至らない妃になれとのご相談でしたよね

cyaru

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第42話♠  そして王子はボッチを知る

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なんだ?もっと詳しく聞かせろ。
私は物陰に身を顰め、話に聞き入った。


「でも本物の妃殿下。凄いわよね。出て行ってから1度も帰らないって聞くけど、そりゃ帰れないわよね」

「言えてる。ライオネル様も凄いけど、もし本物の妃殿下が直系だったら陛下も悩んだんじゃない?」

「そうよね。半年足らずで領地の売り上げ12倍だそうよ?給料もあんな田舎なのに初任給で中級文官並みって聞くわ。シケた額をドヤ顔で渡してくるどこかの誰かさんとは大違いだわ」

「うん。聞いた。聞いた。私も向こうで雇ってもらえないかなぁ」

「行けば人が足らないから雇ってくれるそうよ」

「でもね~旅費がないのよ。半年くらいかかる上に50万以上の旅費はここの給料じゃ出せないもの」


使用人たちの話によればファリティは王都からかなり離れたバリファン伯爵家の所有するパロンシン領で大改編を陣頭指揮しているのだという。

パロンシン領の改編計画と言えば兄上の事業計画じゃないか。
くそっ!兄上は…兄上だけじゃない。父上も知っていて私に言わなかったんだ。

だが、話によればかなり儲けているという。
なら妃なんだからこの資金繰りに苦しむ窮状を助けるのか当たり前だろう。

私はファリティ宛に手紙をしたためた。


「これをパロンシン領のファリティに届けてくれ」

「ファリティ?誰です?」

「私の妃だ!貴様、使用人の分際で断りもなく妃の愛称を口にするな!」

「え?でも殿下のお妃様はあちらのお部屋にいらっしゃいますよね?…まさか愛人?」

「違う!何故私の妻があんな、ざ―――」


おっと。不味い。罪人の面倒をみているなんて言ってしまったら今度はどんな噂になるか解らない。

ルシェルがをしたせいでどんどん言い訳が出来ない状況になってしまっている。

そもそもでだ。
幾ら私が避妊をしていなかったからと言って、断りもなく妊娠するなんてどんな育ち方をしたんだ。
親の顔が見てみたい‥‥

いや見たんだ。ついでに一緒に住んでいたような時期もあったが!!あったけど!!

あ~もう。イライラする。
母上の言った通りゴミなんか拾ってしまったばかりにトンだ迷惑を被った。

私はちっとも悪くない。
騙された人間が悪いんじゃない。騙そうとする人間が悪いんだ。
人がいいばかりに…貧乏くじを引かされた気分だ。


養子縁組もしておらず、ホートベル侯爵家を継げるのはファリティのみ。
その時点でルシェルには可愛さしか残っていなかったんだ。

その可愛さも手癖の悪さと…結局執務も出来ないのかやらないのか。
酒ばかり飲んで私の失言を良いことに勝手な振る舞いばかり。

残った可愛さも鬱陶しさに替わってしまった。
腹に子供さえいなければとっくに処刑されている罪人なんだ。

まぁそれも子供が産まれるあと2、3か月。

ルシェルについてはそれまでの辛抱だ。
しかし、支払いは待ってはくれない。


「どうでもいい。ファリティがパロンシン領にいる。手紙を届けて一緒に連れて帰って来い。いいか?返事を持って帰るんじゃないぞ?ファリティを連れ帰るんだ。解ったな?」

「しかし…」

「なんだ。まだ何かわからない事があるのか」

「解りません。お妃様がいるのに他の女性を連れてきて何をされるんです?平民の私が言うのもなんですけど、わざわざ不貞を自分からひけらかす必要はないと思うんです。何よりパロンシン領にいるってことはライオネル様の事業絡みですよね?事業の邪魔になる事はなさらない方が良いかと思うんです」

「平民のお前如きが考える事ではない!私が連れて来いと言ったら、はい解りましたと連れて来ればいいんだ」

「解りました。では往復の旅費。お願いします」

「旅費?!そんなもの私の名前でどうとでもなる」

「なりませんよ。日々の食糧ですら今はその場で現金支払いですよ?トマト1個だってツケじゃ売って貰えなくなってます」

「うっ…そうか…」


忘れていた。商会は面倒なことに一度も支払いが滞った事はないのにルシェルがむやみやたらに仕立て屋に発注をするので仕立てられる前のキャンセルをしていたら資産状況を調べてしまったのだ。

何が起こったかと言えば請求書を送って来ての後日支払いは全て止められた。

今、支払いに追われているのは3~6か月前のもの。
四半期ごと、半期ごとで支払いをする契約になっている分が私を悩ませているのだ。
しかも!私が望んだ品ではないのに。


「解った。幾らだ」

「往復なので150万くらいですかね。でも帰りはそのファリティさんも一緒なら復路分が加わりますし女性ですので…250万ほどでしょうか」

「なっ…250万?!」

「決して水増しはしていませんよ?片道半年ほどかかりますし、往復で1年。それくらいの距離もありますし安いものだと思いますが」


いやいや。行って戻るのに1年って!その前に支払いの日が来るだろうが!
遠い、遠いと言っても直線距離でそこまでかかる距離じゃない。

使用人の言う現金は手元にある。ホートベル侯爵家から2か月に1度の金が来たばかり。しかし手を付けてしまうと他の使用人の給料が12、13人分支払えなくなってしまうし、給料天引き分の彼らの税金も納付できない。

「悪いんだが、金はかかった分だけ後で支払う。立替えておいてくれ」

「じゃ、他の人に頼んでください。私は無理です」

「お前っ!たった250万を立て替えろと言ってるだけだ。払わないなんて言ってないだろう」

「だったら今、出してくださいよ。正直…戻るのが1年後。あのお妃様を見てたら破産して夜逃げしてる確率の方がずっと高いんで。何よりそんな金額を立て替えるほど殿下…貴方のこと信用してません」

「なんだと!平民のくせに!不敬だ!」

「あ~。はいはい。不敬でいいです。じゃ自ら騎士団に出頭してきます。じゃ」

「ちょっと待って。待てって!!おいっ!!」


使用人の男はスキップするような軽い足取りで出て行ってしまった。
更なる不幸は夕方になり私を襲った。

そろそろ夕食の時間なのに誰も呼びに来ない。しびれを切らし食事室に行くと厨房にある食料とワインを出してきてルシェルと取り巻き使用人たちが酒盛りをしていた。

嫌な汗が背を伝う。

食事室には入らず、厨房や使用人の控室を回ったのだが、食事室で酒を飲んでいる取り巻き使用人以外、宮には使用人が1人もいないことに気が付いたのだった。
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