王子殿下にはわからない

cyaru

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第04話  第1執事モンテスト

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そんな事情のある結婚。
粗末な馬車に乗ってやってきたマジョリカを歓迎してくれる者など誰もいなかった。

第3王子とは言え結婚式を行わないなんて醜聞でしかなく、両国の国王は周辺国に対し昨年起こった洪水を理由にして「復興の途中のため、結婚式は延期」と通達を出した。

延期されただけで何時とは決まってはいない。
行う可能性の限りなく低い結婚式はそのうち周辺国も忘れてくれるだろうという希望的観測に縋るしかなかった。

下手に結婚式を行えば逃げ場を失ったルシファーが誓いの言葉で出家を口にするやも知れず行えない。
腐っても王族の結婚式のため、周辺の教会を管理する司祭ではなく総本山である正教会から大司教が来るのだからルシファーに発言を許す機会を与えてはならなかった。

お披露目の式を延期するだけで届を先に出す事で両国は合意をしたのである。

ルシファーの宮にマジョリカを送り、婚姻の届は両国の国王、そしてエフクール侯爵の署名で教会に提出され受理された。


到着した日が婚姻の日とされ、マジョリカと共にやってきた従者は婚姻の控えを手にすると全員が数日ウェストレスト王国の王都で宿泊はするものの、残る者はいない。

王子の妃として嫁いで来たのに、身の回りの世話をする者が誰一人いない異例の事態でも、両国は楽観視し「エフクール侯爵家が後から使用人を送るだろう」とやり過ごしてしまった。


実際にその場に立ち会ったルシファーの第1執事モンテストは乗ってきた馬車もさることながら護衛騎士も碌にいない一向に言葉を失った。

――まるで途中でと言わんばかりじゃないか――

が、そうは思っても「仕方がないか」と心で溜息を吐いた。



先日ルシファー宛にこの8年間ノースレスト王国のエフクール侯爵家の娘エミリアから月に1、2通届いていた束になった手紙を第2王子から預かってきた。

ルシファーの代わりに第2王子がルシファーのふりをして文通をしていたのだ。

正直、弟のふりをして手紙のやり取りをする第2王子に引いたが、国としても水の問題があるのでこの婚約を何としても結婚まで結び付けねばならないと考えたとすれば第2王子も嫌な役目をさせられたものだと同情した。

「ま、ご令嬢にありきたりな自分アゲ他人サゲ。内容としては…出がらしの茶よりも薄いぞ。返事を書くのに苦労した記憶しかない」

と、第2王子は言う。
ご愁傷様だ。


手紙によればエミリアは内向的と自分を分析していて、3か月しか誕生日の変わらない異母妹のマジョリカには家族も手を焼いていると書かれていた。

マジョリカの事はほとんどの手紙に ”お悩み相談” のていで、いかに自分がマジョリカを立派な淑女にするために日々奮闘をしているのかと言った自慢話には近かったが。

最後の手紙にはエミリアが大人しい事を良い事にマジョリカがルシファーから贈られた宝飾品を盗み、ドレスは切り刻まれて思い出が無くなってしまったが「羨ましいという嫉妬の気持ちからの行動なので私は許す」と書かれていた。

勿論事実無根でも他国の人間が知る由はない。

何故ならエフクール侯爵家のエミリアは末子だと思っていたので、その下に庶子だとしても妹がいるなんて調べても判らなかったのだ。

マジョリカの名前がでて初めてマジョリカの事を調べさせたが、エフクール侯爵家の使用人は調べられてしまうと幼子を気分のままに痛めつけていたことを知られるのは不味いので「マジョリカという子は知らない」と口を揃えて言った。

余程我儘で外には出せなかったのだろうと推測したのだった。


執事モンテストはこの手紙をエミリアが他の男の子供を身籠り、花嫁が入れ替わることを知らされた後に時系列に読んだので内容を鼻で笑ったが、思ったのは「母親が違っても姉妹揃ってご苦労な事だ」だった。

1を聞いて10を知る訳ではないが、マジョリカは妾腹の子と言っても生まれた時からエフクール侯爵家で育っているので育ちには大差なく、目糞鼻糞を笑うと同じでマジョリカもまたエミリアと一緒で貞操観念がなく、我儘な女なのだろうと考えたのである。

それはルシファーも同じでルシファーはそれでも水利権の為には仕方がない結婚だと書面上の関係だけで良い事、宮には住まわせるが生き死ににすら任せると言われたので、面倒事を起こさないように離れに捨て置き、食事すら自前で構えるようにとしたのである。

ただ、本当に何もしないとなれば聞こえが悪い。
悪い話は箝口令を布いたとしても何処からか漏れてしまうので最低限の生活費だけは支給する事にした。

身に纏っている衣類はそれなりの品だが馬車が粗末なのはエフクール侯爵家もそれだけマジョリカには手を焼いてきて、これ以上してやることはないと最後の情けだろうと考えた。

モンテストにも子供がいる。幸いに多少の反抗期はあったものの常識を持ち、聞き分けの良い子に育ったが知り合いの中には我が子と言えど素行の悪さに親子の縁を切った者だっている。

親にも我慢の限界はあるし、庶子のマジョリカにしてやることの限界が来たのだろうと思えばこの状況も納得が出来た。



「どうぞ、こちらへ」

到着したマジョリカの荷物はまだ同行した従者がいたため、6人が1つづつ手に取りルシファーの宮で使用人を統括している執事に先導されて庭を歩く。

歩いた先にあったのは暫く使われていなかったであろう離れだった。
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