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第23話   カトレアの献身?

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カチャカチャと寝台に可動のテーブルが設置されて食器が並べられていく。


「まぁお姉様。今日のお食事も美味しそうですわねぇ」


弾けるような笑顔を使用人に向けるカトレア。

パンジーの方を向けばニヤリと違う笑みを浮かべたカトレアがスープをスプーンで掬い、パンジーの口元に運ぶ。
一口食べるごとに口元にハンカチをあてて、傍目から見れば甲斐甲斐しく看護や介助をしているように見えるだろう。

食事が終わると、パンジーの着替えや排せつの為に使用人がやって来る。


「ごめんなさい。本当は妹であるわたくしが率先してせねばなりませんのに…こんな手では足手まといになるばかり。何のお役にも立てず申し訳なく思っております」

「そんな事ありません。カトレア様は若奥様に献身的に尽くされているではありませんか」

「そう言ってくださるだけで有難いですわ。そもそもは夫を繋ぎとめて置けなかったわたくしに咎があるというもの。そんなわたくしを留置いてくださるユゴース家の皆様には感謝しておりますの」


パンジーもといサンドラの容態は一向に良くならないばかりが悪化する一方。
本来ならアランにがされた眠れそうの効果が切れれば元通りに活動できるはずだった。

目覚めないままの3日間。
カトレアは痺れそうを溶かした水をパンジーに飲ませた。

頭を抱き起し、少量を口に含ませ、口を塞ぐ。量がもう少し多ければ鼻も塞いだかも知れないが、1晩かけてゆっくりとコップ1杯。それを3日行った。

今もメイドや侍女、時にユゴース侯爵夫人の目の前でパンジーに痺れそうを飲ませる。いや塗ると言った方が適切だろう。

「片手でも出来るかしら」

そう言ってメイドの手渡す濡れたタオルの内側に痺れそうの溶液を浸したハンカチを合わせ、目や耳を拭いていく。触れた部分はピリピリ皮膚の内側が痙攣するが、誰にも判らない。

一口ごとに口元を拭くナフキンにも痺れそうの溶液を沁み込ませ、上手く拭えないと口の中に指先を押し込んでパンジーの歯茎などに当てていく。1回は極わずかな量でも回数が重なれば。
そして真夜中に水差しの中に混ぜ込んだ水を飲まされていれば、口を動かす事も出来ず、手も震えて医師が診察をしても小刻みに震えるパンジーを「眠れそうの後遺症」としか診察出来なかった。


「このお水を飲めば良くなると思ったんですけど・・・」

水差しに毎日新しい水を入れ替えて来てくれるメイドはしょんぼりと肩を落とした。メイドが汲んできてくれた水には問題が何もない。
ただ深夜になってカトレアが濃い溶液を混ぜ込んでパンジーに飲ませる。朝には空になった水差しがあるだけ。

飲ませる際に零れて寝具が濡れていても、パンジーの魔力は水系統。

「お姉様、魔力操作が上手く出来ないんだわ。お可哀想」


熱で浮かされている時に魔力の制御が出来ず、不必要に寝具が熱くなったり、ぐっしょりと濡れてしまったりするのは、言ってみれば「魔力持ちのあるある」なのでカトレアの言葉を誰も疑わなかった。

眠れそうは昏々と眠る、それだけはずっと昔から言い伝えられてきた。滅多に採取できる植物ではない上に、どれだけの量を摂取したらどんな症状が出るかなどハッキリと判っていなかった。

その上、誰も「毒婦」が至近距離にいる事に気が付かなかった。
唯一カトレアが毒婦だと知っているパンジーも口を封じられたも同然。

せめて数日。カトレアと離れる時間があれば痺れそうの効果が切れて真相を話せるのに。
1週間も経てばパンジーが出来るのは息をする事と、少量を飲み込む事、そして震える瞼を開け閉めする事だけになった。

――誰か!気が付いて・・・お願い――

パンジーの心の声は誰にも聞こえなかった。
目が覚めた時、カトレアの向こうにユゴース侯爵が見えたが、その時にはもう口を自分で動かす事も、声を発する事も出来なくなっていた。

カトレアの仕業だと直ぐに判ったが、動かない体では抵抗も出来ない。
薬の効き目が切れてはならないと、今も深夜になるとカトレアに無理矢理水を飲まされる。首を振って抵抗をしたいが、その首を振る事もままならない。

――このままじゃ・・・中毒になっちゃう。お願い!誰か気付いて――

メイドが着替えさせてくれている最中に涙がポロリと零れる。

「あ、涙が・・・お拭きしますね」

――違うの!気が付いて!――

カトレアがいない唯一の時間。
パンジーの涙、メイドには本意が届かなかった。
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