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第19話   不意打ち

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「へぇ…狂いそうまで生えてるのか・・・眠らそうもあるじゃないか」

狂いそうも眠らそうも水が綺麗で肥沃な土地にしか根を張らない。

狂いそうは名前の通り食べてしまうと人は狂ったように凶暴化する。馬や牛、ヤギなどが食べてしまうと興奮状態になってしまい制御が効かなくなる危険な植物。

バルバトル王国では「見つけたら焼却しましょう」と呼び掛けているが、そもそもで魔獣毒に大地が汚染されているので狂いそうも眠らそうも絶滅したとも幻の植物とも言われていた。

カトレアから貰った宝飾品を換金し、ちょっと高めの幌馬車に揺られてオレール村にやって来たアランは3日雑魚寝部屋に泊り、ツヤツヤ&プルプルな肌に体の奥から力も漲るようになっていた。

3日目は雑魚寝部屋でも泊ってしまえば帰りの幌馬車代がないと思いつつ泊ってしまった。リピート客が多いのも頷ける。宿屋の食事と入浴、食堂のランチはそれほどに魅力的でまるで麻薬だった。

――借金してまでやって来る奴の気持ちも判らんでもないな――

宿泊をした3日間でパンジーと思わしき人物の帰宅時間もほぼ同じだと判った。4日目はもう泊まるどころか幌馬車は無理。辻馬車しかないかと思うが、パンジーと思わしき女性と2人分の料金も無い。

貴族の乗って来た馬車の馬を盗もうかと考えたが、馬車は専用の駐車スペースがあり貴族と共にやって来た従者が御者が常に側にいて盗めそうにも無かった。

――チッ!シケた村だ。まともな馬もロバもいやしない――


4日目。家で襲うかと後をつけたが、家の前で飛び出そうとしてアランは止めた。
扉が開くとそこに男が1人いたからである。

ギュッと手を握る。今なら枯れ枝でも棍棒並みにダメージを負わせる事は出来そうな腕力があるが、それは相手も同じだとなれば分が悪い。

だが、小屋のような家の裏手に馬がいる事に気が付きほくそ笑んだ。



最後の金で食堂ライトでランチを食べる。
パンジーと思わしき女性はすっぽりとフードを被るアランに気が付かないのか給仕をしていた。尤も、客が入れ替わり立ち代わりでいちいち1人の客に構っている場合ではないのかも知れない。

食事を終えたアランは眠らそうと狂いそうのある広場に向かった。

ブチブチと眠らそうを千切ると転がっていた石で磨り潰し、垢で汚れたハンカチで磨り潰した液を拭う。うっかり自分が嗅いでしまうと爆睡をしてしまうので注意を怠らない。

そっとズボンのポケットにハンカチを捩じ込み、今度は狂いそうを千切った。こちらは磨り潰さずに出来るだけ多くを探し集め、その時を待った。



「お疲れ様でした~」
「あと8日だ!明日も頑張ろうな!」

裏口から出て来る従業員の中にパンジーらしき女性を見つけアランは姿をそっと目で追った。


「ここまで来たの?・・・もう王都にお帰りになればいいのに」
「夜道は危険だから」

アランの予想通り男が迎えに来ていた。

――暢気なものだな――

ゆっくりと歩いて行く2人を一旦やり過ごし、先ずは住み家の小屋に走った。


ブルル誰や?」
「どぉどぉ・・・イイ子だ。毛並みもいいな。若い馬だな」
ブルぅわかるぅ?」
「ほら、食え」
ブルルぅ草だぁ…シャクシャク‥‥シャクシャク・・・」


狂いそうを半日も前に千切ったのには訳があった。
生えたままや千切りたては馬もこの草が危険だと本能で知っているので食べない。

だが、時間が経つと人間には判らない香りが飛び、代わりに飼い葉のような香りがし始める。そうすると馬や牛は食べてくれる。そのまま食べれば即効性もあるが、こうやって時間をおけば30分ほどは効果が現れないし、出て来る効果も凶暴というよりは酩酊に近い。

馬を用立てねばならなかったアランにとって、手が付けられなくなるほど暴れられると困る。酩酊くらいが丁度いい。

――さて、そろそろ帰って来る頃だな――

アランは馬用に水を入れた桶の水を半分ほど捨てるとポケットから取り出したハンカチを浸けた。桶の中でハンカチに沁み込んだ液が水によく溶けるように手でゆっくりとかき混ぜる。

近づいてくる足音に桶をそっと持ち、様子を伺った。


「ちょっとウィー号を見て来る。寝てるとは思うんだが‥」
「どうぞご自由に」

聞こえてくる声に桶の底をしっかりと持ち‥‥家の角を曲がってきた男に・・・。


バッシャー!!!

「うわっ!!なんだ貴様っ!!ウィー号!!」
「水も滴るイイ男は僕一人で十分だ。間に合ってるんだよ」
「貴様っ!」

クレマンは身構えたが、浴びせられた水が目に入り、口の中にも沁み込んで足がふらついた。

「うっ・・・うぅ…これは・・・」
「旨いだろう?眠らそうの液がたっぷりと入ったワインだよ。熊だって10秒と経たずに眠ると言われているが…君はどうかな??」

がっくりとその場に膝を突き、眠気を飛ばそうと首を振るクレマンだったが強力な麻酔銃で撃たれたようなもの。バタリと顔から地面に突っ伏し意識を飛ばしてしまった。

「どうしたの?ウィー号に‥‥アラン!!」

物音に気が付いたサンドラもといパンジーはウィー号を繋いでいた裏の様子を伺おうとやって来て、居るはずのない人物につい名前を口にしてしまった。

ニヤリと笑ったアランは倒れたクレマンを飛び越えるように掛けて来てサンドラの顔に桶に浸しておいた眠らそうの液を溶かした残骸、ハンカチを押し当てた。

サンドラの首に腕を回し、サンドラの力が抜けるまでハンカチを押し当て、腕でも締め上げる。

「アラ・・・どうし・・・」
「やはりパンジーだったか。カティの目は素晴らしいな。ふははっ」

アランの後ろでは狂いそうの効果が出始めたウィー号の鼻息が荒くなってくる音がする。

「さぁ、パンジー。王都に帰ろう」

ぐったりと意識のないパンジーを抱えるとウィー号に乗せ、繋いでいた綱を切るとウィー号の背に飛び乗ったアランは感嘆の声をあげた。

「魔道馬か・・・これは良い拾い物だ。じゃじゃ馬を乗りこなすのは慣れてるからね」

1晩で国を縦断すると言われている魔道馬ウィー号。
アランとサンドラ、いやパンジーを乗せると月明かりの下を王都に向けて走り出した。



クレマンが目を覚ましたのは、3時間も経って空が白み始めた頃だった。
3日3晩寝続けても不思議でない眠らそうだが、ふらつきながらでも起きられたのは軍での経験からだが、不覚を取った事、そしてパンジーが連れ去られた事でクレマンの体の周りには炎のオーラが揺らいでいた。


サンドラ、いやパンジーが目を覚ました時、真っ先に視界に入って来たのはまたもや「あらぬ人」だった。

「お姉様、お目覚めになられたのねっ!」

見えたのはカトレアの顔。
カトレアは目覚めたパンジーの手を握り、寝台に覆いかぶさるようにして声をあげた。

カトレアがどいた事で視界が開け、次に見えたのは・・・。

――ユゴース侯爵・・・どうして?――


★~★

今日はここまででぇす!\(^▽^)/

明日は1発目からキュゥテーアイドル・カトレアがぶちかまします!!
※キューティーではありません。キュゥテーです(*^-^*)


おやすみなさぁい ( ु⁎ᴗ_ᴗ⁎)ु.。zz
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