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第13話  動き出す計画

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「チョアンさん、クーリンさん。仕事を始める前に集まって頂けます?」

「いいですけど」「構いませんが?」手土産に何か言われるのだろうか。少し不安が過り曇る2人の表情。

「マーナイタさんもこちらに来てくださる?あっと…マリりんも」

<< マリリン? >>

「違いますわ。マリリンではなくマリりん。語尾の柔らかさがピッタリでしょう?アクセントは大事ですわ」

チョアンとクーリンは「ちょっと違うと思う」とマリーを視界に捉える。

タマゴは加熱処理をしないと腹痛など大変な事になるのに…。
マリーは「殻にヒビが!」と言いながら生卵をパクリと食べるその強靭な胃袋と危険を顧みない強心臓の持ち主。見なかったことしようと静かに目を逸らした。

ミネルヴァーナはチョアンが持ってきたキッシュの入った籠、クーリンの持ってきた皁莢さいかちさやが入った袋をテーブルに置き、マーナイタが先程まで下処理をしていた野菜と、その隣に幾つも重なる今日も持ち込まれた食材の箱をビシィ!!順番に指差した。


「集まったわね。あの食材と皁莢さいかちさや。使いやすく‥ううん。直ぐに使えるように小分けにして売り出すのはどうかしら」

「直ぐに使えるように?食材は直ぐに使えますよ?」

「そうじゃないの。量が多いでしょう?マーナイタさんだって昼食の準備に1時間以上かかるし、夕食の準備も2時間はかかるでしょう?」

「えぇ…まぁ」

「クーリンさんだって洗濯物を集めるのに時間はかからないけど、洗うのには1時間以上かかるでしょう?そして娘さんご夫婦の生活から夜中に食べる軽食を用意するのもひと手間。違った?」

「いいえ…違いませんけど」

「そこで考えたの!」

何時かの日、マリーに「贅沢姫だもの」と威張った姿勢を見せたのと同じように椅子に腰かける4人の前でミネルヴァーナは1人立って腰に手を当てて「フフン」と得意げなポーズをとった。



ミネルヴァーナは家事など1つの事をするのに時間がかかってしまう事に着目をしたと告げる。

何に時間がかかるかと言えば調理をするなら煮る、焼く、炒めるの前の下処理。ミネルヴァーナが食べるのでより手間をかけているのかも知れないが、それでも洗いが不十分だと食中毒や腹痛を起こすため生で野菜を食べる習慣そのものがない。

生卵をペロリとマリーが特異なのだ。

水を張った桶の中に暫く浸けて目に見える虫が浮いてきたら軽く手で払い、また水を入れ替えて浸ける。
そんな手間が必要なので調理に時間がかかるし、城ならその仕事をするためだけの人間も雇っている。

洗濯も同じように皁莢さいかちさややムクロジを泡立てるまでが一苦労。こちらも泡立てるのが仕事の係もいるくらいに手間と時間がかかる。

雇用があるのは良い事だが、仕事を細分化するあまりに他者に手を貸す事もない。


「どうするというんです??」
「売り出すの。まず、この大量の食材は下処理をして ”煮る、焼く、炒める” だけで直ぐ調理が出来るようにして売り出すの。野菜も肉も魚も3人分、4人分、時にお一人様用にしてセットな小分けで売るのよ。どうせ暇なんだしムクロジとかも山に行けば沢山あるはず。直ぐに使える洗剤として売り出すのよ」

「良いんですか?便利だなとは思いますが…公爵家が何というか」

そこは問題だ。ミネルヴァーナもその点に於いてはまだ了承も得ていないし食材は供給されたものなので、転売するのと同じなのだから何を言われるかは判らない。

「何とかするわ。結婚式まであと少しだし夫となる人に結婚式くらいは会えるでしょう?ヴァージンロードを歩いている時か、誓いの言葉あたりで了承を貰うわ」

<< えぇっ?! >>

「ちょ、ちょっと待ってください。そんな結婚って!!」

「うふふ。マーナイタさん。この結婚はそういう結婚なの。話をするチャンスもあまりないから確実に直近で話が出来る機会はその時だけだし、なんとか了解を貰うようにするわ」


使用人の3人もマリーも貴族の家で働くのは今回が初めてではない。
仲が良かった夫婦もいたが、真逆で他人同士がただ一緒に住んでいるだけ、そこにすさんだ眼をしている子供がいるだけ、そんな夫婦も知ってはいる。

だとしても、かつて敵国で、贅沢姫と呼ばれていたとしても国にはもう戻れない事も覚悟をして単身でやって来た女性に筆頭公爵家がしている仕打ち。

見ると聞くとは大違いとも聞くが、悪評が定着している目の前のミネルヴァーナはたった数日であっても、全くの別人じゃないかとさえ思えてしまう。

むしろ悪評、陰口を叩かれるべきは‥‥。

「あながち姫さんの言葉も嘘じゃないのかもな」チョアンが呟いた。

まさに今の現状が冷遇そのもの。
仮にもまだ結婚をしていないのだから他国の王女なのに使用人はマリーだけ。あとは通いの3人。

この家も貴族の別宅が立ち並ぶ区画にあるとはいえ、門の前には警備兵もいない。
まるで「万が一」を誘発しようとしているのでは?とさえ思えてしまう。


チョアンがまず口火を切った。

「俺はこの話、乗った。最近子供がよく言うんだ。 ”もう食べられない。お腹いっぱい” って。食い物の恩、返させてもらう。俺は姫さんを手伝うよ」

チョアンに触発されてクーリンも心を決めた。

「そうねぇ。私も手伝うわ。それから…王女様、ごめんなさい。噂を信じてしまって‥。さっきこの子に目を合わせるためにしゃがみ込んだ姿を見て…私は一体なにを見てたんだろうって」

最後にすっと手を挙げたマーナイタ。

「私も手伝いますよ。調理をしてて思うんです。手間暇かけて作っても半分以上、中には全くの手付かずで棄てられていく料理。平気な顔をしてるつもりですけど結構心にグサグサとクルんです。使われず傷んでいくだけの食材もそう。何か方法はないかと思っていたので…手伝わせてください」


握手をしようと手を差し出したマーナイタの手。
ミネルヴァーナは嬉しくなって両手で覆って握り返した。
そこにクーリンとチョアンの手も重なる。

「ありがとう。手探りに近いけど…手伝ってくれると心強いわ」

パンパン!マリーは手を打ち鳴らした。

「じゃ、決まり!私は早速…小分けにする袋を何とかしてみる!あとはどうやって売るかね」

作るだけなら今すぐにでも出来るが、問題はその後。
チョアンは「ならば」と声を上げた。

「それなんだけど、親友が小さな商会をしてる。零細だけど顧客はバーだったり、こじんまりとした飲食店だから話をしてみる価値はあると思うんだ」

話がまとまった5人は更に固い握手を交わしたのだった。
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