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第16話 世話のかかる護衛?
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蜂に刺された事で予定よりも2日遅れてモコ伯爵領の領界をまたいだ2人。
ずっと騎乗をしている訳ではなく、20分騎乗して10分休み、30分は手綱を引いて歩く。軍馬でもある2頭の馬だが、長距離をずっと騎乗していては疲れてしまう。
馬車を引く馬も街中であれば路面が舗装されているので2、3キロは辻馬車の馬も馬車を引くが、幌馬車や荷馬車など街道を走る馬は1キロも走れば休憩を1時間。
路面も悪いからなのだが、歩いた方が早い。
ただ、旅は荷物があるので人々は歩くよりも金があれば馬車を利用するだけである。
「今日はここで休んで、明日はやっと屋敷に到着だな」
野宿も何度目かになると慣れてくる。2頭の馬を木の幹に繋ぐとピレニーは小枝を拾い火を起こす。近くに湧き水などがあれば汲んでくる。チェサピックは食料を探すのだが今回は河原ではなく、紛れもない山。
「じゃ、行ってくるよ」
「木の実くらいでいいわよ?午前中に立ち寄った宿場町でパンは買ったから」
「じゃぁジャムに出来そうなキイチゴでも探してくるか」
しかし、今回もなかなか戻ってこない。
様子を見に行こうにも馬を盗まれる危険性もあるのでその場を離れる事も出来ないピレニーは「先に食べちゃおうかな」とパンを焚火で炙り始めた。
香ばしい香りがしてきた頃に、ようやくチェサピックが戻って来たのだが大量に収穫があったようで上着を袋代わりにして背中に背負って戻って来た。
「見てくれ!その辺り一面にあったぞ!取り放題だ」
バッと広げた上着の中身だったが‥‥。
「だめ。これはスギヒラタケ!毒キノコよ」
「え?そうなのか?ヒラタケだろ?」
「違うわよ。それからこれはテングタケね。カキシメジに・・・ツキヨタケ。ほとんど毒キノコじゃないの。よくこれだけ集めて来たわね。死にたいの?」
ぽいぽいとより分けて上着に包んで目一杯あった収穫のキノコで残ったのは手のひら程度。
チェサピックは「廃棄です!」と分けられたキノコを手に取りクンクンと香りを嗅いだ。
「何してるの!ホテイシメジなんか嗅いじゃダメだってば!」
「でもいい香りがするぞ?俺は鼻は利くんだ」
「食べられるには食べられるけど・・・干したりしないと危険だからダメ!」
「食べられるならいいんじゃないのか?香りもいいしさ」
「だめ!寒さを凌ぐために寝る前にワインを少し飲むでしょう?ホテイシメジはお酒が入ると焼き鏝で肌を焼かれているような痛みがずっと続くの!旅の途中でこういうのは絶対にダメ!」
しかし、食いしん坊なのか。
食べることは出来るというホテイシメジを夜中、ピレニーが寝てしまった後にチェサピックは焚火の火で炙り、ワインと一緒に食べてしまったのだった。
異変に気が付いたのは領地の屋敷が遠くに見えた頃だった。
どうもチェサピックの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「いや…なんでもない」
鐙から足を外しているのはよくある事なのだが、手綱を握るチェサピックは時折顔を歪めていた。額にはそこまで暑くないし、もう冷え込んでくる時間で少し北風も吹いているのにじっとりと汗を掻いている。そして顔色も良くない。
「まさかと思うけど・・・食べたんじゃないでしょうね!」
「えっと・・・何を・・・かな?あはは‥うぷっ」
遂にチェサピックは口元を押さえ、馬を飛び降りると草むらで嘔吐をし始めてしまった。
――やっぱり!だからダメだと言ったのに!――
ホテイシメジは酒と一緒に食べてしまうと重度の悪酔い状態になり、酷いと酩酊してしまう。その他にも手や足の指が焼かれるような痛みを伴うので、咄嗟に馬を降りたチェサピックは草むらに転がり込む格好。
「痛いんでしょう?だからダメだと言ったのに。我慢してたんでしょう?」
「うぇぇっぷ・・・あぅおぅわっ・・・」
「ほら…こうなったら吐くしかないわ。荷馬車が通ったら乗せてもらいましょう」
涙目になりながらもう吐くものもないのにえづいてしまうチェサピック。これでは護衛の意味がまるでない。
「ちょっと横になる?これは毒気が抜けるまで我慢するしかないのよ?」
「ごめん・・・火で炙って食べると美味しくて」
「呆れた。ほら、口元拭いてあげる。世話のかかる護衛だわ」
残り僅かな水筒の水でハンカチを濡らし、チェサピックの顔を拭き上げるピレニーにチェサピックは気分が悪いのに、鼻腔を擽るピレニーの香りと、優しい声に救いがあるように感じた。
「荷馬車が来たら声を掛けるからじっとしてて」
「ピレニー。ごめんなぁ」
「気にしないで。口の中、洗う?水筒の水がうがいするくらいは残ってるわ」
「いや、さっきので楽になった」
「そう、良かったわ。何かして欲しい事があれば言って」
――うん。声が聴きたい――
頭の中がグルグルとするし、指先は手も足も叫びたいくらいに痛いがピレニーの声を聴いていると不思議と和らぐ。チェサピックは「声を聞きたい」と言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。
結局、食いしん坊のチェサピックは荷馬車に揺られて屋敷に入り、2週間を寝台で過ごす事になったのだった。
ずっと騎乗をしている訳ではなく、20分騎乗して10分休み、30分は手綱を引いて歩く。軍馬でもある2頭の馬だが、長距離をずっと騎乗していては疲れてしまう。
馬車を引く馬も街中であれば路面が舗装されているので2、3キロは辻馬車の馬も馬車を引くが、幌馬車や荷馬車など街道を走る馬は1キロも走れば休憩を1時間。
路面も悪いからなのだが、歩いた方が早い。
ただ、旅は荷物があるので人々は歩くよりも金があれば馬車を利用するだけである。
「今日はここで休んで、明日はやっと屋敷に到着だな」
野宿も何度目かになると慣れてくる。2頭の馬を木の幹に繋ぐとピレニーは小枝を拾い火を起こす。近くに湧き水などがあれば汲んでくる。チェサピックは食料を探すのだが今回は河原ではなく、紛れもない山。
「じゃ、行ってくるよ」
「木の実くらいでいいわよ?午前中に立ち寄った宿場町でパンは買ったから」
「じゃぁジャムに出来そうなキイチゴでも探してくるか」
しかし、今回もなかなか戻ってこない。
様子を見に行こうにも馬を盗まれる危険性もあるのでその場を離れる事も出来ないピレニーは「先に食べちゃおうかな」とパンを焚火で炙り始めた。
香ばしい香りがしてきた頃に、ようやくチェサピックが戻って来たのだが大量に収穫があったようで上着を袋代わりにして背中に背負って戻って来た。
「見てくれ!その辺り一面にあったぞ!取り放題だ」
バッと広げた上着の中身だったが‥‥。
「だめ。これはスギヒラタケ!毒キノコよ」
「え?そうなのか?ヒラタケだろ?」
「違うわよ。それからこれはテングタケね。カキシメジに・・・ツキヨタケ。ほとんど毒キノコじゃないの。よくこれだけ集めて来たわね。死にたいの?」
ぽいぽいとより分けて上着に包んで目一杯あった収穫のキノコで残ったのは手のひら程度。
チェサピックは「廃棄です!」と分けられたキノコを手に取りクンクンと香りを嗅いだ。
「何してるの!ホテイシメジなんか嗅いじゃダメだってば!」
「でもいい香りがするぞ?俺は鼻は利くんだ」
「食べられるには食べられるけど・・・干したりしないと危険だからダメ!」
「食べられるならいいんじゃないのか?香りもいいしさ」
「だめ!寒さを凌ぐために寝る前にワインを少し飲むでしょう?ホテイシメジはお酒が入ると焼き鏝で肌を焼かれているような痛みがずっと続くの!旅の途中でこういうのは絶対にダメ!」
しかし、食いしん坊なのか。
食べることは出来るというホテイシメジを夜中、ピレニーが寝てしまった後にチェサピックは焚火の火で炙り、ワインと一緒に食べてしまったのだった。
異変に気が付いたのは領地の屋敷が遠くに見えた頃だった。
どうもチェサピックの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「いや…なんでもない」
鐙から足を外しているのはよくある事なのだが、手綱を握るチェサピックは時折顔を歪めていた。額にはそこまで暑くないし、もう冷え込んでくる時間で少し北風も吹いているのにじっとりと汗を掻いている。そして顔色も良くない。
「まさかと思うけど・・・食べたんじゃないでしょうね!」
「えっと・・・何を・・・かな?あはは‥うぷっ」
遂にチェサピックは口元を押さえ、馬を飛び降りると草むらで嘔吐をし始めてしまった。
――やっぱり!だからダメだと言ったのに!――
ホテイシメジは酒と一緒に食べてしまうと重度の悪酔い状態になり、酷いと酩酊してしまう。その他にも手や足の指が焼かれるような痛みを伴うので、咄嗟に馬を降りたチェサピックは草むらに転がり込む格好。
「痛いんでしょう?だからダメだと言ったのに。我慢してたんでしょう?」
「うぇぇっぷ・・・あぅおぅわっ・・・」
「ほら…こうなったら吐くしかないわ。荷馬車が通ったら乗せてもらいましょう」
涙目になりながらもう吐くものもないのにえづいてしまうチェサピック。これでは護衛の意味がまるでない。
「ちょっと横になる?これは毒気が抜けるまで我慢するしかないのよ?」
「ごめん・・・火で炙って食べると美味しくて」
「呆れた。ほら、口元拭いてあげる。世話のかかる護衛だわ」
残り僅かな水筒の水でハンカチを濡らし、チェサピックの顔を拭き上げるピレニーにチェサピックは気分が悪いのに、鼻腔を擽るピレニーの香りと、優しい声に救いがあるように感じた。
「荷馬車が来たら声を掛けるからじっとしてて」
「ピレニー。ごめんなぁ」
「気にしないで。口の中、洗う?水筒の水がうがいするくらいは残ってるわ」
「いや、さっきので楽になった」
「そう、良かったわ。何かして欲しい事があれば言って」
――うん。声が聴きたい――
頭の中がグルグルとするし、指先は手も足も叫びたいくらいに痛いがピレニーの声を聴いていると不思議と和らぐ。チェサピックは「声を聞きたい」と言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。
結局、食いしん坊のチェサピックは荷馬車に揺られて屋敷に入り、2週間を寝台で過ごす事になったのだった。
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