10 / 52
第10話♠ 不在に気が付く
しおりを挟む
「殿下、それは出来ません」
「何故だ?妃の家族が困っているんだぞ」
「殿下…ご存じないのですか?」
「私が何を知らないというのだ。不敬だぞ?」
ルシェル達を連れて宮に戻ると父上の元から遣わされている執事が渋い顔をして3人を留め置くことは出来ないという。
言い合いになってしまい、仕方なく数日は庭にあるゲストハウスを利用してもらう事になってしまった。
「ここ、使って良いんですか?」
「あぁ、すまない。ルシェル達の好きにしていいから」
「嬉しい!殿下ありがとう!!」
ルシェルが満面の笑みで私に抱き着いてきてくれる。
嬉しいのだが使用人の目が気になってしまった。
ルシェルが近くに居ると思うと3年後を想像してしまい気持ちが高ぶってしまう。
かと言って宮は使用人も多く、2人きりの場所など無い。
私とルシェルは真夜中に庭で愛を何度も交わした。
月と私だけがルシェルの美しい裸体を知っている。
食事にも毎回誘いをして、家族団らんの食事も楽しんだ。
そこに邪魔者はいなかったのだ。
だが、ゲストハウスを貸して1か月。
私は従者からビックリするような言葉を聞いた。
「殿下、調度品が市井に流れております」
「は?どういうことだ?」
「言葉の通りで御座います。発見した物は買い戻しておりますが全ては無理かと」
何と言うことだ。
使用人の誰かが持ち出し、買取店に売りさばいている。由々しき事態である。
この宮にある全ての調度品には私の紋が焼き付けられている。
下賜品であればまだしも、買取店と言う事は金銭目当てに盗み出しているという事になる。
王族は身の回りにある物など全てが血税が原資となっているため、茶器が破損をしても申請する必要があるのだ。それを金目当てに売りさばく、いや、それ以前にこの宮から易々と持ち出されている事も問題になる。
それだけ防犯が緩いとなり、機密に該当するものは無いにしても誰にも気づかれず持ち出されているのは大問題なのだ。
「全ての使用人の私物を改めよ!」
「それが…出所は解っているんです」
「解っている?なら何故ここにそやつを連れてこない!私が首を刎ねてくれる!」
「よろしいのですか?」
「なんだ。その含みのある言い方は」
「含みを持たせているのではありません。殿下がお連れになったあの3人ですので我々も扱いに困っているのです」
「なんだと?!」
ルシェル達3人は私が執事の反対を押し切ってゲストハウスに招いている。使用人達にしてみれば賓客なので殺人などであれば取り押さえるが現行犯と言えど対応に苦慮していたのだ。
そして私の元ににわかには信じられない報告書が齎された。
「これは事実なのか?」
黙る従者。黙して語らぬことが事実なのだと物語る。
その書類にはルシェルだけでなくイサミア氏などの状況が記載されていた。
本人に確認をする前に、私は先ず妃であるファリティに聞こうと考えた。
事実を明確にするのにファリティ抜きでは成り立たないと考えたからである。
「ファリティはどこだ。ファリティに確認をするッ」
そこで気が付いた。
ファリティの姿を一切見ないのだ。
いや、見たいわけではないし妃のくせに遊びまわっていると周囲が思ってくれればこちらも万々歳だったが、いつから見ていないのだ?
そうだ。正教会に言ったあの日、結婚の翌日からだ。
もう1か月も経っている。幾ら役に立たない妃、至らない妃だとしても行き過ぎている。
私はファリティの部屋でもある夫人の部屋の扉を勢い良く開けた。
部屋の中には3人の掃除メイドが窓を拭いていて、驚いた顔で私を見ている。
が、驚くのはそこじゃないだろう。
夫人の部屋、王子妃の部屋でもあるのにこの部屋には何もない。
造り付けの鏡台、1人用の寝台は寝具はなく枠だけ。執務机もほとんどの引き出しが空っぽで紙とペンは纏めて1つの引き出しに入れられていた。
着替えも伽藍洞のクローゼットにはハンガーをかけるパイプしかないし、メイドたちも何時ドレスを運び入れても良いように窓を開けて昼間に風通しをするだけ。
洗濯でもするのか窓のカーテンを取り外したメイドはカーテンを腕に引っかけていた。
「今日もファリティは出かけているのか?」
「妃殿下ですか?はい。出かけられておりますよ?」
「何時戻るんだ?」
「お戻りは11日後の予定とお聞きしておりますが?」
「は?11日?そんなに宮を空けて何をしているんだ」
「宮を空けると申しますか…殿下も承知の事だとお聞きしています」
「そ、それは…うむ。判った。仕事を続けてくれ」
干渉はしない。
そう言う約束ではあるが、まさか宮を空ける以前にこの宮を使用したのは結婚の日と、翌日の朝だけとはこの時、私は露ほども思わなかった。
「何故だ?妃の家族が困っているんだぞ」
「殿下…ご存じないのですか?」
「私が何を知らないというのだ。不敬だぞ?」
ルシェル達を連れて宮に戻ると父上の元から遣わされている執事が渋い顔をして3人を留め置くことは出来ないという。
言い合いになってしまい、仕方なく数日は庭にあるゲストハウスを利用してもらう事になってしまった。
「ここ、使って良いんですか?」
「あぁ、すまない。ルシェル達の好きにしていいから」
「嬉しい!殿下ありがとう!!」
ルシェルが満面の笑みで私に抱き着いてきてくれる。
嬉しいのだが使用人の目が気になってしまった。
ルシェルが近くに居ると思うと3年後を想像してしまい気持ちが高ぶってしまう。
かと言って宮は使用人も多く、2人きりの場所など無い。
私とルシェルは真夜中に庭で愛を何度も交わした。
月と私だけがルシェルの美しい裸体を知っている。
食事にも毎回誘いをして、家族団らんの食事も楽しんだ。
そこに邪魔者はいなかったのだ。
だが、ゲストハウスを貸して1か月。
私は従者からビックリするような言葉を聞いた。
「殿下、調度品が市井に流れております」
「は?どういうことだ?」
「言葉の通りで御座います。発見した物は買い戻しておりますが全ては無理かと」
何と言うことだ。
使用人の誰かが持ち出し、買取店に売りさばいている。由々しき事態である。
この宮にある全ての調度品には私の紋が焼き付けられている。
下賜品であればまだしも、買取店と言う事は金銭目当てに盗み出しているという事になる。
王族は身の回りにある物など全てが血税が原資となっているため、茶器が破損をしても申請する必要があるのだ。それを金目当てに売りさばく、いや、それ以前にこの宮から易々と持ち出されている事も問題になる。
それだけ防犯が緩いとなり、機密に該当するものは無いにしても誰にも気づかれず持ち出されているのは大問題なのだ。
「全ての使用人の私物を改めよ!」
「それが…出所は解っているんです」
「解っている?なら何故ここにそやつを連れてこない!私が首を刎ねてくれる!」
「よろしいのですか?」
「なんだ。その含みのある言い方は」
「含みを持たせているのではありません。殿下がお連れになったあの3人ですので我々も扱いに困っているのです」
「なんだと?!」
ルシェル達3人は私が執事の反対を押し切ってゲストハウスに招いている。使用人達にしてみれば賓客なので殺人などであれば取り押さえるが現行犯と言えど対応に苦慮していたのだ。
そして私の元ににわかには信じられない報告書が齎された。
「これは事実なのか?」
黙る従者。黙して語らぬことが事実なのだと物語る。
その書類にはルシェルだけでなくイサミア氏などの状況が記載されていた。
本人に確認をする前に、私は先ず妃であるファリティに聞こうと考えた。
事実を明確にするのにファリティ抜きでは成り立たないと考えたからである。
「ファリティはどこだ。ファリティに確認をするッ」
そこで気が付いた。
ファリティの姿を一切見ないのだ。
いや、見たいわけではないし妃のくせに遊びまわっていると周囲が思ってくれればこちらも万々歳だったが、いつから見ていないのだ?
そうだ。正教会に言ったあの日、結婚の翌日からだ。
もう1か月も経っている。幾ら役に立たない妃、至らない妃だとしても行き過ぎている。
私はファリティの部屋でもある夫人の部屋の扉を勢い良く開けた。
部屋の中には3人の掃除メイドが窓を拭いていて、驚いた顔で私を見ている。
が、驚くのはそこじゃないだろう。
夫人の部屋、王子妃の部屋でもあるのにこの部屋には何もない。
造り付けの鏡台、1人用の寝台は寝具はなく枠だけ。執務机もほとんどの引き出しが空っぽで紙とペンは纏めて1つの引き出しに入れられていた。
着替えも伽藍洞のクローゼットにはハンガーをかけるパイプしかないし、メイドたちも何時ドレスを運び入れても良いように窓を開けて昼間に風通しをするだけ。
洗濯でもするのか窓のカーテンを取り外したメイドはカーテンを腕に引っかけていた。
「今日もファリティは出かけているのか?」
「妃殿下ですか?はい。出かけられておりますよ?」
「何時戻るんだ?」
「お戻りは11日後の予定とお聞きしておりますが?」
「は?11日?そんなに宮を空けて何をしているんだ」
「宮を空けると申しますか…殿下も承知の事だとお聞きしています」
「そ、それは…うむ。判った。仕事を続けてくれ」
干渉はしない。
そう言う約束ではあるが、まさか宮を空ける以前にこの宮を使用したのは結婚の日と、翌日の朝だけとはこの時、私は露ほども思わなかった。
2,561
お気に入りに追加
3,080
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる