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第12話♠ 希望絶たれて
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頭の痛い問題は後ろ盾がファリティとの離縁で無くなる事もだが、イサミア氏達を追い出せない状況になっている事もだった。
イサミア氏とその妻エマリアを追い出すのは簡単だ。
だが、ルシェルだけを置いておく理由がない。
そしてこの3人を現在ゲストハウスに住まわせているが、何故?と理由を聞かれた時に今、答えることが出来ない状況にある。
ファリティから縁切りをされたイサミアに爵位はない。
父親は1代限りの騎士爵でイサミアに継がせたくても継がせられない。
イサミアはファリティの母親の夫、若しくはファリティの父であれば侯爵家の一員を名乗ることが出来たが、今はただの平民だ。
そのイサミアと結婚しているエマリアも元々平民。
エマリアが平民なのだからルシェルも平民だ。
3人を留め置いている事がバレてしまえば「自分も、自分も」と平民が宮に押しかけて来た時に断る術はない。
私はかなり不味いことになっているのを自覚するしかなかった。
「念のために聞くが…貴様が再婚をした時、ファリティとの縁組はどうした」
答えは解っているのだ。
手元にある書類は「していない」となっている。
ファリティもルシェルを他人と言っていたので、していない。が正解だ。
しかし、私は万分の1の確率で「記載漏れ」であってほしい。
そう思いながらイサミア氏に問うた。
呼び名が「貴様」になってしまったのは仕方がない。私には何の利もない人間が私の名前で借金をし、この1か月好き勝手をしていたのだから呼び名くらい、乱暴にさせて欲しい。
「ファリティとの…縁組ですか?していませんが?」
――何故しなかったんだ!!――
せめてエマリアと、そしてルシェルとしていてくれれば父親との縁切りは成立しても養子縁組は残ったのに!
「リティが…あ、ファリティが望まなかったんです。彼女たちは貴方の家族でしょう?と言いまして」
――どうしてそこで、ごり押ししないッ!――
「あの‥殿下?」
「なんだっ!」
「そろそろ妻とルシェルが戻って来るので…家に帰ってもいいですか?」
「家?貴様に家があるのか?」
「はい。宮の庭にあるゲストハウス…」
「あれは貴様の家ではない!」
出ていけと言いたいが、言ってしまうとルシェルも追い出すことになってしまう。
私は様子を黙って見ていた従者に声を掛けた。
「何かこいつらに仕事はないか?」
下男でもいいし、洗濯メイドでもいい。働かせていれば取り敢えずゲストハウスは使用人には過ぎた部屋だが、使用人部屋に空きがないと言えば何とでもなる。
しかし従者はあっさりと答えた。即答という奴だ。
「ありません」
「ファリティの使用人がいただろう。補佐でもいい。何かないか」
「妃殿下でしたら宮には戻らないとの事ですので、妃殿下付きの使用人は全て王妃殿下により任を解かれています」
「だが!部屋を掃除していたメイドがいたぞ!」
「そりゃいるでしょう。妃殿下がお住まいになるとの事で人を回して頂きましたが、任を解くにも今日、明日、なんて出来ません。1か月の猶予があります。残る事を希望した者はいませんので明後日までこちらの宮で勤務し、明々後日からはもうここには来ませんよ」
従者の言葉に私は違和感を感じた。
確かメイドは「あと11日で戻る」と言っていた。
なのに従者は「宮には戻らない」と言う。
――どういうことだ?――
「確かメイドはファリティが11日で戻ると言っていたぞ」
「あぁ。妃殿下は帰国する、王都に戻るという意味では?宮に戻るとはメイドも言ってなかったと思いますよ。お戻りになるのであればカーテンまで取り払いませんので」
「き、帰国?!ファリティは旅行に行ってるのか?この大事な時に?」
「妃殿下は殿下は了承済みと仰っていましたが?それから、彼に問わなくていいのですか?」
「これ以上、何を問い、私に試練に立ち向かえと言うのだ」
「試練かどうかは存じませんが、備品の持ち出しについて問わなくて良いのですか?」
すっかり忘れていた。
ファリティとの離縁が成立すると完全に後ろ盾を失う事で頭がいっぱいだった。
ギッとイサミアを見ればもう忘れているのか、それとも開き直っているのか。
従者と会話をしている間に、菓子籠にある茶菓子をイサミアは食べていた。
「菓子を食っている場合か!貴様、ゲストハウスにある調度品などを持ち出して売っただろう!」
「はい。売りましたが。何か?」
絶句だ。イサミアは悪い事をした、盗みを働いたと全く思っていないかのようにすんなりと認めた。
「だって、殿下が好きにしていいと仰ったでしょう?」
イサミア。言ってもいいか?
普通はそう言われても借りた家にある物を売る奴なんていないんだ!!
イサミア氏とその妻エマリアを追い出すのは簡単だ。
だが、ルシェルだけを置いておく理由がない。
そしてこの3人を現在ゲストハウスに住まわせているが、何故?と理由を聞かれた時に今、答えることが出来ない状況にある。
ファリティから縁切りをされたイサミアに爵位はない。
父親は1代限りの騎士爵でイサミアに継がせたくても継がせられない。
イサミアはファリティの母親の夫、若しくはファリティの父であれば侯爵家の一員を名乗ることが出来たが、今はただの平民だ。
そのイサミアと結婚しているエマリアも元々平民。
エマリアが平民なのだからルシェルも平民だ。
3人を留め置いている事がバレてしまえば「自分も、自分も」と平民が宮に押しかけて来た時に断る術はない。
私はかなり不味いことになっているのを自覚するしかなかった。
「念のために聞くが…貴様が再婚をした時、ファリティとの縁組はどうした」
答えは解っているのだ。
手元にある書類は「していない」となっている。
ファリティもルシェルを他人と言っていたので、していない。が正解だ。
しかし、私は万分の1の確率で「記載漏れ」であってほしい。
そう思いながらイサミア氏に問うた。
呼び名が「貴様」になってしまったのは仕方がない。私には何の利もない人間が私の名前で借金をし、この1か月好き勝手をしていたのだから呼び名くらい、乱暴にさせて欲しい。
「ファリティとの…縁組ですか?していませんが?」
――何故しなかったんだ!!――
せめてエマリアと、そしてルシェルとしていてくれれば父親との縁切りは成立しても養子縁組は残ったのに!
「リティが…あ、ファリティが望まなかったんです。彼女たちは貴方の家族でしょう?と言いまして」
――どうしてそこで、ごり押ししないッ!――
「あの‥殿下?」
「なんだっ!」
「そろそろ妻とルシェルが戻って来るので…家に帰ってもいいですか?」
「家?貴様に家があるのか?」
「はい。宮の庭にあるゲストハウス…」
「あれは貴様の家ではない!」
出ていけと言いたいが、言ってしまうとルシェルも追い出すことになってしまう。
私は様子を黙って見ていた従者に声を掛けた。
「何かこいつらに仕事はないか?」
下男でもいいし、洗濯メイドでもいい。働かせていれば取り敢えずゲストハウスは使用人には過ぎた部屋だが、使用人部屋に空きがないと言えば何とでもなる。
しかし従者はあっさりと答えた。即答という奴だ。
「ありません」
「ファリティの使用人がいただろう。補佐でもいい。何かないか」
「妃殿下でしたら宮には戻らないとの事ですので、妃殿下付きの使用人は全て王妃殿下により任を解かれています」
「だが!部屋を掃除していたメイドがいたぞ!」
「そりゃいるでしょう。妃殿下がお住まいになるとの事で人を回して頂きましたが、任を解くにも今日、明日、なんて出来ません。1か月の猶予があります。残る事を希望した者はいませんので明後日までこちらの宮で勤務し、明々後日からはもうここには来ませんよ」
従者の言葉に私は違和感を感じた。
確かメイドは「あと11日で戻る」と言っていた。
なのに従者は「宮には戻らない」と言う。
――どういうことだ?――
「確かメイドはファリティが11日で戻ると言っていたぞ」
「あぁ。妃殿下は帰国する、王都に戻るという意味では?宮に戻るとはメイドも言ってなかったと思いますよ。お戻りになるのであればカーテンまで取り払いませんので」
「き、帰国?!ファリティは旅行に行ってるのか?この大事な時に?」
「妃殿下は殿下は了承済みと仰っていましたが?それから、彼に問わなくていいのですか?」
「これ以上、何を問い、私に試練に立ち向かえと言うのだ」
「試練かどうかは存じませんが、備品の持ち出しについて問わなくて良いのですか?」
すっかり忘れていた。
ファリティとの離縁が成立すると完全に後ろ盾を失う事で頭がいっぱいだった。
ギッとイサミアを見ればもう忘れているのか、それとも開き直っているのか。
従者と会話をしている間に、菓子籠にある茶菓子をイサミアは食べていた。
「菓子を食っている場合か!貴様、ゲストハウスにある調度品などを持ち出して売っただろう!」
「はい。売りましたが。何か?」
絶句だ。イサミアは悪い事をした、盗みを働いたと全く思っていないかのようにすんなりと認めた。
「だって、殿下が好きにしていいと仰ったでしょう?」
イサミア。言ってもいいか?
普通はそう言われても借りた家にある物を売る奴なんていないんだ!!
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