26 / 43
第22話 上手く行ってる時ほど考える
しおりを挟む
小さな家は朝から忙しい。
かの日、3人の使用人に「後でお茶をしましょう」と言った日。
この家では仕事は仕事だけれど、手が空けば手伝う事が決められた。
この家屋に来て半年以上。
ミネルヴァーナが「人妻」になって3カ月も経てば、気が付いた時、目についた時に我先に行うようになり早め早め、その時々で素早く仕事を終わらせるため、公爵家で「この仕事を頼む」と依頼された内容よりも多くの仕事を手際よく片付けるようになった。
10時出勤と言われていても3人の使用人は8時半には顔を出す。
何をするかと言えば内職である。
人は「成果」が形になると俄然やる気を見せるもの。
過日、ゴーヨキキに頼んで試して貰った試供品はあっという間に無くなった。
ずっと無料にも出来ず1袋1人前120パレ。こちらの取りが100パレで20パレは置かせてもらう店側の取り分である。子供の小遣いくらいで売る事にしたが即日完売。
カイネルが嫌がらせに届けてくれた野菜は葉物野菜はなく大根など根野菜がほどんど。日持ちするのでスープ用などの煮物にと売り出したらこちらも作れば作る分だけ売れた。
売り上げは小分けの袋代とゴーヨキキがついでで行なってくれる配送代を差し引いて5等分したのだが、1人あたりの取り分は1か月の給金の額よりも多かった。
ミネルヴァーナだけは家族を養う訳でもなく、必要なものは揃っているので全額を貯めている。
カイネルからの野菜も底を突いたが、庭に植えた野菜はすくすくと育つ。
そして相変わらず公爵家からは幾つも箱に入った野菜が届く。
雨の日には家族や近所用に持ち帰ってもらうが、ミネルヴァーナの仕事は順調だった。
小分けして調理するだけの簡単素材。今日も頑張って袋詰めするぞ!と全員が意気込んだ時来客があった。
とても重宝される品と思ったのだが、ゴーヨキキが「困りました」とやって来たのである。
「どうすればいいかしら」
ミネルヴァーナは問題点を解決しようと知恵を貸して貰おうと皆に手を止めてもらうと1つしかないテーブルに来てもらった。
チョアンは「うーん困りましたね。簡単だからこその問題点ですね」と腕を組む。
マーナイタは「単身者の男性とかにウケそうなんですけどね」と便利さゆえの落とし穴に天井を見上げる。
クーリンは「だいたいが贅沢なんだよ。全く。客が良いって言ってんだしさ」と店主に憤る。
問題になったのは、便利すぎるが故に客が減るという店側の意見だった。
店としても便利なのだ。
野菜も等分に小分けにされているから「あっちの方が肉が多い」「こっちはタマネギだらけ」と言われなくて済むし、バーなど簡単な料理でもカウンターが無人になる時間が少なくて済む。
しかし簡単に調理ができるが故に、それまで夕食を食べるために来店した客が小分け野菜のみを買うためだけに顔を出し帰ってしまう。確かに店側も1つ売れれば20パレの儲けがあるが、店で飲み食いしてもらってナンボ。
顧客が主に小さな個人経営のバーであったり、1日に来店しても10人程度のチョイ飲み屋などだったので、客が1人、足が遠のくだけで大打撃となってしまっていた。
考え込む4人に今日のお茶当番マリーがお茶を淹れながら呟いた。
「専用にすればいいんじゃない?」
<< 何?もう一度! >>
「だ、だから。店に作って貰う専用にすればいいと思って。バーとかチョイ飲み屋ってボトルキープでマイボトルを置いてる客もいるでしょう?」
うんうんと頷くのは使用人の3人。
ミネルヴァーナだけはボトルキープやマイボトルという言葉は理解が出来ない。
戸惑うミネルヴァーナにチョアンから簡単な説明がされた。
「お客が先に金を払ってボトルを買う。次に来た時その酒だけなら無料。席料取る店なら席料だけの支払いで済む制度だ」
なるほど…と言ったもののほぼ理解出来ないのは仕方のない事である。
オホホと笑って「どうぞ」とマリーを促した。
「例えば、火曜と木曜はここで食べるからって客に先に注文をしといてもらうとかすれば、店も余らなくて済むし、その日は少なくとも何人の客が来るって目途も立つでしょう?」
マリーの言葉に男性陣のチョアンとマーナイタは賛同した。
「そうだ。そうだよ。店も予備として2、3袋多く仕入れても予約分ではけるし、調理代を少し乗せてるんだし。それでもレストランで食べるよりも安く済む価格設定にすればいいんだよ」
「いいね。予備が2、3袋なら売り切れでも客は文句を言わない。食いたければ予約をすればいいんだ」
しかし主婦でもあるクーリンはしかめっ面。
「飲み屋の客が予約なんかするもんかい。取り置きならいざ知らず」
「待って。待って。それじゃ最初のコンセプトと違うわ。一般の人に簡単に調理をしてもらうための小分け野菜でしょう?お店が調理するのならレストランと変わらないわ」
小分け野菜にしたのは、単身者や働いている人が調理をする際の負担を軽減するためであって、お店が客に提供するためではないのだ。それなら既にゴーヨキキなどが行っている商売と同じになってしまう。
売り上げになっているのは、ゴーヨキキは何も言わないがゴーヨキキの本来得られる売上分をミネルヴァーナ達が少し頂いているのかも知れない。
チョアンの紹介なので言い出せないだけかも知れないのだ。
ミネルヴァーナもそれでは心苦しい。
「考えていた以上に順調なの。だからこの問題はきちんと整理して考えてみましょう」
儲かっているのは事実だが、ここで一旦整理をしてみようと提案した。
かの日、3人の使用人に「後でお茶をしましょう」と言った日。
この家では仕事は仕事だけれど、手が空けば手伝う事が決められた。
この家屋に来て半年以上。
ミネルヴァーナが「人妻」になって3カ月も経てば、気が付いた時、目についた時に我先に行うようになり早め早め、その時々で素早く仕事を終わらせるため、公爵家で「この仕事を頼む」と依頼された内容よりも多くの仕事を手際よく片付けるようになった。
10時出勤と言われていても3人の使用人は8時半には顔を出す。
何をするかと言えば内職である。
人は「成果」が形になると俄然やる気を見せるもの。
過日、ゴーヨキキに頼んで試して貰った試供品はあっという間に無くなった。
ずっと無料にも出来ず1袋1人前120パレ。こちらの取りが100パレで20パレは置かせてもらう店側の取り分である。子供の小遣いくらいで売る事にしたが即日完売。
カイネルが嫌がらせに届けてくれた野菜は葉物野菜はなく大根など根野菜がほどんど。日持ちするのでスープ用などの煮物にと売り出したらこちらも作れば作る分だけ売れた。
売り上げは小分けの袋代とゴーヨキキがついでで行なってくれる配送代を差し引いて5等分したのだが、1人あたりの取り分は1か月の給金の額よりも多かった。
ミネルヴァーナだけは家族を養う訳でもなく、必要なものは揃っているので全額を貯めている。
カイネルからの野菜も底を突いたが、庭に植えた野菜はすくすくと育つ。
そして相変わらず公爵家からは幾つも箱に入った野菜が届く。
雨の日には家族や近所用に持ち帰ってもらうが、ミネルヴァーナの仕事は順調だった。
小分けして調理するだけの簡単素材。今日も頑張って袋詰めするぞ!と全員が意気込んだ時来客があった。
とても重宝される品と思ったのだが、ゴーヨキキが「困りました」とやって来たのである。
「どうすればいいかしら」
ミネルヴァーナは問題点を解決しようと知恵を貸して貰おうと皆に手を止めてもらうと1つしかないテーブルに来てもらった。
チョアンは「うーん困りましたね。簡単だからこその問題点ですね」と腕を組む。
マーナイタは「単身者の男性とかにウケそうなんですけどね」と便利さゆえの落とし穴に天井を見上げる。
クーリンは「だいたいが贅沢なんだよ。全く。客が良いって言ってんだしさ」と店主に憤る。
問題になったのは、便利すぎるが故に客が減るという店側の意見だった。
店としても便利なのだ。
野菜も等分に小分けにされているから「あっちの方が肉が多い」「こっちはタマネギだらけ」と言われなくて済むし、バーなど簡単な料理でもカウンターが無人になる時間が少なくて済む。
しかし簡単に調理ができるが故に、それまで夕食を食べるために来店した客が小分け野菜のみを買うためだけに顔を出し帰ってしまう。確かに店側も1つ売れれば20パレの儲けがあるが、店で飲み食いしてもらってナンボ。
顧客が主に小さな個人経営のバーであったり、1日に来店しても10人程度のチョイ飲み屋などだったので、客が1人、足が遠のくだけで大打撃となってしまっていた。
考え込む4人に今日のお茶当番マリーがお茶を淹れながら呟いた。
「専用にすればいいんじゃない?」
<< 何?もう一度! >>
「だ、だから。店に作って貰う専用にすればいいと思って。バーとかチョイ飲み屋ってボトルキープでマイボトルを置いてる客もいるでしょう?」
うんうんと頷くのは使用人の3人。
ミネルヴァーナだけはボトルキープやマイボトルという言葉は理解が出来ない。
戸惑うミネルヴァーナにチョアンから簡単な説明がされた。
「お客が先に金を払ってボトルを買う。次に来た時その酒だけなら無料。席料取る店なら席料だけの支払いで済む制度だ」
なるほど…と言ったもののほぼ理解出来ないのは仕方のない事である。
オホホと笑って「どうぞ」とマリーを促した。
「例えば、火曜と木曜はここで食べるからって客に先に注文をしといてもらうとかすれば、店も余らなくて済むし、その日は少なくとも何人の客が来るって目途も立つでしょう?」
マリーの言葉に男性陣のチョアンとマーナイタは賛同した。
「そうだ。そうだよ。店も予備として2、3袋多く仕入れても予約分ではけるし、調理代を少し乗せてるんだし。それでもレストランで食べるよりも安く済む価格設定にすればいいんだよ」
「いいね。予備が2、3袋なら売り切れでも客は文句を言わない。食いたければ予約をすればいいんだ」
しかし主婦でもあるクーリンはしかめっ面。
「飲み屋の客が予約なんかするもんかい。取り置きならいざ知らず」
「待って。待って。それじゃ最初のコンセプトと違うわ。一般の人に簡単に調理をしてもらうための小分け野菜でしょう?お店が調理するのならレストランと変わらないわ」
小分け野菜にしたのは、単身者や働いている人が調理をする際の負担を軽減するためであって、お店が客に提供するためではないのだ。それなら既にゴーヨキキなどが行っている商売と同じになってしまう。
売り上げになっているのは、ゴーヨキキは何も言わないがゴーヨキキの本来得られる売上分をミネルヴァーナ達が少し頂いているのかも知れない。
チョアンの紹介なので言い出せないだけかも知れないのだ。
ミネルヴァーナもそれでは心苦しい。
「考えていた以上に順調なの。だからこの問題はきちんと整理して考えてみましょう」
儲かっているのは事実だが、ここで一旦整理をしてみようと提案した。
1,641
お気に入りに追加
2,754
あなたにおすすめの小説
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる