至らない妃になれとのご相談でしたよね

cyaru

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第43話♡  想定外は何時でも起こる

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予定していた半年を超えても私はパロンシン領から動けずにおりました。

想定外は何時でも起こり得る物で御座います。

防潮堤の解体作業も順調に進んでいたのですが、29回目の引き潮を利用し積みあがった石を転ばせる作業でそれは起こったのです。

上部に積みあがっていた石は時間はかかりましたが1個1個網をかけてサルベージ。
幸いなことに大きいと言えば大きいのですが巨大なものはなかったので予定通りに作業は進んでおりました。

昼間の引き潮の時間を利用し、いつもと同じ手順で湾側に網を置き、真夜中の引き潮の時間に潮の流れと同時に何艘なんそうもの船で一斉に引っ張ります。

灯り用の松明を掲げた松明船の船員も合わせて夜中の海に「そーれ!そーれ!」と掛け声が響き、海中から「ゴゴゴ」鈍い音で石が転ぶのを確認していたのですが、その夜は要石かなめいしとなっていた石なのか、音がいつもより長く響き、海底の石が積みあがっていたであろう部分からごぼごぼと泡が沸いたのです。

「どうしたんだろう」

「何かあったのかな?」

その夜は泡が収まるのに3時間かかり、隣国で聞いた大地を揺らす地震かと思いましたが違っていたようです。

丁度潮は大潮の時期でいつもより干潮時は水深が浅くなります。

「おーい!大変だ!」

今夜、石を転ばせるように網をかけていた潜水夫が海面に出るなり叫んだのです。


「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも。ごっそり石垣みたいになってたのが崩れてる。高さにして4、5mは崩れてて底は濁ってるし作業にならねぇよ」


計画では現在満潮時に水深11mの位置に積みあがった石の頂上があるはずだったのですが、工程完了の目標としていた水深15、16mまで崩れてしまっていたのです。

その影響で防潮堤として人が人力で石を積み上げた開閉部の両端。
ここの土台となった部分もどんどん石を放り投げて積み重ねた上に、何とか人があるけるように石を組んだだけ。

上部は既に取り壊して元耕作地の家屋移転場所の地面に埋まっているのですけど、下部も昨夜の不気味な音と共に崩れていたのです。

「事業長。どういうことかしら」

「石垣でもなんでもそうですけども、強固に見えて力が集中する場所があるんです。昨夜はその部分を取り除いたからバランスを保っていた全てが壊れたか、要石をどかしてしまったので崩壊したかだと思います」

「だとすれば…すこし防潮堤の作業をお休みして調査しないといけないわね」

「そうですね。全体的な目標の水深になっていれば1次完了で良いと思います」


1次完了と言うのは、底まで元通りになる訳ではないので海底に低い堰が出来てしまうのです。今の技術では取り除くことが出来ないので放置しかありません。
人命無視なら出来なくもありませんが、そうなれば本末転倒。
人命重視の安全第一でございますからね。


「どうなるんだ?工事は中断?」

「予定を過ぎちゃったらどうなります?借り入れが必要かなぁ」


アミナリンさんとビオヘルミさんは心配そうに問うておられます。
うんうん。解ります。途中で放られたら困りますもんね。


「予定の水深に達するまで崩落しているか調査をします。その間、人員は家屋建設と給餌用工房の建設に回しましょう。工房が早く完成すれば各家庭に任せている海産物加工も工房で行えます。引っ越しをするのにも荷が少なくなるでしょうし」

「ありがてぇ。でもあんな立派な住処。誰も考えてなかったから助かるよ」

「隣国ではもう当たり前のようです。屋外での作業が無くなると家人の負担も減りますものね。それと調査を急がせます。手抜き調査はしませんが防潮堤の工事がこれで終われば予算を回せますから給排水設備を拡充できますからね」

「計画図を見て領民が大喜びしてるのに。まだ嬉しい事があるんですか!嬉しい!!」


新しい家屋は不浄も湯殿も家の中にあります。湯殿は石を積み上げ、石灰と砂を水で溶き塗り固め「モルタル風呂」と呼ばれるもの。しかしそれは外枠。

家屋建設で余った板材を組み、出来上がりの見た目は木の風呂桶。
薪で湯を沸かす外炊き方式ですが、薪は山にありますし、地産地消で御座います。

風呂釜とは別に台所も竈をそれぞれに設置。

それまで水回りは不浄も外にあり共同でしたので、便利になるのです。

台所の排水と不浄の汚水、湯殿の残り湯などは防潮堤の予算次第ですが、簡易の濾過装置で3回濾過を繰り返し、水分は海に流れます。濾過を繰り返すと「水?」と思う透明度になるので不思議ですわ。

この濾過装置にはライオネル殿下から依頼を頂いた水、残飯ネットを改良しておりますので、残飯や不浄の固形物は濾過されたあと、落ち葉など腐葉土と混ぜて肥料に生まれ変わるのです。

「家からの排水も海を汚していたなんてなぁ。知らなかったよ」

「数が少ないと自然が手助けをしてくれる分で事足りますからね。今回は肥料もあったし至る所に捨てられたゴミが腐敗したのも合わさって、自然の浄化能力を超えてしまったのですわ」

「本当に助かる。ナティさん…俺…あの…」

「どうされましたの?」

何かアミナリンさんは言いたそうな顔をしていたのですが、事業長や領民でまとめ役となってくださっているかたが「ちょっと来てくださーい」と呼んでおります。

あら?ビオヘルミさんなんで?いつの間にそんな離れた場所に?
そう言えば最近、ビオヘルミさん。気が付くと離れた場所にいるのです。
一緒に話をすればいいのに…。


「後でいいや。先に行こう」

「えぇ」

アミナリンさんは何を言いたかったのかしら。

「お兄ちゃん、先に行くね」

「お嬢様、私も先に行きます」

「あぁ。すぐ行く」

「ルル、走って転ばないようにね」

ビオヘルミさんは駆けだし、ついでにルルまで。
最近…アミナリンさんと2人になる事が多いわね。

これも想定外だわ。いいのかしら。
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