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第33-2話 幸せな事って②
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「コソコソするのは性に合いません。心配されるのは解りますよ?珍しい魔力なんですよね。染料で染めた洗い物も、オレール村の事もなるほどって思います。だけどそれで逃げるって言うのは問題を先送りにする事になるだけです」
パンジーは人差し指をピっと立てて「いい方法があります」と言った。
「見ての通り私はまだ寝台から出られないんです。ヘレンと歩く練習は始めてるんですが、立つだけでやっとです。私ほどの魔力を持つ人はいないのでしょう?ならあの眠り草と同じです」
「どんな後遺症が判らなかったと言うことか?」
「そうです。フランシス殿下が慌てているのは国王陛下のやり方は良くないと思っていらっしゃるからなのでしょう?」
「そうだが・・・しかし父上は横暴なんだ」
「横暴でもです。フランシス殿下の御言葉を借りるならおそらく私が城にいる間はそれだけで水などが浄化をされる。そうですね?」
「そう言うことだが?」
「幸か不幸か私はまだ満足に回復をしていません。城へはヘレンとクレマン様と参りますので、殿下は先に戻られて、私達を迎える準備をしてください。出来れば陛下とお話をする時間があると楽しいかも??」
「何をするんだ?」
「お話をするだけです。この力には価値がないと判って頂けるよう誠心誠意。そしてフランシス殿下にはもう1つお願いがございます」
ごにょごにょとパンジーはフランシスだけに続きの言葉を耳打ちした。
「痛い所を突いてくる。承知したが下手をすると父上は大勢の前で恥をかく。無茶だぞ!」
「恥をかくのが嫌でお客様から逃げる従業員はいません。平民に出来るんですから陛下にだって出来ます。出来ないのなら、フランシス殿下、貴方が代わりに玉座にお座りになれば良いのです。何事も適材適所です」
にこりと笑うパンジーにフランシスは頭を下げた。
「こんな時にだが、クレマンへの手紙を勝手に・・・私情で止めていたのは私だ。指揮官であるクレマンの士気を落としたくなかった・・・と言うのは言い訳で・・・誤解をしたまま余計な事をしてしまった」
「それは私にではなくクレマン様に。だって侯爵家から荷物は受け取っていたでしょう?ありがとう、助かるよ。その一言でもあればこちらは問題なかったのです」
「参ったな・・・妃にどやされるわけだ」
フランシスはクレマンの肩に軽く手を乗せ「城で待ってる」と告げた。
「何を話したんだ?!」
「今は秘密です。クレマン様も頼みますね。魔力が尽きないようにしないと!」
「何をすればいいんだ?」
「そうですね…また水の玉を出してください」
「あ、あんなものでいいのか?」
「えぇ。クレマン様でないと作れませんから。ヘレンもお願いね」
「私も何かするんですか?」
「勿論よ」
城から騎士が来て、勅令により登城となればどんな部屋に押し込められるか判らない。
一足先に城に戻ったフランシスは「客人を迎える用意を」と部屋を1つ準備させた。呼び出しに応じた騎士達が集まり始める頃に、ユゴース侯爵家の馬車が城の正門をくぐる。
馬車を引く馬にウィー号はいない。
「ウィー号元気かしら」
「あいつは食いしん坊だからな・・・他の馬の飼い葉も食べてるんじゃないかな」
★~★
「ブェック・・・ブルル・・・ブル?」
★~★
ユゴース侯爵家の馬車が到着したと聞いて国王は騎士達を解散させた。
「なんだよ。来いと言ったり帰れと言ったり」
「今日は直帰出来ると思ったのになぁ…アテが外れたぜ」
騎士達は召集が掛かると、重くて蒸せる甲冑を纏わねばならない。
痒みのある体。蒸せて痒くなっても掻く事もままならない。身に着けるにも一苦労の甲冑。文句の一つも言いたくなると言うもの。
馬車を止めた場所から目的の場所までは騎士団の鍛錬場を横目に回廊を通る。
クレマンはパンジーを車椅子という車輪のついた椅子に乗せ進んでいた。
「クレマン様の玉は魔力で包んだ時に中身に変化はあるんですか?」
「ないな。膜も水と言えば水だがその周りを俺の魔力で包んでいるから影響は受けない」
パンジーはその言葉を聞くとスっと甲冑を脱ぎ、汗を流す騎士達を指差した。
「クレマン様、あの水も玉にしてくださいます?」
「あんな水を?!騎士たちが装具を外した後、足を洗った水だぞ?」
「いいんです。欲しいんですよ」
「嘘だろ・・・臭い足が好きだったのか・・・新しい発見だな」
「あら?嫌いにはなりませんか?」
「なるわけない。むしろ新しい嗜好が知れて褒美だな」
――全然好きじゃないので誤解しないで――
城に到着し、パンジーは至る所の水をクレマンに玉にしてもらった。
急がねば時間が勝負。下手をすると汚水ですら浄水になってしまう。
「ヘレン、割らないように気を付けて袋に入れてね」
「なら、膜を少し厚めにしよう」
「うわぁ…可愛い玉ですね。プニプニですよ」
「割っちゃダメよ?水虫菌もいるかもだから」
「ウゲェェ・・・」
ヘレンはプカリプカリと浮いて流れて来た玉を網で救う様に袋を操って確保していく。
回廊を抜ける前に、御不浄を洗った水が流れ出て来る排水溝が目についたパンジーはその水も玉にしてくれとクレマンに頼んだ。
「流石に・・・あれは弾けた時が地獄だぞ?」
「いいんです。玉にしてください。旦那様♡」
「えっ?!今、なんて??」
「玉にしてくれと言ったのです。早くしないと!!ほらほら!」
直接は触れないと言ってもかなり遠慮をしたい中身が詰まっている。
ヘレンは「触れちゃったら水で洗ってくださいね!」と断りを入れて浮いてくる玉を袋に集める。
回廊の先にはフランシス王太子殿下が、王太子妃と共に待っていた。
パンジーは人差し指をピっと立てて「いい方法があります」と言った。
「見ての通り私はまだ寝台から出られないんです。ヘレンと歩く練習は始めてるんですが、立つだけでやっとです。私ほどの魔力を持つ人はいないのでしょう?ならあの眠り草と同じです」
「どんな後遺症が判らなかったと言うことか?」
「そうです。フランシス殿下が慌てているのは国王陛下のやり方は良くないと思っていらっしゃるからなのでしょう?」
「そうだが・・・しかし父上は横暴なんだ」
「横暴でもです。フランシス殿下の御言葉を借りるならおそらく私が城にいる間はそれだけで水などが浄化をされる。そうですね?」
「そう言うことだが?」
「幸か不幸か私はまだ満足に回復をしていません。城へはヘレンとクレマン様と参りますので、殿下は先に戻られて、私達を迎える準備をしてください。出来れば陛下とお話をする時間があると楽しいかも??」
「何をするんだ?」
「お話をするだけです。この力には価値がないと判って頂けるよう誠心誠意。そしてフランシス殿下にはもう1つお願いがございます」
ごにょごにょとパンジーはフランシスだけに続きの言葉を耳打ちした。
「痛い所を突いてくる。承知したが下手をすると父上は大勢の前で恥をかく。無茶だぞ!」
「恥をかくのが嫌でお客様から逃げる従業員はいません。平民に出来るんですから陛下にだって出来ます。出来ないのなら、フランシス殿下、貴方が代わりに玉座にお座りになれば良いのです。何事も適材適所です」
にこりと笑うパンジーにフランシスは頭を下げた。
「こんな時にだが、クレマンへの手紙を勝手に・・・私情で止めていたのは私だ。指揮官であるクレマンの士気を落としたくなかった・・・と言うのは言い訳で・・・誤解をしたまま余計な事をしてしまった」
「それは私にではなくクレマン様に。だって侯爵家から荷物は受け取っていたでしょう?ありがとう、助かるよ。その一言でもあればこちらは問題なかったのです」
「参ったな・・・妃にどやされるわけだ」
フランシスはクレマンの肩に軽く手を乗せ「城で待ってる」と告げた。
「何を話したんだ?!」
「今は秘密です。クレマン様も頼みますね。魔力が尽きないようにしないと!」
「何をすればいいんだ?」
「そうですね…また水の玉を出してください」
「あ、あんなものでいいのか?」
「えぇ。クレマン様でないと作れませんから。ヘレンもお願いね」
「私も何かするんですか?」
「勿論よ」
城から騎士が来て、勅令により登城となればどんな部屋に押し込められるか判らない。
一足先に城に戻ったフランシスは「客人を迎える用意を」と部屋を1つ準備させた。呼び出しに応じた騎士達が集まり始める頃に、ユゴース侯爵家の馬車が城の正門をくぐる。
馬車を引く馬にウィー号はいない。
「ウィー号元気かしら」
「あいつは食いしん坊だからな・・・他の馬の飼い葉も食べてるんじゃないかな」
★~★
「ブェック・・・ブルル・・・ブル?」
★~★
ユゴース侯爵家の馬車が到着したと聞いて国王は騎士達を解散させた。
「なんだよ。来いと言ったり帰れと言ったり」
「今日は直帰出来ると思ったのになぁ…アテが外れたぜ」
騎士達は召集が掛かると、重くて蒸せる甲冑を纏わねばならない。
痒みのある体。蒸せて痒くなっても掻く事もままならない。身に着けるにも一苦労の甲冑。文句の一つも言いたくなると言うもの。
馬車を止めた場所から目的の場所までは騎士団の鍛錬場を横目に回廊を通る。
クレマンはパンジーを車椅子という車輪のついた椅子に乗せ進んでいた。
「クレマン様の玉は魔力で包んだ時に中身に変化はあるんですか?」
「ないな。膜も水と言えば水だがその周りを俺の魔力で包んでいるから影響は受けない」
パンジーはその言葉を聞くとスっと甲冑を脱ぎ、汗を流す騎士達を指差した。
「クレマン様、あの水も玉にしてくださいます?」
「あんな水を?!騎士たちが装具を外した後、足を洗った水だぞ?」
「いいんです。欲しいんですよ」
「嘘だろ・・・臭い足が好きだったのか・・・新しい発見だな」
「あら?嫌いにはなりませんか?」
「なるわけない。むしろ新しい嗜好が知れて褒美だな」
――全然好きじゃないので誤解しないで――
城に到着し、パンジーは至る所の水をクレマンに玉にしてもらった。
急がねば時間が勝負。下手をすると汚水ですら浄水になってしまう。
「ヘレン、割らないように気を付けて袋に入れてね」
「なら、膜を少し厚めにしよう」
「うわぁ…可愛い玉ですね。プニプニですよ」
「割っちゃダメよ?水虫菌もいるかもだから」
「ウゲェェ・・・」
ヘレンはプカリプカリと浮いて流れて来た玉を網で救う様に袋を操って確保していく。
回廊を抜ける前に、御不浄を洗った水が流れ出て来る排水溝が目についたパンジーはその水も玉にしてくれとクレマンに頼んだ。
「流石に・・・あれは弾けた時が地獄だぞ?」
「いいんです。玉にしてください。旦那様♡」
「えっ?!今、なんて??」
「玉にしてくれと言ったのです。早くしないと!!ほらほら!」
直接は触れないと言ってもかなり遠慮をしたい中身が詰まっている。
ヘレンは「触れちゃったら水で洗ってくださいね!」と断りを入れて浮いてくる玉を袋に集める。
回廊の先にはフランシス王太子殿下が、王太子妃と共に待っていた。
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