中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru

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妻の要望と閨の知識に夫は驚愕する

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取り敢えず。といってロレンツィオはセレティアにガウンを着せる。
少し肩が寒いと思っていたセレティアはありがたいと思った。

テーブルに向かい合わせに座ると、ロレンツィオはワインをグラスに注いだ。
セレティアにも飲むかと聞き、少しならというのでもう一つのグラスにもワインを注ぐ。

一口飲むと、アルコールは高くなくてスッキリとした味だった。

「お魚には白ワインが合うと言いますが、この赤ワインでも合いそうですね」
「そうだなぁ。僕としては少し足らない感じもするが‥‥それはそうと食事は口に合わなかったか?」

前菜のオードブルはまだ良かったが、最初のスープでお腹がいっぱいになり、ポワゾンである魚はこの時期は毒素が強いとの事でヴィアンド(肉料理)となったがもうお腹に入るスペースはなかった。

「いえ、大変美味しかったのですが‥‥量がすごく多くて驚いてしまって」
「多かったか…だからシェフが君には1羽は多すぎると言ったのか」

(いえ、その前のスープから既に…お野菜が大きすぎるのです)

「シェフは足を痛めてしまってね。従軍できなくなったんだが行軍では調理担当だったから雇ったんだよ。彼が調理当番だと言う日は食材が直ぐに無くなってしまうんだ。味付けがとても良くて短時間でもしっかり煮込んでくれるんだよ」

「そ、そうなのですね…よければ明日から今日の3分の1いえ、5分の1くらいの量にして頂けたら最期まで美味しく頂けると思います」

「5分の1??そんな量で足りるのか?倒れてしまうのではないか?」

「いえ、わたくしは騎士様の様に鍛錬はありませんし…お昼もなくても大丈夫なくらいです」

小食の上2食で良いというセレティアをどこか違う国の人間ではないかとロレンツィオは問うが、すんなりとハンザ王国出身ですしと返されてしまう。そして幾つかお願いがあるとセレティアは言った。

「あまり…ドレスや宝飾品などは買わないで頂きたいのです」
「どうして?女性は着飾るのが好きだと聞いたが‥‥副長もそう言っていた」
「わたくしは何処かに出かける事も御座いませんし、出来ればお仕着せなど2,3着頂ければ‥」
「はっ?お仕着せ?侍女が来てるような制服か?」
「そうですね。汚れても構わないようなものが…」
「それは…極端すぎないだろうか」
「いえ、式典など同伴しなくてはならない時はお願いしますので普段着については…」
「うーん…判った。善処しよう」

「それから、お庭を散策してもよろしいでしょうか」
「庭?いいけど…今の時期はあまり花は咲いてないと思うんだが」
「いいえ、花を愛でるのも楽しいですが、広いお庭ですから運動にもなるかと思いまして」
「なるほどねぇ‥‥それは僕も時々一緒してもいいかな」
「それは勿論です」
「わかった。でも雨が降ったり、雨が降りそうだったり、前の日が雨の日はダメだ」
「何故でございます?」
「足が汚れてしまうだろう?」
「それは…洗えばいいかと…思いますが…」
「うーん…判った。でも侍女に洗ってもらうんだよ?」

「あとは…少し厨房をお借り出来たら…と思うのですが」
「え?やっぱりシェフの料理は合わない?」
「ちっ違います…その侍女さん達にお菓子でもと思いまして…」
「構わないけど…火を使ったりしてはダメだ」
「火を使わないとケーキなどが焼けませんが…ダメですか?」
「そうだなぁ…誰か調理補助に必ずいてもらうなら…いいかなぁ」
「わかりました。厨房の出来るだけ手の空いた時に頼んでみます」
「いや、頼むのは僕がやるからいいけど…大丈夫?」
「味の保証は出来ませんが食べられるものだと思います」
「そうじゃなくて怪我したりするのはダメだ」

えらく過保護なのだなとセレティアは思った。侯爵家にいる頃は使用人も通いのメイドくらいしか料理を作れなかったほどだったので、暖炉に火を入れる事も、竈に火を焚きつける事も出来るのだけどと思ったが、それよりも部屋に入って来たときから挙動不審な動きをするロレンツィオが気になる。

「あの…ティオ様、どこか具合が?」
「具合?いや、もう絶好調すぎるくらいなんだが…ちょっと今は…」
「先程の禁じ手とは…何でございましょう?」

(うわっ…ストレートに聞くなぁ…そりゃその恰好を見たら我慢しろと言うのが拷問だって!)

「禁じ手は禁じ手だな…アハハ」

誤魔化しつつもロレンツィオは今夜、事に及ぼうというつもりはないが、あまりにも無防備すぎるセレティアに聞いておかねばと思い、頭の中で言葉を選ぶ。

「あのだな…セティは…その…彼と…」
「彼?クラウドの事ですか?」
「うん、まぁそうだね‥‥その彼と…閨の経験は‥あったりする…とか?」

途端にポっと頬を染めるセレティアは膝の上で手をギュッと握って俯いた。
あってもおかしくはないか…とロレンツィオが思っていると、小声でセレティアが話す。

「クラウドとは…手を…繋ぎました。それから…出征の前の日に教会で‥キスを‥」

そう言うと、すみませんと頭を下げて謝り始めるセレティアにロレンツィオは慌てる。

「いや、あの。キス…キス?それだけ?」
「えぇ。だって教会で結婚式を挙げる花婿と花嫁はしますでしょう?」
「そうか…そこから先は?」
「先?‥…いえ、教会から出る時はそのまま出ましたけど?」

フッと顔を横にむけてロレンツィオは考える。純潔なのは間違いない。陛下からの申し出でハンザにはセレティア以外に妙齢の女性で該当する者は病床の一人だけだと聞いている。
それよりも、まさかと思うが閨教育はしていないのではないかと冷や汗が流れた。

ギスティール王国では15歳前後で男女とも座学ではあるが閨教育はあるものだが、ハンザは知っている限りでは母親やおばなどが行うものだと聞いている。

「怒らないから…正直に答えて?子供はどうやって出来るか…知ってるか?」
「はい。愛し合う夫婦の夫が妻に精を渡せば出来ると聞いております」

何を聞いているのだろうかと不思議そうな顔ですんなりと答えるセレティアだがロレンツィオはますます冷や汗が止まらなくなった。

「その…どうやって渡すか…知って…る?」
「どうやって‥‥でございますか…そうですね…何かに包むのでしょうか。ですが母親のお腹に赤子はやってきますので、お医者様にお薬として煎じて頂いて飲むのでしょうか」

これは非常にマズイ事になったと頭の中にエイレル侯爵を思い出し、「知らなすぎだ!」と叫びたくなった。
間違いなく、クラウドとは致していないだろう事は確信できたが、それよりも大きな問題が出来てしまった。
すでに婚姻の届けが出されている女性に閨教育をしてくれる者はいない。
正確にはいるにはいるが、夫をどうやって喜ばせるかという【技】を教えるだけである。
性交をしている事、少なくとも知っている事が大前提だが、その遥か手前にセレティアは位置している。

冷や汗を出し過ぎて頭痛が始まった気がするロレンツィオは自分自身に【まだ手は出すな】と言い聞かせて一緒に寝台に入る。言い聞かせたばかりなのに寝台に入ると当然邪魔なガウンをセレティアは脱いでしまった。

大きく深呼吸をしてロレンツィオはセレティアに言った。

「セティが僕を愛していると思うまで精は渡せないけど…夜は一緒に寝よう」
「わかりました」

程なくしてセレティアの寝息が規則正しくなるとロレンツィオはそっと寝台を抜け出し、予備のリネンを引っ張り出すとグシャグシャにして自分の部屋に行き、そのリネンに自慰で精をつけ、剣で指先を少し切ってじわりと出てきた血玉をリネンに付けた。
それを夫婦の寝所から廊下に出る扉の外に置くとセレティアが眠る寝台に潜り込む。
こうしておけば、セレティアは誰からも夫人として扱われるのである。

(ご褒美‥‥でいいよね?)

小さく呟いて腕の中で眠るセレティアの髪にキスを落とすと、ロレンツィオも眠りに落ちた。
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