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第18-1話 パワーを送る愛妻
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クレマンがパンジーと再会を果たす数日前。
王都にある教会の1室ではカトレアが苛立っていた。
狭くても良いから専用の部屋が欲しかったのに、手付を打った家に行ってみれば「金がない」と言い出す父のルド子爵。
ユゴース侯爵家からは「情報料」と雀の涙しかもらえず、慌ててブロワ子爵家に行けば伯父のブロア子爵は金を貸してくれないどころか話も聞かずに門前払い
アランも実家には外門すら潜らせてもらえず結局住む場所は無くなり、祖父母よりも前の代から寄付をしてきた教会に身を寄せたまでは良かった。
判ってはいたが酷い食事。
味も色も控えめすぎるスープに、固いを通り越して石のようなパン。
部屋だって2台の寝台のある部屋をあてがわれたが、寝台は2人で1台。床で寝るよりずっといいのは判るが兎に角狭い。
寝台と寝台の間は40cmほどしかなく、寝台が2台あるばかりに部屋が狭い。
建付けの悪い窓を開けようとすれば「枠が落ちるから開けるな」と修道士に注意をされる。
父親とアランの口臭でカトレアまで臭くなりそうで、部屋から逃げ出せば「働け」と修道女が睨みながらモップを差し出す。
――なんで、わたくしがそんな下賤な事をしなければならないのよ!――
姉のパンジーが出て行ってからは何もかも上手く行かない。
考えに考えたカトレアは「そうだわ!」と声をあげた。
「どうしたんだい?」
夫のアランがカトレアの声に繕い物の手を止めて顔をあげる。
宿屋では清々しい香りもしたアランだったが、かつての面影は微塵もない。
――みっともない男ね――
だが、それでも今カトレアが動かせるのはこの男と父親くらい。
今回、愚鈍な父を使えば失敗の可能性がある。なんせユゴース侯爵に封筒を握らされて、縮こまった小心者だ。多くないチャンスを掴むのには明らかに力不足でお呼びで無い。
カトレアは「綺麗な服を着ていると思えば」と自分に言い聞かせてアランに擦り寄った。ツンとする男性独特の体臭で目が痛いが今は我慢。想像力を働かせかつての清々しいアランを思い浮かべ、擦り寄った。
「ねぇ…本人をユゴース侯爵家に連れて来ればいいんじゃないかしら?」
情報料としてなら少ないが、本人を連れて来れば「報奨金200万」と張り紙には書いてあった。
――200万もあればドレスが買えるわ――
カトレアはパンジーが何故ユゴース侯爵家を出たのかは知らない。
――どうして家出なんかしたのかしら?――
考えた挙句にカトレアは1つの答えに行き当たった。
軍人のクレマンは女性に手を挙げる男だったのかも知れない。だからパンジーは逃げ出した。何度も侯爵夫妻に訴えたが息子より嫁の言い分を聞く親などいるはずがない。
カトレアとて、アランに「刺繍でも良いから仕事を受けてくれないか」と言われ、両親に訴えれば両親はアランに「カトレアに仕事をさせるなんて」と叱ってくれた。どの親だって他人より我が子よ!カトレアは自身の考えが更に正しいものに思えた。
――お姉様が侯爵家に戻ればいいのよ。何だ簡単じゃない――
アランに心の内を気取られぬよう、カトレアはアランの胸に頬をあててシーツの上に指先を滑らせた。
アランの視線は艶めかしく動くカトレアの指に釘付けになった。
★~★
この回、文字数多かったので次は10分後です<(_ _)>
王都にある教会の1室ではカトレアが苛立っていた。
狭くても良いから専用の部屋が欲しかったのに、手付を打った家に行ってみれば「金がない」と言い出す父のルド子爵。
ユゴース侯爵家からは「情報料」と雀の涙しかもらえず、慌ててブロワ子爵家に行けば伯父のブロア子爵は金を貸してくれないどころか話も聞かずに門前払い
アランも実家には外門すら潜らせてもらえず結局住む場所は無くなり、祖父母よりも前の代から寄付をしてきた教会に身を寄せたまでは良かった。
判ってはいたが酷い食事。
味も色も控えめすぎるスープに、固いを通り越して石のようなパン。
部屋だって2台の寝台のある部屋をあてがわれたが、寝台は2人で1台。床で寝るよりずっといいのは判るが兎に角狭い。
寝台と寝台の間は40cmほどしかなく、寝台が2台あるばかりに部屋が狭い。
建付けの悪い窓を開けようとすれば「枠が落ちるから開けるな」と修道士に注意をされる。
父親とアランの口臭でカトレアまで臭くなりそうで、部屋から逃げ出せば「働け」と修道女が睨みながらモップを差し出す。
――なんで、わたくしがそんな下賤な事をしなければならないのよ!――
姉のパンジーが出て行ってからは何もかも上手く行かない。
考えに考えたカトレアは「そうだわ!」と声をあげた。
「どうしたんだい?」
夫のアランがカトレアの声に繕い物の手を止めて顔をあげる。
宿屋では清々しい香りもしたアランだったが、かつての面影は微塵もない。
――みっともない男ね――
だが、それでも今カトレアが動かせるのはこの男と父親くらい。
今回、愚鈍な父を使えば失敗の可能性がある。なんせユゴース侯爵に封筒を握らされて、縮こまった小心者だ。多くないチャンスを掴むのには明らかに力不足でお呼びで無い。
カトレアは「綺麗な服を着ていると思えば」と自分に言い聞かせてアランに擦り寄った。ツンとする男性独特の体臭で目が痛いが今は我慢。想像力を働かせかつての清々しいアランを思い浮かべ、擦り寄った。
「ねぇ…本人をユゴース侯爵家に連れて来ればいいんじゃないかしら?」
情報料としてなら少ないが、本人を連れて来れば「報奨金200万」と張り紙には書いてあった。
――200万もあればドレスが買えるわ――
カトレアはパンジーが何故ユゴース侯爵家を出たのかは知らない。
――どうして家出なんかしたのかしら?――
考えた挙句にカトレアは1つの答えに行き当たった。
軍人のクレマンは女性に手を挙げる男だったのかも知れない。だからパンジーは逃げ出した。何度も侯爵夫妻に訴えたが息子より嫁の言い分を聞く親などいるはずがない。
カトレアとて、アランに「刺繍でも良いから仕事を受けてくれないか」と言われ、両親に訴えれば両親はアランに「カトレアに仕事をさせるなんて」と叱ってくれた。どの親だって他人より我が子よ!カトレアは自身の考えが更に正しいものに思えた。
――お姉様が侯爵家に戻ればいいのよ。何だ簡単じゃない――
アランに心の内を気取られぬよう、カトレアはアランの胸に頬をあててシーツの上に指先を滑らせた。
アランの視線は艶めかしく動くカトレアの指に釘付けになった。
★~★
この回、文字数多かったので次は10分後です<(_ _)>
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