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第25話♡  恥を忍んでのお願い

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予定よりも多く融資や、出資の契約を頂くことが出来て何よりですわ。

バリファン伯爵家の所有するパロンシン領。
現地視察は欠かせません。

今回現物も見ずに投資などをお願いしたのですからしっかりと結果を残さねば!
散々にビッグマウスを叩いておきながら事業失敗となればホートベル侯爵家の屋台骨も揺らいでしまいます。

一番お金と人、そして技術の必要なのが防潮堤の周囲に溜まってしまった石の除去。

潜水夫だけでは無理かもしれません。
レアンドロ様のように色恋に溺れるのと違ってこちらは溺れる=命の危険となってしまいますからね。

あら?レアンドロ様も進退に関わるから命の危険があると言えばあるかしら?
でも大丈夫。何を捨ててもいいのが愛って人も世の中にはいるのだと勉強になりましたわ。

ホートベル侯爵家として婚姻中の資金提供はしておりますけども、立場があるからこそ足元を盤石にしないと全てを失うのです。

歌劇などでも落ちぶれる為政者の話は多いですが、リアルで知る事が出来るとなれば勉強代ですわね。


ルルの淹れてくれたお茶を飲みながら荷造りした荷物に抜かりがないかをチェックシートで確認をしておりました。


「お嬢様、アミナリンさんが来られてます」

「アミナリンさんが?どうしたのかしら」


ここはホートベル侯爵家ではなく全ての事業に便利が良いように市井に部屋を借りているのですが、平民の中にも貴族と言うだけで嫌がらせをする者がいますので、知っている人は少ないのです。

どうやって見つけたのかしら。
赤と白の横縞ストライプの衣類も丸眼鏡も着用しておりませんのに。
見つけられるとウォーリーになった気分になりますわね。


「ビオヘルミさんはご一緒しているの?」

「いえ、アミナリンさんだけみたいですよ」

「そう。何かあったのかしら」

「奥さんっていいますか、婚約者とかなってくれる人募集じゃないですかね」

「そうかしら。でもビオヘルミさんが先に結婚をしているからそうかも知れないわね」

「どうします?お嬢様」

「何を?」

「君が好き~なんだけどぉ!チャチャチャとか言われちゃうかもですよ?」

「ないわね。少なくともライオネル様が私の状況は話をしているし、不貞行為を望むような人なら事業も降りさせてもらうわ。それとルル、合いの手は他の人がいれるのよ」


アミナリンさんはバリファン伯爵家を継ぐ予定なのです。
現在27歳なので年齢は問題ないのですが、もしかして奥様になられる方を探していらっしゃるのかも。ルルも同じことを考えたようですわね。

困ったわ。
友人にも伯爵家の当主夫人に相応しいと思われた令嬢はいたのですが、売れ筋はさっさと売れてしまうもの。完売御礼で現在未婚の友人は‥‥ルルしかいないわね。


「ルールルルルル」

「お嬢様、私、キタキツネじゃないので。ルを沢山言わなくても2つで良いんです」

「こんな街中にキタキツネはいないわよ」

窓から外を見れば通りを行きかう人が見えているだけで御座います。

ルルを推そうかと思ったんですけども、ノックの音が聞こえてアミナリンさんがやって来たようです。


「どうなさいましたの?」

「個人的な話なのでどうかと思ったんスけど…ナティさんにどうしても頼みたくて」

「あら?私に?何かしら」


ルルの眼がギラっと光りましたわね。

――ルル、お口が「ω」になってるわ――


「お願いします!!」

ガバッといきなり床に突っ伏してアミナリンさんが「お願い」をしております。

「どうされたの?急にこんな!!顔を上げて、それよりも床になんか!!ソファに座ってください」

「いいや、恥を忍んでのお願いなんスから、このくらいはさせてくださいっ」

「話をする前にこんなことされたら聞く話も聞けません。さぁソファに座ってください」

「気を悪くされると思うんスけど…実は領地の話をライオネル様が取り上げてくれた時に、ナティさんにお願いできたらなと思ってて…それで…本当は他に目的があったんス。こんな邪な思いを胸に持ってしまって本当にすンませんっ!」


他に目的?
調べられて困るような個人履歴はないけど‥何を調べたのかしら。

「お願いです。ナティさん。俺、全部を解った上でナティさんに「うん」と言って欲しい図々しいお願いしていいッスか?」

どうしよう。
アミナリンさん、ものすごく真剣な目で私を見てるんだけど。

ルルはその表情から「キタ――(゚∀゚)――!!」としか思ってないわ。


面白そうな事業なのに…
融資をしてくれる人も沢山集まったのに…
不貞、ダメ、絶対。

「不貞やめますか。人間やめますか?」って誰となく問われちゃうわ。
尤も私は不貞した時点で人として終わってると思ってるんだけど。

脳内で暴走してしまいそうになりましたが…。


「俺に…俺に…ナティさん!!コーングルテンミールを格安で売ってください!」

え…そっち?

ホートベル侯爵家の事業で一番利益を上げているのはトウモロコシ。

トウモロコシをコーンスターチにする時にコーングルテンミールというものが出来るのです。

ずっと以前は家畜などの固形飼料のツナギに使っておりましたけども、主力がワンコ&ニャンコのカリカリご飯。

近年研究が進みワンコ&ニャンコにはグルテンが良くないとの事でワンコ&ニャンコ向けの販売は全面中止し牛、馬、羊用にシフト。

すると余るので営業をかけたのですが元々固形飼料を食べない牛、馬、羊。
結果として倉庫の肥やしになっております。

今は廃棄するにも有料なのよね。世知辛いわ。
かと言って不法投棄は不貞並みに非人道的行為。

捨てる場所もなく年々増えていくコーングルテンミールが欲しいですって?


「あ、あの…コーングルテンミール…欲しいんですか?」

「欲しいッス!メッチャクチャ欲しいっス。養殖の鰤の餌は一番良いのは生餌なんスけど漁がないから餌抜きなんて出来ねぇんで、固形の飼料をやってんスけどバッサバサなんス。人伝手に聞いたらコーングルテンミールを混ぜてツナギにしたらいいって…試してみたらメッチャ良かったんスけど…どこの農場も捨ててるらしくって。でも今度の事業でウチ借金塗れになるんで…出来るだけ安く売って貰えねぇッスか?」


情報ってこうやって得るのね…意図せず知った同業者の不法投棄。
心が痛いわ。


「いいわ。輸送費だけ払ってくれるなら差し上げるわ」

「マジ?マジっスか?!あとでやっぱやめたなんてなしっスよ?」

「こちらとしても引き取ってくださるなら助かりますもの」

「やった!!ダメ元で言ってみるもんっスね!ありがとう!ナティさん、やっぱ最高だぜ」


なんとなく肩透かしを食らい、褒められても嬉しくない気分ですわ。
ルルに目をやれば…

「ルールルルルル」窓から外を見てキタキツネを呼んでおりましたわ。
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