中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru

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ロレンツィオの褒賞品

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部隊の帰還を副官に頼んで王都への道をひた走る黒鎧の騎士と二つ名を持つ男。
名をロレンツィオ・ゲーテン・ハルクシュルツ。
ギスティール王国の公爵家は3家あるが、建国から続く名家の三男である。

上の兄とは見た目の違う彼は物心ついた時から兄が羨ましくて堪らなかった。
母に似た兄2人は眉目秀麗で今は国の重要な機関の責任者として務めている。

兄2人と違うのは先ずは見た目である。ロレンツィオも夜会では令嬢に囲まれてしまうほどの美丈夫ではあるが、髪の色は兄2人がマスカット色なのに対して父親と同じチャコールグレー。

瞳の色も兄2人は母と同じ翡翠色に対して、父と同じ青味の強い紫、ブルーヴァイオレットだった。

細身でスレンダーな筋肉質の兄2人の身長を追い越したのは16歳の時である。
ロレンツィオは体つきも父親に似て如何にも武官という筋骨隆々とした体躯だった。

5歳から剣に重きを置いて常に己を切磋琢磨したロレンツィオは確かに令嬢には人気があったが婚約者となると皆が敬遠をした。騎士の中でも黒鎧を着用する者は奇襲や夜襲に長けた者ばかりで本隊が来るまでに陣地を確保するためにおそらく騎士団の中でも剣の刃こぼれや血糊を洗い流すのが飛びぬけて多い。ひと際血生臭い部隊に所属をしていたためである。

最もロレンツィオはあまり女性に興味がなく、遠征で仲間が花売りの娼婦を買う時も1人剣を磨いたり、戦闘記録を纏め上げたりで22歳で父に無理やり連れて行かれた娼館で男になったが、それ以降も自主的に花街に行く事もなく色恋沙汰とは程遠い男だった。

26歳となった今も趣味はと聞かれれば鍛錬と即座に答える彼が馬を走らせるのは、ペンダントロケットにあった笑顔があまりにも印象的だったのもあるが、生きたセレティアを見て今までどんな危険な戦地でも経験した事のない衝撃に初めて「頭」が先に働いて「体」を突き動かしているのである。
本能でこれほどまでに欲しいと思った物も人材もなかった。
しかも女性にこんなに気持ちが激振れする事など一度もなかった。

数々の功績を挙げ、今では兄弟の末っ子でありながら独立して広い屋敷に多くの使用人を抱え、部隊でも多くの部下を引き連れる彼であるが、自らが望んでこの褒賞が欲しいと国王に願い出た事もなかった。
多くの憂いを抱えた戦だったが、中将を賜る時の褒賞をまだ何も提示していなくて良かったと馬に揺られて自分を褒める。

城に駆け込んだロレンツィオは国王に目通りを願った。
幾多の武功を挙げたロレンツィオの頼みは直ぐに聞き入れられ、王妃と茶を楽しむ国王との茶会の席に案内をされた。




王妃のエカチェリーナに身も心も溺れている国王フィオランツは好色王だのと呼ばれているが、側妃も妾妃も愛人も持たず王妃のエカチェリーナ一筋に愛を貫く国王だった。
2人の間には王子が2人、王女が1人の3人の子がおり、流れている噂はフィオランツの寝台に潜り込んだ令嬢などを王妃が処分した物である。
最も、罪人などの処刑は主に王妃のエカチェリーナが決定をしているため、残酷な話のいくつかは王ではなく王妃と置き換えればあながち嘘でもない。

勿論見た目などではなく、実際に行動をしたかどうかでの判断だが噂とは一周回って聞こえてくる頃には別人の話になっているものだと国王夫妻は笑っている。

弟の様にロレンツィオを可愛がり、武将として大きな信頼を寄せているフィオランツは未だに妻を娶らないロレンツィオにやきもきしていた。

敗戦国とは言え、王女であれば娶るだろうとエイレル侯爵に申し渡したが、王女は自死したとの知らせに肩を落とした。しかし己の娘を差し出したエイレル侯爵の言葉にしない苦悩と役目を果たさんとする臣下としての在り方にこの男を処刑するのは惜しいと感じた。

差し出された娘が大人しくロレンツィオの妻となり、子を成し、ロレンツィオを支えるのであれば遠い地でもあるハンザ王国は自治区としてエイレル侯爵にその管理を任せてみても面白いのではと思っていた。

討伐に行っていたロレンツィオが帰還した少し後にハンザ王国からの貢物が届く。
ちょっとした悪戯心でフィオランツはその場でロレンツィオに令嬢セレティアを下賜する心算だった。

そのロレンツィオが1人馬を飛ばし城に来て自分に合いたいと言ってると聞き、「これは失敗したわね」とエカチェリーナにため息交じりに呆れられたところだった。
計画がバレてしまえば女性に関心のないロレンツィオは間違いなく固辞するだろう。
そうなると令嬢の行き場がなくなる。どこに下賜するかをまた考えねばならず頭の痛い事が増えたと嘆く。

「陛下っ!このロレンツィオ。一生のお願いが御座います」

ロレンツィオの声が聞こえる。エカチェリーナは「知りませんわよ」と侍女に茶を入れ替えてもらっている。

参ったなと思いつつ、座っている椅子の前で膝をついたロレンツィオの一言目でエカチェリーナは手にしたカップを落とし、テーブルや膝に零れた茶に侍女が慌てふためく。フィオランツも思わずエカチェリーナの美しい所作に見惚れて今は夢の中かも知れないと思った。

ロレンツィオははっきりと言ったのである

「ハンザ王国からの貢物として献上される女性を娶りたいので褒賞として下賜願いたく」

と、間違いなく言ったのである。
エカチェリーナと目を合わせるが、どうやら空耳も聞き間違いでも夢でもなく現実らしい。
目の前のロレンツィオは頭を下げて返事を待っている。
フィオランツはやっとこの無骨な男にも春が来たと笑った。

「相判った。明後日、飛天の間にてお前に下賜しよう。大事にしろよ」

フィオランツの言葉に見た事もないほど破顔したロレンツィオにエカチェリーナは今度は失神をしてしまった。慌てて椅子から落ちそうになる愛妻を抱えるべくフィオランツは俊敏に動いた。

跪いて、両手をブンブンと振り乍ら全身で喜びを表すロレンツィオ。
こんなに喜ぶとは思ってもみなかったフィオランツは驚かせるつもりが逆に驚かされてしまったと声を上げて笑った。
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