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第33-3話 幸せな事って③
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フランシスの元にパンジーがやって来たと聞いて国王は執務など放り出し、フランシスと王太子、パンジーとクレマン、そしてヘレンがパンジーの介助をする場にやって来た。
「おぉ!これはこれは。そなたがユゴース侯爵家の!」
「初めてお目にかかります。体調がまだ回復しておりませんのでこのままで失礼を致します」
「気にせんでも良い。どうだ?私の部屋で茶会の続きをしてはどうだろう」
「父上、失礼でしょう。幾ら国王と言えど突然やって来て場所を変えろだなど!後で挨拶に参りますので母上とお待ちください」
「おぉ、そうかそうか。楽しみにしているぞ」
軽い足取りで去って行く国王。あの笑顔の裏でとんでもない事を考えてたと思うと、まだ強欲な宿屋の女将の方が最初から態度が変わらない分可愛く見える。
「本当にやるのか?」
フランシスは不安げに尋ねたがパンジーは「はい」と笑顔で答えた。
「頼んでいたアレは・・・どうでしょう?」
「問題ない」
クレマンとヘレンは何の事だが判らなかったが、「では参りましょうか?」どうやら王太子妃も知っているようで、声が弾んでいる。
5人はフランシスを先頭に国王の待つ部屋に向かった。
「おぉ!待っていた。さ、さ、こちらに座り直しなさい」
「いえ、転落を防ぐためにベルトでも固定をしていますので。お気持ちだけ頂戴致します」
国王の向かいのソファ。側には護衛の騎士がずらりと並ぶ。
これではクレマンとフランシスが抵抗してもあっという間に抑え込まれてしまうだろう。
「実はだな・・・フランシスから聞いたのだが・・・」
切り出した国王にパンジーは「存じております」と笑顔で返した。
「そうか!引き受けてくれるか!」と、満面の笑みの国王
「いいえ?」と、軽く返すパンジー。
「お話は伺いましたが、本当に私なのでしょうか?試してみたのですが、どうしたものかと」
「どうしたものとは・・いったい・・・」
「話すよりも見る方が確実だと思います。百聞は一見に如かずと申しますでしょう?」
「そうだな。うん。見せてくれるのか?」
「はい」
パンジーに国王が気を取られている間に王太子妃はヘレンにさっき集めたものが入った袋の口を開けろと言った。
フランシスはクレマンに、袋の中身を部屋に飛ばせと言った。
「では・・・実はこの魔法。私一人では出来ないのです。ただ水を垂れ流すだけになるので、夫に手に取りやすいように玉にして頂きます」
「失礼をします」
クレマンは国王と王妃の前に出された茶器の茶を玉にしてみせた。
「どうぞ、お口に含んでみてください。ご存じの通り私の魔力は火の系統。私は包む事しか出来ませんので」
「そうだったな・・・どれ1つ」
パクリと口に含んだ国王と王妃。中身はさっき飲んだ茶だった。
「では、出しますね。うーん!!!えぇぇーーい!!」
パンジーの手から水がジワリとあふれ出す。クレマンはその水に魔力をかけるふりをして、自分の魔力を纏わせた袋に入ったアノ水の玉を部屋の中に浮かせた。
「触れると弾けてしまいますのでご注意ください」
そう聞いた国王と王妃は、「浄化」の水を浴びる事が出来るのだ!と次々に水の玉に触れた。
パチン!!プチン!!
1つは少量でも手に届く玉、全てに触れた国王と王妃の上に騎士の足を洗ったり、汗を流した水、御不浄の便槽を掃除した水がバシャバシャと降りかかった。
「うわっ!!なんだこれは!!」
「臭い!!なんなのっ!!御不浄の香りがするわ!」
「私を謀ったのか!!」
汚水でびしょ濡れになった国王はパンジーに前のめりになったが、パンジーは慌てない。
「私の魔力はこのようなものなのです。きっと・・・勘違いをされておられます」
「勘違いだとっ!」
「はい、私には妹がいるのですが、いつも不幸だ不幸だと申しておりまして。きっと自分の偉大な力を私の物と勘違いをしていたようなのです。生まれた時から女神の申し子と呼ばれていたカトレア。ご存じで御座いましょう?」
「カトレア・・・あぁ!知っておる!赤子の時からそれは透き通るような肌だった」
「はい、ですから陛下のお探しされている者は妹だと思うのです」
「だが!あの娘はオレール村にはいなかったぞ」
「それも勘違いです。妹はオレール村に来ております。しかも18日という長期。きっと定期的にきて浄化をしていたのでしょう。妹の滞在は憲兵団でも確認は取れているはずです」
「いや、しかし・・・」
そして、フランシスはまだ疑いの目を向ける国王の前に「カトレアをここへ」と声をかけた。
「お姉様っ!!まだわたくしを!!どうしてこんなにわたくしは不幸なの!!」
「いいえ、カトレア。貴女を陛下が認めてくださるのよ?」
「え?陛下が」
「そうよ。だから頑張って水を出してみて。水の魔法、使えるでしょう?」
ここまで来てクレマンは「あぁ!」と気が付いた。
パンジーと視線を交わすとパンジーが頷いた。
カトレアを国王の前に立たせると、カトレアは手に力を込めて唸り出した。
「ふん!ぬぬぬぬぅ~」
その後ろでパンジーは水を出し、クレマンはすかさずその水を玉にしてカトレアの周りを覆った。
国王と王妃は恐る恐るその玉を手に取った。
プチン!
玉が弾けると浄水が国王の手にかかる。
あっという間に皺やシミも消えていく手。国王と王妃は歓喜の叫びをあげた。
「素晴らしい!カトレアと言ったな!特別に私の部屋の隣に住まう事を許す!」
国王の言葉に騎士達が動き、甲冑が音を立てた。
国王と王妃を見るフランシスの目は冷ややかだった。どこか諦めも感じさせる。
誰もが肌トラブルに悩まされてきた。
城の水を浄化させるためにパンジーを囲うつもりかと思っていたが、その恩恵を「老い」を改善する事に私情でも使うつもりだったとは。それが私室の隣に囲うと言うことでもある。
悲しいよりも情けないとフランシスは感じた。
王太子妃はそんなフランシスにそっと寄り添った。
騎士の動きにパンジーの乗った車椅子をヘレンが少し後ろに引いた。
「良かったわね。カトレア。貴女の力・・・陛下もお喜びだわ」
パンジーが声をかけるとカトレアは車椅子のパンジーを見下ろし、笑い始めた。
「わたくしって‥‥わたくしって・・・フハハ!ハハハ!」
「どうしたの?カトレア?」
「どうしたですって?!立場の違いを教えてあげる!目障りよ!出て行って!」
「カトレア・・・」
「もう不幸じゃないわ!国王陛下のお抱えよ!我慢した甲斐があったと言うものよ。これからは王宮暮らし・・・アハハっ!何時までもシケた顔を見せないでよ!」
カトレアはパンジーの乗った車椅子を思い切り蹴飛ばそうとして、間に入ったクレマンの足を蹴った。
カトレアも結局は変わらない。
「帰ろうか」というクレマンの声に「ごめんなさい。妹が‥」言いかけてクレマンは「謝るのは無し!」と微笑んだ。変わるはずがないとは思ったがパンジーは「じゃぁね」と部屋を後にした
「あれで良かったのか?」
「いいんじゃないかしら。本人は喜んでいたし‥」
クレマンが振り返ればフランシスが国王の私室のある一帯を封鎖するよう指示を出していた。
カトレアに力はない。妹に非道な事をする姉だと思われるかも知れないが、カトレアのした事を考えれば罰も受けねばならない。アランは死罪も同義。そこに嵌めたカトレア。
国王を謀ったとなれば待っているのは死罪か。
――それは私も同じね――
そう思った時、フランシスが駆けてきた。
「父上と母上は暫くすれば目も覚めるだろう。その後は北の塔にでも籠って貰う。妹は・・・余罪も多い。長く苦しむことになるだろうが・・・暫くは浄化の魔力が使えると言うことで道化となって貰うよ。生きているうちに魔法に頼らずに浄化方法が見つかるといいんだけどね」
パンジーはその言葉に少しだけ安堵した。
道化になればまた不幸だと嘆くかも知れないが、どんな扱いを受けるかは別として夢の王宮暮らし。カトレアも本望だろう。
カラカラと回廊を通って行くクレマンとパンジー、そしてヘレン。
「今日は・・・良い返信が出来そうだ」
「あら?そうなの?今日は私が書く番かと思ったけど」
「書いてくれるのかっ?!」
「そうねぇ‥今日は変わった水の玉があったでしょう?中身はちょっと・・・なんだけど私、結構好きなの」
「お気に召したならいつでも!」
「じゃ、ノートを持って来て下さる?書きたい事があるの。でも・・・」
「するよ!今度こそ・・・君に思いを込めて返信を書くよ」
「えぇー!書かずに話しましょうよ!まだ文字全部判らないんですよぅ」
むくれるヘレン。
しかし、こっそりヘレンはサンドラとノートを交換している事をクレマンは知らない。
そして、サンドラとしてヘレンが文字を覚える度に成長していく姿を見るのが楽しみにもなっている。
同じように、クレマンが「30分ですよ!」と言われながらも来てくれるのを心待ちにしているパンジーがいるのも心の中に感じている。
婚約の時に逃げるように戦地に向かったクレマン。卑怯だとは思うけれどあのままカトレアとクレマンが結婚をしてればあの時、カトレアは既にアランと関係があったのだからユゴース侯爵家もどうなったか判らない。
離縁届を置いて出て行ってしまったけれど、それでも5年の間探してくれた。
こんなに自分の事を好きだと言ってくれる人にももう巡り合えないだろう。
許すかどうかは・・・フレッシュなジュースを水の玉にしてもらって考えるのも幸せかな?
パンジーは小さく微笑んだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもない。幸せも玉にして食べられるといいなと思って」
「パンジーの頼みならお安い御用さ」
★~★
「これっ!書いてくれたんだ!?」
「ふふっ?今、言って欲しい?」
「いや、1人になって読むよ」
クレマンは部屋に戻り、ゆっくりとノートを開いた。
「置手紙をしなくていいように、言葉でも文字でも会話がしたいです」
クレマンは文字を見て返事がある事がこんなにうれしいとは思わなかった。
返信を待ちわびたパンジーの幸せをその度に奪ってしまった。
もう二度と放置するような事はしない。
こんなに短い文章でも幸せなんだとクレマンはノートを抱きしめた。
そして一番最初の見開きを開け、この幸せを手放す事はしない、貼り付けた離縁状に誓い、今感じた気持ちを返信で書いた。
Fin
★~★
長い話にお付き合い頂きありがとうございました。
イエロー信号・・・本物でした。ごめんなさい<(_ _)>
この後コメントの返信をします。
いつもお待たせしますが、首を長~くしてお待ちいただけると嬉しいです(*^-^*)
読んで頂きありがとうございました。
「おぉ!これはこれは。そなたがユゴース侯爵家の!」
「初めてお目にかかります。体調がまだ回復しておりませんのでこのままで失礼を致します」
「気にせんでも良い。どうだ?私の部屋で茶会の続きをしてはどうだろう」
「父上、失礼でしょう。幾ら国王と言えど突然やって来て場所を変えろだなど!後で挨拶に参りますので母上とお待ちください」
「おぉ、そうかそうか。楽しみにしているぞ」
軽い足取りで去って行く国王。あの笑顔の裏でとんでもない事を考えてたと思うと、まだ強欲な宿屋の女将の方が最初から態度が変わらない分可愛く見える。
「本当にやるのか?」
フランシスは不安げに尋ねたがパンジーは「はい」と笑顔で答えた。
「頼んでいたアレは・・・どうでしょう?」
「問題ない」
クレマンとヘレンは何の事だが判らなかったが、「では参りましょうか?」どうやら王太子妃も知っているようで、声が弾んでいる。
5人はフランシスを先頭に国王の待つ部屋に向かった。
「おぉ!待っていた。さ、さ、こちらに座り直しなさい」
「いえ、転落を防ぐためにベルトでも固定をしていますので。お気持ちだけ頂戴致します」
国王の向かいのソファ。側には護衛の騎士がずらりと並ぶ。
これではクレマンとフランシスが抵抗してもあっという間に抑え込まれてしまうだろう。
「実はだな・・・フランシスから聞いたのだが・・・」
切り出した国王にパンジーは「存じております」と笑顔で返した。
「そうか!引き受けてくれるか!」と、満面の笑みの国王
「いいえ?」と、軽く返すパンジー。
「お話は伺いましたが、本当に私なのでしょうか?試してみたのですが、どうしたものかと」
「どうしたものとは・・いったい・・・」
「話すよりも見る方が確実だと思います。百聞は一見に如かずと申しますでしょう?」
「そうだな。うん。見せてくれるのか?」
「はい」
パンジーに国王が気を取られている間に王太子妃はヘレンにさっき集めたものが入った袋の口を開けろと言った。
フランシスはクレマンに、袋の中身を部屋に飛ばせと言った。
「では・・・実はこの魔法。私一人では出来ないのです。ただ水を垂れ流すだけになるので、夫に手に取りやすいように玉にして頂きます」
「失礼をします」
クレマンは国王と王妃の前に出された茶器の茶を玉にしてみせた。
「どうぞ、お口に含んでみてください。ご存じの通り私の魔力は火の系統。私は包む事しか出来ませんので」
「そうだったな・・・どれ1つ」
パクリと口に含んだ国王と王妃。中身はさっき飲んだ茶だった。
「では、出しますね。うーん!!!えぇぇーーい!!」
パンジーの手から水がジワリとあふれ出す。クレマンはその水に魔力をかけるふりをして、自分の魔力を纏わせた袋に入ったアノ水の玉を部屋の中に浮かせた。
「触れると弾けてしまいますのでご注意ください」
そう聞いた国王と王妃は、「浄化」の水を浴びる事が出来るのだ!と次々に水の玉に触れた。
パチン!!プチン!!
1つは少量でも手に届く玉、全てに触れた国王と王妃の上に騎士の足を洗ったり、汗を流した水、御不浄の便槽を掃除した水がバシャバシャと降りかかった。
「うわっ!!なんだこれは!!」
「臭い!!なんなのっ!!御不浄の香りがするわ!」
「私を謀ったのか!!」
汚水でびしょ濡れになった国王はパンジーに前のめりになったが、パンジーは慌てない。
「私の魔力はこのようなものなのです。きっと・・・勘違いをされておられます」
「勘違いだとっ!」
「はい、私には妹がいるのですが、いつも不幸だ不幸だと申しておりまして。きっと自分の偉大な力を私の物と勘違いをしていたようなのです。生まれた時から女神の申し子と呼ばれていたカトレア。ご存じで御座いましょう?」
「カトレア・・・あぁ!知っておる!赤子の時からそれは透き通るような肌だった」
「はい、ですから陛下のお探しされている者は妹だと思うのです」
「だが!あの娘はオレール村にはいなかったぞ」
「それも勘違いです。妹はオレール村に来ております。しかも18日という長期。きっと定期的にきて浄化をしていたのでしょう。妹の滞在は憲兵団でも確認は取れているはずです」
「いや、しかし・・・」
そして、フランシスはまだ疑いの目を向ける国王の前に「カトレアをここへ」と声をかけた。
「お姉様っ!!まだわたくしを!!どうしてこんなにわたくしは不幸なの!!」
「いいえ、カトレア。貴女を陛下が認めてくださるのよ?」
「え?陛下が」
「そうよ。だから頑張って水を出してみて。水の魔法、使えるでしょう?」
ここまで来てクレマンは「あぁ!」と気が付いた。
パンジーと視線を交わすとパンジーが頷いた。
カトレアを国王の前に立たせると、カトレアは手に力を込めて唸り出した。
「ふん!ぬぬぬぬぅ~」
その後ろでパンジーは水を出し、クレマンはすかさずその水を玉にしてカトレアの周りを覆った。
国王と王妃は恐る恐るその玉を手に取った。
プチン!
玉が弾けると浄水が国王の手にかかる。
あっという間に皺やシミも消えていく手。国王と王妃は歓喜の叫びをあげた。
「素晴らしい!カトレアと言ったな!特別に私の部屋の隣に住まう事を許す!」
国王の言葉に騎士達が動き、甲冑が音を立てた。
国王と王妃を見るフランシスの目は冷ややかだった。どこか諦めも感じさせる。
誰もが肌トラブルに悩まされてきた。
城の水を浄化させるためにパンジーを囲うつもりかと思っていたが、その恩恵を「老い」を改善する事に私情でも使うつもりだったとは。それが私室の隣に囲うと言うことでもある。
悲しいよりも情けないとフランシスは感じた。
王太子妃はそんなフランシスにそっと寄り添った。
騎士の動きにパンジーの乗った車椅子をヘレンが少し後ろに引いた。
「良かったわね。カトレア。貴女の力・・・陛下もお喜びだわ」
パンジーが声をかけるとカトレアは車椅子のパンジーを見下ろし、笑い始めた。
「わたくしって‥‥わたくしって・・・フハハ!ハハハ!」
「どうしたの?カトレア?」
「どうしたですって?!立場の違いを教えてあげる!目障りよ!出て行って!」
「カトレア・・・」
「もう不幸じゃないわ!国王陛下のお抱えよ!我慢した甲斐があったと言うものよ。これからは王宮暮らし・・・アハハっ!何時までもシケた顔を見せないでよ!」
カトレアはパンジーの乗った車椅子を思い切り蹴飛ばそうとして、間に入ったクレマンの足を蹴った。
カトレアも結局は変わらない。
「帰ろうか」というクレマンの声に「ごめんなさい。妹が‥」言いかけてクレマンは「謝るのは無し!」と微笑んだ。変わるはずがないとは思ったがパンジーは「じゃぁね」と部屋を後にした
「あれで良かったのか?」
「いいんじゃないかしら。本人は喜んでいたし‥」
クレマンが振り返ればフランシスが国王の私室のある一帯を封鎖するよう指示を出していた。
カトレアに力はない。妹に非道な事をする姉だと思われるかも知れないが、カトレアのした事を考えれば罰も受けねばならない。アランは死罪も同義。そこに嵌めたカトレア。
国王を謀ったとなれば待っているのは死罪か。
――それは私も同じね――
そう思った時、フランシスが駆けてきた。
「父上と母上は暫くすれば目も覚めるだろう。その後は北の塔にでも籠って貰う。妹は・・・余罪も多い。長く苦しむことになるだろうが・・・暫くは浄化の魔力が使えると言うことで道化となって貰うよ。生きているうちに魔法に頼らずに浄化方法が見つかるといいんだけどね」
パンジーはその言葉に少しだけ安堵した。
道化になればまた不幸だと嘆くかも知れないが、どんな扱いを受けるかは別として夢の王宮暮らし。カトレアも本望だろう。
カラカラと回廊を通って行くクレマンとパンジー、そしてヘレン。
「今日は・・・良い返信が出来そうだ」
「あら?そうなの?今日は私が書く番かと思ったけど」
「書いてくれるのかっ?!」
「そうねぇ‥今日は変わった水の玉があったでしょう?中身はちょっと・・・なんだけど私、結構好きなの」
「お気に召したならいつでも!」
「じゃ、ノートを持って来て下さる?書きたい事があるの。でも・・・」
「するよ!今度こそ・・・君に思いを込めて返信を書くよ」
「えぇー!書かずに話しましょうよ!まだ文字全部判らないんですよぅ」
むくれるヘレン。
しかし、こっそりヘレンはサンドラとノートを交換している事をクレマンは知らない。
そして、サンドラとしてヘレンが文字を覚える度に成長していく姿を見るのが楽しみにもなっている。
同じように、クレマンが「30分ですよ!」と言われながらも来てくれるのを心待ちにしているパンジーがいるのも心の中に感じている。
婚約の時に逃げるように戦地に向かったクレマン。卑怯だとは思うけれどあのままカトレアとクレマンが結婚をしてればあの時、カトレアは既にアランと関係があったのだからユゴース侯爵家もどうなったか判らない。
離縁届を置いて出て行ってしまったけれど、それでも5年の間探してくれた。
こんなに自分の事を好きだと言ってくれる人にももう巡り合えないだろう。
許すかどうかは・・・フレッシュなジュースを水の玉にしてもらって考えるのも幸せかな?
パンジーは小さく微笑んだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもない。幸せも玉にして食べられるといいなと思って」
「パンジーの頼みならお安い御用さ」
★~★
「これっ!書いてくれたんだ!?」
「ふふっ?今、言って欲しい?」
「いや、1人になって読むよ」
クレマンは部屋に戻り、ゆっくりとノートを開いた。
「置手紙をしなくていいように、言葉でも文字でも会話がしたいです」
クレマンは文字を見て返事がある事がこんなにうれしいとは思わなかった。
返信を待ちわびたパンジーの幸せをその度に奪ってしまった。
もう二度と放置するような事はしない。
こんなに短い文章でも幸せなんだとクレマンはノートを抱きしめた。
そして一番最初の見開きを開け、この幸せを手放す事はしない、貼り付けた離縁状に誓い、今感じた気持ちを返信で書いた。
Fin
★~★
長い話にお付き合い頂きありがとうございました。
イエロー信号・・・本物でした。ごめんなさい<(_ _)>
この後コメントの返信をします。
いつもお待たせしますが、首を長~くしてお待ちいただけると嬉しいです(*^-^*)
読んで頂きありがとうございました。
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環境が、魔素で環境汚染されてるのに、そこを改善する事も考える事もしなく戦争して奪う事しか考えない王。
結局、奪う側の思考しかない残念な愚王。
なら、王太子の方が、まだマシだわ。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
リアルでも昔の為政者とかは不老不死に執着してたりしましたしね(;^_^A
徳川家康の趣味が薬作りなのは有名ですけども、嘘かホントが不老不死を目指してたとか聞いたことがあるような‥。
でも解る気がするんですよ。動乱の時代、幼い頃から人質になって肩身の狭い思いをしつつ、戦の敗戦も忘れないように恥ずかしい姿を絵に残しで、将軍に登りつめて日本初のエンピツとかメガネとか誰よりも早く手に入れたり面白かったと思うんですよねぇ。今は鉛筆もメガネもありふれてますけど「なんじゃこれ?」って時代なので(笑)日本の何処でも買い物ができる貨幣の統一とかもですし、思うようになって行く世の中を見たら死にたくねぇなって思っちゃったのかなとか(笑)まぁ、所説あるので推測ですけども(笑)
年を重ねて知る事もあるし、「あ、そうだったんだ!」って新しく知る事もありますけども、行きつくところは諸行無常で御座いますよ(*^_^*)
この国王は民の事など何も考えていなくて、パンジーを閉じ込めて自分のためだけに魔法を使わせようとします。
フランシスは逃げろと言いますけども、パンジーは国王さえ嵌めちゃう(笑)
アンタのせいで汚れてるんだよと御不浄の掃除後の水をプレゼント。弾けた時の臭さは相当だったかと(笑)
これからは偽物魔法使いのカトレアが精一杯浄化をしてくれるので、塔に幽閉されても幸せ化も(爆)
楽しんで頂けて良かったです♡
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>
cyaruさんの作品で読んでなかった作品を、ポケ〜っ🍺と読んでおります😄
結局フランシス王子が1番の元凶なのかな〜? と思いつつ。。。
んー。
侯爵父とクレマンとの意思疎通が上手く行ってなかったのが、最初の誤算???か〜?
それってクレマンの失態になるのかなー。
キチンと姉妹のどちらが息子の想い人か確認しないで
妹(名前も言いたくない位に中々な気持ち悪いヤローだ〜ね?
cyaruさんの描き方が上手過ぎて、ほんま気持ち悪いヤツ🤮)
と婚約させた父の方が、
むしろ貴族として失態だと思うんだよね〜。
だって、情報の精査は貴族の鉄板でしょ???
定位貴族とか噂どーのと書いてあったけど、
目の前で礼拝してたらさー、服装とか色合いとか髪型とかで確認なんてスグに出来るのにー
ソレをしない(ホンマ笑)
cyaruさん的には、クレマン父に対しての、そこも描いていたのかも?と、思った次第です。
人とは、見えている物しか見えないものです。
しかも、自分に都合のいいものだけを。
他作品での再読物も、何気に世代が同じなのか、面白すぎて、
ゲラゲラ ウキャキャ🤣🤣🤣
と読んでる最中です(笑)
ウゥ〜ウォンテッド!
はうめに~いい~かお〜(笑)
とか、ウケまくり🤣🤣🤣🤣🤣🤣
昭和、良いですよね〜
ベントレーとかは、あまり詳しくなくてェェェ!
ごめんなさい(_ _;)
コメントありがとうございます。<(_ _)>
クレマンとパンジーの行き違いはフランシスの余計なお節介が一因でもあります。
だけど、クレマンも完全な被害者か?と言えばそうでもなく。
婚約を申し込む時も、パンジーとカトレア。顔と名前を一致させずに人任せにしてますしね。
クレマンはパンジーを女神かのように思っていましたけど、周囲はそれを聞いたらカトレアって思っちゃいますしね。
パンジーの父もコメント頂いているように見えてるものが全て。
花が綺麗に咲いていれば、「綺麗に咲いた花」だけを見て、誰かが世話をしたとは考えないし、部屋の中が整理整頓されているのも結果だけを見て過程を考えない。それがパンジーの父(笑
物事は縁の下の力持ちがいてこそ…なのです(*^_^*)
ワシはついつい昭和と平成を放り込んでしまうのですよ~(;^_^A
時々、極まれに入れないのもあるんですけども、98%くらいの確率で放り込んでいます(笑)
何と言いますか、創作話なんですけども読んでくださっている方がキャラに親しみと言いますかね、今回パンジーがサンドラと名前を変えたりするんですけども、「こんなことあったら、私もエリザベスって名前にするわ~」「名前変えてでも逃げるよネ~」って共感して頂けたらなと。他にも方法はあるかも??ですけど、ほら、ワシ、外道なので(笑)
この後も楽しんで頂けると嬉しいです(*^_^*)
タグが奥様シリーズになっておりましたので、ニャンコ先生の妻ではなく
奥様
と入れてみました(爆)
厳島神社…❤️
素晴らしかった。
大鳥居は干潮で大鳥居の足元迄行くこともできたのですが、人が多くてやめました。綺麗に修復された神様の通り道を間近で見たかった…(´Д⊂ヽ
昔の人はホント凄いなぁと神社や城を見るたび思います🙆
また機会があったら行きたい場所の1つです❤️
もっとゆっくりじっくり見て歩きたかったのですが、如何せん修学旅行と外国の方々の多いこと
( ̄▽ ̄;)
仕方ないか。
G7もやったし、世界中から注目の的だもの。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
そうですねぇ…広島は外国人観光客も多いけど修学旅行の行き先でもあるんですよねぇ。
ワシは西日本住みなので、小学校、中学校の修学旅行は広島県と長崎県は必須でした。
でも時代は変わるんですよねぇ…。
娘は沖縄でしたよ。ひめゆりの塔とか行ったそうですけどもね。
修学旅行に飛行機なんて_| ̄|○
ワシは汽車とバスだった‥‥そう、当時は汽車だったんです。
高校生の時に部活の遠征で上野発の夜行列車も乗りましたよ~その後青函連絡船でデッカイドーまで(笑)
昔の人は「こんなところに?!」って所にも建物(神社とか)建ててますもんね。
満ち潮で回廊に海水が上がって来るのに修繕とか補修だけってのも凄いし、何故この地を選んだのかとか、どうしてこんな造りにしたんだろうとか…夢とロマンも御座いますよ(*^-^*)
広島の旅、お疲れ様でございました(*^-^*)