中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru

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結婚式

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隣国との長引く戦争はもう5年の月日を超えてなお王国の人々の生活に影を落としていた。
ハンザ王国の侵攻は隣国の抵抗にあい拮抗した戦況なのである。

物資も滞る様になり貴族と言えどかつての様に夜会や茶会など頻繁に開催できる家はほとんどなかった。
武器を扱う公爵家などは比較的裕福ではあるが、招待をされる側は困窮をし始める者もいて、夜会や茶会どころではないのである。

そんな中、父親が第一騎士団長、兄も近衛騎士団長を務めるシーガル侯爵家の次男であるクラウドは少年兵士として戦地に赴く事になった。
40代を筆頭に20代までの男性に昨年強制的に課された兵役だったが、長い国境を守るのに人数が足らなかった。戦争が長引けば長引くほど剣を交えている国だけではなく、様子を伺っていた国も少し国力が低下したとなれば攻め込んでくるのである。

戦死者ももう2万人を超えていた。国王は己の国の軍力を過信しすぎたのである。
最初は広大な穀倉地帯を欲し、数か月で征服できると考えていたが時代の流れを読んでいなかった。
人間同士が斬り合う場は確かにまだあったが、大砲などの兵器に頼る戦術にシフトをしていた時代である。
剣や槍、弓の腕が優れていても向かい合う前に大砲で吹き飛ばれてしまっては意味がない。
しかし、今更軍備を増強するにも元々国力もさほど裕福ではなかったハンザ王国である。

長引く戦争は国力を削ぎ落していった。
引くに引けず、また国民への説明にも己の首を差し出す事を嫌がる国王はイーブンの戦いでも大勝利だったと国民に発表していた。だが国民も馬鹿ではない。
勝利をそれほど納めているにも関わらず日に日に苦しくなっている生活、働き手を兵に取られる事などから不満も高まっていた。

「クラウド。大丈夫なの?」
「判らないな。父上も兄上も出兵したままもう2年帰っていないし、僕では正確な情報はもらえないんだ」
「そうなのね。心配だわ」
「大丈夫じゃないかな。新兵だし少年兵士扱いだから安全圏での伝令なんかだと思うよ」
「それでも心配よ」

幼い頃からお互いは勿論の事、両親同士も仲が良く、何事もなければあと1年もすれば結婚をしようと誓い合ったクラウドとセレティア。
クラウドはクラウド・ティス・シーガル。シーガル侯爵家の次男。
セレティアはセレティア・ルシィド・エイレル。エイレル侯爵家の長女だった。

セレティアの父であるエイレル侯爵は10年ほど前にセレティアの母を病気で亡くし、最近後妻を迎えた。
病死した妻を思い、憔悴していた侯爵に子爵令嬢だったミレイユは近寄り、ディエナを身籠った。
責任を取る意味で再婚をしたが、義母と義妹が来てからの生活は一変した。
この不況の真っただ中で散財を続ける義母と義妹にエイレル侯爵家の資産はかなり減っていた。

クラウドは婿入りの予定であったが、義母と義妹は侯爵邸からは出ていかないというので、母方の伯爵家の後継者がいない事から伯爵家を継ぎ、セレティアを迎え入れようと考えていた。
そんな矢先、クラウドが徴兵をされてしまった。派遣される先が何処かで生きて帰る確率が大きく違う。
夫、息子2人を戦地に送っているシーガル侯爵夫人の嘆きは痛ましかった。

手持ちのドレスを数着売り、そのお金でセレティアはペンダントロケットを購入した。
先日魔石の写真館で2人の写真を撮影してもらい、ロケットの中にはめ込んだ。

「これで向こうに行っても君の顔が見られる」

微笑むクラウドもまた先に行われた財産分与された絵画や彫刻、宝飾品を売って指輪を買った。

「セレティア。手を出して」

クラウドの瞳の色であるアメジストがついた指輪を左手の薬指にはめる。
驚くほどピッタリな指輪を見て2人は見つめ合った。

神父すら徴兵されて無人となってしまった教会には数人の村人が祈りを捧げていた。
そんな中で2人だけは祭壇の前に立ち、誓いの言葉とキスだけの結婚式をした。

「戻ってきたら、飛び切りのウェディングドレスを着せてやる。みんなが羨ましがるような盛大な式を挙げるぞ」
「いいえ。わたくしは十分。クラウドが生きて帰ってくれるなら‥‥どんな姿になってもいいから必ず帰ってきて」

クラウドはセレティアを抱きしめると「僕の帰るところは君のいる場所だ」と告げると小さく折りたたんだ紙をそっと髪飾りを直すふりをして挟み込んだ。
セレティアの美しいプラチナゴールドの髪をそっと撫でると教会を出る。

「明日‥‥早朝なの?」
「いや、午後だと聞いているよ。先日の雨でぬかるんでるところもあるからね」
「そうなのね。見送りに行くわ」
「いや、それより母上のところに顔を出してやってくれないか」
「わかったわ。午前中にお屋敷に伺いますわ」

セレティアには明日の午後発つと告げたが実際は今夜夜半には騎士団に集合し夜のうちに移動を始めるのだ。
きっと気丈なセレティアが泣いてしまえば、慰めずにはいられないだろうとクラウドは嘘を吐いた。
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