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第10話 ◆余計なお節介で大混乱
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前線に届く手紙は検閲をされる。
兵士と共に検閲をしていたフランシスは手紙の短い文字を見て考えた。
差出人はユゴース侯爵家で内容は「花嫁が姉と入れ替わった」と書かれていた。
ユゴース侯爵は「望んだ相手だろう。良かったなぁ」という思いだったが詳細までは文字数に制限があり書く事が出来ない。妹から姉に相手が入れ替わった事だけを知らせた。
のだが~。
フランシスも知らなかったのだ。
「一目惚れをした相手がいて、婚約するんだ!」と言うことはクレマンから聞いていた。
それはそれは嬉しそうだったクレマン。
フランシスも自分の事のように嬉しかった。
が、突然一番戦況が厳しい前線に行くと言い出し、「これは功績をあげたいんだろうな」とフランシスは思ってしまった。
クレマンはやけくそだった。どうせなら戦地で戦死したほうが良いと無茶な作戦には率先して立候補した。しかし神様は非情でクレマンの思いとは裏腹にどうにでもなれ!という奇襲や突撃が次々に成功し武功をあげていく。
フランシスは「相手が妹から姉に変わったなんて!!」と、クレマンを気遣いユゴース侯爵家からの手紙はクレマンに渡さなかったし焼き捨てた。ショックを受けると思ったのだ。
クレマンもフランシスに「相手を間違って婚約になってしまいました」とは言い出せなかった事がとんでもない行き違いを引き起こしてしまった。
婚約者がカトレアからパンジーに入れ替わりそのまま結婚となった事を知らないクレマンは結婚して2年間、王都には戻らず前線で指揮をとっていた。
時折届く王都からの荷物。
新品のシャツや下着は丁寧に水通しをされて届いたが、クレマンは「消耗品」という扱いしかしなかった。
カトレアからだと思うと、素直に【ありがとう】と思えない。
有難いと思わねばならないのだが、何度も「死んだと思って諦めろ」という手紙が届いているはずなのに、何が目的だろうかと考えてしまう。
届く品はクレマンの体に変化をもたらしていた。
「お前、前線だと言うのに肌艶がいいな!それに体のキレもいい。魔力も冴えてるじゃないか」
「そうですかね。いつもと同じですよ」
「いやいやいや!吹き出物もよく考えてみたら・・・しばらく見てないな?」
「そうでもないですよ。特に何もしてませんし」
前線は衛生的とはお世辞に言えない場だが、クレマンはしばらく湯にも入ってないのに肌に吹き出物も痒みも無く、体調も頗る良かった。
そして2年目。
遂に隣国は降伏を受け入れて終戦となった。
フランシスは「可哀想だが」と思いつつ、クレマンに事実を告げることにした。
「実は、お前がショックを受けたらと思って黙っていた事がある」
「ショックですか?」
昨日王都から届き、検閲も終わった手紙。フランシスはクレマンに手渡した。
クレマンが裏面を見る。差出人は父のユゴース侯爵だった。
「父から‥‥。母に何かあったんでしょうか」
「いや…そのぅ…気を落とすなよ??軍人あるあるでもあるんだ」
「なんです?軍人あるあるって」
「従軍の留守中にな?嫁さんが出て行くってのはよくあるんだ」
フランシスの胸中は複雑だった。こんなに愛妻を思い、武功をあげ捲ったクレマン。褒賞だけでも土地も現金もびっくりするくらいの量と額になっている。
こんなに頑張ったのに、愛した女性ではない女性が妻になり、その女性も逃げた事に。
婚約した当時から武功をあげたいと、文字通り死に物狂いだったのに!!
が、違った。
「出て行ったんですか?!って事は離縁?!」
何処となく喜びさえ感じるような高い声でクレマンはフランシスに問い直した。そして手紙の文字を見る。
【離縁届を置いて出て行ってしまった。直ぐ帰れ】
何度見ても文字は変わらない。クレマンの顔はだらしなく脂下がった。
「やったぁ!!!離縁だ!離縁だ!やほほい!やったぁ!」
――これはいったい・・・どういうことだ?――
フランシスは目の前の光景に現実逃避。
数々の武功をあげ捲り、戦場の鬼とまで呼ばれたクレマンがウサギのようにピョンピョン跳ね、全身を使って喜びを表現しているではないか。
――まさか…前線の恐怖が蘇り狂ったのか?――
例え入れ替わった花嫁でも王都に帰ってみれば、嫁に逃げられた事実を目の当たりにし、ショックは大きいだろうと思ったのだが、こんなに喜ぶならもっと早く花嫁が変わった事を知らせてやれば良かったとフランシスは悔いた。
――もしかしたら花売り娘の中にイイ娘がいたのかもな――
それも戦地ではよくあることだ。妻もいる、子供もいる。
だが死線を超えた時に抱いた花売り娘に傾倒する兵士も少なくない。
――クレマンも普通の男だったわけだ――
フランシスは飛び回るクレマンに「もっと喜べ!」と告げた。
「お前が恋焦がれた相手だと言うからショックだろうと黙っていたんだが、2年前に婚約者が妹から姉に変わって、お前と結婚したのは姉の方だったんだ」
満面の笑みのフランシスを見るのは表情が一気に抜け落ちたクレマン。
「え・・・・でっ殿下?もう一度・・・ワンモア!」
「だから!お前の婚約者は妹から姉になってて嫁さんになったのは姉の方だよ。ショックは判る!好きで婚約までしたんだもんなぁ。姉の方を寄越されても困るよな。でも良かったじゃないか!で?どの花売り娘だ?可愛い子か?」
「花売りは関係ないです!妹から姉って・・・何の事です?」
「だから!お前が望んだ女性だからショックを受けちゃいけないと思って嫁さんが入れ替わった事は黙ってたんだ。でも姉の方なら離縁しても思いも無いからショックも無いよな!」
クレマンは顎に手を当てて考える。上を見て、下を見て、フランシスを見て、また上を見る。
「殿下、事実確認ですが・・・俺が婚約したのは?」
「ルド子爵家の妹だな」
「で、その婚約が・・・姉妹で逆?チェンジ?」
クレマンは指を交互に動かし、フランシスは「その通りッ!」グッと親指を立てた。
「婚約者は妹から姉になり、お前と結婚した事になってたのは姉の方だ」
「ま、待ってください・・・じゃ、この手紙にある離縁届って・・・」
「お前とルド子爵家の姉の結婚についての離縁届だな」
「で、では出て行ったって言うのは…」
「妻だったんだから姉の方だろう」
バサッ‥‥
ユゴース侯爵から届いた手紙が床に落ち、クレマンもがっくりと両膝を床に落とした。
「ど、どうしたんだ?」
「殿下・・・職を辞します」
「えっ?はっ?エェェーッ?!」
「探さなきゃ・・・どうして…どうして気が付かなかったんだろう・・・」
フランシスはビクッと体を跳ねさせた。
本当の事を言ってしまったら、クレマンに殺気だけで殺されそうな気がした。
兵士と共に検閲をしていたフランシスは手紙の短い文字を見て考えた。
差出人はユゴース侯爵家で内容は「花嫁が姉と入れ替わった」と書かれていた。
ユゴース侯爵は「望んだ相手だろう。良かったなぁ」という思いだったが詳細までは文字数に制限があり書く事が出来ない。妹から姉に相手が入れ替わった事だけを知らせた。
のだが~。
フランシスも知らなかったのだ。
「一目惚れをした相手がいて、婚約するんだ!」と言うことはクレマンから聞いていた。
それはそれは嬉しそうだったクレマン。
フランシスも自分の事のように嬉しかった。
が、突然一番戦況が厳しい前線に行くと言い出し、「これは功績をあげたいんだろうな」とフランシスは思ってしまった。
クレマンはやけくそだった。どうせなら戦地で戦死したほうが良いと無茶な作戦には率先して立候補した。しかし神様は非情でクレマンの思いとは裏腹にどうにでもなれ!という奇襲や突撃が次々に成功し武功をあげていく。
フランシスは「相手が妹から姉に変わったなんて!!」と、クレマンを気遣いユゴース侯爵家からの手紙はクレマンに渡さなかったし焼き捨てた。ショックを受けると思ったのだ。
クレマンもフランシスに「相手を間違って婚約になってしまいました」とは言い出せなかった事がとんでもない行き違いを引き起こしてしまった。
婚約者がカトレアからパンジーに入れ替わりそのまま結婚となった事を知らないクレマンは結婚して2年間、王都には戻らず前線で指揮をとっていた。
時折届く王都からの荷物。
新品のシャツや下着は丁寧に水通しをされて届いたが、クレマンは「消耗品」という扱いしかしなかった。
カトレアからだと思うと、素直に【ありがとう】と思えない。
有難いと思わねばならないのだが、何度も「死んだと思って諦めろ」という手紙が届いているはずなのに、何が目的だろうかと考えてしまう。
届く品はクレマンの体に変化をもたらしていた。
「お前、前線だと言うのに肌艶がいいな!それに体のキレもいい。魔力も冴えてるじゃないか」
「そうですかね。いつもと同じですよ」
「いやいやいや!吹き出物もよく考えてみたら・・・しばらく見てないな?」
「そうでもないですよ。特に何もしてませんし」
前線は衛生的とはお世辞に言えない場だが、クレマンはしばらく湯にも入ってないのに肌に吹き出物も痒みも無く、体調も頗る良かった。
そして2年目。
遂に隣国は降伏を受け入れて終戦となった。
フランシスは「可哀想だが」と思いつつ、クレマンに事実を告げることにした。
「実は、お前がショックを受けたらと思って黙っていた事がある」
「ショックですか?」
昨日王都から届き、検閲も終わった手紙。フランシスはクレマンに手渡した。
クレマンが裏面を見る。差出人は父のユゴース侯爵だった。
「父から‥‥。母に何かあったんでしょうか」
「いや…そのぅ…気を落とすなよ??軍人あるあるでもあるんだ」
「なんです?軍人あるあるって」
「従軍の留守中にな?嫁さんが出て行くってのはよくあるんだ」
フランシスの胸中は複雑だった。こんなに愛妻を思い、武功をあげ捲ったクレマン。褒賞だけでも土地も現金もびっくりするくらいの量と額になっている。
こんなに頑張ったのに、愛した女性ではない女性が妻になり、その女性も逃げた事に。
婚約した当時から武功をあげたいと、文字通り死に物狂いだったのに!!
が、違った。
「出て行ったんですか?!って事は離縁?!」
何処となく喜びさえ感じるような高い声でクレマンはフランシスに問い直した。そして手紙の文字を見る。
【離縁届を置いて出て行ってしまった。直ぐ帰れ】
何度見ても文字は変わらない。クレマンの顔はだらしなく脂下がった。
「やったぁ!!!離縁だ!離縁だ!やほほい!やったぁ!」
――これはいったい・・・どういうことだ?――
フランシスは目の前の光景に現実逃避。
数々の武功をあげ捲り、戦場の鬼とまで呼ばれたクレマンがウサギのようにピョンピョン跳ね、全身を使って喜びを表現しているではないか。
――まさか…前線の恐怖が蘇り狂ったのか?――
例え入れ替わった花嫁でも王都に帰ってみれば、嫁に逃げられた事実を目の当たりにし、ショックは大きいだろうと思ったのだが、こんなに喜ぶならもっと早く花嫁が変わった事を知らせてやれば良かったとフランシスは悔いた。
――もしかしたら花売り娘の中にイイ娘がいたのかもな――
それも戦地ではよくあることだ。妻もいる、子供もいる。
だが死線を超えた時に抱いた花売り娘に傾倒する兵士も少なくない。
――クレマンも普通の男だったわけだ――
フランシスは飛び回るクレマンに「もっと喜べ!」と告げた。
「お前が恋焦がれた相手だと言うからショックだろうと黙っていたんだが、2年前に婚約者が妹から姉に変わって、お前と結婚したのは姉の方だったんだ」
満面の笑みのフランシスを見るのは表情が一気に抜け落ちたクレマン。
「え・・・・でっ殿下?もう一度・・・ワンモア!」
「だから!お前の婚約者は妹から姉になってて嫁さんになったのは姉の方だよ。ショックは判る!好きで婚約までしたんだもんなぁ。姉の方を寄越されても困るよな。でも良かったじゃないか!で?どの花売り娘だ?可愛い子か?」
「花売りは関係ないです!妹から姉って・・・何の事です?」
「だから!お前が望んだ女性だからショックを受けちゃいけないと思って嫁さんが入れ替わった事は黙ってたんだ。でも姉の方なら離縁しても思いも無いからショックも無いよな!」
クレマンは顎に手を当てて考える。上を見て、下を見て、フランシスを見て、また上を見る。
「殿下、事実確認ですが・・・俺が婚約したのは?」
「ルド子爵家の妹だな」
「で、その婚約が・・・姉妹で逆?チェンジ?」
クレマンは指を交互に動かし、フランシスは「その通りッ!」グッと親指を立てた。
「婚約者は妹から姉になり、お前と結婚した事になってたのは姉の方だ」
「ま、待ってください・・・じゃ、この手紙にある離縁届って・・・」
「お前とルド子爵家の姉の結婚についての離縁届だな」
「で、では出て行ったって言うのは…」
「妻だったんだから姉の方だろう」
バサッ‥‥
ユゴース侯爵から届いた手紙が床に落ち、クレマンもがっくりと両膝を床に落とした。
「ど、どうしたんだ?」
「殿下・・・職を辞します」
「えっ?はっ?エェェーッ?!」
「探さなきゃ・・・どうして…どうして気が付かなかったんだろう・・・」
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