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第16-2話   出待ちのクレマン

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「まだいたの?もう帰ったかと思ったんだけど・・・」
「待つよ。終わるまで待つと約束をしたから」

呆れも半分だが、話くらいは聞かねば王都には帰らないだろうと思ったサンドラは帰りの道すがらに話を聞くとクレマンに言ったのだが、「おや?」首を傾げた。

ここにいると言うことは泊り客ではない。
オレール村に宿泊施設はここしかない。

――まさか、私の家に泊ろうとか考えてないわよね?――

返ってきた答えは予想の斜め上だった。

「今日はどちらにお泊りですか?」
「えぇっと‥‥その辺かな」

――その辺って…どの辺よ!?――

「あっと・・・すまない。この馬はウィー号と言うんだが、飼い葉になるような草と・・・出来れば水を飲ませてやって欲しいんだ」

「飼い葉は無いんですけど、ずっと昔牧場だったと聞いた広場には草が生えていますよ。通り道なのでご案内します。食べられないような草ならごめんなさい」

「助かるよ。朝からずっと我慢させてたから。ウィー号は普通の馬ではなく魔道馬という馬なんだ。大抵の植物は食べられるから大丈夫だと思うよ」

「魔道馬・・・話では聞いた事がありましたけど、見るのは初めてです。でも幾ら魔道馬とは言え・・・飲まず食わずに付き合わせるだなんて・・・」

ブルッそう!!ルルルッ言ってやって!」

「お腹空いたよね…可哀想に‥」

「反省してます…ごめんな。ウィー号」

ブッハッブルルッ知るかぃ!(ぷいっ)」


月はもう空の真上。時間は日付をとっくに超えている。
朝も早いので早く帰りたいのだが放っておく事も出来ない。

「明日はもっと早く帰れるのかい?」
「まさか。これが日常。家に帰って3、4時間寝たらまた仕事。その繰り返し」
「嘘だろう!そんなの・・・規則違反じゃないか!」
「でしょうね。だから言ったの。人を雇ってくれって。でも無理だしそれ以前の問題がある職場よ。ちょっと色々あって私は今月いっぱいで辞めるの。あ、ここよ。ここの草なら食べられるかも」
「凄いな…狂いそうまである・・・狂いそうはダメなんだよ。人を認識しなくなるから。うわ!眠らそうまで…ここの土地は凄いな」


クレマンはウィー号の手綱を離すとウィー号は狂いそうと眠らそうを避けてムシャムシャと草を食べ始める。


「桶が無いわね。水をあげられないわ」
「あぁ、それなら・・・水を私が固めるから出してくれればいい」
「そんな事が出来るの?!」
「私の魔法は火の系統なんだ。噴射する方向を調整する際に炎を形に出来るようになって‥水も形には出来るんだけど水そのものは俺・・・私は出せなくて」

クレマンは指先にポっと炎を出すとウニ~っと伸ばしたり、ボールのように丸くしたり、輪っかのように真ん中に穴のある形にしてみせた。

「わぁ…凄い・・・初めて見たわ」

サンドラはクレマンの指先を子供のように食い入るように見つめた。
そして、はと、気付く。

――いけない。警戒するの忘れてた――

ウィー号の為だと、両方を手のひらを合わせて器の形にすると、そこに水を出す。コポポと溢れた水は足元に落ちていくが、クレマンが水滴を操るように塊にすると水のクッションのような固形になった。

「触れても大丈夫だ。水は水で外側に膜を作ってるイメージだから濡れないよ」
「へぇ…水の塊も初めてよ。いつも足元が濡れちゃうから」
「ちゃんと形にするまでは私もそうだったよ。ほらウィー号。水だ」
ブルルルッ待ってましたッ!!」

どうやって飲むのだろうと思えばクレマンが言った通り外側は膜になっていて、ウィー号が口を入れた部分は通常の水と同じでピチャピチャと跳ねている。

「貴方は飲まないんですか?」
「ウィー号の残りを頂くよ。折角出してくれたんだ。無駄には出来ない」
「え…残りを??出しますよ?そんなに魔力を使うものじゃないし‥」
「無理はさせられない。疲れているだろうし」
「でも飲むほどは残らないと思いますけど」
「え?‥‥うわっ!ウィー号!お前っ!」
「モッサモッサ・・・ブル?」

ウィー号は器とした水の膜部分も綺麗さっぱり食べてしまっていた。
お腹もいっぱいになり、喉も潤ったウィー号。
少しだけ可哀想になったサンドラは「もう一度魔法が見たい」とクレマンに頼んだ。

「お気に召したのなら何度でも」
「では、今度は一口サイズに幾つか作ってくださいます?」
「お安い御用だ」

またサンドラは手のひらで器を作るようにして水魔法で水を溢れさせた。
1滴も溢すことなくクレマンはキャンディのような水の塊を宙に浮かべた。

「どうぞ、召し上がってください」
「これって・・・俺のために・・・」
「喉が渇くのは馬も人も同じですから」
「あ、ありがとう・・・」

クレマンは1つを抓むと口の中に放り込む。プツンと弾けた水が口の中を潤す。あの日飲んだ水と同じ、甘いだけではなく少し塩も混じったような水。

今度は飲み込む事が出来て、クレマンの喉だけでなく胸もじんわりと潤していった。
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