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第31話♡  この際だから事務所移転

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「お嬢様、空き缶ガラガラになっております」

「え?閉店じゃなく?」

「ウッ!ワァオ!‥‥って違います。空き缶ガラガラです」

空き缶ガラガラ。私が幼い頃は結婚式場から出て来る新婚夫婦を乗せた馬車が後部に空き缶を括りつけ、魔除けの意味で街をガラガラと走っておりましたが、馬車の後部から小窓を覗くとレアンドロ様が付いてきているのが見えました。

「ルル、つけられてるわ」

「えぇ。彼は尾行は得意じゃないんでしょうね。あれじゃバレバレです」

馬車が通行人が横切る時に速度を落とし停車をすると、馬を物陰に寄せてはいますが確かに全く隠れられておりません。

そりゃ軒先から垂らした鎖で全てを隠そうとしても無理でしょう。

「お嬢様、きっと奴は自分の視界に見えてないと、相手も見えてないと思っていると思います」

「ルル、私もそう思うわ」

何故ならレアンドロ様は騎乗したまま、顔を傾け、自身の目の部分に鎖が来るようにしているだけなのです。

指名手配犯が未成年である時に目の部分だけ黒く塗りつぶした手配書のモデルになれそうですわ。
ま、レアンドロ様は成人されている性人ですけれど。

きっとルシェルと出会った時、レアンドロ様は20歳だったので遅い青春だったのでしょう。青い気持ちはどろどろとした性の虜となり、青年となるはずが性年。


しかし、何故突然?意味が判りませんわね。

昨日、国王陛下にお出しした返事が原因なら私にどうしろと仰るのかしら。
私は一切の関与はしないのでお好きになさればいいのです。

色々と制約を付けられるより、イッツ・ア・フリーダムッ!!自由である方が良いと思いますが。

えっ?!もしかして。

緊縛の性癖がおありなの?
婚約者時代はルシェルの部屋に飽き足らず、青空の下、庭で喘いでいらっしゃったのに?

全方位開放型じゃなかったの?!

何かのきっかけで真逆に方向転換したのかしら。
そういうのは私ではなくルシェルに言えば何でも応えてくれるでしょうに。

そう、今ならルシェルは拘束されて牢にいる筈なので、リアルで監禁ごっこも王子なら職権乱用で愉しめばいいのです。

3時間ほど追いかけてきておりましたが、馬にも限界が御座います。

「ルル、お昼を食べましょう」とルルに声を掛ける頃には見えなくなっておりました。

そりゃそうでしょうね。
行き当たりばったりで来たのなら、引き返すにも路銀は必要でしょうが用意をしていなかったでしょうし。

ご利用は計画的に。と、どこかの商会も宣伝してましたわ。



予定通りに中継地に到着し、幌馬車で出発。

王都を出て3日目。6台目の幌馬車に乗り換えようとしておりますと王都の市井にある事務所で経理を担当する男性従者が早馬で追いついてきたのです。

「どうしたの?!早馬なんて!何かあったの?」

事業をしていると想定外は起こり得る物。
なので幾つか想定されるパターンは考えて、元間諜のシードさんやサミュエルさんから教えてもらった時を参考に「こうなったらあぁする案」も用意しておりましたのに。


「お嬢様、困りました。レアンドロ殿下が事務所の入り口をずっと張り込んでいるんです」

張り込みと言えば刑事デカ
刑事デカと言えば純情系。はみ出してはいるけど、時にあぶないのよ。

私としては、はみ出すのもいいけど、はぐれるのも外せない…でもレアンドロ殿下はどっちも嫌だわ。

まさかのストーキング行為。
いったいレアンドロ殿下は何をしたいのかしら。

「困りました。あれで雨に打たれたり、脱水で倒れられたりしたら難癖付けられます」

アポなしでも迷惑なのに粘着系ストーカーになってしまわれたのかしら。

困るのは私が次に王都に戻るのは半年以上先なのです。
それだけパロンシン領の事業は最初が大事なので離れることが出来ないのです。


「お嬢様、事務所移転で良いんじゃないですか?区画整理で事務所の前を通る人も少なくなったじゃないですか。老朽化してましたし家主さんも建て直したいから今後1,2回は更新しても、その後の更新はないかもって言ってましたし」

「そうね。空き店舗を取り壊して時間貸しの馬車駐車場が多かったのは利点だったけど引っ越した方がいいわね」

「解りました。当面隣町にある事務所に荷物を運び入れます。良さげな物件があればパロンシン領に纏めた書類を送ります」

「ありがとう。そうしてくれる?」

従業員さんと話をしていると「出発するぞー!」声が聞こえて参ります。

「では、お願いね」

「はい、お気をつけて」

翌月届いた知らせでは、荷物の運び出しを夜に行ったので荷物の運び出しはスムーズに終えることが出来、従業員さんたちも、荷物の運び出しの終わった翌日からは隣町に出勤。

貸し事務所と看板を取りつけに来た不動産屋の男性にレアンドロ殿下は「どういうことだ」と詰め寄ったそうです。

ストーキングをするにも間抜けであったことが判明しましたわ。
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