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第05話 あの階段を?!
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トリスタンは自分にも言い聞かせるように「大丈夫だ」と更にメイリーンの体を抱き寄せてパドマに二の矢を放った。
「池の件はまた後日追及するが、貴様、2週間前にメイリーンを階段から落としただろう」
――これまたとんだ言いがかりね――
池の件もだが階段もそんな命がけの言いがかりをつけて何がしたいのかさっぱりわからない。
「殿下、当家の階段をご覧になられたことは?」
「まさか僕を突き落とそうとしてるんじゃないだろうな」
――やだぁ。やるとすれば城の3本塔から落とすわよ――
外観は4階建てに見えるダーズ伯爵家の内部は2階建て。なので階段はかなり段数がある。
築250年になる屋敷は建設時に1階の天井を高くとるのが流行で高ければ高いほどカッコいいとされた時代。
高さにすると通常1階の床と2階の床は3m程の差があるものだが、それが13mあるのだ。
ハッキリ言って段数にして70段以上の階段は壁の3面に添っていてコーナー部も斜めに段があり途中に踊り場はない。
さらに恐ろしい事に壁には落下防止に手摺があるが、吹き抜けている側は何もない。造った当初はあったらしいが経年劣化で朽ちてしまい、手摺は撤去された。
上り下りするだけでなく、見るだけで心拍数は爆上がりの階段。
2階は危険すぎて「立ち入り禁止区域」でもある。
別に筋力を鍛えたい訳でも度胸試しをする必要も無いし、家人も使用人も1階部分に部屋がある。
こんな造りだったので買い手がつかず長く空き家だったが、トリスタンの婚約者に選ばれた事で王都に住まねばならなくなったダーズ伯爵家は格安で借りることが出来たのだ。
2階から落ちたのなら無事では済まない。
嘘かホントか100年ほど前に忍び込んだ間者が足を踏み外して全身粉砕骨折だった、そんな話もあるのだ。
「間違いなく2階から落とされたんですの?」
「あ、いや…言い過ぎた。急いで身を翻し駆け下りたそうだがな」
「えぇっ?!あの階段を駆け下りたのですか?なんとも…無謀ですわ」
「そりゃ落とされそうになったら…あれ?」
トリスタンはふとダーズ伯爵家の階段を思い出し、言葉が途切れた。
パドマはトリスタンが考えるのであれば、とヒントを出す事にした。
「殿下は当家の中に入った事が御座いますわよね」
「勿論だ」
「実はあの階段、遠い海の向こうの国の城造りを模したらしく踏面という上り下りする際に足を置く面は長さがまちまちである上に、蹴上と呼ばれる1段当たりの高さも違うのです。手慣れた間者でも駆け下りるのは無理ですわ」
「うっ…確かに…」
「その上…落とされそうになったとの事ですが、何の用があって2階に?それ以前に…階段を転げ落ちる前に1階に落下しましてよ?」
トリスタンもダーズ伯爵家では2階に行く事を禁止している事は知っている。
わざわざ2階に上がる必要もない。
2階からパドマがメイリーンを呼んだとして嫌がらせをしている相手なのにあの階段を上るのだろうか?
小さな疑問を持ち、トリスタンはメイリーンに問いかけた。
「メイリーン、2階に行ったのか?」
「うん。行ったわ。だって2階の窓からパドマが ”ここよ~” って手を振ってて急がなきゃ!って」
「は?…あ、あの…2階の窓から?しゃがんで覗き込むようにか?」
「まさかぁ。ここよ~!って窓枠に片手を置いて手を振ってたの」
トリスタンにもメイリーンが嘘を言っている事は直ぐに解った。
造りが特殊な家。外から見れば4階建てに見える窓の配置だが2階の窓は4段目の一番上だ。
しかもその窓は床の高さから取りついているのでしゃがみ込むしかない。
1、2、3段目の窓は1階の窓。
つまりメイリーンはダーズ伯爵家の中に入った事がないとなる。
トリスタンはまさかと思いつつももう一度メイリーンに問いかけた。
「メイリーン…階段を駆け下りた時、どうやって降りた?」
「どうって…こうやって」
メイリーンは疑う事も無く両手で手摺を握る仕草を示した。
トリスタンはパドマとメイリーンを交互に見た後、人生最大に肝が冷える。
「当家の階段から落ちたのか、それとも駆け下りたのか。どちらでも結構。他には何か御座いまして?」
「あ、いや、その…」
先ほどまでの勢いは何処に?
トリスタンはすっかり意気消沈のようだが、メイリーンは元気そのもの。
「ねぇ、ちゃんと糾弾してよ」
トリスタンを急かしているが、トリスタンもよくよく考え‥‥なくてもあり得ない話と分かるのに無条件に頭からメイリーンを信じ、ここで声を上げてしまった事を後悔し始めていた。
「池の件はまた後日追及するが、貴様、2週間前にメイリーンを階段から落としただろう」
――これまたとんだ言いがかりね――
池の件もだが階段もそんな命がけの言いがかりをつけて何がしたいのかさっぱりわからない。
「殿下、当家の階段をご覧になられたことは?」
「まさか僕を突き落とそうとしてるんじゃないだろうな」
――やだぁ。やるとすれば城の3本塔から落とすわよ――
外観は4階建てに見えるダーズ伯爵家の内部は2階建て。なので階段はかなり段数がある。
築250年になる屋敷は建設時に1階の天井を高くとるのが流行で高ければ高いほどカッコいいとされた時代。
高さにすると通常1階の床と2階の床は3m程の差があるものだが、それが13mあるのだ。
ハッキリ言って段数にして70段以上の階段は壁の3面に添っていてコーナー部も斜めに段があり途中に踊り場はない。
さらに恐ろしい事に壁には落下防止に手摺があるが、吹き抜けている側は何もない。造った当初はあったらしいが経年劣化で朽ちてしまい、手摺は撤去された。
上り下りするだけでなく、見るだけで心拍数は爆上がりの階段。
2階は危険すぎて「立ち入り禁止区域」でもある。
別に筋力を鍛えたい訳でも度胸試しをする必要も無いし、家人も使用人も1階部分に部屋がある。
こんな造りだったので買い手がつかず長く空き家だったが、トリスタンの婚約者に選ばれた事で王都に住まねばならなくなったダーズ伯爵家は格安で借りることが出来たのだ。
2階から落ちたのなら無事では済まない。
嘘かホントか100年ほど前に忍び込んだ間者が足を踏み外して全身粉砕骨折だった、そんな話もあるのだ。
「間違いなく2階から落とされたんですの?」
「あ、いや…言い過ぎた。急いで身を翻し駆け下りたそうだがな」
「えぇっ?!あの階段を駆け下りたのですか?なんとも…無謀ですわ」
「そりゃ落とされそうになったら…あれ?」
トリスタンはふとダーズ伯爵家の階段を思い出し、言葉が途切れた。
パドマはトリスタンが考えるのであれば、とヒントを出す事にした。
「殿下は当家の中に入った事が御座いますわよね」
「勿論だ」
「実はあの階段、遠い海の向こうの国の城造りを模したらしく踏面という上り下りする際に足を置く面は長さがまちまちである上に、蹴上と呼ばれる1段当たりの高さも違うのです。手慣れた間者でも駆け下りるのは無理ですわ」
「うっ…確かに…」
「その上…落とされそうになったとの事ですが、何の用があって2階に?それ以前に…階段を転げ落ちる前に1階に落下しましてよ?」
トリスタンもダーズ伯爵家では2階に行く事を禁止している事は知っている。
わざわざ2階に上がる必要もない。
2階からパドマがメイリーンを呼んだとして嫌がらせをしている相手なのにあの階段を上るのだろうか?
小さな疑問を持ち、トリスタンはメイリーンに問いかけた。
「メイリーン、2階に行ったのか?」
「うん。行ったわ。だって2階の窓からパドマが ”ここよ~” って手を振ってて急がなきゃ!って」
「は?…あ、あの…2階の窓から?しゃがんで覗き込むようにか?」
「まさかぁ。ここよ~!って窓枠に片手を置いて手を振ってたの」
トリスタンにもメイリーンが嘘を言っている事は直ぐに解った。
造りが特殊な家。外から見れば4階建てに見える窓の配置だが2階の窓は4段目の一番上だ。
しかもその窓は床の高さから取りついているのでしゃがみ込むしかない。
1、2、3段目の窓は1階の窓。
つまりメイリーンはダーズ伯爵家の中に入った事がないとなる。
トリスタンはまさかと思いつつももう一度メイリーンに問いかけた。
「メイリーン…階段を駆け下りた時、どうやって降りた?」
「どうって…こうやって」
メイリーンは疑う事も無く両手で手摺を握る仕草を示した。
トリスタンはパドマとメイリーンを交互に見た後、人生最大に肝が冷える。
「当家の階段から落ちたのか、それとも駆け下りたのか。どちらでも結構。他には何か御座いまして?」
「あ、いや、その…」
先ほどまでの勢いは何処に?
トリスタンはすっかり意気消沈のようだが、メイリーンは元気そのもの。
「ねぇ、ちゃんと糾弾してよ」
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