。
「1つ。3年経てば離縁するッ!クゥッ!!良い事言うわねぇ流石は王子様だわ」
「1つ。お互いの生活には干渉しないッ!されてるけどね!もうしないでよ!」
「1つ。王子妃としての仕事をする必要はないッ!ありがとう!おかげで好きな事させてもらってますぅ」
家の中からマジョリカがあの額に飾った手紙を読みあげる声と本音の言葉が聞こえてきたのだ。
まだお茶は飲んでないのに口の中も胸の奥も苦い味が広がっていった。
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