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第22話♠  皆知ってたなんて

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私は離宮から馬車で王城に向かった。

いつもなら30分もあれば到着するのに気ばかりが焦ってしまいなかなか車窓の風景も変わらないように見える。

「殿下、すみません。事故みたいでまだ動きそうにないですね」

「なんだって?」

風景が変わらないはずだ。
小窓から顔を覗かせれば私の馬車の前後にも数台。事故処理で足止めを食らっていたのだ。

くそっ!こんな時ルシェルが一緒なら何時間でも待てるのに。
どうして1人の時にこんな事故渋滞に巻き込まれるのだ!

腹立たしく思いながら、馬車が動くのを待つしかなかった。
やっと馬車が動き始めたのはもう18時を過ぎた頃。

父上は母上との夕食の時間を邪魔されると機嫌が悪くなるというのに、間違いなく夕食の時間に当たってしまうじゃないか。

しかし思い直した。
ここ最近、ずっとツイていたのでここで小さな反動でもないと大きく失敗するかも知れない。だとすればこの渋滞に巻き込まれて良かったのかも知れない。


城に到着をすると顔見知りの従者がいて「父上はどちらに?」と問えば「食事中です」と言う。

待つべきか迷ったが、ついでに食事を一緒にすればいいかもと食事室に向かった。


扉が閉じていても食事室が今、歓談の場になっているのは手に取るようにわかる。
何故か。

父上の豪快な笑い声が閉じた扉の向こう側から聞こえてくるからだ。

従者に頼み、扉を開けて貰うと食卓には国王の父上、王妃の母上だけでなく兄のライオネルとその妃ジェシカがいた。

私はジェシカが大嫌いなのだ。
ルシェルと本当の愛を知った少し後、私はこのジェシカに意味なく叱責をされた。この女はそういうところがある。

『婚約者を大事にしないのであれば解消なさい!』

『兄上の婚約者だからともう王族気取りか?私に意見するなど。親の顔が見てみたいものだ』

と、言ったら「どうぞ。存分に見てください」とブルベーリ公爵が出て来たのだ。


親を連れて私に意見してくるなど100年早い。
そもそもでファリティの事をにしていない訳ではない。ルシェルの方をにしているだけだ。

何よりルシェルとの関係は周囲には気づかれていないのでジェシカの妄想でしかない。
妄想で他人を叱責するなど気でも狂ったかと思ってしまった。

しかし…と私は考えた。

確かあの時、ジェシカも「あの娘はナティの妹ではない」と言っていた気がする。

ま、過ぎた事、どうでもいい事だ。



私は歓談中の父上の元に歩いた。
部屋に入り、2、3歩目で部屋から声が消えた。さっきまで柔和な顔つきだった父上の顔が険しくなってくる。

私は椅子に腰かける父上の隣に立った。

「なんです。レアンドロ。食事中ですよ」

「母上は黙っていてください。私は父上に大事な用件があるんです」

「用とはなんだ。手短に言え」

「ファリティの事業の事です。何故私に何の相談もなくファリティの事業を承認したんですか」

「ファリティ?…誰だそれは」

「あ、あの…ファファリン‥違うな‥なんだったっけ」

「何を言いたいんだ。私は食事を楽しみたいんだが?」

「も、申し訳ありません…妃です。私の妃の事業です」

「お前は自分の妃の名前も覚えておらんのか‥‥結婚の翌朝から別居なのだから仕方がないとでも思ってくれると?婚約期間は3年もあったんだぞ?」


そんな事言われてもあんな長ったらしい名前なんか憶えている奴がいたら見てみたいよ。私が特別に褒章でも何でもくれてやる。

「ファレンティナリティア・ホートベルですわ」

くっ!お前か!褒章は取り消しだ!ジェシカ!

「そ、それです。今、言おうとしたんです」

「どうでもいい。何を息巻いているか知らんがここ半年で私が認可した国家事業は1つだ。ライオネルが出してきたパロンシン領改編計画だけだが?お前も何か持ってくればどうだ。ファレンティナリティア嬢と婚約して1、2年は勢いがあったがここ半年はさっぱりだろう。結婚もしたのに疫病神と宜しくやっているようでは先が見えているな」

「え…父上…知って…」

父上が知っているだけではなかった。

「何も知らないとでも?婚約中もお盛んだったようだけれど?侯爵家から話をすれば大事になるとナティが気を遣っていただけなのよ?なのに初夜も済ませず翌日には宮から追い出し、ゴミを拾って来て大事にしているそうじゃないの」

「ゴ、ゴミだなんて…」

「平民だから。なんて言わないで頂戴ね?ここ数年、ナティの事業でどれほど国力が上がったか。知らぬのはレアンドロ、お前だけですよ?平民の地位も今や書面上の話。ゴミと言うのは本当に使えない寄生虫の事を指すのです」

「何も言わないのは3年…正確にはあと2年10か月ほどか。お前はその間に進退をよく考える事だ。今、廃嫡をしないのは書面上でも貴様の妃となったファレンティナリティア嬢の為だ。決してお前に猶予を与えている訳ではない。心しておけ」

私は何も言い返すことが出来なかった。
知らなかったのは…バレてはいないと思っていたのは私だけだったのだ。

私にとっての最悪はこれでは終わっていなかった。
失意の中、宮に戻った私はまだ驚かねばならない事に遭遇するのだから。
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