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第13話 手に握った物と手放した物
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「それは本当なのか?!」
前のめりになってルド子爵に詰め寄るのはユゴース侯爵。
王都に戻って来たルド子爵はユゴース侯爵家を訪ねていた。
王都に戻り、清掃も終えた新しい家に住もうとしたのだが、如何せんオレール村で調子こいてしまい、支払わねばならない金に手を付けて宿泊代を払っていた。
個室は元々「貴族用」の値段設定で、ツインは1部屋1泊2食で75万。
殿様商売上等の宿屋レフトの女将は前金&現金でしか支払いは受け付けない。
『75万が高いって?馬鹿言うんじゃないよ。ツインだから2人のみとはこっちは干渉してないんだ。食事は2人分ってだけで4人で泊ろうが10人で泊ろうが文句は言ってないよ。1人に寝台1つとするのは客の自由だ。文句あるのかい?だいたいこれで肌も体力も戻るんだ。嫌なら他に行っとくれ。こっちは痛くも痒くも無いよ。個室に泊りたいって客は他にもいるんだから』
連日泊っているんだから割引してくれと言っただけで猛口撃を受けた気分。
結局ツイン2室を18日。いや初日は雑魚寝部屋だったがトラブルで結局80人分の料金を支払った。王都に戻った時、ルド子爵の財布に札は1枚も無かったのだ。
手付を払った家も鍵を渡してくれるはずもない。
そういえば!とアランの言葉を思い出しユゴース侯爵を訪ねた次第。
パンジーがいなくなり、もしも王都を出たとすれば・・・第2都市行きの辻馬車や幌馬車は王都から出るのに一番便数も多い。オレール村を経由する第2都市に向かったのではないかとユゴース侯爵は真っ先に捜索をした。
「オレール村か・・・初めの頃に捜索をしたんだがな」
「いえ、娘ですから見間違うはずがありません」
「なら何故連れ帰らなかったんだ?」
「そ、それは‥‥」
言い淀むルド子爵。まさかオレール村の若返りを堪能していたとは口が裂けても言えない。
そこにルド夫人が助け舟を出した。
「説得をしたんですの。18日かけて根気強く!ですが…戻らないと言うものですから。こうなれば嫁ぎ先である侯爵家様のお力を借りるしかないと!」
うーん…ユゴース侯爵は考えた。
確かにパンジーは侯爵家にいる間、面倒な執務も積極的に取り組んでくれて根気強かった。しかしこの場合、そうまでして頑なに帰らないと意地を張るだろうかと。
が、何にしても確認はしてみなければならない。
「相判った。情報に感謝をする」
スッと立ち上がったユゴース侯爵にルド子爵は慌てた。
何のためにユゴース侯爵家に情報を持ってきたのか。
勿論!情報を売るためだ。
「あ、あの‥‥」手を揉むルド子爵。
ユゴース侯爵はその仕草を見て、「はて?」首を傾げたが直ぐに思い当たった。
「まだ何か?」 しれっと問いかけるユゴース侯爵。
「実はですね…情報提供者には謝礼があると・・・はいぃ~」
ポンとルド子爵の肩にユゴース侯爵は手を置いて微笑んだ。
「我が子が見つかったかも知れない喜びは親としてプライス・レス」
そう言い残すと従者に「ルド子爵がお帰りだ」と声を掛けた。
このまま引いてしまえば、今夜は何処で寝ればいいのか!慌てたルド子爵は尚も食い下がった。
「そ、そんな・・・では謝礼は無いと?これは親も子も関係ないと思いますが・・・」
ギロッと睨むユゴース侯爵は無言で数秒ルド子爵と見つめ合った。
そして、「うん」と小さく呟くと従者に「謝礼を」と声を掛ける。
ルド子爵はホッと安堵の表情を浮かべたが、従者からの封筒を受け取ったユゴース侯爵の言葉に硬直した。
「どうぞ、謝礼です。貼り紙にも書きましたがこれはいわば・・・他人に差し上げるもの。もしパンジーさんが見つかり、当家が保護したとしてもルド家との関りはユゴース侯爵家がある限り持たせませんので、そのつもりで」
ユゴース侯爵はルド子爵の右手の甲を持ち上げると挟むように謝礼の入った封筒を手のひらにパン!!音をさせ、その後、ルド子爵の手を包むようにしてギュッと握らせた。
「今度こそ、お客様がお帰りだ!」と従者に命じた。
手の平にある封筒には、せいぜい入っていても札が1枚。
「あなたっ!どうするのよ!これじゃ宿に4人は無理よ!?」
夫人の声がルド子爵の右耳から左耳に抜けていく。
まだ気が付いていない夫人の顔を、ギギギと錆びついたナットのように回して見やる。
「やってしまった・・・」
「やった?何をです。もっと情報を小出しにしたら良かったと?」
ぱちくりと瞬きをするルド夫人。ルド子爵は全てに於いて無力だった。
「いや、なんでもない」
これ以上の会話が無意味だと直ぐに悟ったルド子爵。
この封筒の金で、仮にパンジーが見つかり侯爵家に戻っても自分たちは保護もされなければ面倒を見てもらう事も出来ない。
このペラペラの封筒で「親子」の縁を切り「他人」を選んだのはルド子爵自身。
その事実に気が付かない妻を見て、ルド子爵はがっくりと肩を落とした。
前のめりになってルド子爵に詰め寄るのはユゴース侯爵。
王都に戻って来たルド子爵はユゴース侯爵家を訪ねていた。
王都に戻り、清掃も終えた新しい家に住もうとしたのだが、如何せんオレール村で調子こいてしまい、支払わねばならない金に手を付けて宿泊代を払っていた。
個室は元々「貴族用」の値段設定で、ツインは1部屋1泊2食で75万。
殿様商売上等の宿屋レフトの女将は前金&現金でしか支払いは受け付けない。
『75万が高いって?馬鹿言うんじゃないよ。ツインだから2人のみとはこっちは干渉してないんだ。食事は2人分ってだけで4人で泊ろうが10人で泊ろうが文句は言ってないよ。1人に寝台1つとするのは客の自由だ。文句あるのかい?だいたいこれで肌も体力も戻るんだ。嫌なら他に行っとくれ。こっちは痛くも痒くも無いよ。個室に泊りたいって客は他にもいるんだから』
連日泊っているんだから割引してくれと言っただけで猛口撃を受けた気分。
結局ツイン2室を18日。いや初日は雑魚寝部屋だったがトラブルで結局80人分の料金を支払った。王都に戻った時、ルド子爵の財布に札は1枚も無かったのだ。
手付を払った家も鍵を渡してくれるはずもない。
そういえば!とアランの言葉を思い出しユゴース侯爵を訪ねた次第。
パンジーがいなくなり、もしも王都を出たとすれば・・・第2都市行きの辻馬車や幌馬車は王都から出るのに一番便数も多い。オレール村を経由する第2都市に向かったのではないかとユゴース侯爵は真っ先に捜索をした。
「オレール村か・・・初めの頃に捜索をしたんだがな」
「いえ、娘ですから見間違うはずがありません」
「なら何故連れ帰らなかったんだ?」
「そ、それは‥‥」
言い淀むルド子爵。まさかオレール村の若返りを堪能していたとは口が裂けても言えない。
そこにルド夫人が助け舟を出した。
「説得をしたんですの。18日かけて根気強く!ですが…戻らないと言うものですから。こうなれば嫁ぎ先である侯爵家様のお力を借りるしかないと!」
うーん…ユゴース侯爵は考えた。
確かにパンジーは侯爵家にいる間、面倒な執務も積極的に取り組んでくれて根気強かった。しかしこの場合、そうまでして頑なに帰らないと意地を張るだろうかと。
が、何にしても確認はしてみなければならない。
「相判った。情報に感謝をする」
スッと立ち上がったユゴース侯爵にルド子爵は慌てた。
何のためにユゴース侯爵家に情報を持ってきたのか。
勿論!情報を売るためだ。
「あ、あの‥‥」手を揉むルド子爵。
ユゴース侯爵はその仕草を見て、「はて?」首を傾げたが直ぐに思い当たった。
「まだ何か?」 しれっと問いかけるユゴース侯爵。
「実はですね…情報提供者には謝礼があると・・・はいぃ~」
ポンとルド子爵の肩にユゴース侯爵は手を置いて微笑んだ。
「我が子が見つかったかも知れない喜びは親としてプライス・レス」
そう言い残すと従者に「ルド子爵がお帰りだ」と声を掛けた。
このまま引いてしまえば、今夜は何処で寝ればいいのか!慌てたルド子爵は尚も食い下がった。
「そ、そんな・・・では謝礼は無いと?これは親も子も関係ないと思いますが・・・」
ギロッと睨むユゴース侯爵は無言で数秒ルド子爵と見つめ合った。
そして、「うん」と小さく呟くと従者に「謝礼を」と声を掛ける。
ルド子爵はホッと安堵の表情を浮かべたが、従者からの封筒を受け取ったユゴース侯爵の言葉に硬直した。
「どうぞ、謝礼です。貼り紙にも書きましたがこれはいわば・・・他人に差し上げるもの。もしパンジーさんが見つかり、当家が保護したとしてもルド家との関りはユゴース侯爵家がある限り持たせませんので、そのつもりで」
ユゴース侯爵はルド子爵の右手の甲を持ち上げると挟むように謝礼の入った封筒を手のひらにパン!!音をさせ、その後、ルド子爵の手を包むようにしてギュッと握らせた。
「今度こそ、お客様がお帰りだ!」と従者に命じた。
手の平にある封筒には、せいぜい入っていても札が1枚。
「あなたっ!どうするのよ!これじゃ宿に4人は無理よ!?」
夫人の声がルド子爵の右耳から左耳に抜けていく。
まだ気が付いていない夫人の顔を、ギギギと錆びついたナットのように回して見やる。
「やってしまった・・・」
「やった?何をです。もっと情報を小出しにしたら良かったと?」
ぱちくりと瞬きをするルド夫人。ルド子爵は全てに於いて無力だった。
「いや、なんでもない」
これ以上の会話が無意味だと直ぐに悟ったルド子爵。
この封筒の金で、仮にパンジーが見つかり侯爵家に戻っても自分たちは保護もされなければ面倒を見てもらう事も出来ない。
このペラペラの封筒で「親子」の縁を切り「他人」を選んだのはルド子爵自身。
その事実に気が付かない妻を見て、ルド子爵はがっくりと肩を落とした。
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