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第11話 潮目が変わる?
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潮目が変わりそうになったのを悟ったのはミジャン伯爵夫妻だけでなくレオカディオとアエラも同様。ここでアエラの責を明言するとなれば少なくとも半年から1年の間、アエラを修道院で奉仕させると言うものになるだろう。
それでは問題がある。
なんせアエラの腹の中にはまだ膨らみこそないものの子供が宿っている。
半年も経ってしまえば生まれてしまうかも知れない。
1、2か月ならば早産で誤魔化せると踏んでいたのだが、この場で取り決めをされるとアエラはそのまま修道院に行くことになり『誰の子』となった時に、レオカディオの名をアエラが口にすればモコ伯爵家に莫大な慰謝料を支払う羽目になってしまう。
レオカディオとアエラが事を急いだにはそう言う理由があった。
が、どんな理由があれ手を出してしまえば責任は問われる。
アエラの腹の立つ原因はあったとしても、あの場で頬を張る必要があったのかどうか。
途端にアエラの表情が険しくなり、レオカディオに縋ったがレオカディオも考えていた流れとは違う方向に責任のあり方が問われた事に何も言えないでいた。
返事に窮するミジャン伯爵夫妻。
確かに今夜の夜会は会場は王宮のホールで主催は王家とサレス侯爵家。
サレス侯爵家にはなにがしかの便宜を図れば良いが、王家はそうはいかない。
――やはり修道院で暫く謹慎させた方が無難だろう――
その場の空気がアエラの修道院行きをミジャン伯爵が言い出すのを待つ。そんな空気になった時、「遅くなりました」と遅れてやって来たのはピレニーの両親であるモコ伯爵夫妻。
モコ伯爵夫妻にも勿論夜会の招待状は届いていたが、近しい親族の葬儀を終えてまだ1カ月。喪中である事から祝いの席である夜会は欠席をし、サレス侯爵家に嫁ぐ事がもう決まっているピレニーだけが参加となっていた。
尤も、来客を出迎えたりとピレニーの夜会での立ち位置は客としてではなくサレス侯爵家の一員としてだった。
「役者も揃ったようだ。茶番はここまででいいだろう」
ここぞとばかりに第2王子ドベールはピレニーの背に手を回した。
「この場を丸く収める方法が1つだけある」
人差し指を立てたドベールは悪戯っ子のような顔つきになって同年代でもある当主たちに話しかけた。
「先ずはミジャン伯爵令嬢。君の功績でバザーが大成功を収めた。間違いないんだろう?」
話を振られたアエラは小さく「はい」と返事を返した。
「どうしたんだい?さっきまでの勢いが消えたようだが?」
「いえ、認めて頂けているとは・・・思わなくて」
「いやいや、とても素晴らしいバザーだったよ」
「そうですか!お褒めの言葉を頂けるなんて!」
パッと顔色が明るくなったアエラだったが、隣に腰掛けるレオカディオはドベールの性格を人伝でも聞いた事があり、文面通りに受け取るのは危険だと緊張の面持ち。
「どうだろう。各々方、ここに並んで座るサレス侯爵子息、ミジャン伯爵令嬢ほどに意思疎通が出来て、共に望む成果が同じという2人も珍しい。この際だ。子息の婚約者を入れ替えてみてはどうかと思うのだが?」
「殿下!何を言われるのです?!この婚約は代々受け継がれてやっとこのレオカディオの代で恩が返せるものです。王家から遅れる事23年。このサレス家に巡って来た機会なんですよ?!」
「だが、子息は婚約者の言葉よりもミジャン伯爵令嬢の言葉を優先しこのバザーを終わらせたのだろう?足を引っ張るようなモコ伯爵令嬢とはこの先、侯爵家という大きな荷を共に背負うにあたっては問題があるだろう?」
ドベールの言葉にレオカディオとアエラが目を合わせる。
まさか第2王子のドベールが口火を切ってくれるとは夢にも思わなかった。
ドベールの言葉を援護したのはモコ伯爵夫人。第2王子ドベールとは兄妹の関係にあるポラニアン。ピレニーの母親であり数代のうちにぽっかり生まれた元王女。
「良いのではなくて?サレス侯爵家としても王家との繋がりをこれ以上は望まないでしょう?」
「王家とではなくっ!モコ伯爵家との縁を!これは約束なのです」
声を荒げるサレス侯爵だったが、勿論魂胆がある。
支度金など金の問題ではなく、現国王から見てピレニーは孫。次代の国王である今の王太子からすれば姪。ポラニアン元王女もピレニーも王家から見れば唯一王家の血を引く女性であるのは間違いなく、サレス侯爵家には格好の機会であり、王家との繋がりが姻戚により結ばれるのをフイにする事は出来なかった。
ピレニーがいるだけで、万が一財政的にサレス侯爵家が傾く事があっても融通を利かせて貰える上に、レオカディオとピレニーに子が出来ればその子供にも順番が回っては来ないとしても王位継承権が発生する。
貴族とは見栄の張り合いをする生き物。
王家の血筋というこの上ない駒をここで手放す事は出来なかった。
「モコ伯爵家としましては、17年間の婚約期間を以て約束を果たしたと考えて良いのです。バザーについても娘は力にはなれなかったようですし、長きの約束もここいらが潮時かと」
妻のポラニアンからすれば影は薄いがモコ伯爵は直接的な言葉にはしないが「婚約解消」を示唆してきた。
――不味い。そういう意図があったのか?――
今更ながらにレオカディオはピレニーの価値を悟る。
判っていた事なのにすっかり抜け落ちていた。
そう。サレス侯爵家以上に王家は女児に恵まれなかった。ポラニアンが元王女だという事は判っていたのにピレニーが…というよりもモコ伯爵家をただの格下だとしか思っていなかった。
そうなると隣にいるアエラの輝きが途端に失われて拳にして3つほど腰をずらした。
それでは問題がある。
なんせアエラの腹の中にはまだ膨らみこそないものの子供が宿っている。
半年も経ってしまえば生まれてしまうかも知れない。
1、2か月ならば早産で誤魔化せると踏んでいたのだが、この場で取り決めをされるとアエラはそのまま修道院に行くことになり『誰の子』となった時に、レオカディオの名をアエラが口にすればモコ伯爵家に莫大な慰謝料を支払う羽目になってしまう。
レオカディオとアエラが事を急いだにはそう言う理由があった。
が、どんな理由があれ手を出してしまえば責任は問われる。
アエラの腹の立つ原因はあったとしても、あの場で頬を張る必要があったのかどうか。
途端にアエラの表情が険しくなり、レオカディオに縋ったがレオカディオも考えていた流れとは違う方向に責任のあり方が問われた事に何も言えないでいた。
返事に窮するミジャン伯爵夫妻。
確かに今夜の夜会は会場は王宮のホールで主催は王家とサレス侯爵家。
サレス侯爵家にはなにがしかの便宜を図れば良いが、王家はそうはいかない。
――やはり修道院で暫く謹慎させた方が無難だろう――
その場の空気がアエラの修道院行きをミジャン伯爵が言い出すのを待つ。そんな空気になった時、「遅くなりました」と遅れてやって来たのはピレニーの両親であるモコ伯爵夫妻。
モコ伯爵夫妻にも勿論夜会の招待状は届いていたが、近しい親族の葬儀を終えてまだ1カ月。喪中である事から祝いの席である夜会は欠席をし、サレス侯爵家に嫁ぐ事がもう決まっているピレニーだけが参加となっていた。
尤も、来客を出迎えたりとピレニーの夜会での立ち位置は客としてではなくサレス侯爵家の一員としてだった。
「役者も揃ったようだ。茶番はここまででいいだろう」
ここぞとばかりに第2王子ドベールはピレニーの背に手を回した。
「この場を丸く収める方法が1つだけある」
人差し指を立てたドベールは悪戯っ子のような顔つきになって同年代でもある当主たちに話しかけた。
「先ずはミジャン伯爵令嬢。君の功績でバザーが大成功を収めた。間違いないんだろう?」
話を振られたアエラは小さく「はい」と返事を返した。
「どうしたんだい?さっきまでの勢いが消えたようだが?」
「いえ、認めて頂けているとは・・・思わなくて」
「いやいや、とても素晴らしいバザーだったよ」
「そうですか!お褒めの言葉を頂けるなんて!」
パッと顔色が明るくなったアエラだったが、隣に腰掛けるレオカディオはドベールの性格を人伝でも聞いた事があり、文面通りに受け取るのは危険だと緊張の面持ち。
「どうだろう。各々方、ここに並んで座るサレス侯爵子息、ミジャン伯爵令嬢ほどに意思疎通が出来て、共に望む成果が同じという2人も珍しい。この際だ。子息の婚約者を入れ替えてみてはどうかと思うのだが?」
「殿下!何を言われるのです?!この婚約は代々受け継がれてやっとこのレオカディオの代で恩が返せるものです。王家から遅れる事23年。このサレス家に巡って来た機会なんですよ?!」
「だが、子息は婚約者の言葉よりもミジャン伯爵令嬢の言葉を優先しこのバザーを終わらせたのだろう?足を引っ張るようなモコ伯爵令嬢とはこの先、侯爵家という大きな荷を共に背負うにあたっては問題があるだろう?」
ドベールの言葉にレオカディオとアエラが目を合わせる。
まさか第2王子のドベールが口火を切ってくれるとは夢にも思わなかった。
ドベールの言葉を援護したのはモコ伯爵夫人。第2王子ドベールとは兄妹の関係にあるポラニアン。ピレニーの母親であり数代のうちにぽっかり生まれた元王女。
「良いのではなくて?サレス侯爵家としても王家との繋がりをこれ以上は望まないでしょう?」
「王家とではなくっ!モコ伯爵家との縁を!これは約束なのです」
声を荒げるサレス侯爵だったが、勿論魂胆がある。
支度金など金の問題ではなく、現国王から見てピレニーは孫。次代の国王である今の王太子からすれば姪。ポラニアン元王女もピレニーも王家から見れば唯一王家の血を引く女性であるのは間違いなく、サレス侯爵家には格好の機会であり、王家との繋がりが姻戚により結ばれるのをフイにする事は出来なかった。
ピレニーがいるだけで、万が一財政的にサレス侯爵家が傾く事があっても融通を利かせて貰える上に、レオカディオとピレニーに子が出来ればその子供にも順番が回っては来ないとしても王位継承権が発生する。
貴族とは見栄の張り合いをする生き物。
王家の血筋というこの上ない駒をここで手放す事は出来なかった。
「モコ伯爵家としましては、17年間の婚約期間を以て約束を果たしたと考えて良いのです。バザーについても娘は力にはなれなかったようですし、長きの約束もここいらが潮時かと」
妻のポラニアンからすれば影は薄いがモコ伯爵は直接的な言葉にはしないが「婚約解消」を示唆してきた。
――不味い。そういう意図があったのか?――
今更ながらにレオカディオはピレニーの価値を悟る。
判っていた事なのにすっかり抜け落ちていた。
そう。サレス侯爵家以上に王家は女児に恵まれなかった。ポラニアンが元王女だという事は判っていたのにピレニーが…というよりもモコ伯爵家をただの格下だとしか思っていなかった。
そうなると隣にいるアエラの輝きが途端に失われて拳にして3つほど腰をずらした。
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