上 下
44 / 52

第44話の前に★  全力サポート致します

しおりを挟む
私の名前はルル。姓はない。

世の中はクズとゲスで出来ていると信じていた私に「そうでもないよ?」と教えてくれたのはファレンティナリティア様だ。

襤褸雑巾の方がまだ使い道があるし、綺麗なのにお嬢様は私を拾い、温かい食事と破れていなくて縫い目に虫のいない服をくれた。

汚い体も「一緒に湯を浴びましょう」と湯殿で洗ってくれた。

「痛かったよね。お薬、しみるけどちょっと我慢ね」

パンより高級な薬も塗ってくれて、傷口に巻いている包帯も毎日薬草湿布を替える時に綺麗な包帯にも交換してくれた。

「字が読み書きできると楽しい事が増えるから」そう言って字も教えてくれた。

スラム街でも上中下とあって、下に住む私は人間であることも知らなかったけれど「ルルは人間。1人の女の子よ」と、お嬢様が教えてくれた。


私はお嬢様にこの恩を返さなきゃ!と思って生きて来た。

そんなお嬢様に婚約者が出来た。
最初は良かった。見た目もまぁまぁだし、ちょっと腋が甘いなと思うところはあったけど王子様だし足らない所は側付きがフォローすればいいだけ。

お嬢様が苦にならないのなら私が反対する理由は何もなかったし、お嬢様の父親は本当に出来の悪い人だったのでこんなジジィと縁が切れるならいいだろうと思っていたのに。

事もあろうかジジィが引き込んできた阿婆擦れにお嬢様の婚約者はあっという間に溺れてしまった。


「ねぇルル。服とか本とかお古は気にならないけど…夫がアレのお古ってどう思う?」

「嫌ですね。捨てます?」

「捨てられればいいんだけど、こっちから申し出ると面倒が多いのよね。ルシェルが良いのなら婚約解消してルシェルと婚約すればいいのに」

「でも議会決定ですもんね」

「そこよ。陛下が言って来たことならライオネル様を通じて解消も言えるけど議会決定は面倒なのよ」


日を追うごとに阿婆擦れとクズの関係は深まって行く。
杜撰過ぎるお嬢様の暗殺を聞いた時は「こっちが空井戸に沈めたろか」と本気で深さのある空井戸を探したものよ。

この世に神はいないのか。
そう思っていた初夜。神が降臨した。

「ルル!隣国にホタテ食べに行きましょう!」

「はいっ!ホヤもいいですか?」

「勿論よ!」

お嬢様はクズには何の未練もない。
あと2年と116日。2年と115日。
まるで遠い星雲に使命を帯びて向かうかのように離縁の日をカウントダウン。

パロンシン領に来てからのお嬢様は特に生き生きしている。

「ルル!見て!あのとげとげ。ウニって言うらしいわ」

「ウニ?」

「そうなの。でもウニって危険なのよ。海藻を食べつくしてしまうから適度に駆除しないといけないの。全部がいなくなると生態系も壊れるし難しいわね。だけどちょっとしか取れない部分がクリーミーで美味しいそうよ。パスタに和えると絶品らしいわ」

食い気を忘れないお嬢様大好き。


そんなお嬢様。
全く気が付いていないけど、作業が進むにつれてアミナリンさんが熱い視線を送っているのに…。

「アミナリンさん、ぼーっとしてないで。指示して」

「は、はい」

いとも簡単に視線をぶった切る。
そんなお嬢様も好き♡


ある日の事。
すっかりド嵌りしてしまった「あら汁」を求め、突撃お隣りへ晩御飯訪問。

バリファン伯爵家のあら汁も美味しい。美味しいんだけど!!
茎ワカメの入ったお隣りのあら汁も捨てがたい!!

田舎のパロンシン領は「ちょっと食べてく?」と奥様方から気安く声を掛けて貰えるので、私、ルルはこの半年で100を超えるお宅のあら汁を頂いた。

あら汁最高!

で、茎ワカメ入りのあら汁をご馳走になっているとビオヘルミさんがやってきた。

「最近のお兄ちゃん、どう思う?ルルさん。率直な意見が聞きたいの!」

「そうですね。お嬢様に惚れてると思います」

「やっぱり?!だと思ったのよ。なんかさぁ…月を見て「綺麗だね」とかボヤくし柄じゃないっての!先日なんか雨でぬかるんでるから手を繋いであげないと危ないよって言っただけなのに、めっちゃ慌ててんの。俺の手?俺の手?とか。他に誰の手があるってぇのよ!!」

やはり、間違ってはいなかった。
私、1人の意見だと違うかも?と思われるけれどビオヘルミさんも同じことを思ってた。

「同志よ!」

私とビオヘルミさんは手を組んだ。

お嬢様にだって幸せは合っても良いと思うし、私は幸せになって欲しい。
今まで苦労ばっかりで、事業とかは事業長とかに解らない事があれば問うていたけど、そうじゃなくて気持ちも寄りかかれる人は必要だと思うのね。

ちょっと年上だけど5歳なら十分に射程圏内。
リサーチでは過去に女性遍歴はないし、妙な女の気配もない。

誰に聞いても仕事は真面目で、実直なアミナリンさん。

お嬢様、ルルはお勧めいたします。

問題は…お嬢様は今、既婚者だからお嬢様が思いに応えることは先ずないって事。
クズでもゲスでも夫は夫。お嬢様は契約満了若しくは何らかの事情で契約破棄になるまで他の男性には靡かない。

でも、下地は作っておかないとね。

そして私、ルルとビオヘルミさんは「お2人様ご案内」大作戦を今日も展開するのだった。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...