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第08話 これも盛況のうち?
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迎えたバザーの日。
午前中、客の出足はまずまずだった。
このバザーは王家とサレス侯爵家が共同で主催をしているのだが、内容が単にバザーと言うだけではなく就労などの支援がメインなので内容を考えればこの人数が集まったのは合格点。
開催の挨拶を第3王子が行い、続いてサレス侯爵が人々に集まってくれた事に礼を言った。ずっと会場にいる事も出来ずに第3王子は可愛い姪っ子のピレニーと人々の働き方によっては王家の管理する領地で就労させると言い残し、次の予定に向かった。
スラム街からの生活を脱却するためには施しや犯罪などとは無縁の生活をしなくてはならない。
その為には労働だが、労働に至るまでの支援なども国は施策を打ち上げているものの周知不足も相まってスラム街だけでなく、一歩手前でなんとか踏みとどまっている者達が足を運んだ。
「殿下には早めに引いて貰って良かったですね」
隣で成り行きを見守るサレス侯爵家の使用人がポツリと独り言のように言葉を漏らした。ピレニーも「そのようね」と力なく、誰に言うでもなく言葉を漏らした。
直前で全てが変更になったと言ってもいい配置。
手分けをして人を案内するために警備の兵士も一緒になって「就労の希望者はこっち」「家族に介護者がいる者はこっち」「幼子を抱えている者はコッチ」と声を張り上げねばならない。
誰かひとりが「休憩は何処で」「御不浄は何処」と警備兵に聞けば集まり出した人の列が動かなくなる。そうなれば遠目からでも「人だかり」が出来ているので何だろうと流れを無視して逆に歩いたり、時間の経過と共に集まった人たちは縦横無尽に好き勝手をし始める。
親とはぐれてしまった子供は泣き叫んでいるし、4、5歳の子供を連れた母親と思しき女性は「お話をしてるから、じっとしてて」と折角の支援金付就労の手続きも進まない。
「早くしてよ!昼になっちゃうわ」
後ろから誰かが叫べば、長い列に10分、20分と待っている者達も文句を言い始める。
「当初の予定だったらもっと流れはスムーズだったのに」
手続きをする為の番号札もレオカディオが「並ばせればいい」というだけのプランだったため、1時間もすれば何の列なのかすら解らなくなっている有様。
が、2時間もするとどの手続き用ブースにも突然列に全く人が並ばなくなり、入り口付近で民衆がおしくらまんじゅう状態になってしまった。
「何事なの?!手続きに来ないなんて」
迷子の預り所を急ぎ開設したピレニーが各所への支援金申請のブースに来てみれば手続きをしている男性が数人だけ。このブースで手続きをしてもらって就労させるのがメインなのにどういう事だと聞いてみれば、息を切らせて入り口を警備していた兵士がやって来た。
「サレス侯爵家のご子息が入り口で金を配り始めました!」
「なんですって?!」
急いで入り口付近に行ってみれば民衆が「もう一回貰おうぜ」と来場者に配り始めた現金に群がっていた。号外売りでもここまで人に囲まれる事は無いだろうに、「1人千バウです!ちゃんと並んで!」叫ぶ使用人の元には何十人もが手を伸ばし、我先に「タダで貰える千バウ」に手を伸ばしていた。
「危険だわ!直ぐにやめさせないと!」
ピレニーはケガ人が出る前にこの騒ぎを何とかしなくては!と近くにいた使用人や警備の兵士に声をかけるものの、金を貰う事に集中している民衆には声が届かない。
入り口付近は子供の泣き声と大人の怒声が飛び交って阿鼻叫喚。
「でも、あんな金。何処に有ったんでしょう」
使用人がピレニーに問いかけるが、ピレニーも金の出所が何処なのか判らない。
そのうち、教会のバザーで金を配っていると知った民衆も押し寄せて来たのだが、「もうありません!配布は終わります」の声に大きなブーイングが響き渡った。
4、5回受け取った者もいれば、朝早くから来ていたのに1回も受け取れなかった者もいる。自分が他者よりも少ない回数だったり、配る使用人によっては大人だけだったり、妊婦も2人と数えたりで統制が取れておらず終いには騎士団があわや暴動となる寸前で来てくれたおかげで騒ぎを収める事が出来た。
日も暮れて終わってみれば散々な結果だった。
メインとした各種の手続きをしたものは28人だけで、50人以上は話は出来たが子供がぐずってしまったり、長時間列に並んだことで気分が悪くなったりで手続きにまで至らなかった。
子供達に配る菓子や予定していたゲームの景品で配る筈だったパンは現金の魅力には叶わなかったようで大量に余ってしまっていた。尤も、あの騒ぎで「ここでパンが貰える」「ここで菓子が貰える」となれば更に騒ぎに火を注ぐようなものだったかも知れない。
片付けを始めたピレニーの元にしたり顔でレオカディオとアエラがやって来た。
午前中、客の出足はまずまずだった。
このバザーは王家とサレス侯爵家が共同で主催をしているのだが、内容が単にバザーと言うだけではなく就労などの支援がメインなので内容を考えればこの人数が集まったのは合格点。
開催の挨拶を第3王子が行い、続いてサレス侯爵が人々に集まってくれた事に礼を言った。ずっと会場にいる事も出来ずに第3王子は可愛い姪っ子のピレニーと人々の働き方によっては王家の管理する領地で就労させると言い残し、次の予定に向かった。
スラム街からの生活を脱却するためには施しや犯罪などとは無縁の生活をしなくてはならない。
その為には労働だが、労働に至るまでの支援なども国は施策を打ち上げているものの周知不足も相まってスラム街だけでなく、一歩手前でなんとか踏みとどまっている者達が足を運んだ。
「殿下には早めに引いて貰って良かったですね」
隣で成り行きを見守るサレス侯爵家の使用人がポツリと独り言のように言葉を漏らした。ピレニーも「そのようね」と力なく、誰に言うでもなく言葉を漏らした。
直前で全てが変更になったと言ってもいい配置。
手分けをして人を案内するために警備の兵士も一緒になって「就労の希望者はこっち」「家族に介護者がいる者はこっち」「幼子を抱えている者はコッチ」と声を張り上げねばならない。
誰かひとりが「休憩は何処で」「御不浄は何処」と警備兵に聞けば集まり出した人の列が動かなくなる。そうなれば遠目からでも「人だかり」が出来ているので何だろうと流れを無視して逆に歩いたり、時間の経過と共に集まった人たちは縦横無尽に好き勝手をし始める。
親とはぐれてしまった子供は泣き叫んでいるし、4、5歳の子供を連れた母親と思しき女性は「お話をしてるから、じっとしてて」と折角の支援金付就労の手続きも進まない。
「早くしてよ!昼になっちゃうわ」
後ろから誰かが叫べば、長い列に10分、20分と待っている者達も文句を言い始める。
「当初の予定だったらもっと流れはスムーズだったのに」
手続きをする為の番号札もレオカディオが「並ばせればいい」というだけのプランだったため、1時間もすれば何の列なのかすら解らなくなっている有様。
が、2時間もするとどの手続き用ブースにも突然列に全く人が並ばなくなり、入り口付近で民衆がおしくらまんじゅう状態になってしまった。
「何事なの?!手続きに来ないなんて」
迷子の預り所を急ぎ開設したピレニーが各所への支援金申請のブースに来てみれば手続きをしている男性が数人だけ。このブースで手続きをしてもらって就労させるのがメインなのにどういう事だと聞いてみれば、息を切らせて入り口を警備していた兵士がやって来た。
「サレス侯爵家のご子息が入り口で金を配り始めました!」
「なんですって?!」
急いで入り口付近に行ってみれば民衆が「もう一回貰おうぜ」と来場者に配り始めた現金に群がっていた。号外売りでもここまで人に囲まれる事は無いだろうに、「1人千バウです!ちゃんと並んで!」叫ぶ使用人の元には何十人もが手を伸ばし、我先に「タダで貰える千バウ」に手を伸ばしていた。
「危険だわ!直ぐにやめさせないと!」
ピレニーはケガ人が出る前にこの騒ぎを何とかしなくては!と近くにいた使用人や警備の兵士に声をかけるものの、金を貰う事に集中している民衆には声が届かない。
入り口付近は子供の泣き声と大人の怒声が飛び交って阿鼻叫喚。
「でも、あんな金。何処に有ったんでしょう」
使用人がピレニーに問いかけるが、ピレニーも金の出所が何処なのか判らない。
そのうち、教会のバザーで金を配っていると知った民衆も押し寄せて来たのだが、「もうありません!配布は終わります」の声に大きなブーイングが響き渡った。
4、5回受け取った者もいれば、朝早くから来ていたのに1回も受け取れなかった者もいる。自分が他者よりも少ない回数だったり、配る使用人によっては大人だけだったり、妊婦も2人と数えたりで統制が取れておらず終いには騎士団があわや暴動となる寸前で来てくれたおかげで騒ぎを収める事が出来た。
日も暮れて終わってみれば散々な結果だった。
メインとした各種の手続きをしたものは28人だけで、50人以上は話は出来たが子供がぐずってしまったり、長時間列に並んだことで気分が悪くなったりで手続きにまで至らなかった。
子供達に配る菓子や予定していたゲームの景品で配る筈だったパンは現金の魅力には叶わなかったようで大量に余ってしまっていた。尤も、あの騒ぎで「ここでパンが貰える」「ここで菓子が貰える」となれば更に騒ぎに火を注ぐようなものだったかも知れない。
片付けを始めたピレニーの元にしたり顔でレオカディオとアエラがやって来た。
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