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第29話♠ 真逆の不味いこと
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何の手紙だろうか、いや報告書?そんな事を思っていると父上が口を開いた。
「お前の処遇だが、万が一と言う事もある。ルシェルの出産までは監視付きだが現状維持だ」
「え?…あの…」
「なんだ?不服か?」
「そうではなく…よろしいのですか?私が言うのもおかしいのですがもっと厳しい沙汰があるかと思っていたので」
「そうだな。結果として言えばお前は時期に救われた、と言えばいいか」
「時期ですか?」
春だから、夏だからと関係するんだろうか。
そんな事聞いたこともないんだが、父上まで呆けられた?いや、良く判らないが四季折々で風情を楽しんでいるのか?
「今は正教会が五月蝿い。昨年のブルネル王国の国王夫妻離縁騒動を知らんのか。どの国も神経質になっておると言うのに」
「存じています」
本当はあまり知らないんだが、そんな事をファリティが言ってた気がする。
ここは父上に同調した方がいい。私はそう判断した。
「知っているなら猶更だ。お前のしたことは正教会に面と向かって喧嘩を売ったようなものだ」
え?そんな大事なのか?たかが不貞行為なのに。
しかし、私は知らなかった。
続いて語られた父上の言葉に首が空気によって締め付けられる気がした。
「昨年、ブルネル王が女に手を出した。事もあろうかその女が王妃を亡き者とすれば自分がその座につけると王妃を暗殺しようとしたのだ。場所も礼拝の最中と不味かった事もあるが、女に溺れた国王が手引きをした事もあって王妃を庇った神官1人が死亡、3人が重傷だ」
「そんな大事件だったんですか」
「知っているのではないのか?」
「あ、知ってます。はい…」
「しかもその女が、王妃の腹違いの妹だったから倫理観の問題も問われた。我がハイネブレーグ王国は離縁を認めてはいるが、ブルネル王国は離縁を認めていない国だ。教会での誓いは絶対とされているからな。いい加減正教会もその揉め事に巻き込まれ各国に同様のことがないよう王族、皇族には通達も来ている」
「正教会を怒らせるというよりも、信仰する信徒を怒らせるなと言う事よ。宗教は時に戒律の解釈1つで国同士が戦を起こしてしまうものですからね」
不味い。不味いぞ。
王妃をファリティ、女をルシェルにすれば関係性も同じじゃないか。
私は冷や汗が全身から噴き出した。
「だが、お前は運が良い。さっきも言っただろう。ハイネブレーグ王国としては正教会を刺激することはしたくない。解るな?」
「はい。解ります」
「ファレンティナリティアからの返事もここに届いた」
父上はさっき従者から受け取った手紙を手に取りひらひらさせた。
私の問いにはなかなか返事を返さないのに父上には直ぐ返事をするなんて。
ファリティは一体何を考えているんだ。
「ファレンティナリティアの立場を考え、お前を病死扱いにして事実を知る者も幽閉を考えていたが、ファレンティナリティアのこの返事で出産までは現状維持だ」
「あの…出産後はどうなるんでしょう。ファリティはルシェルの産んだ子を自分の子とする‥とか?」
「お前は馬鹿か。何故不貞の子をファレンティナリティアが面倒みなければならないのだ。子供は作るだけじゃない。成人するまで養育者には責任が伴うんだぞ?覚悟を持って迎え入れる養子縁組とは訳が違う。不貞の子を押し付けられて病気、けが、そして素行不良まで面倒をみるなど話にならん」
「そ、そうですよね…」
「お前の子でなければ一番良いのだがな。ルシェルは出産後に刑を執行、子供は孤児院預かり。それで終わりだ」
「はい…でも…」
自分でも判るのだ。父上だってここに私を呼んだのだから、私の子ではない可能性はないと考えている。
全く…どうしてこんな大事な時に妊娠なんかしてるんだよ!あの女は!!
苛つく私に父上はファリティから届いた書面を翳して見せた。
え??
書面には短い文章が書かれてあっただけだった。
【何事においても私は関与いたしません】
マジか…ここでも融通全く利かない杓子定規。
「ファレンティナリティアはお前が外で遊ぼうが子供を作ろうが関与はしない。そういう事だが意味は解るな?」
「解ります」
「生まれた子がお前の子供であれば大人しく養育しろ」
「え?私が育てるんですか?それにルシェルは罪人ですよ?そんな女の子供なのに!」
「我が子なら養育するのは当たり前だろう。それにそんな女を宮に引き入れたお前が罪人の子だから嫌だと拒否できると思っているのか」
本当に不味いことになった。
これで離縁なんてしてしまったら私は万事休す。
いや、待てよ?
ファリティは父上に離縁の件は伝えていないのか?
だとすれば…私にはまだツキがある。
父上は正教会を怒らせたくない。つまり不貞による離縁を避けたいのだ。
正教会の事はファリティも知っているのに…。
意外とファリティは実のところ私と本気で離縁は考えていないんじゃないか?
本気で考えていたらこんなチャンスなんだ。父上に伝える筈だ。伝えればこんな騒動になったんだ。今日、明日にでも父上は離縁を認め、私を容赦なく廃嫡しただろうに。
以前に叱責された時に3年の離縁を知っているのかと思ったが…ははっ。あれは父上の匂わせだったのか。私とした事がまんまと踊らされてしまったじゃないか。
もしや、ファリティが離縁を1年と言っていたのに3年で妥協してくれたのは、私がルシェルに没頭してしまっていたが目が覚めるだろうと思っての事なんじゃないのか?
うわ…不味い。さっきとは真逆の不味いことに気が付いてしまった。
ファリティのあの離縁を求める態度は私を愛していたからこそなんだ。
胸の奥がジーンと熱くなってくる。
きっとこれが本物の愛情、真実の愛なんだ。
それに応えずしてどうするというんだ。
「父上、ありがとうございます!!」
私は嬉しくなって、一刻も早く宮に戻り、もう一度ファリティに手紙を、いや、会いに行こうと考えた。
「お前の処遇だが、万が一と言う事もある。ルシェルの出産までは監視付きだが現状維持だ」
「え?…あの…」
「なんだ?不服か?」
「そうではなく…よろしいのですか?私が言うのもおかしいのですがもっと厳しい沙汰があるかと思っていたので」
「そうだな。結果として言えばお前は時期に救われた、と言えばいいか」
「時期ですか?」
春だから、夏だからと関係するんだろうか。
そんな事聞いたこともないんだが、父上まで呆けられた?いや、良く判らないが四季折々で風情を楽しんでいるのか?
「今は正教会が五月蝿い。昨年のブルネル王国の国王夫妻離縁騒動を知らんのか。どの国も神経質になっておると言うのに」
「存じています」
本当はあまり知らないんだが、そんな事をファリティが言ってた気がする。
ここは父上に同調した方がいい。私はそう判断した。
「知っているなら猶更だ。お前のしたことは正教会に面と向かって喧嘩を売ったようなものだ」
え?そんな大事なのか?たかが不貞行為なのに。
しかし、私は知らなかった。
続いて語られた父上の言葉に首が空気によって締め付けられる気がした。
「昨年、ブルネル王が女に手を出した。事もあろうかその女が王妃を亡き者とすれば自分がその座につけると王妃を暗殺しようとしたのだ。場所も礼拝の最中と不味かった事もあるが、女に溺れた国王が手引きをした事もあって王妃を庇った神官1人が死亡、3人が重傷だ」
「そんな大事件だったんですか」
「知っているのではないのか?」
「あ、知ってます。はい…」
「しかもその女が、王妃の腹違いの妹だったから倫理観の問題も問われた。我がハイネブレーグ王国は離縁を認めてはいるが、ブルネル王国は離縁を認めていない国だ。教会での誓いは絶対とされているからな。いい加減正教会もその揉め事に巻き込まれ各国に同様のことがないよう王族、皇族には通達も来ている」
「正教会を怒らせるというよりも、信仰する信徒を怒らせるなと言う事よ。宗教は時に戒律の解釈1つで国同士が戦を起こしてしまうものですからね」
不味い。不味いぞ。
王妃をファリティ、女をルシェルにすれば関係性も同じじゃないか。
私は冷や汗が全身から噴き出した。
「だが、お前は運が良い。さっきも言っただろう。ハイネブレーグ王国としては正教会を刺激することはしたくない。解るな?」
「はい。解ります」
「ファレンティナリティアからの返事もここに届いた」
父上はさっき従者から受け取った手紙を手に取りひらひらさせた。
私の問いにはなかなか返事を返さないのに父上には直ぐ返事をするなんて。
ファリティは一体何を考えているんだ。
「ファレンティナリティアの立場を考え、お前を病死扱いにして事実を知る者も幽閉を考えていたが、ファレンティナリティアのこの返事で出産までは現状維持だ」
「あの…出産後はどうなるんでしょう。ファリティはルシェルの産んだ子を自分の子とする‥とか?」
「お前は馬鹿か。何故不貞の子をファレンティナリティアが面倒みなければならないのだ。子供は作るだけじゃない。成人するまで養育者には責任が伴うんだぞ?覚悟を持って迎え入れる養子縁組とは訳が違う。不貞の子を押し付けられて病気、けが、そして素行不良まで面倒をみるなど話にならん」
「そ、そうですよね…」
「お前の子でなければ一番良いのだがな。ルシェルは出産後に刑を執行、子供は孤児院預かり。それで終わりだ」
「はい…でも…」
自分でも判るのだ。父上だってここに私を呼んだのだから、私の子ではない可能性はないと考えている。
全く…どうしてこんな大事な時に妊娠なんかしてるんだよ!あの女は!!
苛つく私に父上はファリティから届いた書面を翳して見せた。
え??
書面には短い文章が書かれてあっただけだった。
【何事においても私は関与いたしません】
マジか…ここでも融通全く利かない杓子定規。
「ファレンティナリティアはお前が外で遊ぼうが子供を作ろうが関与はしない。そういう事だが意味は解るな?」
「解ります」
「生まれた子がお前の子供であれば大人しく養育しろ」
「え?私が育てるんですか?それにルシェルは罪人ですよ?そんな女の子供なのに!」
「我が子なら養育するのは当たり前だろう。それにそんな女を宮に引き入れたお前が罪人の子だから嫌だと拒否できると思っているのか」
本当に不味いことになった。
これで離縁なんてしてしまったら私は万事休す。
いや、待てよ?
ファリティは父上に離縁の件は伝えていないのか?
だとすれば…私にはまだツキがある。
父上は正教会を怒らせたくない。つまり不貞による離縁を避けたいのだ。
正教会の事はファリティも知っているのに…。
意外とファリティは実のところ私と本気で離縁は考えていないんじゃないか?
本気で考えていたらこんなチャンスなんだ。父上に伝える筈だ。伝えればこんな騒動になったんだ。今日、明日にでも父上は離縁を認め、私を容赦なく廃嫡しただろうに。
以前に叱責された時に3年の離縁を知っているのかと思ったが…ははっ。あれは父上の匂わせだったのか。私とした事がまんまと踊らされてしまったじゃないか。
もしや、ファリティが離縁を1年と言っていたのに3年で妥協してくれたのは、私がルシェルに没頭してしまっていたが目が覚めるだろうと思っての事なんじゃないのか?
うわ…不味い。さっきとは真逆の不味いことに気が付いてしまった。
ファリティのあの離縁を求める態度は私を愛していたからこそなんだ。
胸の奥がジーンと熱くなってくる。
きっとこれが本物の愛情、真実の愛なんだ。
それに応えずしてどうするというんだ。
「父上、ありがとうございます!!」
私は嬉しくなって、一刻も早く宮に戻り、もう一度ファリティに手紙を、いや、会いに行こうと考えた。
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